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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第二幕 辺境の街
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第17話 研究室

 

 そこにあったのは直径50cm程度の複数の円筒形の試験管の中で薄紫色に淡く発光する液体に浮かぶ、何匹ものツインテールフォックスの姿だったーーーー。


 「これは」


 思わず絶句する。


 ガラスはこの世界にはないだろうと高を括っていたが、あったらしい。いやそれ以前にこれは研究室だ。医者の卵時代に似たような雰囲気が漂っている部屋を見たことがある。


 「「ううっ!!」」


 後から入ってきた二人も息を呑む。


 「何かの研究をここでしていたようですね。家令さんは魔法使いだったのですか?」


 「いいえ。そう聞いてはいませんし、魔法を使っているところを見たこともございません。何よりそのような気配がありませんでした」


 「?」


 怪訝な表情でジルさんを見返す。気配がない? どういう事?


 「皆様に隠しても仕方のないことですが、口外無用でお願い致します。実はわたし魔族とのハーフなのです」


 「「!?」」


 魔族っているのね! 僕の周りにいなかっただけで。そりゃ、世界は森だけじゃないもんなぁ~。いろんな種がいて当然だ。有名なエルフやドワーフ族に逢えてないけど、そのうち機会もあるだろうな~と遠くを彷徨っていたら。


 「それゆえ、魔力が動くと他の人より分かるのです」


 「なる程。何故そんな大事なことを教えてくださったのですか?」


 「それは(何故だろう? 教えなきゃ、と思ったから?)」


 膝枕をしてから何だか自分が可笑しくなってる事にジルは違和感を覚えていた。惹かれているのかな? とも思ったのだが、逢って数十分の関係でそんなことはないと自分に言い聞かせるのだった。


 「待っていろ! 今開けてやるから!」


 ジルさんが答えようと口を開きかけたとき、部屋の隅の方にレアさんが移動して何やらかちゃかちゃしている。


 眼を凝らしてみると、動物用の(ケージ)が3段に重ねられていてその中にツインテールフォックスたちが閉じ込められているじゃないか。


 「鍵は?」


 「ない」


 そうだよね。普通はここを使ってるいる人物が持ってるはずだ。鍵は日本にあった南京錠を少し頑丈にしたような形だ。この部屋の中には武器になるものがなかったので、薪割り用の鉈なり、斧なりがあるのでは?と思って上に上がってみる。


 「ビンゴ♪」


 薪割り用の鉈を見つけて下に戻りレアさんに渡す。


 ガキィンッ! という金属音と火花が地下室を跳ねる。しばらくしてガチャッと錠が石の床に落ちる音がするのだが、レアは狐たちを連れ出すこともなく固まっていた。


 ん? 何があったの?


 うあ、これは酷い。首は鎖で繋がれ、手足の先は全て切り落ちされていたのだ。美し二本の尾もない。両目も潰されていた。狐だと分かるのはその顔つきだけだ。


 レアさんが何も言わずに全ての錠を破壊してゆく。


 でも結果は皆同じ状態だった。そう逃げれないように四肢の自由が奪われ、視力を奪われ、誇りの二尾まで切り取られていたのだ。心が折れぬわけがない。


 「ーーーーどうやら家令はここでツインテールフォックスの体を使って邪法を試していたようだ」


 重々しい沈黙を破ってレアさんが事実を教えてくれた。


 レアさんが言うには、ツインテールフォックスの体には幻術の特性が備わっているので、それをこの試験管の中で凝縮し取り出したのだという。凝縮した箇所は結晶化し、結晶が砕けない限りは取り出した体も生きているのだという。


 という事は、この6つの試験管に入っている6匹にはまだ息があるということになる、ね。どうやって息をしてるのか不思議だけど。


 「折角助けに来たというのに、これでは」


 ぎりっと歯軋りする音がレアさんから聞こえてくる。


 「確認だけど、ツインテールフォックスと言うのは魔物だよね? 動物ではなく」


 「そうだ、だから回復魔法は効かぬ」 


 ふむ。鎖はどう? ただの鎖? 【鑑定アプリーズ】うん、ただの鉄の鎖だね。


 「ここに居るツインテールフォックスはこれで全員なのかな?」


 「あぁ、あとは盗賊のアジトに囚われているらしい。どれくらい生きててくれてるのか分からないが」


 僕の問い掛けにレアさんが答えてくれる。悔しさを抑えきれないのか、がんっと壁を叩く。


 う~ん、この鎖を何とかできる僕のスキルがないものかな? 【融合】なら鉄の鎖を鉄の延べ棒(インゴッド)に出来ない?


 『ごめんね。僕の言葉わかるかな? お願いだからじっとしててね』


 レアさんの姿を横目に檻に近づく。僕の言葉は通じたらしく、唸ることもせずに頭を垂れてくれた。


 チャリッ


 狐の首に嵌められている鉄製の首輪に触れて、【融合(フュージョン)】と念じてみる。すると、首枷は融け、鎖も融け、1本の鉄の延べ棒(インゴッド)が握られていたのだった。上手くいったみたいだね。


 まだレアさんは気が付いてないようだから、鉄の延べ棒(インゴッド)をアイテムボックに突っ込んで次から次に首枷を溶かして回収してゆく。10分後、檻に入れられていた14匹の狐は自由になっていた。


 「なっ」


 「……」


 当然二人には理解ができない状況だろう。あとは怪我だね。


 「悪いけど、これから起きることは絶対に誰にも言わないと約束してもらえるかな?」


 「誓おう、わたしの誇りにかけて」


 レアさんはそうだね。問題は。


 「ご命令ではないのですか?」


 ジルさんが聞き返す。あれ? なんか変じゃない? この光景どこかで見たことあるよ?


 「なんで命令なの?」


 「え?」


 「僕は友人としてお願いしてるだけだよ。人の口に戸は立てられぬって昔の人が言っててね。無理やり押さえつけてもいいことはないのさ。友達として聞いてもらえれば嬉しいな。でも無理そうなら席を外して欲しい」


 「守ります!」


 「そ、それならいいんだ。じゃあ、ちょっと待っててね」


 狐に手を翳しながら【静穏(ペインレス)】を掛けてゆく。Mpならまだまだ余裕あるから大丈夫。


 この魔法、いきなり効果が出るわけではなくじわじわ再生してゆくんだよね。聖魔法の癒しはすぐ治っちゃうから、それはそれですごいんだけど。それとは性質が違うみたい。


 「「ーーーー闇魔法の癒し!?」」


 15分後、檻に居た14匹はレアの足元に集まっていた。レアさんは泣いてるようだ。暗がりでよく見えないのが残念だけど、さっきまでの無力感に比べれば嬉し涙は格段に良いものだね。あとはこの試験管の中の6匹だけど。


 再利用される恐れを考えたら、この装置はできるだけ現状維持で僕が保管してるほうがいいよね。


 「レアさん、誰か眼が潰される前にこの機械の使い方見てた子居ないか聞いてみてもらえます? 開け方が解るならそれに越したことないから」


 「ん、うん、すまない、分かった聞いてみる」


 僕の言葉にレアさんは袖で涙を拭くと狐たちに話しかけ始める。


 「……ねぇ、ジルさん。上が静か過ぎるのが気になるんだけど」


 「……そうですよね。私観てきます」


 「お願いします。くれぐれも気を付けて」


 なんだろう、ギゼラが居るはずなのに胸騒ぎがする。早くここを片付けなきゃ! ジルさんを送り出した僕は、試験管の周りを調べることにした。作りはそんなに複雑じゃないようだけど。そう思いながらふと試験管の中の狐と眼が合う。


 そういえばこの中に居る子たちはどこも怪我をしてない。胸元に大きな穴があいてるだけだ。


 『ねぇ、君たちはどうやってここに入れれられたの?』


 ダメもとで聞いてみる。すると、狐たちの視線が上に動いた。もしかして。


 「すまない。こっちは分からないらしい。折角力になって貰ったのに、これでは」


 「そうでもないよ? どこかに梯子が転がってない? 案外仕組みは簡単かも知れないよ?」


 レアさんが申し訳なさそうに視線を伏せる。いやいや、希望はありますって! 僕の言葉に狐たちがわらわらと床に広がって梯子を探し始めた。人海戦術、いやこの場合、狐海戦術って言ったほうがいいのかな?御蔭でものの2分で見つけてくれた。


 梯子を試験管の両端にひっかるように立てかけて登ってみる。いけそうだ。そして、上の蓋をゆっくり持ち上げてみる。


 「意外にシンプルな作りだけど、この液体に秘密があるのかもね」【鑑定(アプリーズ)】そう言って無言で【鑑定】を発動させてみる。


 ◆ステータス◆

 【アイテム名】凝血の呪液

 【種類】呪具

 【効果】使用者の命令で指定された対象物のユニークスキルを心臓に定着させ、【技量の血晶石(スキルハート)】を作る。結晶抽出後は、鞘となる器の命の水となる。鞘が生きている限り、【技量の血晶石(スキルハート)】の能力を自由に引き出せる。

 【使用者】カンゼム・ガデス


 ◆ステータス◆

 【アイテム名】凝血の呪器

 【種類】呪具

 【効果】使用者の命令で“凝血の呪液”に力を与え、速やかに指定された対象物に浸透するように働きかける。結晶を抜き取った後の鞘となる器を呪液の力で生きながらえるように働きかける。

 【使用者】カンゼム・ガデス


 嫌な道具だ。どうして呪具というものはこうもおどろおどろしいんだろう。


 「なるほどね。ここから抜き出すと、この子たちは死んじゃうということか」


 「そんな」


 「一か八かだね、邪法の呪具だから、この中にいる限り同じような作用が出る可能性もあるけど、まず傷を癒します! レアさんは下から見てて傷口が塞がったら教えてください、そのタイミングで引き上げます!」


 「分かった!」


 レアさんの返事を受けて、液体の中に袖を捲った右腕を突っ込む。左足に届いたのでそこをがっしり握り締めて魔法をかけるのだった。


 「【静穏(ペインレス)】」


 「胸の傷が塞がったぞ!」


 「了解! よっと! ほい、受け取って!」


 ザバッと液体から引き上げてレアさんに向けて放り投げる。自分の腕の状態も気になるんだから仕方ない。結論から言うと、なんともなかった♪ ヌルヌルして気持ち悪かったけどね。


 『がはっ! かはっ!』


 レアさんに受け止められた二尾の狐は喉の奥に溜まった液体を苦しそうに吐き出していた。まぁ、液体漬けになってたんだからそうなるよね。ふぅ、一先ず大丈夫そうだ。じゃあ、とっとと済まそう!


 「梯子を掛け替えてじゃんじゃん行くからレアさんよろしく!」


 「任せてくれ!」


 嬉しそうだ! 上手く心臓の再生ができたみたいだね。本当、癒し魔法様々だわ。それだけに気をつけなきゃね。同じ手順を繰り返して10分程度で終わった。後は、ここの処分だ。


 『皆、この呪具はここに有るとまずいから、僕が責任を持って処分する。だから外に出て待っててくれるかい?』


 『『『『!!!!!』』』』


 狐たちが一斉に僕の顔を見る。いや恥ずかしいって。さっき首枷外す時に声かけたでしょ?


 『レアさん、先導よろしく。ジルさんに先に見てもらいに行ったけど不測の事態にも注意してくださいね!』


 『分かった! ルイ殿、感謝する!』


 さぁて、誰がこんな物騒なものを世の中に送り出してるんだか。今の文明レベルだと明らかにオーバーテクノロジーでしょ。魔法の力だけじゃなく、明らかに科学的な物が混ざってるよね。魔導科学とかいうものが発達してる都市があったりして。


 もしかすると、僕以外にも転生者は居るのかもしれないな。逢いたくはないけど。居ないという話は聞いてないし、否定もされてないから心の片隅においておいたほうが良さそうだ。


 皆が階上に消えたのを確認して呪具をアイテムボックスに収納する。つくづく便利だな~と思う。


 どぉぉぉぉぉん!!


 突然の轟音と振動が薪小屋を揺らすーーーー。







最後まで読んで下さりありがとうございました。


ブックマークやユニークをありがとうございます! 励みになります♪


2016/2/2に第2話と第3話を加筆修正しました。

2016/3/29:本文修正しました。


誤字脱字をご指摘ください。


ご意見やご感想を頂けると嬉しいです。

宜しくお願い致します♪

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