第159話 不安
遅くなり申し訳ありません。
まったりお楽しみください。
※2017/4/16:本文誤字脱字修正しました。
2017/4/23:本文脱字修正しました。
「そうです。わたしは吸血鬼です」
「そんなーー」
エトの一言にサラは打ちのめされ両手をテーブルの端に残したままガクリと両膝を着く。一般常識を持つ人間であれば誰しもが同じような反応を返したことだろう。逆に精神的に衝撃を受けたにも拘らず、狼狽えたり逆上したりすること無かったのは賞賛すべき振る舞いだ。
…… とうさまは、ゔぁんぱいあなの? ……
「……そうですね。正しくはヴァンパイアの枠を外れた者、でしょうか」
「えっ!?」
エトの言葉にサラは耳を疑った。“今泣いた烏がもう笑う”ではないが、擡げた顔に喜色が表れているのが分かる。だが、夫の言葉の意味が分からない。喜んで良いのか、悲しんだほうが良いのか複雑な感情がサラの中で渦巻いていた。
「吸血鬼という種は、基本的に血を食す事で知られています。血の匂いを嗅いだり、鮮血が流れているのを見たりすると、血を吸いたいと言う衝動が抑えきれなくなるのです。実際、長い間血を吸わなければ弱くなるほど吸血鬼と血は切っても切り離せぬモノとなっています」
エトの説明を2人はジッと耳を傾けている。シルヴィアに至っては内容が難しすぎてついていけないのだが、養父が話している言葉を聞き逃すまいと思って真剣に聞いているのだ。幼子の健気な姿にエトは内心笑みを浮かべていた。それが表に出ないように言葉を続ける。
「現にわたしも200年程血を摂れない時期がありましたので、かなり弱ったことがあります」
「200年……」…… にひゃくえん? ……
目の前に居るエトの容姿は60代だ。その言葉にサラは軽い眩暈を覚えた。時間の感覚が違いすぎるのだ。そう思うと、エトののんびりした雰囲気も理解できる、とサラは得心する。約束の時間を守ると言うことは執事としての習慣からだろうが、全体として誰かを急かしたり、自分が急くこともないのだ。
「200年です、シルヴィア。ですが、ルイ様の眷属に加えて頂いたことによってその衝動が無くなったわけではありませんが、限りなく無に近づきました」
「それは吸わなくても良いということですか?」
不安と疑念が入り混じった視線がエトの眼を見る。
「はい。眷属になって1度だけルイ様の血を飲ませていただきましたが、それ以降はそれ以外の血を飲みたいとも思わなくなりました。衝動もでません。ルイ様が御傍に居られる時は、自制が大変ですが……」
「わたしやシルヴィアの血を飲む必要もないと?」
「はい。寧ろ飲む気であれば幾らでも機会がありました。そうして来なかったことが何よりの証拠ですし、貴女たちへのわたしの気持ちです」
「気持ち……ですか?」
「そうです。弱点があるとは言え、滅ぼされない限り吸血鬼は悠久の時を過ごすことが出来ます。中には伝説にあるように多くの女性を己が眷属にして侍らせている者も居ます。ですが、わたしその気はなかった。ルイ様にお仕えする前のブラッドベリ家の執事で十二分に満足していたのです。それこそ1人で悠久の時を過ごしても良いと思えるほどに……」
「何故……ですか?」
「それは、シルヴィアと出会い、貴女と出逢ってしまったからです。サラさん」
「わたしと……」
「はい。惚れた弱みと申しますか、貴女はとても清楚で朗らかで、わたしの心をいつも癒やしてくれました。今もそうです。シルヴィアは賢くて愛らしい。日々育っていく様は何時まで見ていても飽きないものです。そんな貴女たちとなら悠久の時を共に過ごすことを夢見ても良いのではないか……そう思ってしまったのです」
…… とうさまは、わたしとずっといたい? ……
「ええ、そうなればと思っていますが、シルヴィアもサラさんも自分はどうしたいかよく考えてお返事をください。いきなり吸血鬼だと正体を明かされ、なおかつヴァンパイアの眷属になって欲しいと厚かましい願いを口にしたのです。今は冷静な判断が出来ないでしょう。そのまま別れることになったとしても、責めはしません。悲しいですがわたしの努力が足らなかったと思うことにします」
…… シルはとうさまとずっといたい。もうひとりぼっちはいや ……
「シルヴィア……」「……シルヴィア」
3人が家族となってから、シルヴィアの念話は普通の会話のようにサラにも届くようになっていた。それ故、余計にシルヴィアの願いはサラの胸を締め付ける。右の手をぎゅっと握り締め、自分の胸元に当てながらサラはゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「わたしは……。わたしはすぐにはお返事できません。旦那様に対する気持ちは今もあります。でも、それとこれとが相俟ってよく……良く解らないのです」
「勿論です。それを思って出掛ける前に話をしたのですから。ただ、返事はどうあれこれだけは肌身離さずに身に着けておいてもらえますか? お守りです」
ことり
サラの前に小さな牙が先に付いた飾り気のないネックレスを2本置くエト。1本は明らかに径が小さい子ども用だということが判った。注目したのは材質だ。サラの眼で見ても分かる。純銀製。狼人や虎人と言った、獣人とは似て非なる獣魔族の者たちや不死族たちは銀製品や聖なる力を帯びた物を嫌う。触るだけでも自身の身を傷つけ得る物を好む者は居ないだろう。それをエトは普通に触れたまま自分の前に置いたのだ。これがどういう意味なのかサラには良く解った。
「シルヴィアにも着けておいてもらえますか?」
「これは?」
「はい、お守りです。命を落としかねない傷を負った時、1度だけ時間を作ってくれます」
エトはそう告げた。お守りだと言いながら、守るとも癒やすとも言わずにただ時間を作る、と。サラは黙ったまま2本のネックレスを左手で掴んで持ち上げ、コクリと肯くのだった。
「本当はそういう事態になって欲しくないのですが、王都もきな臭くなって来ましたので念には念を、です」
「……きな臭い?」
「はい。戦ではありませんよ? 陰……いえ、闇で蠢く輩が何やら可怪しな事を始めようとしてるようなのです。おっと、これ以上は聞かないほうが良いでしょう。聞かなければ、知らぬ存ぜぬを押し通せますから」
「……旦那様」
「ふふふ。こんな可怪しなわたしをまだ旦那様と呼んでくださるのですね? ありがとうございます。今日はギルドの依頼を受けていないのですが、別件が舞い込んできましたのでそちらを済ませてきます。リーゼ様たちも今宵発たれるようですので、それまでには戻ってきますね。シルヴィアも今日はサラと一緒に居なさい」
「はい。お気を付けて」…… はい。とうさま、いってらっちゃい ……
「はい、では行ってきます」
2人の見送りの言葉を受けて優しく微笑むと、エトは静かに席を立ち玄関の戸を引き開ける。扉を開けた時に流れ込んでくる朝特有の爽やかな微風を鼻腔に吸い込み、エトはチラリと2人に穏やかな視線を向けて朝陽の注ぐ戸外へと足を踏み出すのだった。玄関の柱に肩を預け、シルヴィアを抱いたまま夫の背を見送るサラの眼には、言いようのない不安が浮かんでいたーー。
◇
潮風を顔に受けながら後へと過ぎ去っていく海面をぼ〜っと見ていた。陸から離れて6時間は過ぎただろうか。【実体化】も強制解除されて、今は生霊だ。
見詰める海面の上で踊る波と、船首によって切られた波が泡立って筋を引く様子は何故か見ていて飽きなかった。太陽は中点から傾き始めてるが肌寒さはまだ感じない。これだけ離れると鴎や海猫も空に見ることもなく、あるのは雲と太陽だけだ。
過ぎゆく雲と穏やかに降り注ぐ陽射しは、昼食を済ませた面々に眠気を運んで来たようだ。甲板のそこかしこでウトウトとする光景は微笑ましくもある。ぼ〜っとする僕を波の音と帆の間を擦り抜ける風の音が包み込んでくれるから耳に心地良い。
「いい旅だな〜」
思わず声を漏らしてしまった。
僕の横ではナハトアとカリナとゾフィーが微睡んでる。船室は落ち着かないらしい。まあ、“ケルベロス”で捕まっていた時のことを思い出すだろうし、僕としても強いるつもりはないから好きにさせてる。ナハトアは単純に僕の傍が良いらしい。一夜明けたら甘え方が凄いことになったな。
僕の声に眼を覚ますこともなく規則正しい寝息を立てている3人をチラリと見て、僕は再び海面に視線を向けるのだった。
あ、そうそう、フェナとドーラはこの船に乗ってたよ。てっきり向こうの宮殿に残ったのかと思ったらどうやら一緒に来るらしい。……らしい、じゃないな。もうこの船に居るんだから。今更帰ることも出来ない。昼食時に顔を合わせて少しだけ話をしただけで、今はイケメン猿魔王の傍にでも居るんだろう。
結果的にはドーラもイケメン猿魔王のハーレム入りを決めたとここで話を聞いた。別にがっかりすることもなく、「ああ、そうなんだ。良かったね」程度の感情しか湧かなかったな。
ドーラとしては、今までフェナと一緒で種は違うけど姉妹のような感情が育っていた分離れづらかった事と、玉の輿的な話と危険な冒険者生活を天秤にかけた上での判断だったみたいだ。他にも何か言いたそうだっけど、言いかけて口を噤んでたな。……この世界の治安レベルを考えたらそりゃ、市井の生活より王宮のほうが断然安全だよな。
尤も、先日ミカ王国であった王宮転覆計画みたいなものが頻繁にあれば問題だろうけど、其処彼処であったら堪ったもんじゃない。けど、魔王領は実力主義社会のようだからそうとも言えないのか? まあ僕には関係のない話だ。それにしても、と思う。
「犬猿の仲」と向こうの世界では言ってたけど、そういう本能的嫌悪感はないみたいだ。いや、昔話の桃太郎じゃ、犬も猿も仲良かったな……。それよりも、上手く納まったんだから良いのさ。可愛い娘たちだったけど、何故か愛玩動物の感覚が捨てきれず恋愛対象にならなかったのが決め手だろう。
違う感情が育ってればナハトアにしたように寝取り返す? いや、正確には寝取られてないんだけど、受けた加護スキルを中和することも出来たんだよな。そう思いながらナハトアに視線を移すと、気持ち良さ気に寝てる寝顔が見えた。
ーーその顔を見詰めていてふと気が付く。
そう言えば、エレクトラ様の加護スキルはそもそも“中和”だ。今回受けた【扇情】も加護スキル。なのに中和できてなかったったのは何でだ?
「……女神の格が違うから、か? それとも加護を受けてる個体差でスキルの強弱がでるのか……。今の時点では検証のしようがないな」
女神の格だった場合お手上げだけど、ウチの娘たちを底上げして備えることは出来る。やっぱりやることは変わらないか。まあそこを再認識できたんだから良しとしよう。それと、今度は連れ去られるという失態を繰り返さないし、させないようにしないとな。
そう、決意を新たにナハトアたちを見ていると急に大きな気配が海の深い所に現れて、船へ近づいてくるのを感じた。
「ん?」
何だろな……。大きな気配だけど、敵意を感じない?
「おい、起きろ! 何かやばいのが近づいてきてるぞ!」
水夫たちが急に慌ただしくなる。この船は魔道船らしく色々な索敵の魔道具も積んでいるらしい。向こうの世界で言う魚群探知機みたいなものか。潜水艦が使っているような音響航法みたいな機能はないようだな。
そう考えると、向こうの世界の誰かが持ち込んだ知識が広まってると考えた方が無難だろう。
ホノカやあの時偶然海賊船から助けた鬼……スメラギなんとかって言ったっけ? が居ることを考えたら、他にも沢山居て可怪しくない。色々と向こうの世界の知識を使ってたりするんだろう。ラノベみたいに。
まあ幸い僕には手に職があるから手の届く範囲で静かに暮らせたら良いんだけど……。今の処そんなに現実は甘くないと世界から突っ込まれてる気がするよ。
いずれにしてもこの魔道船を作った場所にはそれらしき人物が居ると考えて良さそうだ。どの道、転生なり転移してきた人全員と仲良くなれるとも思ってないしな。逆にウチの娘たちを寄越せとか言ってきそうだから、それはそれで遠慮したい。ま、そうなったら返り討ちにしてやるけどな。
そんなことを考えてたら手に武器を持った水夫たちが甲板にワラワラと集合し始めたよ。そんなに大事か? まあ、気配が読めなければ過剰な反応になってしまう、か。それにしてもーー。
僕の回りで微睡んでる3人はその騒ぎに動じることもなく爆睡中だ。微睡んでるどころの話じゃないな。いや、そもそもこれだけ騒いでたら普通眼を覚ますだろ?
「来るぞッ!!」「構えろッ!!」
水夫たちの怒号というか大声に合わせてか、海面が大きく盛り上がる。
「何の騒ぎだ?」
漸くイケメン魔王が船室から顔を覗かせた。同時に水面が弾けて巨大な蛇のような竜のような首と頭部が姿を現したのだ。
「うわあぁぁぁぁぁーーーーっ!!」「海蛇竜だぁーーっ!?」「嘘だろっ!? こんな近海でか!?」「撃つな!! まだ敵対行為はない! こっちから手ぇ出すんじゃねぇぞ!!」
軽いパニック状態になったみたいだけど、船長の一言で何とかそのに踏み留まっているという感じだな。魔王はと言うと特に動じた様子もない。イケメンの後からひょこひょこと妻らしきエルフの女性たちの顔が覗く。好奇心に勝てなかったみたいだな。
「ほぅ、珍しいな」「きゃあっ!?」「冷たいっ!?」「何っ!? 何っ!?」
イケメン魔王の小さな呟きが聞こえてきた。けどそれよりも弾けた海水が降ってきたせいで僕以外の昼寝3人娘に海水が掛かり、慌てて飛び起きたよ。僕はというと、群青色の鱗に身を包まれた蛇と龍を掛け合わせたかのような巨大な生物と視線を合わせていたんだ。これが海蛇竜ーー。
何だか懐かしい気がする。根拠はない。
でも海蛇竜の双眸に敵意は見えないんだよな。寧ろ嬉しそうな雰囲気が伝わってくる。こんな知り合い居たっけ?
「シーサーペント!?」「嘘っ!?」「へぇ、珍しいわね」
寝起きの3人は驚きはしたものの、水夫たちより落ち着いてるようだ。ゾフィーが一番落ち着いてるな。器がでかいのか、呑気なのか知らないけど泣き叫ばれるよりかは随分良い。そう言えばシーサーペントを見るのはこれが初めてじゃないな。
“ケルベロス”の海賊船に襲われたグラナード王国の港湾都市で言葉というか、意志を通わせたんだったな。どうやってかは解らないけど、無理矢理手懐けられたシーサーペントを解放した記憶がある。と言うか、今まですっかり忘れてたんだけどね。ははは……。
「グルルルルルル……」
ゆっくりと周囲を警戒しつつ喉を震わせるような低い唸り声を発しながら、甲板の端に居る僕の方にシーサーペントが近寄ってくる。背後で武器を構える水夫たちが息を呑む気配が伝わって来た。無理もないか。
「ああ、どうやらこの子は僕に用があるみたい。武器を収めて少し離れておいてもらえると助かる」
「は、はい!」「す、すげぇ」「おい、ぼっとするな!」「すみません!」
僕のお願いに水夫たちが半円を描くように僕から距離を取る。3人娘はそのまま上半身を起こして座ったままだ。ゾフィーは両腕で上半身を支えてるから、形の良いマシュマロがたゆんと揺れる。なのでつい視線が移りそうになるんだよな。
「えっと、久し振り? 元気だったかい?」
「グルルルッ!」
自動翻訳をエレクトラ様から最初にもらったけど、特に変換すること無く普通に話しかけていた。多分、今話したのは共通語だ。シーサーペントの方も唸り声で返事した感じだろうな。というか人の言葉を理解出来てるということじゃないか? そういう時は自動で翻訳されない?
随分都合の良い能力というか、匙加減できる高性能スキルだよな。ステータスには出てないけど、スキルって言って良い気がする。
今の声を聞く限り、元気だったということかな。
「そっか。元気なら良いんだ。どのくらい首輪で無理矢理従わされたのか知らないけど、自由に動けてるようだし、嬉しいよ」
「グルルル……」
「ああ、触ってもいいかい? 生霊だけど吸うことはないからさ」
鼻を寄せてくるシーサーペントに手を伸ばしてみる。魔力纏の状態は出来るだけ維持するように意識してるから、多分触れるはずだ。竜装為鎧袖とかいう魔纏の秘技を使っている状態ではなく、全身を薄っすらコーティングしているような状態といえばいいかな。
シーサーペントの方は警戒することもなくゆっくり鼻先を僕の前に出してくれた。鱗と同じ群青色の眼がジッと僕を見詰めている。信頼してもらってるということ……かな。
「グルッ」
鼻に手を当ててコリコリと掻いてあげると目頭の方から半透明の瞬膜がじわーっと出て眼を保護するように動くのだった。この場合、保護というより気持ち良いんだろうけど。
「うわ〜、可愛い〜」「確かにこれは癒やされる顔だわ。ね、カリナ」「う、うん、分かる分かる」
確かに可愛いな。爬虫類好きにはたまらない瞬間だろう。尤も、シーサーペントを爬虫類に分類していいかさっぱり判らないけどな。地を這ってる訳じゃないから、そのまま鰭竜類なのか? まあ、向こうの世界の分類に当てはまらない可能性の方が高そうだけどな。それにしてもーー。
「何でまたこんなとこに来たんだ?」
「グルルッ」
そう尋ねてみると、小さく喉を鳴らしながら小さく顎を持ち上げたのだ。頷いたようにも見えたけど、何かをくれるらしい。そんな意思が伝わって来た。それにしても、自動で翻訳しても良いはずなのにそれが全く機能しないというのも面白い話だな。
「あれ? 喉の下が膨らんでない?」「本当、膨らんでる。病気かな?」「喉……。ちょっと、ここで吐くの!? 皆ルイ様から離れて!」
吐く? 確かにナハトアの言う通り急にシーサーペントの喉の下が膨らんでるのが見えた。けど、それが段々口の方に上がって来て……。
「グエッ!」「おわっ!? ええええっ!?」「「「っ!!?」」」
僕に向かって盛大にゲロった。まあ、吐瀉物は僕を素通りして甲板に広がって酸っぱい匂いを風に運ばせてるんだけど、ズシリと重い何かを僕は胸で受け止めていたんだ。何だこれ? 吐瀉物には魔力がないから素通り、だけどこの重くて綺麗な石は触れたということは魔力を帯びてるってことだぞ。
人の頭ほどの大きさはあるかな。綺麗な球体じゃなくて、う〜ん何て言えばいいだろ。あ、そうそう石の多い河の下流にある角の取れた丸に近い石みたいな感じだ!
吐き出された石……。そうか、鰐とか昔の首長竜とか水中に潜るため石を飲み込んで貯めてるって聞いたことがある。胃石か。それにしても魔力を帯びるくらいってどれくらい胃の中に在ったんだ?
「ルイ様それは……」「綺麗……」「そんなに大きい竜玉初めて見た」
恐る恐る戻ってくる3人娘。彼女たちの視線は僕の胸に抱かれた群青色の綺麗な胃石だった。これをどうしろと?
「ほう、竜玉か。見事なものだな」
「グルルルルッ」
「心配せずとも取りはせん。もとより取れるとも思ってないがな。ルイ殿よ、それ程のものであれば一財産になるぞ?」
背後で聞こえたイケメン猿魔王の声に、シーサーペントの警戒度が増す。気を許していないということか。そう考えると、僕やこの3人は信頼しているということになる。というか、僕を特定できる感知能力があるということは、この3人にも僕との共通点があるってことか? 考えられることは……夜のおほん。
「あ〜竜玉? がここにあるってことはこれを僕にくれるってことなのかい?」
「グルルッ」
どうやらくれるらしい。群青色の宝石といえば思い当たるのは瑠璃だ。胃の内容物が宝石になるなんて、凄いとしか言いようがないな。
「ありがとう、あの時のお礼だと思ってありがたくもらっておくよ」
「グルッ」
「完全に懐いてるわね。ね、カリナ、あなた何か知ってるの?」
「し、知らないわよ。シーサーペントって言ったら海賊船の二番艦で鎖に繋がれてるって聞いたくらいよ。ナハトアあんた知ってるんでしょ!?」
「あ〜多分だけどね? わたしたちがカリナたちを助けるため二番艦へ乗り移った時にルイ様が引き受けてくださってたのがシーサーペントだと思うのよ」
「「ええっ!?」」
僕の後でこそこそ話してるつもりなんだろうけど、声抑えきれてないからね? 丸聞こえだぞ? ま、それで間違ってないから否定しないんだけど。でも、ゾフィーが言うように随分人懐っこいな。顔を擦り付けてくるから鼻とか頬の辺りをカリカリ掻いて上げてる。遠巻きに見ている水夫たちの呆れたような声が聞こえてきた。
「す、すげぇシーサーペントがあんなに懐いてる」「お、俺も触ってみてぇ」「莫迦野郎、ありゃルイ様だからだ、勘違いすんじゃねぇ!」「いいなぁ」「流石ルイ様」「でけえ竜玉」「ああ、初めて見たぜ」
「グルルルルッ」
水夫たちの声を無視してたらスッと僕から離れて頭を浮かんでる僕より下の位置にずらして来た。えっと、つまりーー。
「乗れってこと?」
「グルッ」「「「嘘っ!?」」」
まあ魔力纏を続けてるから生霊でも上に乗れなくはないよな。嬉しそうに答えてくれるからここで乗らないという選択肢はないか。3人が驚くのも無理はない。僕自身まだ良く自体が飲み込めてないんだから。
「陛下、あのようなことは良くあるのでしょうか?」
「知らぬ。俺も初めて見る光景だ」
「わたしも長く生きてまいりましたが、初めて見ます」
イケメン猿魔王の背中から顔を出して驚きを隠せない側室たちが口々に驚きを漏らしているが、自身も見たことがないらしい。貴重な経験をさせてもらえるってことか。それも悪くないな。
「ちょっと乗ってみる」
「お気をつけて」「パクってならないよね?」「いいなぁ〜」
そう告げて心配そうに見守る3人の視線を背中に受けながら、僕はふわりとシーサーペントの頭の上に移動した。若干不安はあるけど、ゆっくりお尻を頭の上に乗せると当たった感触が臀部を通して伝わって来た。シンシアや巨大な狗鷲の背に乗った時みたいにテンションが上がってくるのが分かる。
レイスでも多少は感情の起伏はあるみたいだ。
『漸く貴方様を探し当てることが出来ました。私の主が是非とも御礼を伝えたいと、申しております。このまま御案内致しますので、暫しの間ご観覧ください』
「へ?」
突然頭の中に若い男声が響く。行く行かないを告げる前に僕の体はとぷんと波の下に吸い込まれていったーー。
「「「ルイ様っ!!?」」」
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