第157話 約束
大変お待たせしました。申し訳ありません。
まったりお楽しみください。
※2017/11/4:本文段落調整しました。
そう言いながら手を伸ばすとラクに触れた。同時に魔力が吸われる感じがするから僕との繋がりはあるみたいだ。そう思った瞬間、ラクを除くの姿を現していなかった眷属精霊たちが突然頭上に円陣を組んで現れたーー。
『え? 皆どうした!?』
淡白く光もの、淡黒く光るもの、淡青く光るもの、淡赤く光るもの、淡黃に光るもの、銀色に光るもの、淡緑に光るもの、淡紫に光りぱりぱりと放電するもの、淡く限りなく朧げな存在で薄く光るもの、淡く虹色に光るもの、全部で10の光球が僕の頭上にいる。
『『『『『『『『『『ーー! ーー! ーー!?』』』』』』』』』』
口々に何かを訴えているんだけど、僕にその声が届かないんだ。
『ごめん、やっぱり何を言ってるのか解らない』
思わず眉を顰めてしまう。
大人の腕ぐらいのサイズに縮んだシロナガスクジラの言葉は聞こえなかったけど、僕の声は届いてたことを考えれば、皆にも届くはず。心配して沈んだ顔をすると余計に元気が無くなっちゃうだろうから、できるだけ自然に振る舞う事にしよう。
『何が起きてるのかわからないけど、皆体は大丈夫なのかい?』
まずは様子を聞く。その問いに頷いたり、腕を頭の上で上げて丸を作ったりする十精霊。その仕草に癒やされるけど、事はそんなに悠長なものではないだろう。ただ、今の時点では僕の方から何が出来るのか判らない。
思い当たる要素は2つ。
『僕の体が変わったせいで皆の声が聞こえなくなったのかな?』
この問いには皆が一斉に首を横に振ってくれた。思わずホッとしてしまう。僕が原因じゃないということか。ならーー。
『精霊界で何かあったってこと?』
ビンゴ。この問いにで皆の首が縦に大きく動いたよ。今持ってる僕の知識じゃ精霊界にどう行けばいいのかすらわからない。シムレムは“妖精郷”とも呼ばれるらしいから、何かヒントがあるといいな。妖精と精霊。繋がりがあると信じたい。
『でも、皆がここに来れるということはまだ比較的自由があるってことか?』
肯いている処を見ると、状況は悪化してると考えたほうが良いだろう。エレボス山脈を超える前に喚んでから3ヶ月は経ったはず。精霊界がどれくらいの時間軸の流れなのか分からないけど、悪化する速度は早い気がする。
『こっちに居続けるだけでも魔力を消費してるんだから、ずっと居ていいよとは言えないよな。僕の方でも何か出来るか探ってみるから、諦めないようにね?』
そうなんだ。精霊界が居辛いならこっちへといいたんだけど、基本精霊がこっちで実体化するには制約があるらしい。
詳しいことは解らないものの、情報を整理すれば実体化を維持するには常時魔力を消費し続けていると言うことには辿り着ける。
僕のように魔力の回復量も多ければ多少消費していても問題はない。でも、この子たちは違う。まだそこまで力はないんだ。今僕に出来ることは、精霊界に行く方法を探す、あるいは干渉できる方法を探すかーー。
『魔力を分けてあげよう。今はレベルも上がったから余裕もかなりあるからね。吸い過ぎたら言うけど、さあおいで』
魔力を上げることくらいだ。そう言った途端、甘い菓子に集る子どもたちのように精霊たちが僕の上半身に抱き着いて来た。まだ湯船に浸かったままだからね。
あれ?
ラク、お前さっき吸わなかった?
『『『『『『『『『『ーー♪』』』』』』』』』』
嬉しそうに縋り付いてくる仕草や笑顔を見てると、急激に減っていく魔力も些細なことのように思えてしまうのが不思議だった。あ〜〜癒やされるな。
《眷属が眷属主の※※を含む魔力を大量に吸収したことに伴い、精霊亜種から精霊中種へと系統進化します》
《系統進化に伴い、※※によって遮られていた眷属主との道を確認。眷属の証として瞳に金環を顕現させます》
《全ての眷属たちが金環眼を取得しました》
『は? 系統進化? え? きんかんがん? どういうこと!? おわっ!!?』
突然の脳内アナウンスに戸惑うも、当然処理が追いつく訳もなく、あたふたしている内に僕たちは閃光に包まれたーー。
◇
同刻。
西テイルヘナ大陸の北東部、エレボス山脈を背に栄えるサフィーロ王国。
その中にあって“青き貴婦人”と讃えられる王都カエルレウス。その都の北区にある貴族屋敷の1つで、都の名の由来となった青い屋根で埋め尽くされた都の街並みを眺めながら溜息を吐く男がいた。
「はぁ。ルイくん、君は一体何処に居るんだい……?」
コンコン
「入りたまえ」
「失礼します。只今戻りました」
癖のある群青色の髪を払いながら男が入室を許す。その碧い瞳に移っているのは冒険者風の革鎧に身を包んだ中年の男だった。溜息を吐いていた男声よりもやや年上に見受けられる。声だけで正体に気が付いたのだろう。男が問い質す声は期待に膨らんでいた。
「帰ったか! それで首尾は!?」
「申し訳ありません。殿下。隈無く都を探したのですがルイ殿がこちらに来ている形跡はありませんでした。やはり東に居るという噂が真かと。ただ……」
主の声を聞きながら、入ってきた男は片膝を付いて跪きその問いに答えるのだったが、表情は曇ったままだ。主の期待に添えなかったという自責の念もあるのだろう。しかしその場に居ない者を居ると思って探すことほど無駄なことはない。
「ただ、何だ?」
「は。ただ、ルイ殿付きの女たち数人がゴールドバーグ家の令嬢と最近行動を密にしているようです。迷宮探索の護衛としてのようですが」
「はぁ〜。そうか。そこは要注意だな。苦労を掛けたね。引き続き注意しておく必要がある、か。だが、先ずはゆっくりと疲れを取るといい」
「は。失礼します」
命じた方の男声も後ろめたさがあったのだろう、溜息は吐くものの任務を果たした男に労いの言葉を掛けてまた1人窓から都の風景に視線を移す。背後でパタンと扉が閉まる音がしたが意に介すこと無く、小鳥の囀りや風の音に耳を澄ませながら、1年以上も前にルイと交わした短い遣り取りを思い出していた。
◆
「ルイくん」
「何か御用でしょうか? テオドール様」
「――あ、いや。今回のお詫びと行ってはなんだけど、次回来た時にはうちにも顔を出してもらえないかな? お茶をご馳走したい」
「ありがとうございます。その折には必ず」
「うん。今日はすまなかったね。じゃ、エルマーにも宜しく」
◆
「確かにあの時に明確な日付の約束をしなかったからな。まさか2度目の顔合わせで不躾な願いを言い出す訳にはいくまい。権力を傘にきて無理な願いを口にすれば命令と取られかねないからな。あの時のヨアヒムたちとの遣り取りを思えば明白だ。ふ〜」
「だからこそ気が重い」という言葉を飲み込んでテオドールは再び溜息を吐くのだった。そのこの男声こそサフィーロ王国第2王子こと、現ヴァレンティーノ大公テオドールその人だ。王位継承権は第2位であるものの、早々に王座には興味がないと跡継ぎの居なかった前大公である大叔父の跡を継いだところ、「オレもそんなものはいらん」とばかりに、兄である王太子が出奔してしまったのは彼としても宛が外れたと言って良いだろう。
父と大喧嘩した末での出奔劇と伝え聞いてテオドールも兄の捜索を諦めたのだった。
結果的に兄の死が確定している訳でも、廃嫡された訳でもないため、王位継承権の順位は変わらずそのままにあるのだという。父親の年齢や健康も気になることであるものの、未だに衰えを見せない父に舌を巻きつつ、テオドールは己が娘の健康に気を砕いていた。
「あの時言い淀まずに、正直に助けを乞うていればもっと早くに解決の糸口が見えたかもしれないのに、だらしのない父親だ」
テオドールはそう自戒を込めて吐き出す。視線の先には楽しそうに庭で遊ぶ息子と妻、女官たちの姿がある。眼を細めてその姿を追い微笑む父親の顔がそこはあった。だがそれも一瞬で、ノックの音と共に飛び去っていく。
コンコン
「入りたまえ」
「失礼致します、旦那様。奥様が付き添いをお求めです」
「そうか、すぐに行こう」
テオドールには現在妻が2人居る。1人は息子を産んでくれた第2夫人。もう1人は長女を産んでくれた第1夫人だ。この屋敷において付き添いが必要な奥様と呼ばれる人物は第1夫人であることは暗黙の了解であり、テオドール自身も心得ていた。それ故、自然に妻のもとへ彼の足を運ばせたのだ。病の床にある娘を思う母と父、寄り添う夫婦の1つの形であろう。その姿を家の者たちは心温まる眼差しで見守っていたーー。
◇
「眩しかった〜」
閃光で眼が焼けて某アニメの有名なセリフを口走るかと思ったけど、そんなこともなく。普通に眩しさだけだったな。
閃光が晴れても僕に縋り付く精霊たちに特に外的な変化は見当たらない。増したように感じるのは可愛さだけだ。
『『『『『ルイ様〜♪』』』』』
肘から先くらいの大きさの幼女たちが抱き着いて甘えてくる様子は、父親が幼い娘にデレる理由を僕に悟らせるには十分だったよ。理解る。
この可愛さは反則だ。
この子たちを邪な眼で見る奴がいたら悪即斬だな。彼女たちよりやや体格の良い黒毛のコアラ姿、赤羽の鶏姿、滅紫毛のゴリラ姿やワニガメ姿、シロナガスグジラは僕の回りをふわふわと浮いて回ってる。
『あれ? 声が聞こえる!?』
パスがどうとかというアナウンスが頭の中に流れたな。
そのお蔭か。つまり誰かが精霊界と外との繋がりを持たせないようにしていたってことか。結果的にはその影響下から逃げれたのは上々だ。それにしても何だっけ?
金柑の眼? 柑橘がどうした?
『あ、きんかんはきんかんでも金の環、ね』
幼女姿の精霊たちの頭を撫でながら浮かんでいる5匹の精霊たちの眼を見ると、さっきのアナウンスが何だったのかという事が判った。そういう事か。白目と黒目の堺に、あるいは眼球の一番外輪に金色の環が現れてたんだ。金環眼とは上手い事言ったな。あ、そうそう、念を押しておこう。
『ラク。さっきの伝言忘れずに頼むよ?』
『任せてください、ルイ様! では、行って参ります!』
僕の言葉を受けて、シロナガスグジラが僕の頭上をくるりと回り、背面跳ねのように弧を描くと空中にとぷんと消えるのだった。何度見ても面白いな。
『ラクはいいのぉ〜、あちしらは用がないからルイ様にはこんな時にしか会えぬのに』
『もう少し成長すれば皆も自由にこっちに来れるようになるんじゃないか? 進化した後はそんなに僕から魔力を吸わなくてもいいような感じだし。まあ、たらふく吸った後だからなのかもしれないけど』
十二単を身に纏った幼女姿の精霊がふわふわと右肩に止まり愁いを帯びた眼差しを向けてくる。そうはいってもね。態と喚ばないんじゃないんだけどな〜。十二単なのに金髪でおかっぱ頭のサンの頭を撫でながら苦笑しながら答えてみた。言い訳だな。
『でもルイ様の体は良い匂いがするにゃ〜』
『ウチもこのまま暫くこうしてたいわ〜』『ーーーー♪』
『私もルイ様の御傍に居ると落ち着くのです』
『ははは。ありがとう。嬉しいよ。そうだな。これからはちょくちょく喚んであげるよ。シムレムに行くまでは海の上だから水が苦手な子はシムレムに着いてからだろうけどね。さてと、そろそろお別れするけど、もう大丈夫かな?』
巫女服を身に着けた猫系の幼女獣人姿の精霊とレースクイーンのような衣装を身に着けた幼女姿の精霊、チャイナドレスに身を包んだ幼女姿の精霊が更に強く抱き着いて来る。セイはただ嬉しそうに頷くだけだ。緑色のドレスを着た幼女姿の精霊が僕の頭の上に乗ってはうっと満足気い吐息を漏らしていた。
十精霊たちには悪いけど、そろそろ別の欲求が頭を擡げてきたみたいだ。
僕の悪い癖で、気になることがあると眼の前のことに集中できなくなってソワソワし始めるらしい。らしい、というのは僕自身が余り自覚してないからなんだけど。ごく偶に、そうなのかな〜と思うことくらいだな。
で、今も気が漫ろになり始めたようで、精霊たちに勘付かれたみたい。幼女姿の精霊たちは僕の頬にキスをして帰って行き、獣や動物姿の精霊たちは僕の頭上をぐるりと1周して帰って行ったよ。さて、風呂を上がってナハトアの部屋に行きますか。
湯船から上がった僕は脱衣場で待っていた侍女たちに水気を拭き取られ、身支度を整えてもらい、そのままナハトアの部屋へ案内されるのだった。眼の前で揺れる熟れた桃を眼で追いながらーー。
◇
同刻。
西テイルヘナ大陸の北東部、エレボス山脈を背に栄えるサフィーロ王国。
その中にあって“青き貴婦人”と讃えられる王都カエルレウス。その都の南区にある孤児院の敷地奥に建つ丸太長屋の中は慌ただしい旅支度の最中にあった。
「コレット、わたしの下着は?」
「リーゼ様の襯衣は左の洋服ダンスの下段の引き出しでございます」
山のように衣類を抱えたエリザベスの問い掛けに、コレットが瞑目したまま答える。
「コレット、旅の食料はシンシアが居るから必要ないけど、エレクタニアへの買付けはどうするの?」
「ルイ様より頂いたアイテムバッグに王都に来てより買い貯めております、アピス様」
緩やかに波打つ黒髪を肩から払いつつ、腕組みをする垂れ眼の美女が問うと、体を声がする方に向けてコレットが答える。その答えで右手を頬に当てながら驚くアピスの豊かな双丘が柔らかく形を変えていた。
「あら、抜かりないわね」
「コレット姉、父様と母様へのお土産何がいいかな?」
「エドガー様とアニタ様であればカティナが戻れば十分かと思いますが、念の為こちらをご用意しておきました」
人兎族の美少女が瑞々しい褐色の肢体を踊らせて、アピスとコレットの間に割り込ませて来る。その動きに動じること無く、コレットは静かに返答するのだった。
「うわ〜〜っ! 流石コレット姉!」
その答えに、口を大きく開けて驚いたのか嬉しいのか判らない笑顔で礼を述べるカティナ。
「コレット、アイーダに連絡を取りたいのだが何処に居るか知らないか?」
「申し訳ございません、シンシア様。アイーダ様を含めた5名はゴールドバーグ候爵家邸に向かわれ、迷宮探索の護衛で例の御令嬢と共に出かけたこと迄は存じているのですが……」
「い、いや、そこまで判っているのなら謝らなくてもいい」
背中まで伸びた癖のない金髪を靡かせて、丸太長屋の奥の部屋から出来きた群を抜く美女が、サラリと頬に掛かる髪の毛を払いながら問い掛ける。その問いにお辞儀をしながら答えるコレットだったが、その答えが想像以上のものだったのか、シンシアは引き気味に礼を述べるのだった。
「コレット、わたくし紅茶が飲みたいのですけど、お茶の葉が何処に仕舞ってあるかご存知ありません?」
眼の覚めるような癖のある赤い髪の先をクルクルと指で遊びながら、紅茶ポットを片手に美少女が入ってくる。切れ長で大きな目が皆の問いを捌いているコレットの姿を眼に留めたのだ。
「ディー様がいつもお飲みになっている紅茶の葉でしたら、右の棚の、はいそれでございます。その右の引き出しにございます」
「あら、本当だわ。ありがとう」
片眼を開けてディードの立ち位置を確認すると、言葉で巧みに誘導して目当ての物を探り当てさせたのだった。ニコリと微笑んでディーは紅茶の葉を手に取り、ダイニングへと戻って行く。
「あ、あの、コレット姉様、わたしは……」
「リン、あなたはこれからどうすべきかを聞いているのでしょう?」
先程からオロオロと悩んでいた大人しそうな美少女が、クリっとした眼に不安の色を浮かべてコレットに尋ねて来た。彼女のことを良く知っているコレットの問い返しに、コクコク頭を縦に振るリン。
「ーー」
「ならば問題ありません。ただし、どのタイミングが良いかはシンシア様と打ち合わせていたほうが良いでしょう」
その小動物のような仕草に思わず微笑みながら、コレットは諭すように優しくリンへ語り掛けたのであった。その一言が欲しかったのだろう、リンの表情が晴れやかになる。
「は、はい、そうします。コレット姉様」
礼を言ったリンはキョロキョロと首を振りながら目当ての人物を見付けると彼女へ歩み寄るのだった。先程までの不安は感じられない足取りを見て、コレットは微笑む。そこへ白群色の長髪を珍しく結い上げたギゼラが話し掛けたのであった。
「それにしても、コレットは凄いですね。良くもこんなに雑然としている中で的確に指示が出せるものです」
「指示ではございません、ギゼラ様。問いに1つ1つお答えしてるだけでございます」
「それを聞き漏らさないところが凄いのだけど……」
然も当然とばかりに答えるコレットにギゼラは苦笑で返すしかなかった。コレットはもともとリーゼ付の侍女であった故に、他の人に接して仕える術は身に着けていたのだ。
それが、ルイがエレクタニアに連れて来たアーデルハイドから王宮でも恥ずかしくないと太鼓判を押されるほどにメイド道を叩きこまれたお蔭で、それに磨きがかかったと言っても過言ではない。
リーゼも今更言っても無理だと諦めているので特に口を挟むことはない。皆も慣れたものでそれぞれの加減で彼女に接しているのも、長く時を共に過ごしているからこそだろう。
いつもであれば纏め役のアイーダが居るのだが、先にコレットが告げた通り出掛けたまま長くこの丸太長屋に帰って来ていないのだ。纏まりがないのも仕方のないことと言えるだろう。本来であれば、シンシアが音頭を取るべきなのだろうが、彼女自身どうすべきか迷っているのが正直な処といえる。皆と過ごすようになるまでは墓守として長く孤独な生活を送っていたのだから。
そこへーー。
ギィーーと玄関扉が音を立てて押し開かれる。
一同の視線が玄関に集中すると、そこに現れたものは苦笑しながら小さくお辞儀するのだった。
「長く留守をして申し訳ありません。只今戻りました」
肩の上で切り揃えた照柿色の髪がその動きに合わせて揺れる。彼女の姿を見つけた者たちがこぞって駆け寄る。その動きに気づいた者たちは何事かと覗いて、その理由に納得し、ゆっくり歩み寄るのだった。
「「「ジル!」」」「ジル姉!」「ジル様、他の皆様はご一緒ではなかったのですか?」
「はい。長く家を空け過ぎてるから皆が心配しているだろうからと、アイーダがわたしだけを帰らせました」
皆を代表してコレットが口火を切る。
「そうか。皆は息災か?」
それに次いでシンシアも加わわったが、コレットはそれ以上口を挟むつもりはないらしく、1歩下がってシンシアに譲るのだった。
「ええ、迷宮探索と言う慣れない仕事であり、環境ではありますが、楽しんでおります。……何やら慌ただしそうですが、何かありましたか?」
シンシアの問いに答えながらも部屋の様子が変わっていることに気付いたジルも問い返す。
「ああ、今し方ルイ様から言伝が届いてな。一度エレクタニアへ戻ってリューディアをシムレムに連れて行く事になったのだ。無論、行きたい者だけだ。ここに居る者たちは皆戻るつもりだが、お前たちはどうする?」
「シムレム? ……わたし個人は戻りたいですが。護衛の仕事を請け負っている皆の意見も聞いてみないとわかりません。帰って来て早々ですが、もう一度確認をしに戻っても?」
首を傾げるジルだったが、少しの間を置いてここにいない者たちの事を口にする。その素振りにシンシアの形の良い眉が一瞬ピクリと動くが、ジルは視線を床に落としているので気付くことはない。
「勿論だ。明日の夜に南門を出て帰途に着く。それまでに戻れるか?」
「問題ありません」
期限を伝えると、今度はシンシアの眼を見て答えるジル。その動きのチグハグさに違和感を覚えるシンシアだったが、それを察したコレットが助け舟を出す。
「御屋敷まででしたらわたしがお送りしましょう」
「それには及びません。貴女はそのまま旅支度をしなさい、コレット。わたしが送りましょう」
右腕に可愛らしい幼女を抱いた老紳士がそこに立っていた。丁度ジルの背後、10歩ほど離れた辺だ。その位置は当然家の外である。
「「「「エト!?」」」」「シル〜〜♪」「ーー♪」
「サラを迎えに行くついでです。そのまま遊覧気分で都の中を見て回るのも悪くはありません」
互いに顔を見合わせてエトの提案に乗るかどうかアイコンタクトを取るものの、否定的な意見が出なかったので結局エトの言葉に甘えることになる。手を振るカティナに応えるエトの腕に抱かれたシルヴィアの笑顔に、皆頬を緩めていたーー。
◇
コンコン
「ルイ様を御案内いたしましたわきゃっ!!」「おわっ!? ナハトアッ!?」
ナハトアの部屋まで案内してくれた侍女が先触れじゃないけど、ノックして用向きを伝えた瞬間に侍女は弾き飛ばされ僕は胸元を掴まれる形で部屋に引きずり込まれる。はあっ!? どういうこと!?
バタンと閉じられる扉の音が後で聞こえたけど、「侍女は呆然としてるだろうな」ということを考えるまもなく僕の頭は華奢な手で固定され、唇は柔らかいもので塞がれていた。
「んん……」
狂おしく求める舌の動きに合わせて僕の思考も動物的なものになっていく。数日前アビスと体を合わせて以来更にこういう衝動が強くなった気がする。それとも血の所為か?
「んぁ……んふ……」
理性がどんどん抜け落ちる。
お互いに多くを着ている訳ではない所為で生まれた時の姿になるまでにさほど時間は掛からなかったよ。縋り付く柔らかい生き物を引き剥がして一言だけ何とか告げることができた。
「あ……」
「あの日の約束、忘れてないよ。ナハトア、君が欲しい」
「ルイ様……あっ」
部屋の片隅で灯る油灯の明かりのお蔭でいい雰囲気が創りだされてる。
その場で求める事もできたけど、最後の理性を振り絞ってナハトアをお姫様抱っこでベッドまで運ぶことができたよ。
僕を見上げる熱っぽく潤んだ瞳の魅力は絶大で、僕から言葉を奪っていた。優しく置くというより、投げ出さんばかりの勢いというか、僕自身も余裕がないから覆い被さっていくーー。
隣の部屋に2つの気配を感じつつも、止めなく溢れる劣情の流れには抗がえる訳もなく……。
押し流され……。
深みに足を取られ……。
引きずり込まれ……。
朝が来た――。
最後まで読んで下さりありがとうございました!
ブックマークやユニークをありがとうございます! 励みになります♪
誤字脱字をご指摘ください。
ご意見ご感想を頂けると嬉しいです!
これからもよろしくお願いします♪