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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第五幕 妖精郷
176/220

第160話 海に棲む者たち

お待たせして申し訳ありません。

まったりお楽しみください。

 

 『(ようや)く貴方様を探し当てることが出来ました。私の主が是非とも御礼を伝えたいと、申しております。このまま御案内致しますので、しばしの間ご観覧ください』


 「へ?」


 突然頭の中に若い男声が響く。行く行かないを告げる前に僕の体はとぷんと波の下に吸い込まれていったーー。


 「「「ルイ様っ!!?」」」


 頭上でナハトア、カリナ、ゾフィーの声が聞こえたけど直ぐにどうこうできそうにない。騎乗扱いなのか、何故か海蛇竜シーサーペントから離れられないんだな。


 ドボン!


 「ルイ様!!」


 あっという間に水深15m以上は潜った時だろうか、頭上で大量の気泡柱が水中に立てられ、そこからゾフィーの声が聞こえた。見上げてみると蛇体をくねらせて追ってきてるじゃないか。いくら新種族だと言っても更に深い場所に行くなら水圧に耐えれないだろ!? その前に空気がーー。


 『ちょっとストップ! 止まって!』


 頭上のことを気にすることもなく、更に潜っていこうとしたから慌てて首筋を叩く。魔力纏まりょくてんのお蔭で素通りせずに軽い衝撃を鱗に与えることが出来た。それに気付いて泳ぎが止まる。


 『え、あ、はい、申し訳ありません』


 ストップじゃ全く止まる気配なかったな。向こうの世界でのカタカナ言葉は通じないってことか。まあ今は良い。ゾフィーが先だ。


 『ちょっと連れが追ってきたから一緒に行ってもいいかな?』


 『……はい。騎乗されますか?』


 一拍ほどの間が空いて確認された。僕以外を乗せるのは嫌らしい。仕方ないな。


 『いや、膝の上に抱いていく』


 『分かりました。息は大丈夫ですか?』


 いや、そもそも聞く順番が違うだろ? というか僕は生霊レイスだから呼吸のこの字も必要ないだけどね。でも、追って来てるゾフィーはそうではない。ん? ゾフィーの体が青い魔力でコーティングされてるな。


 近づいてくるゾフィーに注意を向けると魔力なのか魔法なのかをまとっている様に感じ取れた。口から気泡が出てない処を見ると、【水中呼吸】の様な魔法でも使ったんだろうと推察できる。水属性の魔法か。水を出してもらうくらいしか見たことなかったな。


 『僕に関しては心配要らない。こっちに向かってきてるも問題なさそうだ。それにしてもここから動けないのはどうしてだ?』


 『水中は陸と違って海流が存在します。人や人に近い体しか持たない者にとってあらがい難く、気を抜くとあっという間に海流に攫われてしまうのです。そうならないため、海中での騎乗は騎乗者の安全が自動的に守られるように魔道具が使われているのですよ』


 海流ね。確かに一理ある。でもーー。


 『ここには魔道具らしきものは見当たらないけど?』


 『いえ、確かにあります。む……』


 ああ、やっぱり追って来たか。ゾフィーが水属性魔法を使えるかどうかは分からなかったけど、ナハトアとカリナは使えるからな。このまま船で留守番という気もならなかったってことか。頭上に気配と大きな気泡柱が2本立つ。よく知った気配がそこにあるのが判った。でも、別の方向に気配が多数現れる。


 海蛇竜シーサーペントはナハトアたちではなくそっちの気配に気が付いたみたいだ。僕より先に気が付いたということは気配察知能力が高いか、水棲生物ならでわの索敵能力があるか、だろうな。


 眼を凝らすと、遠くに複数の魚影が見える。鮫か? 敵意を感じる。数は……15匹。いや、全部に騎乗してるのか?


 『何か来るな。しかも武器を持った危険なやつだ』


 『申し訳ありません。御案内する前に敵に見つかったようでございます』


 『敵……ね。虜になっていた時の奴らと同じ絡みなのかい?』


 『はい』


 おっと、“ケルベロス”繋がりってことかよ!? なら遠慮は要らないな。でも、ナハトアとカリナまで距離がある。チラッと見上げると必死に泳いでる様子が見えたけど、いかんせん海の中だ進むはずもない。その間にゾフィーが到着した。


 「ルイ様!」


 水の中で声が聞こえる。魔法のお蔭だろう。


 「何も追ってこなくても良かったのに。でもありがとう。あとはあの2人をどうにかしないとな。“ケルベロス”繋がりの敵がそこまで来てるらしい」


 「えっ!? あ、ルイ様あれを!」


 「ん!?」


 ゾフィーの指差す方向へ視線を向けると僕らの背後から3頭の馬が水中を駆け上がって来てるのが見えた。気配を感じなかった処を見ると、突然現れたっぽい。しかも普通の馬じゃない。上半身は馬のそれだが、下半身は上半身の倍は長い魚鱗をきらめかせる魚の半身。後ろ足とおぼしき位置には一対の大きなひれがある。


 初めて見たーー。僕が持つRPGの知識を総動員した結果、導き出された答えが水棲馬ケルピーだろうというものだった。


 「水棲馬ケルピー、なのか? それに乗っているのは水棲人マーマン?」


 男の人魚と言わずに水棲人マーマンと言ったのには訳がある。何て言うか、僕の知識にない容姿なんだ。鎧らしき物を身に着けているんだけど、体の前半分は人間で後半分は魚なんだ。ケルピーとは違った意味で半分になってる、な。頭髪は普通の人族と同じ範囲を覆ってるみたいだから変な姿ではないんだけど……いや、変な姿なのか? 僕には違和感ありありだ。


 「はい、ケルピーですね。乗ってるのは水棲人アププカルです。身に着けている装備から見るに、騎士か何かだと思いますよ? あわ、お姫様抱っこ……」


 抱き着いて来たゾフィーの体をくるりと回転させて座って胡座あぐらをかいている上に抱いておく。お姫様だっこといわれると申し訳ない部分もあるけど、まあ本人が喜んでいるならそれで良いことにしよう。


 「あぷぷかる? 変な呼び方だと思うのは僕だけかな……?」


 「ーーさ、さあ、わたしたちは昔からあの姿の水棲人・・・・・・・・・・・・をアププカル、と呼んでいますから普通です」


 ぼ〜としてたゾフィーが我に返って答えてくれた。あの姿の水棲人? と言うことは人魚も居るってことか? 人魚ならケルピーに乗れないというか、乗っても意味ないだろうから体1つで来るよな。


 『主から迎えの騎士が来たようです。あちらの御二方も御連れすれば宜しいですか?』


 不意に海蛇竜シーサーペントが会話に割り込んでくる。と言ってもゾフィーには聞こえてないみたいだから、意思疎通できているのは僕らだけのようだ。迎えの騎士ね。話を聞きながらチラッと視線を海面に向けると、1人ずつケルピーの背に乗ろうとしている処だった。もう1騎は海面に向かってるみたいだな。断りでも入れてくるのか?


 『ああ、出来ればお願いしたいところだね。大丈夫かな?』


 そう言ってみたものの、もう乗ってるんだから今更という感が否めない。


 『問題ありません。問題は、あの者等です。皆様が居られる以上出せる速度に限りがありますので戦闘になります。御力を御貸しいただけますか?』


 シーサーペントの言葉に僕も前方の機影、もといい魚影に目を凝らす。鮫かと思ったけどあれは鮫じゃない。この距離であの大きさなら1騎辺りの大きさは5m超えだ。 それが15匹。 体の大きさなのか、それともそもそもの強さなのかまだ判断できないけど、やけに大きな気配が1つあるな。。


 「「ルイ様!」」


 僕たちの左右にナハトアとカリナを乗せたケルピーが来る。騎士たちは特に何かを言うくこと無く黙礼だけしてくれた。言葉が通じないと言うことかな?


 「全く、待ってれば良かったのに皆無茶をする」


 「もう別々は嫌ですから!」「そうそう! 別々になったら何されるか分からないし。というか何であんただけ抱いてもらってるのかしら?」


 「え? うふふ。一番最初に飛び込んだご褒美?」


 いやそこは違うとも言えない雰囲気を作らないでくれるかな。火花が散ってるように見えるのは気の所為だろう。騎士たちの呆れたような視線が心に痛いけど、そんな痴話喧嘩してる暇はないぞ。


 「ちょっと待って。今そこじゃなく、闘いの準備だ。水中戦闘の経験がある人は手を上げて?」


 僕を含めてゼロ。まあそうだよな。でも水棲生物相手に水属性魔法を打ち込むのは下策だ。土属性が有効だと言っても、海底が見えないんだからまず無理だろう。使えたとしても威力は期待できない。火属性もこれだけの水量の中だとマッチの火みたいに一瞬で消えてしまうな。


 「あれは……」


 「ん? ゾフィー、何か判った?」


 「あ、はい、恐らくですけど、あれは鰐竜わにりゅうとワタシたちの間で呼んでる魔物だと思います。時々海で狩りをする時に出会でくわすと怪我人が出るくらい凶暴なので、わたしは嫌いです」


 わにりゅう、ね。言い得て妙だな。多分向こうの世界で図鑑に乗ってた首長竜の一種だろうな。四本の手足が全部鰭ヒレで体が鰐に似てる首長竜ってかなり凶暴だった記憶がある。映画で出てたような? そこは良いか。じゃあ……。


 「その鰐竜に乗ってるのは何だと思う?」


 「あれはマーリザードマンのはずです。鰐竜じゃ陸に上がれないから、陸に上がる時はあいつらだけで来るんです」


 まーりざーどまん…ねぇ。僕の中ではリザードマン=蜥蜴人間とかげにんげんだ。でも近づいてくる騎影に違和感を感じた。


 「マー」という言葉は確かラテン語だ。海に近い意味だったはず。だから“マーメメイド”とか“マーマン”というのは、“海の乙女”とか“海の男”という意味合いで使われる様になったんだっけ? ギリシャ神話のような状況がこの世界で現実にあるのなら、ラテン語のような意味合いの言葉が広まっていても不思議じゃない。僕がリューディアから習った言葉はラテン語じゃなかったけど、昔使われていたと考えるのは無理な話じゃないと思う。マーリザードマンというのはーー。


 「ルイ様、魔法を打ち込みますか?」


 「近距離からの風魔法ならダメージ出ると思うけど?」


 思考に沈んでいたらナハトアとカリナの言葉で正気に引き戻される。


 「ナハトアとカリナも今回は出なくていいよ。あの鰐竜、進む速度は遅くても動きがのろい訳じゃないだろうから近距離は危険だ。僕が出る。ゾフィーもここでこれ持って待ってるようにね?」


 「え、あ、はい」


 水棲馬ケルピーの背にそれぞれ乗せられている2人を制して、ゾフィーにも釘を差しておく。さっきの行動を見る限り直感で行動してる感が否めない。カティナが2人居るような感じだ。恐らくだけど、手に持った瑠璃ラピスラズリ海蛇竜シーサーペントと会話できる鍵だろうと思い、ゾフィーに手渡す前に告げておくことにした。


 『あの時の海賊繋がりなら、やって来た奴らは僕が貰う。手を出さないでもらえると嬉しい』


 『わ、分かりました。御武運を』


 小さくシーサーペントの頭が動く軽くお辞儀でもしたんだろう。それを見てゾフィーにラピスラズリを手渡し、シーサーペントの前で2人の騎士たちにも頭を下げておいた。言葉は多分通じるはず。


 『すみません。2人を頼みます』


 『ーー!』


 2人の騎士は驚いた顔で僕を見つめ返してきたけど、何も言わずに小さくうなずいてくれた。意思の疎通は出来るってことだな。もう1騎が海上に行ったみたいだけどどうなったかな? そんなことを考えている内に14騎の鰐竜乗りがはっきり視認できる距離になっていた。


 間違いない。騎手は蜥蜴トカゲじゃなく、鬣蜥蜴イグアナだ。


 蜥蜴顔にしてはゴツイと思ったんだよな。蜥蜴は英語でリザード、でもラテン語でリザードはイグアナだ。ウミイグアナってことか。ま、それが判ったからといって手加減する気はないんだけど。さてーー。


  竜装為鎧袖(竜を装いて鎧袖と為す)まとうか。


 次の瞬間、そこに見えないちからを纏った僕が静かに佇んでいたーー。




             ◇




 時間は少しだけさかのぼる。


 ルイが海蛇竜シーサーペントに海中へ連れ去られ、ゾフィー、ナハトア、カリナが躊躇ちゅうちょせず海へ身を投げるのを呆気に取られたまま見送っていた猿魔王ガウディーノが正気を取り戻す。時間にしてゆっくり10数えるほどもない。


 「ちぃっ、やられたな。今思えばあのシーサーペント、“南海の君”の騎竜だろう。俺は海の中はからっきりダメだ。どうしてくれよう」


 「陛下! 南南西に魔物の反応が出ました! 数は15! 内、1匹は大型です!」


 船内に張り巡らされている伝声管から甲板の入り口に立つガウディーノへ報告が届けられる。魚群探知機フィッシュファインダーに似た魔道具とは言うものの、索敵の性能はかなりものであることが今の一言からみ取れる。機械技術が発達していない文明が魔道具技術という別の発展へ分岐した良い例だろう。


 「ちっ」


 その声に眉を不機嫌にひそめて甲板に出るガウディーノ。その後を側室エルフたちがゾロゾロと出てくる。宮廷内を思わせるような華美なドレス姿ではない。一応スカートを着用しているものの、服の質は水夫たちと余り差が無いように見受けられる。


 もっとも彼らからしてみれば側室とは言え王家に連なる者だ。一見質の低い物に見えてたとしても彼女たちを保護する加工が施されていると考えるのが自然だろう。


 「陛下、どうなさるおつもりですか?」


 「どうにもならん。だが眼の前で友誼を結んだ者たちが連れ去れたのだ、それ相応の対応はせねばな……。ん?」


 「どうなさいましたか?」「陛下?」


 妻たちが口々に様子をうかがいに来る。彼女たちはエルフであるゆえに身体能力は人族よりも上だ。魔族たちと比肩する存在と言っても良いだろう。だが実際は、男も女も華奢で容姿端麗であることから弱々しい存在と見られがちだ。争いを好まないと言う生来の気質は魔族と正反対であるゆえに、表立って能力を誇示しないという背景もそういった世間の見方に反映されているのだろう。


 つまり、彼女たちは飾りではなく立派な戦力としてもこの船に居るということだ。そこに魔王も居るとなれば戦力は過剰だろう。それも相まって、水夫たちは慌てること無く冷静におのが仕事を淡々とこなしている。しかしその内の何人かは魔王と同じように何かに気付き、船の右舷に視線を向けるのだった。


 「ーー何か来たな」


 じっと右舷に眼を凝らしながら、ガウディーノがポツリとつぶやく。その声にようやく気配に気付いて視線を向けるエルフたちが数人居た。


 波の音に混ざってしまったのか、次の瞬間音を立てずと言っても良いくらい静かに、そして突如として水棲馬ケルピーまたがり、右手に三叉銛トリアイナを持った騎士が現れる。


 「「「水棲人アププカル……」」」


 エルフたちの口から同じ言葉が漏れ出る。エルフたちの容姿に比べれば見劣りするものの、凛々しい青年がケルピーの上に居た。


 前面は人、後面は魚を思わせる鱗や背鰭せびれ臀鰭しりびれがある。尾鰭おびれが見当たらないが、足の脹脛ふくらはぎからかかとにかけて鰭らしきモノが見えていることから、あれがそうなのだろう。うなじの辺りにえらおぼしき切れ目が3つ並んで弧を描いているということは、水陸どちらでの呼吸も問題ないということか。


 「火急に付き、騎乗にして失礼仕つかまります。御初に御目にかかります、このた」「挨拶はいらん。大方、南海の君の使いであろう? 要件を聞こう」


 良く通る腹からの声が甲板を駆け抜ける。だが、使者の騎士が口上を述べる前にガウディーノはそれを遮るのだった。明らかに不機嫌な面持おももちだ。


 「は。大恩ある御方の気配を急に感知した我が君の騎竜が止める間もなく、御前おんまえから無断で連れ去ったことの御詫びを申しつかって参りました」


 「それで?」


 「は。これは御詫びの品として御納め頂ければ幸いです」


 そう言うと騎士は何処からとも無くトレイに光沢の良い青布を敷き、そこに瑠璃ラピスラズリちちばめた一対の脚絆きゃはんを載せた物を取り出すと、近くの水夫に手渡すのだった。


 「ほぉ、魔法付与された脚絆レギンスか。詫びを受け入れるかどうかは、効果によるぞ?」


 品を受け取ったガウディーノは双眸そうぼうを細める。品ではなく人物を見極めるかのように。


 「勿論でございます。我が君より剣君けんくん入水にゅうすいを好まれぬと御聞きしました。この脚絆レギンスは【水上歩行】の魔法を刻みこんだ1品でございますれば、御気に召して頂けるものと考えております」


 「クククッ、文字通り足下を見られたか。良かろう、今回の1件は貸しだ。貸しとこの1品に免じて詫びを受け入れる。これでどうだ?」


 騎士の言葉に破顔すると、険の取れた表情でそう提案するのだった。彼の中で使者への印象が良くなったのだろう。


 「過分の御配慮に感謝いたします。我が君にもそう申し伝えます」


 騎士もその答えは想定済みであったのか、淀むこと無く騎乗から頭を垂れる。通常であれば王への謁見は下馬した上で膝を付き行うものであるが、今回の例は異例でありそれを良しとしたガウディーノの器量の大きさを示すものであったといえよう。


 「それともう1つ」


 「は」


 「俺とルイ殿は友誼を結んだ同盟関係にある。これを意味することを忘れぬようにな?」


 「ーー同盟。は。承知いたしました」


 笑みを含んだ視線を受けて騎士は初めて言いよどむ。だがそれも一瞬で、動揺を平静で装い隠し一礼する。


 「この船はシムレムに向かっている。ルイ殿も同じだ。用事が済んだらここへ御連れするようにな。どの道海底からはシムレムに入れぬ(・・・・)のだから」


 「は。それではこれも御持ちいただけますか? 我が君が力を込めた魔除けの竜玉にございます。我らはこれを目指してあの御方と伴の方々を御連れいたしましょう」


 シムレム。自然の要害に囲まれた巨大な島であるが、まだ謎が多いようだ。寄港できる港も限られ、海底からは島に入れない。何れ明らかになる日も近いだろう。


 そのことは騎士も承知の上で敢えて情報を言い直すことなしなかった。つまり良く知れているということだろう。やはりこれも何処からとも無く取り出した、てのひらに載せれる球状のラピラズリを側室エルフの1人に手渡す。


 それを騎士から視線を外すこと無く妻から受け取りながら言葉をつむぎだしている時だったーー。


 「精々、ルイ殿の機嫌を損ねぬことだな、あの御仁を怒らせたぬうっ!!?」「ッ!!?」「「ひゃぁっ!」」「「きゃあっ!!」」「お、おい」「ああ、あの時と同じだぜ」「ーー」「あ、おい! 失神してしまいやがった……」


 突如海中から全身が粟立つ程の圧力が湧き立ったのだ。予期せぬ突然の出来事に対応の遅れた者はこぞって意識を失い、余力のあるものに介抱され始める。ガウディーノを初め一定以上の実力を有する者たちは動揺こそしたものの、落ち着きを取り戻し一様に視線を海中に向けるのだった。


 「他の者が気掛かりですので、わたしはこれにて」


 「ああ、そうだろな。判っていると思うが命が惜しくば近寄るなよ?」


 「ーー」


 顔色を変えた騎士が短く別れの言葉を告げると、ガウディーノの言葉に黙礼して海中に沈んで行く。見送る者たちの眼にはルイと敵対する者たちへの憐憫の情が浮かんでいる。誰が敵対しているのか判らないからこそ、眼の前に居る者にそういう視線を向けるしか無いのだろう。


 先程まで吹いていた強風は鳴りを潜め、微風そよかぜが皆の頬を撫でながら通り過ぎてゆく。細波さざなみが甲板に立つ者たちの心の有り様を代弁するかのように、帆船の腹へ打ち寄せていたーー。




             ◇




 見えないちからを纏った僕の背後で息を呑む気配が3つ伝わってくる。騎士2人と海蛇竜シーサーペントだ。2頭の水棲馬ケルピーからは怯えというか、恐怖が伝わって来た。ああ、ごめん。取って食べる訳じゃないから大丈夫さ。


 「じゃ、行ってくる」


 チラッとナハトアに視線を送って意識を前に向けた。


 もともと生霊レイスなんだから移動する時は意識を前に向ければ体は動く。だけど、魔力纏(この状態)になったらどういうことになるのかというのを忘れてたよ。


 『何だ貴様はッ!!』『何で海中にレイスが!?』『どっから来た!?』『落ち着け! 相手はたかがレイスだ! 恐るるに足らん!』『美味そうな雌の匂いがする』『竜の様子が可怪しいぞ!』『隊長に報告だ!』


 魔力の壁でもない限り物理的な負荷が掛からないのを忘れていた所為で、僕は今14騎のマーリザードマンたちの真ん中に浮かんでた。疾過はやすぎるだろ。まだ完全に使いこなせてない。むしろ振り回されてるな……。


 自動翻訳スキルがなければきっと僕の耳には『ゲギャ』とか『グギャ』とか濁った鳴き声が届いてたんだろうけど、お蔭で良くわかる。そこの『隊長に報告だ!』君は早めに止めておくか。


 「【汝の力倆を我に賜えよ(スキルドレイン)】、【汝の露命を我に賜えよ(エナジードレイン)】」


 『なぁっ!?』『ゴアァァァ!』


 僕から離れようとした1騎に標準を合わせて、マーリザードマンと鰐竜からスキルと生命力を奪い取る。そのまま死体と装備品はアイテムボックス行きだ。経験値はためようがないからいいか。ん? 何か忘れてるような気もするけど……ま、いいか。さてーー。


 『君らは“ケルベロス”とどう繋がりがある?』


 殺してしまって質問するのもおかしな話だけど、ナハトアたちをどうこうするつもりという言葉を聞いた後じゃ、見逃すつもりはさらさら無い。寧ろ災いの芽はここで摘んでおく。騒いでいたのが嘘のように13人は一様に口を閉じた。黒だな。直感でそう感じた。


 『だんまりか。それは認めてると同じことだけどな? 質問を変えよう。君らの体の何処かに焼き印(・・・・)は押されてないかい?』


 『殺せっ!』『所詮はレイスだ!』『この武器がればどうとでもなる!』


 “ケルベロス”の団員は体の何処かしらに焼き印がある。これはエレボスの山越えをする前にき出した情報だ。聞かれたことに答えないのは肯定と同じだろ。この技を体に馴染ませるのに使わせてもらうよ。同時に威圧して身動きを封じる。


 「【深淵の女帝(アビスエンプレス)】」


 「こちらに主様ぬしさま


 隊長と言われてた奴を逃がすつもりはない。水中でもべるかな? と不安だったけど、何の影響も感じさせない素振りで僕の後にアビスがひざまずいていた。彼女の曲線を見ていると昨夜のことが脳裏を過ぎったけど、頭の中の自分が慌てて振り払う。


 「少し離れてるけどあれの生け捕りを頼めるかい?」


 「お任せください」


 平静さを装いつつ命じて僕は、眼の前に居るウミイグアナたちを殲滅することにしたーー。


 ーー鎧袖一触。


 とは言ったものの、余りに力の差がありすぎてあっという間に吸い尽くしてしまい、アビスが巨大な鎧魚とウミイグアナを連れてきた頃には綺麗サッパリアイテムボックスの肥やしになっていたよ。それにしてもーー。


 命じておいて何なんだけど、10m以上あるよこれ? 鰐竜わにりゅうの倍以上だ。ふんすと胸を張るアビスのある部分に眼を奪われながらも、それ以上に生け捕ってきた巨大な鎧のようなもので顔を覆う巨大魚に僕の好奇心が引っ張られる。抑えきれず、キラキラした視線を送っている処へ皆が合流してくるのだったーー。


 「よくこれ生け捕れたね?」







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