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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第二幕 辺境の街
17/220

第16話 ツインテールフォックス

2016/3/29:本文修正しました。

2016/12/2:本文加筆修正しました。

2017/8/25:本文加筆・削除修正しました。

 

「きゃああぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!!!」


 右の掌に幸せな感触を残したまま意識が飛んだーーーー。


 生霊(レイス)の時にMpを使い切って意識を飛ばしたことはあったんだけど、肉体だとこういうパターンはもあるのね。と後になって思ったんだ。




            ◇




 どれくらい時間が経ったのか分からないけど、何やら柔らかい枕の上に頭を預けている状態で気が付いた。ん? びくっとする。何せ眼の前にジルさんの顔があったのだ。眼が赤い? 充血してる? …………。泣いてた? あれ? 僕泣かせたの?


 「あ、これはどういう状況でしょう……?」


 恐る恐るジルさんに尋ねてみる。でもジルさん瞳を潤ませて今にも泣きそうなんだけど。


 「ルイ、気がついたんだね! 良かったぁ~! もぅあの後大変だったんだよ!」


 サーシャが覗き込んで来た。向日葵色のツインテールがぴょこぴょこ揺れてる。


 「大変って?」


 まだ日は落ちてないからギゼラはまだ帰ってきてなさそうだね。


 「こう、ばーんってジルさんの拳がルイの顔に減り込んでさ、ルイがぶはーってぶっ倒れたの!」


 いや、表現の仕方が関西人なんだけど。


 どうやらジルさんの一撃で意識が持って行かれたらしい。余程強烈な一撃だったんだろうなぁ~。その時の記憶がないくらいだからね。


 「それでね、鼻から血がドクドクいっぱい出てね、なかなか止まらなくてね。ジルさんがアワワして大変だったの!」


 「そっか~。それで僕は膝枕をしてもらえてる訳だ。役得だね♪ でも、ギゼラが帰ってきたら大変そうだから治療だけはしなきゃね。【手当(トリート)】」


 サーシャが身振り手振りでその時の状況らしい様子を教えてくれるのだったが、真剣さが滑稽だったので思わずくすりと笑ってしまう。


 「もぉ~人が心配してあげてるのになんで笑うかなぁ~!」


 「ごめんごめん。一生懸命に教えてくれてるのが可愛いなぁ~と思ってね♪」


 「ゔ~~~~~」


 サーシャがプンプン怒るのも可愛らしかったんだけど、心配かけたのも事実だからぽふぽふと頭を撫でで上げる。何とも言えない表情でこっちを見るサーシャも可愛かった。


 さて、ジルさんだ。何にも言わないけど、大丈夫なのかな? 膝枕気持いんですけど、気まずい。


 「あ、あの、ジルさん?」


 ぽたっ


 あ、決壊した。気が済むようにしてもらおう。


 「う、どうして、どうして怒ってくださらないのですか、うっ」


 「え、この状態で怒れって言われる方が無理だよ」


 「それでも、私は問答無用でルイ様を殴ったのに。ぐすっ、うっ」


 「あ~まぁなんだ。きっとジルさんは僕が危険かそうじゃないかを確かめたかったんでしょ?」


 僕の質問に、ジルさんがこくりと頷く。それに合わせて涙がぽたぽたっと頬の上に落ちてくるのだったが、ジルさんが優しく指で拭き伸ばしてくれる。ジルさん自身の肩に掛かった蘇芳色(すおういろ)の髪がサラサラと前に移動して揺れいた。う~ん、この姿をギゼラに見せるだけで逆上しそうだな。


 「僕の方はちょっとステータスが化物じみてるからね~。まぁ、あの時の様子を見てる人が十人いれば十人ともジルさんと同じ反応すると思うよ? 普通じゃないかな」


 「でも」


 まだ何か言いたそうだったから、右の人差し指で唇を抑えてあげる。いや〜これはないわ。向こうでこんなことやってたら恥ずかしくて爆死してしまう! 自然に動いたとは言え、可怪しな行動を取り出している自分に内心引いちゃったよ。


 ……異世界モードってやつか? 一先ず棚上(たなあ)げして考えるのを止めよう。


 「全部を話すことはできないけど、僕は所謂(いわゆる)突然変異的な存在なんだ。だから常識というか規格が合わない部分が多々あるらしい。だからこんな目に遭うのは予想してた事だよ。まぁびっくりはしたけどね」


 「……」


 「最期の一撃は痛かったという記憶がないからこの膝枕で帳消しね。御蔭で後頭部が幸せいっぱいになってる♪」


 そう言ってにこりと笑ってあげると、ジルさんの顔にも笑顔が表れた。異世界モードだろうがなんだろうが、この位置でその顔を見えれるのは役得のなにものでもない。フェミニストでもないんだけど、父親から女性には優しくって言われてきたしな。そんなことも関係してるのかも。頭の中に浮かんでくることを振り払って、眼の前のことに集中することにした。


 もう一息かな?


 「あとは有無を言わさずに試し切りをしてきたことだけど」


 僕の言葉でびくっと体が揺れる。あ~そんなに気にしてるのね。僕の体はそんなに簡単に死なない体になっちゃったから、これくらいじゃ全く問題ないんだけどそれを言うと大変なことになるだろうね。だからこれで許してあげよう。


 「悪いと思ってます?」


 「……」


 僕の質問に項垂れるようにこくりと頷く。それを見上げながら確認して、僕はジルさんの涙を指の腹で拭いてあげるのだった。


 「あ……」


 「じゃあ、この涙で帳消し♪ 綺麗な女の人の涙は惹きつけられるよね。憂いに沈んだ麗人は絵になるけど、それを続けてると周りの人まで憂いてしまうから、これでおしまい。よっと♪」


 勢いをつけて名残惜しい膝枕から頭を(もた)げる。と言うか、上半身を起こして向き直る。うお、意外に顔が近くにあった!?


 「ジルさんは美人さんだから、笑顔が一番よく似合うよ♪ さっきは怖かったけど今は平気。ジルさんがここに来てくれたということは本当は手伝ってくれようとしてた?」


 こくりと頷く。さっきは饒舌(じょうぜつ)だったのにこの変わり様。でも、今の方が好きかな♪


 「そっか。じゃあ、これからよろしくね、ジルさん」


 差し出した右手をジルさんが握り返してくれた。これで仲直りだね。


 「はぃ。宜しくお願い致します。あの、ルイ様?」


 「ん?」


 「先程からギゼラという名前をお聞きするのですが、こちらにはいらっしゃらないのですか?」


 あ、その説明はしっかりしとかないといけないな。レアさんにはサーシャがしてくれてるはずだから問題ないとして。いや、あの説明の仕方だと伝わってるかどうかも怪しいな。ちらっと横目でサーシャを見ると、得意げな表情で狐耳(きつねみみ)がピクピク動いてるのが見えた。


 「あ、ギゼラはね「おおぉぉっきな蛇なんだよ!」……」


 はい、その説明だと分からないね。僕の説明にしっかり被せて(さえぎ)ると両手をブンブンと振り回すように説明する、サーシャ。その動きに合わせてツインテールが踊ってて可愛い。


 「え?」


 当然その説明だと固まるよな。フォローが要る説明なので、その後にさりげなく付け足しておく。


 「あ、うん、来たらわかるけど、彼女は僕たちを襲うことはないから安心してね。と言うか、僕を信じてくれる?」


 「はぃ」


 そう言ってジルさんはにっこり笑ってくれる。うむ。美人さんの笑顔は上目遣いに次いでダメージがでかいな。個人的には嬉しいけどね。と言うか、キャラ変わり過ぎてない!? スーパーメイドさん的な感じだったんだけど。今はしおらしくなってる。


 「あ、おねぇちゃんだよ!」


 サーシャが気が付いて門の方を見る。確認しておくか。


 「ねぇ、サーシャ?」


 「なぁに?」


 「お姉ちゃんにギゼラの事なんて説明したの?」


 「えっとね、フライングジャイアントバイパーのぬしさんだから怒らせると怖いよ? って言っておいたよ」


 そこはまとも過ぎる!? 恐る恐るジルさんの顔を見ると、ぽかーんと口を開けてた。そうだよね。


 「え、ええええっ!? フライングジャイアントバイパーの主!? ルイ様本当ですか!?」


 (つか)みかかってくるジルさん。そんなに揺らさないで~。頷くに頷けないよ~。


 ザザザザッ ザザザザッ ザザザザッ


 良いタイミングでギゼラが帰ってきた。


 「ひゃぁぁぁぁぁぁっ!? 嘘っ!?」


 あまりの大きさにジルさんが尻餅をついてる。また見えちゃいますよ?


 『主殿、今戻ったぞ』


 『おかえり。何か食べれたかい?』


 『うむ。猪が良い感じに群れていたので助かった』


 『間に合って良かったね~』


 そう言って僕はギゼラの首筋を撫でるのだった。そうこうしてるうちにレアさんが合流する。


 「本当にフライングジャイアントバイパーなのだな」


 「魔物(モンスター)が人に懐くのですか?」


 レアさんは呆れて、ジルさんはあたふたしてる。その反応が普通でしょ。レアさんはサーシャと姉妹というだけあって同じ向日葵色の髪だ。その長い髪をポニーテールにしてるのもよく似合う。


 「ルイ様は魔物使い(モンスターティマー)なのですか?」


 ジルさんが質問を重ねてくる。まあ、そう思っても仕方ないよな。


 「ううん、違うよ。ギゼラは家族かな。 1年は一緒に生活してるからね」


 「本当にルイ様は規格外なのですね」


 大蛇を撫でながら紹介している僕をを見ながら、ジルは何か感じてるかのように熱い視線を送ってきてるのが(わか)った。ただ今までそういう視線に馴れてない僕は感じたことのない居心地(いごこち)の悪さを覚えていた。


 『主殿、何を話しているのだ。我にも分かる言葉を使ってくれ』


 『あはは、そうだったね。ごめんごめん。僕の家族だよって紹介してたのさ』


 『~~~~~~~♪』


 僕の言葉にギゼラの尻尾がブンブンを動いている。近くに寄っただけで叩かれて悶絶しそうな早さだ。嬉しい時が大分判りやすくなってきたねぇ。 


 「さてと、街に入る前にこれからのことを話しておこうか。ツインテールフォックスの居場所は掴めてるの?」


 「はぃ。街に戻った足で直ぐにカンゼムの屋敷周辺を調べてみましたところ、それらしき建物を見つけました」


 とジルさん。う~ん、確証に欠けるね。


 「その家令さんの別荘とかはないの?」


 「辺境生活しつつ伯爵家の使用人の長ぐらいでは、自宅を持つのがやっとなのです。別荘などとてもとても」


 ジルさんの説明は(もっと)もだ。レアさんもサーシャも基本人間の生活には(うと)いだろうから、この手の話に加わろうとしない。ギゼラは言葉が解らないのでちょっとイライラしてる感じが伝わって来るから、落ち着けるように顎の辺りを撫でてやる。


 「どうせこの間の件で、家令さんは首刎くびはねられちゃうんでしょうし。直接聞いて見ればいいんじゃないかな?」


 「それが、私たちが帰還した足で家令の足取りを探したのですが、逃げられた後でした」


 申し訳なさそうにジルさんが(うつ)く。なる程。計画を立てた時点でどうにでもなるように身を隠してたということか。街に潜んで逃げる機会を覗ってるのか、遠くに逃げたかのどちらかだろう。


 「うん、でも屋敷にはまだ何か痕跡(こんせき)があるかもしれないでしょ? 取り敢えず調べてみない?」


 「そうだな。少しでも手掛かりが欲しいところだ」


 僕の提案にレアが同意してくれたので、ジルさんに頷いてみせる。


 「分かりました。それでギゼラさんですが、そのまま門を通ることはできませんどうされますか?」


 「そうだね~。ギゼラが居ると助かるから、出来れば一緒に行きたいんだよね」


 ジルにギゼラの方を見ながら尋ねられたから、僕もギゼラを見上げながら答える。これで自分のことを話してると察してくれるだろう。微笑みながらギゼラの首筋を叩いてあげる。


 『頼りにしてるからね』


 『主殿、お任せ下さい』


 「では、街壁を飛び越えて入りましょう。家令の家がある側まで街の外を移動して安全を確保した上で入るという段取りでいかがですか?」


 「うん、それが無難だね。組み合わせは、ジルさんとレアさんが中。僕たちがレアさんの合図で一緒に中に入るようにするね」


 ジルさんの提案に僕は(うなず)く。壁の内側にレアさんが移動するまでしばらくはそのまま待機だ。ジルさんとレアさんは行動を起こすために門の方へ走っている。門の内側に馬を留めていると言ってたから、そんなに待つ必要もないだろうね。


 10分後レアさんからサーシャに連絡が来た。西に位置する街を右回りに回り込んだところに居るらしい。ギゼラに跨って、サーシャを僕の前に座らせる。これまでの旅の形だ。


 『ギゼラお願い。右割りに移動して』


 『承知』


 『サーシャ? 中に入ったらなるだけ一人にならないでギゼラと一緒にいてね。何がるかわからないから』


 『ん? うん、分かった』


 ギゼラに任せておいて、サーシャに注意しておく。不測の事態はいつでも起きうるからね。なるだけ減らせるに越したことはない。僕の事故死はまさに予想外だったわけだけど、できれはそんな事態は避けたいからね。


 5分も移動すると、目的の位置に辿(たど)り着いた。ギゼラの移動能力が優秀なおかげだ。(ゆる)蜷局(とぐろ)を巻いて街の中に飛び込む。中で待ってた二人の顔が予想通り引き()ってたので笑ったら、怒られてしまった。


 眼の前には大きな屋敷が闇の中で(たたず)んでいる。明かりは1つも(とも)っていない。輪郭(りんかく)がぼやけ細部は見えないけどそれなりの屋敷であることは分かる。エリザベスさんの古城に比べればまだまだ小さいけどね。


 『ギゼラお願い。地中に熱反応があるか調べてもらえる?』


 『お任せ下さい』


 蛇にはピット器官っていう赤外線感知器官があるんだ。それがユニークスキルの【温度感知】というスキルとして現れてるんだろうけど、こういう時は闇雲に探すよりも、ギゼラに任せる方が確実だよな。


 「はぁ~本当にルイ様はギゼラさんと意思を通わせてるのですね。……普通の感覚であれば斬りかかってるところなんでしょうけど。ルイ様といると調子が狂ってしまいますわ」


 「え? 何か言った?」


 「いいえ、何も!」


 ギゼラとの遣り取りを褒めてくれた後、何か聞こえた気がしたのでジルさんに問い返したら凄い勢いで否定された。そんなにかたくなに否定しなくても……。


 「そっか、今地下に隠れべやがないか調べてもらってるから、少し待ってね」


 「そんなことまで」


 「流石はジャイアントバイパー族だな」


 僕の言葉にジルさんとレアさんは驚きの色を隠せない。


 『主殿、屋敷を右に回ったあたりの地中に複数の熱源があるぞ』


 『ありがとう、助かるよ♪』


 『これくらいは呼吸と同じだ』


 ギゼラに礼を言いながら首筋を撫でてあげる。


 「屋敷を右に回った辺りに何かあるみたい。行ってみよう」


 其処(そこ)にあったのは小さな(まき)用の置き小屋だった。だけどギゼラは地下があると言ったよね。


 「【鑑定アプリーズ】」


 頭の中で呪文を唱えてみる。うん、問題ないみたい。小屋の中に誰か潜んでるわけでもなさそうだ。地下に通じる扉が床にあると【鑑定】の表示が現れた。


 「見つけた」


 「「えっ!?」」


 「この小屋の地下に何かあるよ」『ギゼラは入れないから、ここでサーシャを守ってあげてね』


 『畏まりました』


 「【闇の外套(ダークプロテクション)】、【闇の外套(ダークプロテクション)】」


 サーシャとギゼラに念のため闇属性の防御を掛けておく。


 「ふぇ~わたしのと強度が全然違うよ」


 サーシャが驚いて体に触れている。そうかな? まあ他の人と比較する機会がなかったからそう言われてもいまいちぴんとこないんだけどね。


 「これ程とは」


 レアさんも驚いている処を見ると、そうなんだろうな。ははは……。


 「わ、私はもう驚きません! …………ルイ様は規格外な方なのですから」


 三人三様に驚いているのを余所に、僕はすたすたと小屋の中に入ってみることにした。ジルさんが何か言ってた気がしたけど離れてしまったせいではっきり聞き取れなかったよ。今までのことを考えると悪口ではないとは思うんだけどね。


 さて、鬼が出るかじゃが出るか、だな。


 がこっ


 地下へ通じる隠し扉を持ち上げて開け放つ。ぷんっとアンモニア臭と獣臭が鼻腔に刺さり思わず鼻を(しか)めた。生身の時は5感があるから臭うんだよ。


 ーークサイ。


 その臭いを掻き分けて薄暗い地下室に降りたんだけど……。


 そこにあったのは直径50cm程度の複数の円筒形の試験管の中で薄紫色に淡く発光する液体に浮かぶ、何匹ものツインテールフォックスの姿だったーーーー。







 

最後まで読んで下さりありがとうございました。

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