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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第四幕 剣王
171/220

第155話 行き逢う

遅くなり申し訳ありません。

まったりお楽しみください。


※2017/11/4:本文段落調整し、加筆修正しました。

 

 「あら、有望株がこんなに沢山居るだなんてーー」


 タユゲテ様の嬉しそうな小さな(つぶや)きが閃光の中で聞こえてきたーー。


 閃光が晴れるまで少し時間がかかるかな。閃光というか視力がまともになるまでって言ったらいいか。あの時は生身を着けてたから、状態異常まではいかないまでも眩しさで眼が開けれなかったけど、今は霊体(アストラルボディー)だからそこまで影響はないみたいだ。


 それにしても、と思う。前に二尾の狐ツインテールフォックスの種族名がレッサーフォックスだったものを助けて心臓を戻してあげたら、ブレイブフォックスに変わったという経験がある。魔道具の呪液が【融合(フュージョン)】に作用した結果だと思うけど、今回はそれ以上のような気がするな。何と言っても【凝血の呪液・改】ってなってたし。


 「ふふふ。エル姉様に感謝しなきゃね。こんなに唾つけて帰れるだなんて思ってもみなかったわ。勿論、ルイくんあっての話だけどね」


 「ずいぶん楽しそうですね」


 まだ視力が回復しない面々を他所に、鼻歌でも歌いそうなくらいご機嫌になってるタユゲテ様に声を掛ける。


 「ふふふ。加護を沢山付けて帰れるって話。あ〜今からでも遅くないわ。ルイくんわたしの使徒にならない?」


 「は? え……いや、今のままで間に合ってるんですがーー」


 「ふふふ。そうよね。でもマイア姉様の鼻も明かせるし、今回はこれで満足よ。ふふふ。じゃあ、わたしはこれで帰るわね。エレ姉様はまだ出てこれないんだけど、何か伝えることあるかしら?」


 「じゃあ、たまには顔を見せろと」


 「了解よ。あ、そうそう、ルイくん自分の体、霊体(アストラルボディー)だと思ってるみたいだけど、もう変わってるから」


 「え?」


 「詳しくは言えないけど、自分で調べてみたら良いわ。じゃあまたね」


 「え、あ、ちょっと、タユゲテ様!?」


 言いたいことをしっかり言ってタユゲテ様はスッと消えてしまった。僕の体が霊体(アストラルボディー)じゃない?


 皆の視力が戻る頃にはタユゲテ様の姿は見えなくなっていた。気になることを言われたもんだから内心穏やかじゃないけど、眼の前で起きている事も放って置けないと思わせるには十分過ぎる状態だ。


 「姉さん、うろこが黒くなってる」


 「其方そなたは薄っすらと赤いな」


 ナーガシスターズの方は種が変わってドラゴナーガというらしい。竜の因子が体に入ったからだろうけど、鱗の形状が蛇ではなく竜のそれに近い気がする。角はないけど、魔力はさっきよりも格段に大きい。


 「ナハトア、あたしハイ・ダークエルフになってるんだけど!?」


 「え、あんた()なの!?」


 「はぁっ!? あんたいつの間にそんなことになってるのよ!? これで郷に帰ったら大騒ぎになるわよ!?」


 そうか。そんなにコロコロ種の格が変わることは起きないだろうし、郷から出る前の2人の種を知っている者からすれば何が起きたか聞きたくなるよな。面倒事の臭いしかしない。


 「ドーラ大丈夫?」


 フェナが石畳の上に座り込むドーラの目線に合わせるように膝を折る。


 「ああ、ステータスを見たらタユゲテ様の加護が付いてた。種族も覚醒者(ウエイクキャスター)ってなってるし……」


 うえいくきゃすたー? 何だそれ? 聞いたことないぞ?


 「ドーラ、ちょっとごめん。【鑑定】させてもらうよ」


 話し始める2人の会話に聞き慣れない言葉を拾い上げたため、慌てて確認することにした。


 「あ、はい。ご主人様なら声掛けなくても自由に()てくださればいいのに」


 「いやいや、そうはいかないよ。その癖をつけたらかなり痛い大人になってしまう」


 「痛い? 何処か悪いんですか?」


 「あ、いや、常識知らずってことさ」


 首を(かし)げるドーラに苦笑で応じながら、言葉選びの難しさを改めて感じていた。向こうで使ってた言葉も通じない言い方があるってことだ。失敗失敗。さてと、気を取り直して観てみるかな。


 「【鑑定(アプリーズ)】」


 ◆ステータス◆

 【名前】ドーラ

 【種族】ソートファー[覚醒者(ウエイクキャスター)] / 人狼族

 【性別】♀

 【職業】剣士

 【レベル】53

 【Hp】20,347 / 20,347

 【Mp】3,633 / 3,633

 【Str】1,526

 【Vit】2,180

 【Agi】1,962

 【Dex】1,381

 【Mnd】1,090

 【Chr】1,744

 【Luk】654

 【ユニークスキル】獣化、【女神(タユゲテ)の加護】

 【アクティブスキル】索敵Lv26、忍び足Lv44、潜伏Lv18、追跡Lv50、体術Lv39、剣術Lv43

 【パッシブスキル】毒耐性Lv8、麻痺耐性Lv2、魅了耐性Lv1、疲労耐性Lv35、火耐性Lv29、警戒Lv46、旅歩きLv31、狩猟Lv27、料理Lv36、野営Lv41

 【装備】シーツ


 このレベルでこんなに高いステータス数値は破格だぞ。それに煤毛(ソートファー)の後にある覚醒者(ウエイクキャスター)……。なる程覚醒者(かくせいしゃ)、ね。ぶん投げれるくらいの強さに覚醒(めざ)めた者ってことか。言い得て(みょう)だな。


 「[覚醒者(ウエイクキャスター)]を【鑑定(アプリーズ)】」


 ◆覚醒者(ウエイクキャスター)

 【備考】獣人族などの亜人種(デミ・ヒューマン)や魔族の持つ潜在能力が開花した際に発現する。従来の力を2倍に高める恩恵があり、副作用はない。更に覚醒者(ウエイクキャスター)として覚醒めた者には、スキル修得率、スキル成長率の上昇補正が掛かり、そうでない者たちとの開きが出来やすくなる。人族・妖精族・不死族には存在しないとされる。残念だったね?


 いや、「残念だったね?」って聞かれてもーー。


 妖精族っていうのは、RPGでお決まりのエルフ族・ドワーフ族・ホビット族・フェアリー族の総称だろうな。まぁ、僕はこの枠から外れてるから知識欲が満たせれればそれでいいか。


 「ご主人様何か分かりましたか?」


 「ああ、このウエイクキャスターっていうのは、ドーラの力を2倍に引き上げてくれるらしいよ。スキルも覚えやすくなるみたいだし、これを機に色々と試してみると良い」


 「本当ですか!? そうだって、フェナ!」


 「あ、うん、良かったね」


 「フェナ?」


 歯切れの悪いフェナ()の反応に、ドーラの表情が曇る。曇った顔も可愛らしいんだけどね。2人はいつも一緒に居たからドーラもここに残る可能性が出て来たな。無理して引っ張り回すつもりはないからここらで玉の輿も良いと思うんだよね。さてさて、どうなるか。


 「ああ、フェナはここに残ることを選んだみたいだ。詳しいことは僕も聞いてないから直接聞くと良い。ドーラも」


 「え? フェナ?」


 「ルイ様、ドーラと2人で話したいので失礼させていただいても……」


 「勿論。というか、ここはもうフェナの家も同じなんだから僕に断りを入れる必要なんてないんだけどな」


 「そんな訳にはいきません!  助けて頂いた恩もお返し出来てないのに……」


 「あ〜元々恩を売ったつもりはないから気にしないで良いんだけど。……そういう訳にはいかないんだろ? う〜ん、特にないんだけどまあ無理じゃない範囲で考えてみるさ」


 偶々《たまたま》海賊船に攻め込んだら奴隷にされてる人たちが居ただけの話で、僕が解放しなければ領主の持ち物として盥回たらいまわしにされてた可能性があるくらいだ。結果論だけどね。フェナにしろ、ドーラにしろその辺りの融通が利かないんだよな〜。ここに居る間に伝えればそれでいいか。


 「すみません。失礼します。ドーラ」


 「え、あ、ちょっとフェナ、ここがあんたの家ってどういう事!? え? あ、ご主人様失礼します!」


 「ごゆっくり〜〜」


 僕の答えに納得できたみたいで、フェナハドーラの手を取って部屋の外へ出て行く。引き止める理由もないから右手を振りながら見送ることにした。ははは。引っ張られてると言った方が良いような勢いだな。


 「ルイ様」


 「ん? ああ。そうだったね」


 背後で名前を呼ばれて振り返ると、イルムヒルデがこうべを垂れていた。【従者契約】が残ってたな。ハプニングはあったけど下準備は出来た。あとはーー。


 「ナハトア、その腕輪を外してくれるかい?」


 「あ、はい、ルイ様」


 ナハトアの左腕から外してもらった腕輪を手に取ってみる。魔力を感るのは【召喚具】と成ったせいなのか、元々の金属は何だったのか判らないんだよな。黒いし。ついでだから調べてみるか。


 「【鑑定(アプリーズ)】」


 ◆ステータス◆

 【アイテム名】黒銀くろぎんの召喚具

 【種類】腕輪(ブレスレット)

 【Mnd】+200

 【備考】銀製の腕輪だったものが“(けがれ)”と合わさり黒色に変色した結果、魔力を帯びた黒銀化した。ヴィルヘルムとの【従者契約】の証でもある。この腕輪が破損した場合、契約は自動的に破棄される。


 なる程ね。“穢”と合わさったのか。つまり、外部からの因子の影響を受けて変質したのなら、魔力でもいけるってことだな。でもその前にーー。


 「ヴィルとイルムヒルデ。この腕輪にそれぞれ自分の血を垂らしてもらえる?」


 「承知」「はい」


 元々2人とも犬歯が鋭いから簡単に自分の親指の腹を噛み切れるみたいだ。ある意味凄いな。僕は小心者だから噛んでみて痛かったら多分やってない、いややらない。きっと針とか探しそうだ。


 「ありがとう。【融合(フュージョン)】。【鑑定(アプリーズ)】」


 ◆ステータス◆

 【アイテム名】黒銀くろぎんの召喚具+

 【種類】腕輪(ブレスレット)

 【Mnd】+500

 【備考】銀製の腕輪だったものが“(けがれ)”と合わさり黒色に変色した結果、魔力を帯びた黒銀化した。ヴィルヘルムとの【従者契約】の証でもある。この腕輪が破損した場合、契約は自動的に破棄される。ヴィルヘルムとイルムヒルデの血が黒銀へ混ざった事により、アイテムの格と強度が上がった。


 予想通りだな。血液にも魔力は流れているから、それを混ぜれば結果が出ると思ったけど……。これなら試しても大丈夫そうだ。ま、壊れたら壊れたで再契約すればいいだろうし。気軽に試すか。


 「ルイ様、どうですか?」


 「ああ、結果は良いんだけど、イルムヒルデも含めた召喚具にするには心許無こころもとないかな」


 「そうですか……」


 「ははは、そんな顔しない。イルムヒルデも。これが上手く行けば何とかなるはずだから」


 「「え?」」「ーー」「流石ルイ殿」


 これ以上はないと思って諦めてたのかな? ゾフィーさんに関しては全く関係のないことだけど、何故にそんなキラキラした眼で見てるの?


 新潟で教えてもらった冶金やきんの技術がこんな所で役立つとはね。僕のしてきた経験も無駄じゃなかったって事かな。まあ、成功できなければ意味もないんだけど。ふぅ。僕の魔力をゆっくり混ぜ込んで練る。練り込んで馴染ませる。集中しろーー。


 「ーー」「わぁ〜!」「「おおっ!」」


 てのひらに乗った腕輪に魔力纏の延長のような感覚で魔力を纏わせ、染み込ませてゆく。すると黒かった銀の腕輪が素の色合いを取り戻し始めたんだ。ナハトアは声にならないようで、ぽかんと口を開けている。五月蝿うるさいのがその他の3人だ。特にゾフィーさんだが……。そんなに近付いて見詰めなくてもいいだろうに。


 時間にして10分も掛かってないだろう。ゆっくりと魔力を染み込ませるの止めて腕輪に注目してみる。白金プラチナかと思えるくらいの光沢を持った腕輪が掌の上にあった。


 「【鑑定(アプリーズ)】」


 ◆ステータス◆

 【アイテム名】魔鉱銀まこうぎんの召喚具

 【種類】聖なる腕輪(ホーリーブレスレット)

 【Mnd】+2000

 【備考】銀製の腕輪だったものが“(けがれ)”と合わさり黒色に変色した結果、魔力を帯びた黒銀化した。ヴィルヘルムとの【従者契約】の証でもある。この腕輪が破損した場合、契約は自動的に破棄される。ヴィルヘルムとイルムヒルデの血が黒銀へ混ざった事により、アイテムの格と強度が上がった。更にルイ・イチジクの魔力冶金により魔鉱銀へと変質する。またルイ・イチジクの※※が作用し聖属性を帯びることに。


 まただ。また※※って伏せられてる。【鑑定】レベルはMaxなのに鑑定できないってどういうことだよ。基礎レベルも上限。手詰まりじゃないか。この※※はイルムヒルデが言うには禁忌(きんき)らしいし。【鑑定】で伏せられてるのを【鑑定】しても何も解らないだろうから一旦保留だな。それよりもーー。


 「魔鉱銀の召喚具だって。これなら【従者契約】しても大丈夫だと思うよ?」


 そう説明しながら、ナハトアに変質した腕輪を返す。受け取ったナハトアと傍に居たカリナの眼は腕輪に釘付けだ。しっかり観察すると良い。


 「……姉さん、魔鉱銀ってあんなに簡単に出来るもんなんだね?」


 「莫迦ばかを申すでない。長い年月に渡って魔力に晒され続けた銀が変質して、ようやく少し取れる程貴重なものなのじゃ。良いか、今見たことは他言無用ぞ?」


 「……分かったわ。でも、こんなの見せられたらサヨナラなんて無理! 絶対に一緒に行くんだから!」


 と、何やら姉妹でこそこそと話し合ってるけど丸聞こえだよ。というか、前の蛇女ラミアたちの件は逼迫ひっぱくしてたし、人数も居たし、街の中でストレスも高まってたからお節介をしただけだ。今回は魔族の国からストレスも無いだろうし、新しい種族として更に力を増してるし、逼迫してない。一緒に行くにしても郷まで送る義理もないんだけど? 


 「あ〜それなんだけど、郷に帰らなくていいの? 僕らはシムレムに行くから寄り道はしないよ?」


 「「シムレム!?」」


 行き先を聞いて2人が振り向く。


 何!? どうした!?


 「わたしたちは“聖樹祭”に帰る途中で連れ去られてしまったので、この時点で寄り道なのよ」


 僕が理由を()く前にナハトアが助け舟を出してくれた。


 「それなわ問題無いわ!」「うむ、ルイ様が一緒ならば妾も同行を許す」


 え? 同行を許すも何も、どういうこと? 理解が追いついてないんだけど?


 「知られてないけど、蛇女族(ラミア)の郷はシムレムにあるんだから」


 「は?」「「えっ!?」」


 ご都合しゅ……いやいやいや。その前にシムレム出身のこの2人が知らないってどういうことだよ!?


 ゾフィーさんの言葉に耳を疑ったが、同じ反応を返してきたのはシムレム出身のダークエルフの2人だった。今やハイ・ダークエルフらしいが。


 「僕が知らないのは致し方ないとして、シムレム出身の2人が知らないってどういうこと?」


 「ルイ様、2人が知らないのは当然かと。シムレムにある蛇女族(ラミア)の郷は隠れ郷で、各地に点在する一族の中でも聖地なのです。恐らくエルフたちの中でも聖樹を守るハイ・エルフたちしか知られていない情報でしょう」


 「そこを襲われたんだろう?」


 「う……」


 イルムヒルデの説明に納得しながらも、ゾフィーがここに来た経緯を思い出して訊いてみた。突かれたくなかった話なんだろうな、言い難そうに視線をそらしている。どうしたものかと思っていたら更に頭上から思いがけぬ助けの手が差し伸べられてきたよ。


 …… 正確には隠れ里の傍で捕獲した、ね。 そうなのよね〜。隠れ里には入れなかったんだけど、のこのこ郷からわたしたちを攻撃しに出て来た蛇王女(ナーガ)を捕まえれたから退散したのよ〜 ……


 「何を……? あーーっ!! 牛乳女!!」


 ホノカとナディアを指差して激昂げきこうするゾフィーさんに、僕たちは何がどうなったのか理解できずに居た。この瞬間に理解わかったことといえばーー。


 「面識がある、のか?」


 ということだけだ。思わず疑問形にしてしまったけど、頭の中の情報処理が追いついてない。


 …… ルイくん、忘れたの? そうよ〜。今は亡霊(レヴナント)だけど、真っ当な仕事してたのよ〜 ……


 2人の言葉に思わず「真っ当な仕事じゃないだろう!」と突っ込みたくなったのは内緒だ。お蔭でやもやしていた頭の中がスッキリする。“ケルベロス”だ。海賊だけじゃなく、他にも活動の場や犯罪組織があることを考えれば、闇社会の巨大な組織(シンジケート)といったモノに認識に改めないとな。


 記憶を手繰(たぐ)ると、グラナード王国のラエティティア(港湾都市)を“ケルベロス”海賊団が襲撃した時に助けた奴隷たちのなかに蛇女(ラミア)たちとエルフたちが複数居た。何処かで大量に仕入れたか、少しずつ増やしていったかのどちらかだけど、1箇所で大量仕入れが出来る場所が存在しているならこの疑問の答えは(おの)ずと出る。


 「“ケルベロス”の航路上にシムレムがあったということか?」


 …… 正解。 流石ルイくんね〜。理解が早くて助かるわ〜。“ケルベロス”の本部(・・・)が何処なのかは契約(・・・・)で言えないから聞かないでね〜 ……


 先に言われちゃったか。ま、契約書を見つけて破棄できれば問題ない。よくもまあこんな場所で行き逢えたもんだ。


 「それにしてもナーガを捕獲できるってどれだけだよ」


 …… 簡単ね。 人質よ〜 ……


 ああ、そうだった。こうなる前は微笑(ほほえ)みながら人を殺せる女だったな。


 2人の言葉に苦笑が漏れてしまう。他の面々は興味津々だ。ナハトアなどは理解できてる顔だけど、「カリナはどういうこと!?」とナハトアに喰い付いて肘鉄ひじてつを受けて悶絶してる。痛そうだな……。


 ゾフィーさんは相変わらず宙に浮かぶ2人を睨みつけてるが、その頭に拳骨げんこつが打ち落とされた。


 「痛ーーい!! 姉さん!?」


 「莫迦者ばかもの。あれ程郷の者がどうなろうが出てはならぬと申しておったのに、自制が出来ぬとは。幸い、其方そなた以外の者はルイ様が妾の下に連れて来てくださったゆえ事なきを得たがの」


 「えっ!? そうなんですか!?」


 「まあ、結果的にはそうなったね。この2人も死んじゃってるし、この辺で手を打ってもらえると旅のともとしてはありがたいんだけどね?」


 「同行を許してもらえるんですか!? はい! 許します! あたーーっ!! 姉さんっ!?」


 「不束者ふつつかものですが、何卒なにとぞ吾ら姉妹を宜しくお願いいたしまする」


 「よ、宜しくお願いします!」


 僕の前でうやうやしく例の姿勢でお辞儀をするイルムヒルデ。再び姉に拳骨を落とされながらも、姉と同じように指先を伸ばした腕を胸の前で交差し慌ててお辞儀をするゾフィーさん()


 シムレムまでの道中も賑やかになりそうだ。道中を想像してしまい、思わず頬がゆるんでいた。


 「うん、宜しく。じゃあナハトア。折角だからこのまま【従者契約】してしまう?」


 「はい。そうします」


 「じゃあ、ナハトアとヴィルヘルム、イルムヒルデ以外はこの部屋を出るよ。契約の儀式は気が散らない方が良いからね。ほら、カリナも起きた。【手当トリート】」


 未だに悶絶しているカリナに回復魔法を掛け、退室を促す。出るのは僕とカリナ、そしてゾフィーさんだ。


 と言っても長々と待たされる訳でもなく、10分も経たない内にナハトアが腕輪を身に着けて出て来た。


 「あれ? 2人は?」


 「この中です。それはもう熱々でした」


 「そ、そうなんだ。まあなんだ、結果的には上手く纏まって良かったんだじゃないかな?」


 1人で出て来たナハトアに疑問をぶつけると上目遣いで少し愚痴られた。いや、うん、気持は解るけど……ね?


 ナハトアの短い説明で事足りた。元々あの2人は恋仲だったんだろう。一方的に仲を引き裂かれたと思って敵対しそうになったけど、仲を取り持つことが出来たから今までの想いを2人だけの世界で満喫しているということだな。


 そう思ってアビスの事を思い出す。魔法が使えるようになったら喚ぶとは言ったものの、今このタイミングじゃ不味いだろうからと、自分に言い聞かせて理性を働かせることにした。重労働ハードワークだと思うけど頼んだぞ、理性くん。こっちに来てそういう歯止めが効きにくくなって来てるのは環境のせいなのかもしれないな。そう思いながらこれからどうするか5人に訊いてみることにしたーー。




             ◇




 結局これ以上ここに居る意味も無くなった僕たちは、ナハトアの割り振られている部屋に戻ることにしたんだけど、女性陣3人は何故か女官に案内されて湯殿(ゆどの)に連れて行かれることになった。ホノカとナディアも一緒に行くそうだ。あれ?


 僕はというと大きな二枚扉の前に案内されていたりする。


 「ルイ様を御案内いたしました」


 「御通しせよ」


 女官の声に、聞き覚えのある男声が扉越しに聞こえてきた。それに合わせ、巨大な二枚扉が内側に向かって重々しい音を響かせながら開かれる。これ引っ張る人間どれくらい居るんだ? と思ったら左右に扉にガタイの良い男が1人ずつ付いていただけだった。結構な腕力だな。


 どうやら謁見の間のようだ。豪華な王座の背凭(せもた)れに背中を預け、膝の上に幼い子を抱く魔王の姿がそこにあった。あまりじと見てなかったけど、金糸雀色(かなりあいろ)の髪がよく似合うイケメンだ。背丈は同じくらいだろうけども、厚みは僕よりある。彼の膝の上ですやすやと眠る子を見て少し心がほっこりしたよ。可愛らしい男の子だな。そんな事を考えていると、魔王から声を掛けられた。


 女官に誘導されながら魔王の前まで来ると、魔王が座ったままだが驚くべき行為に出たんだ。


 「この度の事、ルイ殿に多大な迷惑を掛けてしまい、またミスラーロフの暴挙を許してしまったことを詫びさせて頂きたい。申し訳なかった」


 玉座で頭を下げる魔王の行為に周囲がざわつく。ま、そうなるよね。国を預かるトップが頭を下げたんだ。それを意味することくらい僕にも理解(わか)る。僕としてもこれで終わらせれるなら願ったり叶ったりだ。


 「まあ良いですよ。幸い、大事にはならなかったようですしね。公式に家臣の眼の前で頭を下げてもらえたのなら、今のところ(・・・・・・)これ以上は言うことはありません」


 「む……。加護のことを」


 「ええ、お聞きしていますよ。身贔屓(みびいき)女神様たち(・・・・・・・)からね」


 「なっ!?」


 所謂いわゆる、神託があったと取られたのかもしれないけど嘘は言ってないし、全てを話すつもりもないから流しておく。


 「ええ。僕も、眷属たちも加護持ちです」


 薄々感じてはいたんだろうけど、改めて僕の口から聞いて少しショックを受けたという感じだろうか。加護持ちがどれだけ世界に居るのか分からないけど、珍しい部類に入るんじゃないだろうかと思うんだ。そうは言っても加護持ちに出遇う確率が高い気もする。


 と、素朴な疑問に思考を奪われて居たところへ横合いからトレーの様なものに乗った羊皮紙が持ってこられた。簡単だけど文章が書いてある。


 「これは?」


 「現状だが、ルイ殿は魔王領を納める気」「全くありません」


 訊ねてみたらとんでもない事を口走り始めたので被せ気味に拒絶しておく。これ以上は無理だしそんな気もない! と言う気持で突っぱねたら爆弾がやって来た。


 「ならば我が魔国スルエスパーダと、ルイ殿、もしくはルイ殿が所属する国と不可侵の契約及び同盟を結んで頂きたい」


 「Oh……」







最後まで読んで下さりありがとうございました!


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