第173話 一悶着
長らくお待たせして大変申し訳ありません。
まったりお楽しみ下さい。
※2017/8/20:本文誤植修正しました。
「さて、やるかな。サーポート宜しく。【浄化】」
大量の魔力を注いで港町を【浄化】する。
まだ中天に陽があるというのに、僕の使った魔法で町の底が淡い光りに包まれると、次の瞬間、何が起きたのかわからないまま町が白色に塗り潰されたーー。
「何だったんだ今の……」
視界が白一色に染まったのは30秒と満たないくらいの時間だったみたいで、すぐに視界が開けた。
町民の何人かが何事があったのかと表に出ているが、大きな混雑が起きているようでもなかったので知らない顔で通すことしたよ。
(マスターの聖魔法に精霊が呼応したような感じがしましたよ?)
(へえ。確かに気配は増えたね)
精霊の気配を感じることは出来ても、具現化していない精霊を僕は見ることが出来ない。見れる精霊は眷属の十精霊だけだ。精霊魔法が仕える者には見えるようだけどね。アピスはどうだったかな?
……多分なかった気がする。トレントだから精霊に近い種なんだろうけどね?
声に出さなくても、アピスとなら【共感増幅】で会話ができる。精霊が増えたということは、この土地が精霊の住みにくい状態になっていたということなのか?
良く解らないが、考えていた浄化作業を続けることにした。
何をするかというと、加護スキルの【透過】と【治療の雨】の併用だ。加護スキルは今まで検証した処、MpではなくHpの消費でいけるということが判ってる。範囲魔法はどれもMpを注いだだけ広げられるようだから、問題ない。特に【治療の雨】の消費Mpは350でさっきの半分だ。
勿論、【浄化】と同じように309.1倍さ。
ただ、加護スキルの消費Hpは1回5,000。同じだけ範囲を広げようと思ったら、凡そ16万飛ぶ。確認してみると、今の段階だとHpの総量が20万あるからまあ、問題ないだろう。育ったもんだ。
「こんなんで良いのか?」と思ってしまうけど、ナハトアは加護は付いているものの、加護スキルは使えなかった。つまり、僕だけ制限が緩いんだろう。元々、加護というのはこっそり付けられてるもので、向こうの世界で言うところの御守りとか御利益がある程度なのかもしれないな。
でもまあ、使えるなら上手に使わなきゃ損でしょ。
アピスにキスされながら吸われたMpも、総量からすると微々たるもんだったからそこは心配してない。ただこの【治療の雨】、あまり高い所で展開できないみたいなんだ。さっき建物の中で使った時は天井に届かない範囲で広がっているのが見えた。
だから、今の状態のままで使ったら2階に居る罹患者には届かないってことだ。
「ということで、何処か2階から屋根に上がらせてもらえる所をこの付近で探そう」
(え? ということってど言うことですか、マスター?)
どうやら思っていることは筒抜けではないらしい。
「ああ、このまま魔法を使っても町全体をカバーできないから高い場所で使いたいってことさ」
(そんなことしなくてもここに木を生やせば良いのでは?)
内心、ホッとしながらアピスに説明すると、僕が考えていたことより斜め上から答えが返って来た。
お、おお。そういう案もあるのか。確かにアピスは木魔法って言うのが使えるしな。
「で、でも、そこの泉から木を生えさせると皆の水汲み場が無くなるし、生えさせたままだと往来の邪魔になるだろ?」
と、一応欠点らしい部分を突いてみた。
(そうですね〜。 折角生えさせたらそのままにしておきたいですし……。じゃあ、今生えてる気を大きくしちゃいますか!)
そう来たか!?
アピスの提案に驚いたけど、でもそれをしても最初の案と結果は変わらないよな。生えてる場所が違うだけで、大きく育てば隣接する建物は否応なしに被害を受ける訳で……。どうしたものかと思っていたら、急に当たりが暗くなった。
「あれ?」
(ああ、もう来てしまいました。折角マスターと2人きりの時間だったのに……)
思わず見上げた瞬間、アピスのガッカリした声が聞こえてきた。ああ、そういうことか。周りの建物からも顔覗かせて広場じゃなく上を見てるから判ったよ。
「シンシア!」
グルルルルルル
思わず上げた声に頭上の影が低い唸り声えで答えた。久し振りに聞くシンシアの声だ。その大きな前足にまた規格外にデカイ馬車が抱えられているのが見えた。
「3対の車輪付き!? 随分でっかい馬車だね」
(わたしたちが皆で乗れる大きさにとお願いして、ベルントさんやガルムにお願いして造ってもらったんですよ)
「ルイ様ぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っ!!」「あ、こらっ!?」「カティナッ!?」
と、アピスの説明を聞いていたら馬車の扉が空いて誰かが飛び降りて来た。ああ、顔を覗かせてるのはディーとギゼラかな。ということはーー。
「おっとっと。元気にしてたかい、カティナ?」
どふっという衝撃と一緒に後ろに倒れそうになるのをなんとか堪えながら、飛び降りてきた人物を抱き止める。いや、放さないよ? 怪我をさせるわけないじゃないか。顔を胸に擦り付けてくる可愛らしいい生き物の頭を撫でながら優しく呼び掛けると、嬉し涙を浮かべたカティナの笑顔がそこにあった。
「うん、ルイ様! でも、会いたかったよ!」
「ああ、僕もだ。良く来てくれたね」
「へへへ。ん……」
アピスにはもうしてるから、強請られることもないだろう。嬉しそうに涙を拭うカティナの腰を抱き寄せてから、その唇を優しく塞いだ。リーゼとコレットはキスじゃ物足らないんだろうけど、ま、そこは追々だな。
そんなことを考えながら唇を離す頃には、黒竜と大きな馬車が広場に降り立とうとしていた。開いた馬車の扉から、着地を待ちきれずにバラバラと美人さんたちが降りてくる。
リーゼ、ディー、コレット、ギゼラ……あれ? もう気配がない。そっか。来れたのは7人か。
「カティナ。ここに来たのはこれで全部?」
「ううん。あと、リューディアと、ジル姉と、セシリアさん!」
「せしりあさん?」
誰だ? そんな名前の人物はエレクタニアには居なかったはず。
「うん! 青鬼族の人だよ! ルイ様にし……しん?」
青鬼? ますます分からない。しんって何だ?
「親書ですわよ、カティナ」
「それ! ありがとディー! 親書持って来たんだって!」
後ろから掛けられた助け舟に振り返って礼を言ったカティナが、嬉しそうに応えてくれた。うん、癒やされるな。それにしてもーー。
「親書て、どういうこと?」
「わたくしが独断ですけど、魔王様の為に動いていた事覚えていて?」
カティナに聞いても無駄だろうから、近づいてくる面々に話を振ってみる。そうするとディーが肩に掛った緋色の髪を払いながら訊いて来た。ああ、兵隊集めね。初めて遭った時、僕もディーから『魔王様にお仕えしなさい』って勧誘されたんだったっけ。
「勿論、僕もギゼラも勧誘されてたからね」
僕の言葉に、ギゼラが一番後ろでクスリと微笑った。うん、いいなぁ。
「ああ、そう、でしたわね。そのセシリアは魔王様に仕えている近習の1人ですわ。で、その魔王様からルイへ何かを伝えたいと思って親書を託したということね。親書の中身は誰も見てないから、心配しなくて宜しくてよ?」
「そっか。カティナ、皆とハグしてもいいかな?」
「あ、うん!」
もう一度、カティナを強く抱き締めてから、ディーを胸に迎える。
「そういう繋がりだと気不味くなかった? ん……」
ディーを抱き締めながら訊いてみる。それに答えようとして顔を上げたディーの唇を素早く奪う。むふふ。計算済みの動きだ。
「んふ……。もう……。問題ありませんわ。近習と面識はありませんでしたし、何より、わたくしと“北の君”だけの関係でしたから」
「え? 魔王に仕えてたんじゃないの? ……今更だけど」
「本当、今更ですわね。当時は緋蜘蛛でしたでしょ? あんな大きな体で傍仕え出来るはずもありませんわ。山を1人で散策していた魔王様と出会ったわたくしが勝手に心酔して、暴走したのですわ」
「そ、そうなのか。訊いてみるもんだね。さ、リーゼに変わってくれる?」
「仕方ありませんわね、きゃっ!? リーゼ!?」「ルイ様っ!」
ディーが胸元から離れたかどうかのタイミングでリーゼが銀髪を波打たせて飛び込んで来た。ディーが吹き飛ばされる形になるものの、コレットが直ぐ後ろで受け止めてた。何時もそつが無いな。
「……ふぅ。リーゼ、吸うのは後。今はダメだ」
「……ふぁぃ」
僕の唇に襲いかかって来た美少女の唇が首筋に移動しそうになるのを引き離して言い聞かせる。こんな町のど真ん中でそんなっ光景を見せたらどんな酷い噂が立つのか想像できない。只でさえ、遠目に群がる男たちの射殺さんばかりの視線に晒されてるっていうのに……。
「コレットもおいで」
「はぃ、ルイ様。ん……」
リーゼを脇に抱き着かせたまま、コレットを招いて唇を塞ぐ。コレットはいつも仕えているリーゼを立たせる。僕の眷属になってからもそれは変わらないんだ。だから、2人はなるだけ同じタイミングでケアすることに決めてる。まあ、吸われそうになるのはご愛嬌なんだけどね。
「コレットもよく我慢したね。でも、今はダメだよ?」
「も、申し訳ありません。ば、馬車の準備をしておきます」「コレット姉、わたしも手伝う!」
顔を赤くしながら照れ隠しをするコレットの髪を優しく撫でてから送り出す。馬車があるということは、移動もそういうことなんだろう。でも、シンシアがずっと黒竜のまま待っているというのも気になるんだよね。でもその前にーー。
「うん、お願い。さ、ギゼラ。待たせてごめんね?」
「ルイ様……」
カティナたちを促しておいて、ギゼラのハグを受ける。うん、ハグ待ち。いや、おっさんたち泣くな。無言で泣くなよ。横に奥さんが居るだろ? チラッと周りを見ると建物から出てきた住民たちが随分居る事に気が付いた。そりゃあそうか。町のど真ん中に黒竜が居るんだからな。
「ーーーー」
無言でぎゅっと抱き締めてくるギゼラの腕の力が僕の体に伝わってくる。ああ、愛されてるんだな、と何となくだけど感じることが出来た僕の頬は、緩んでた。
「そろそろシンシアの所に行かないと……」「ん……」
他の3人の倍の時間抱き着いていたギゼラの背中を撫でて促す。思い出したように離れるギゼラの唇に優しく唇を当ててから、僕は黒竜の所へ近づいた。泉を挟んだ場所で後ろ足だけ畳み、所謂お座りの状態で待つシンシアから嬉しいという感情が伝わって来る。
だって、犬みたいに尻尾の先がピコピコ動いてるんだ。
「あ、おいあれ!」「黒竜って人に懐くの!?」「ティムされてるのか?」「ドラゴンだぞ!?」「で、でも襲わないじゃない!?」「た、確かにーー」「くそっ、俺に誰か1人くれないかな」「莫迦、死にたいのか!?」「今言うか!?」「あんたら死ぬ? ドラゴンの前に蹴ってやろうか?」「ま、待て!」「早まるな!」「えっ!?」「角を差し出した!?」
グルルル ー ルイ様 ー
小さな唸り声が耳に届く。でもそれは、僕の頭の中で勝手に翻訳されて言葉に変ってた。町民たちが驚くように、シンシアが大きな頭を僕の方に摺り寄せてきたんだ。竜は基本誇り高い種族だと聞いている。現に、シンシアやヴィルヘルム、それに、砂漠であったおばちゃんも最初は高圧的だった。
そりゃそうだろう。他の生物より寿命も魔力もあり、理性を持ち、個体としても硬く強い種だ。誰かに頭を下げる必要など生まれた時からない種族に、誰かの下へ就けというのは、普通なら通らない話だろう。ましてや彼らの角はその誇りの象徴とも、力の源とも言うべきものだ。それを触られるのを嫌うのは少し考えれば理解できる。
で、町の人たちが何を驚いているのかといえば、その角を持てるように頭を下げ、斜めに差し出してきたシンシアの行動だ。
グルルルルルルルル ー 精霊たちが申しております。町の浄化に高さが足らないでルイ様が困っていると。どうぞお乗り下さい ー
ああ、そうだった。シンシアも精霊語が使えたんだったな。
(まあ、シンシアも気が利きますね。マスター、早いこと片付けてあの件を皆で相談しましょう)
少し躊躇ってると杖からアピスの声が聞こえて来た。いや、アピスは精霊語も竜語も話せなかったよね? 何で解るの? あの件……。あの件といえばナハトアの事だろう。いや、ナハトアたちだな。はぁ気が重い。
(マスター?)
(ああ、何でも無い。シンシアの好意に甘えるかな)
(それが良いでしょう。木を生やすことは御気に召さなかったのようですから)
(おいおい)(ふふふっ)
「ああ、じゃあシンシア頼むよ」
グルル ー お任せ下さい ー
竜の頭を石畳まで降ろし斜めにしてくれたので、角を掴みさっと後頭部に飛び上がる。他の竜族が見れば眼を剥くだろう。角に触れるということは、そういうことだ。初めて触った時は、全くの無知で何も考えずに出来たんだけどね。ま、そのお蔭でシンシアがここに居るんだから、無知も偶にはいい仕事をする。
黒竜が立ち上がると、周りがざわめく。
うん、何をするつもりか不安になるよな。巧く角の影に隠れてさっさと浄化してしまおう。
「【透過】。ぐっ」
これ、結構くるな……。町全体を覆う魔法が使えるって、随分僕も人間辞めたな。苦笑しながら杖を握り、薄い膜のような加護魔法を広げていく。あんまりのんびり出来ない。10秒位で止める。多分これでカバーできたはず。
(マスター大丈夫ですか?)
「(ああ、問題ないよ。少し頑張っただけさ)【治療の雨】」
【透過】の膜の上から【キュア・シャワー】を降らせる。そうすると、膜を擦り抜ける雨は建物も通り抜けるって算段だ。
近くの家の2階に眼を凝らすと、部屋の中でもキラキラした治療魔法特有の効果が見えた。うん、問題ないな。これで、この町は大丈夫だろう。
「よし、終了。シンシア降ろしてくれるかい?」
ポンポンと角を叩くと、シンシアはゆっくりと顔を下げてくれた。僕が石畳に降りると同時に黒竜の体が光りに包まれ、見物人たちの視界を奪う。僕たちは何が起きてるのか解ってるから慌てることはない。
「マスター」「え、ちょっ、アピスんんっ!?」
閃光が晴れる前に【人化】したアピスに唇を奪われた。【気配察知】や【魔力感知】は常時動かしてるけど、身内には反応が甘いらしい。油断というか……まあ、油断だろうな。
「ふふふ、杖になったり人になったりすると補給が要るって言いましたよね、マスター?」
唇を離したアピスが悪戯っぽい笑みを浮かべて聞いてくる。うん、聞いてた。聞いてたけど、今じゃなくても良いんじゃないかな?
「そうだったね」
敢えて反論しない。処世術の1つだ。ハーレムで女性陣が増えたというのもあるが、基本比率的にエレクタニアは女性が多い。どちらかといえば尻に敷かれてる。
まあ、日本の九家もそうだったな。父さんも僕も基本、母さんと妹の季に頭が上がらなかった。その延長線だと思えばいい。
「ルイ様……」
「シンシア。おいで」
「綺麗」「何であんな男に」「あんたより甲斐性があるってことでしょ」「ちくしょう、爆ぜろっ!」「美しい」「それよりもさっきの魔法、あの人が使ったの」「いや、よく見えなかった」「それよりもじゃねえ、不公平だろう!?」「はあ、あんた莫迦なの? いっぺん死んどく?」「え、あ、いや、言葉の綾いででででっ!」「骨は拾ってやる」
外野が騒がしいけど、気にしない。
いつもの漆黒の甲冑は着てない。丈の短い白いワンピースブラウスに黒い紐ベルト。黒いパンタロンにブーツという出で立ちだ。背中まで伸びた癖のない金髪を揺らしながら僕の胸に身を預けるシンシア。キスの前にしっかりとその感触を味わう。
ん? 他の人の衣装? いつもとあまり変わってないかな。
リーゼとディーは薄赤いゴシック調のドレスだし。スカート丈は短め。コレットはメイド服。カティナもいつもの黄色っぽい半袖のワンピースブラウスにショートパンツ。ギゼラは水色のスカート丈のある袖なしのワンピースだ。アピスは薄緑のワンピースだね。こっちは肘まで袖がある。そんな感じだ。
「皆を連れて来てくれてありがとう。馬車を掴んでの飛行、大変じゃなかった?」
「ーー」
僕の問い掛けにシンシアは胸の中で首を振るだけだった。あ〜……久々にデレてるな。いかん。可愛い過ぎて、これは理性を保つのが難しくなるパターンだ。ゆっくりシンシアの両肩に手を置いて体から引き離し、唇を塞ぐ。これだけ公衆の面前でキスばっかりしてると、慣れてくるというか、気にしなくなるよな。
「ーーあ」「続きはまた後でね?」
唇を離すと可愛らしい声が漏れる。いかんいかん。耐えろ。鋼の精神力はないけど、なんとか理性を保ってシンシアと距離を取って馬車に向かうことにした。コレットたちの手際が良いらしく、大きい輓曵馬を思わせる吸血馬が召喚されている。
へえ、エトが召喚するダンピールホースは2頭とも青毛だったけど、コレットが召喚するのは赤褐色の鹿毛なんだ。召喚者によって違うんだな。馬車の入り口の扉を開け、誰1人中に入らずに僕を待ってた。ああ、そういうことね。ホント、その辺りは徹底してエレクタニアの侍女長に教え込まれたんだなって思うよ。
シンシアとアピスを左右に侍らせて馬車に乗り込むことになった。侍らせるというのは僕の感覚じゃないけど、周りから見ればそうなんだろうな、って思う。僻まれることをしてる自覚はあるから。
僕が乗り込んでからコレット以外が馬車に入ってくる。御者はコレットか。
「港、分かる? 一先ずそこに向かってくれるかい?」
「畏まりました」
広い馬車の中で寛ぎながらそう声を掛けると、馬車の仕切り幕越しにコレットから返事が帰ってくる。纏わり付く7人を適当に宥めつつ、どうしたものかと悩んでいる内に馬車が止まった。えっ、もう着いたの!?
コンコン
「ルイ様、港に着きましたが如何いたしますか?」
御者席の背凭れを小気味よくノックして、仕切り幕を開けるコレットと眼が合った。
「ふぅ〜〜。ああ、ありがとう。皆に紹介しなきゃいけない人が居るから、一緒に降りてくれるかい?」
大きく息を吐きだしてから腰を上げた。それから回りにいる面々にお願いをする。さて、どうなるかな。
馬車から降りると、イケメン猿魔王の御一行が船から降りてるところだった。ああ、流石にあれだけ派手に回復魔法を使えば終わったって分かるよな。
「ほう。ルイ殿、いつの間にそんな綺麗所を集めたのだ?」「「ルイさん!?」」
猿魔王の後ろに丁度ドーラとフェナの姿もあった。視線を右に動かすと、ナハトアと、カリナ、ゾフィーの姿が見える。ホノカたちは一旦召喚具に戻ったみたいだな。
「ああ、実はさっき合流したところなんだ。僕の妻たちを紹介するよ」「「「「「「「妻っ!?」」」」」」」
「ほう」「「えっ、奥さん!? あんなに綺麗な人ばっかり……」」「「「ーーーー」」」
僕の一言に、後ろの7人がふにゃりとなった。不意打ちは成功だな。まあ、指輪も渡してるし、今更だけど……。はっきり言葉にしてなかったから、いい機会だろう。猿魔王と、ドーラとフェナはそれぞれ驚いた表情だ。ナハトアたちはというと、無言でこっちを見ている。睨んでるわけじゃないけど、笑ってもいない。無表情だ。それはそれで怖いんだけどな……。
「先程の【浄化】を見てどれだけ出鱈目な男なのだと思っていたら、嫁もこれか。魔王と名乗っても良い者が何人居るのだ!?」「「ーーっ」」
猿魔王の言葉にドーラとフェナの頭が上下にカクカクと動いていた。
「おいおい、人の奥さんをこれ呼ばわりはないだろうに。魔王だなんて失敬な」「「「「「「「奥さんっ!?」」」」」」」
ちょっと失礼な言い方にカチンと来たので訂正を求めたんだけど、後ろで7人が悶えている。まあいいか。それよりも。
「僕らはここが目的地だから、あとは別行動にしよう。ここまで運んで切れたことに感謝を」
これ以上は一緒に行動できない。加護が危険過ぎる。解決策は知ってるけど、敢えて危険なことをしたいとも思わない。なので、ここで分かれるのが得策だな。ドーラとフェナも今の僕を見ればどうして手を出さなかったのかも理解してくれるだろう。まあ、今更人様の奥さんになった女性に手を出す気はないけどね。
「分かった。では祭りで会おう」「「ーー」」
そう短く告げた猿魔王がくるりと背中を向けて再び船に向かって歩き始める。その後ろをドーラとフェナがこちらにペコリとお辞儀して追いかける姿を僕は見送っていた。色々あったけど、これでいいか。2人もお幸せに。
「「ルイ様」」「ルイさん」
なんて温かい視線を2人の背中に贈ってたら、問題の3人が寄って来た。いや、逃げる気はないけど……。はぁ、僕も男だ腹を括ろう。
「ナハトア、カリナ、ゾフィー。シムレムに来ていない妻がもう何人か居るけど、この7人が僕の妻たちだ」
「妻……」「綺麗な人がいっぱい」「……ハーレムじゃない」
「皆。こっちにいるダークエルフのナハトアがエレクタニアで一緒に眷属になった女性で、僕がじいさんに飛ばされる原因になった人物だ」
「お前がナハトアか」「そう言えば見覚えがありますわ」「「あの時の」」「ギゼラ姉は覚えてる?」「ええ、覚えてるわよ」「皆で朝ご飯を食べてる時だったわね」
ナハトアたちに紹介した瞬間、7人のデレが何処かに仕舞い込まれた。いや、その何もなかったような振る舞いが出来る事自体驚きなんだけど!? シンシア、ディー、リーゼとコレット、カティナ、ギゼラ、アピスとそれぞれがナハトアの顔を凝視する。
睨んでないよね? ね?
「な、ナハトアと申します。ルイ様の御情を頂いた若輩者ですが、どうぞ末席に加えていただけるようお願い致します!」
「カリナです、宜しくお願いします!」
「ゾフィーです。宜しくお願いします!」
いや、君らね。いくら面倒だからって……ナハトアの言葉に巧く乗ったね!?
「「「「「「「おなさけ?」」」」」」」
「うっ。流石に4ヶ月我慢は出来ませんでした。色々あって溜まってたのと、戦闘で滾ってたのも重なって勢いで食べてしまいました! ごめん!」
14個のジト眼に耐え切れる訳もなく、速攻で白旗を上げた。いや、こういう場合言い訳は自分の首を絞める。只でさえ首を絞めることをしてるんだから、今することはリスクコントロール。どうすれば被害を最小限に出来るか、だ。
「はぁ……それで? ルイはこの子たちをハーレムに入れたいのかしら?」
「本人が望めば?」
「どうして訊くのですの?」
「だってほら、ハーレムに入れるかどうかは み ん な が賛成したら、という約束だったよね?」
ディーの質問に少しゆっくり答えておく。その一言で皆の剣呑な眼つきがほわっと緩んだのが分かった。
やりました! 首の皮一枚で乗り切れました!
「その一言がなければ」「おおっ! 何やら懐かしい気配がすると思ったら、シンシアではないか! 久しいな!」
ディーが言葉を続けようとした矢先に、ナハトアの腕に嵌っている召喚具から黒い影がぬるっと出て人形を取ると、全く空気を読まずに朗々と声を張り上げた。
あちゃ〜出たよ。最近、イルムヒルデを貰ってちょっとはまともになったかと思ってたらこれだ。
「ヴィルーー」「ヴィル兄ーー」
改めてヴィルヘルムの莫迦さ加減に呆れてしまう。もっと空気読めよ、お前。
「うむ。里以来だな。息災であったか? ナハトアも済まぬな。こやつは我の妹分でなーーは?」
機嫌よく話し始めたヴィルの胸ぐらをナハトアとシンシアが同時に掴んだ処で、言葉が切れる。今、こいつも鎧は着けていない。
「「こぉの莫迦っっ!!!」」
「へぶしっ!?」
2人の鉄拳を顔面に喰らったヴィルが弧を描いて海面に吸い込まれていく光景を、僕はスローモーションを見てるかのような感覚で眺めていたーー。
ヴィル、お前の事は忘れないよ。
後まで読んで下さりありがとうございました!
ブックマークやユニークをありがとうございます!
誤字脱字をご指摘ください。
ご意見ご感想もありがとうございます!
“感想が書かれました”って出ると未だにドキッとなってビックリしてしまいますが、力になります!
引き続きご意見やご感想を頂けると嬉しいです!
これからもよろしくお願いします♪