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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第四幕 剣王
167/220

第151話 三つ巴

遅くなり申し訳ありません。

お待たせしました。まったりお楽しみください。


※2017/2/23:本文加筆修正しました。

 2017/11/4:本文段落調整しました。

 

 「ん? 何処だここ?」


 僕は真っ暗な闇の中で意識を取り戻した。


 ハッキリしてくる意識に合わせて意識を失うまでの出来事を振り返ってみた。指先から全身に広がってくる黄金色(こがねいろ)の光に合わせて全身が激痛に襲われ、自己防衛で意識を失ったとこまで覚えてる。


 何か変なことが聞こえてた気がしたけど、ゲームのようにログが残っているわけでもなし、気にしないことにした。とは言うものの暗闇で胡座(あぐら)を組んで、腕組みしつつ首を(かし)げてる姿も何気にシュールだよな。


 このまま動いて変なことこに(はま)り込んでも嫌だから、落ち着くことにした。ゆっくり呼吸しながら【気配察知】や【魔力感知】のアンテナに意識を向ける。


 「ん〜、何だろ。【気配察知】や【魔力感知】を広げるイメージが何だかしっくり来ないんだよな。薄く引き伸ばしたレジャーシートみたいな感じじゃなくてもっと違ったイメージ出来ないかな……」


 感度が悪い。と言いたくなるもののそれはアンテナの精度の問題だ。漠然としたイメージじゃ、必要なものだけというよりも必要のないものまで拾ってるから確定までにタイムラグができちゃうんだよな。でもその一瞬が命取りになる事もあるんだから、精度は必要だ。二次元の平面視じゃなくって、三次元の立体視が可能になるようなアンテナが要る。


 【気配察知】は変化のしようがない。僕人身のアンテナの感度を上げるだけだから修練あるのみだ。変えれるとすれば【魔力感知】。どう変える?


 「う〜ん、獲物を捕る上で一番理にかなった形は網だよな。それも蜘蛛の巣だ。円網(えんもう)みたいに平面的なものだと上下のアンテナがない。上下のアンテナもあって、自分を中心にした網の形といえば……。女郎蜘蛛(ジョロウグモ)の巣か」


 ジョロウグモは新潟でよく見た蜘蛛だ。町工場が田舎にあったというのもあるけど、自然の多い町で生活出来てたのが役立ってるな。初めて見た時は驚いたけど、よく観察してみたらかなり凄いなって感心した記憶がある。100%の再現率なんて無理だろう。でもそれに似た感じは出せるはずだ。


 ジョロウグモの様な閃きはないから形をイメージする。そうだな。五角錐(ごかくすい)とかどうだ? 頭の中で図形をイメージしてみる。うん、悪くない。でもそれだと自分の居る場所と上だけになりそうだな。くっつける? え〜確かねじれ双五角錐(そうごかくすい)みたいな名前だった気がするぞ。


 そもそも自然界のデザインは左右対称というものばかりじゃないから、こういうのも良いかもな。これなら上下左右カバーできる。魔力操作のレベルも最大だから問題はないはず。主には魔力を棒のように伸ばして立体図形を描くように骨組みだけ用意する感じだ。


 五角錐の底辺同士をくっつけてーー。


 五角の長辺をそれぞれ調整してーー。


 どの面でも大きさは違うけど凧形(たこがた)になるようにーー。


 後は僕の足元に円網を作ってーー。


 それ以外に円網へ繋がるような縦糸を縦横無尽に張り巡らせればーー。


 《魔力感知が魔力感知結界へと昇華します》


 《魔力感知結界を修得しました》


 ーーとなる。


 「いやいやいや、ならないでしょ!? は? 結界? いや、まあ結界って言われれば結界だけど、スキルにまで反映しなくても良いんじゃ……ん? え? 地下?」


 結界を張ることが出来たお蔭で現状がどうなってるのか見えて来た。なんとまあ、どうやら僕は意識を失った後、落下してそのまま地中深くに居るらしい。そりゃそうだよな、物理的なものをすり抜ける体質なんだから、地面で止まれるはずないよな。


 頭上の方に動物の群れのような大勢が動く気配があるから、そのまま浮上すれば問題ないはず。結界を維持したまま魔力を(まと)い、そのまま発射台から撃ち出されるロケットよろしく一気に地表へ、地表から空へ飛び出す!


 「これは気持ち良いな! よし! 何やら体が薄っすら金色に光ってる気もするけど、まずは遅れを取り戻す!」


 細かいことを気にしたら負けだ、という気がしたので体のことはスルーだ。落ち着いてから見てもいいだろう。【鑑定】そのものも封じられて使えないしな。方向はーーーーこっちか。


 上空で一旦停止し、ナハトアの居る方向を確認して僕は再び飛び始めた。半透明な体が更に薄く引き伸ばされたんじゃ!? と思えるような加速が掛かり僕はキラリと星になる。漫画ならバシュンとかバヒュンとかよく分からないけど効果音が突きそうな感じだ。


 「うえっ!? 何だこの速さ!?」


 在り得ないほどの速さで南に飛び去る僕の脳内に無機質なアナウンスが再び響いていたーー。


 《王闘術・魔纏秘技:飛翔(ひしょう)が王闘術・魔纏秘技:天翔(あまがけ)へ昇華ます》


 《王闘術・魔纏秘技:天翔を修得しました》




             ◇




 同刻。


 地下室を白く覆い尽くした光が消え去った後、ホノカとナディアは淡白く発光する半透明の体を揺らしながら言葉を失っていた。


 …… ーーーー ……


 5つ並んだガラス製の円筒型水槽。その真ん中に入ったミスラーロフの変化に瞠目どうもくしていたのだ。


 下半身が蛇になり、上半身が獣毛に覆われた猿魔族(えんまぞく)の姿に変わっていたのだ。元々悪魔族であった名残りだろうか、羚羊(カモシカ)を連想させる握り拳大(こぶしだい)の角が、頭頂部付近から左右に1本ずつ後ろ向きに生え出ている。人ととしての(てい)をなしてないのだ。


 「こぽっ」


 魔獣と化したミスラーロフの口から気泡が漏れ出る。ゆっくりと4つの眼(・・・・)を開けた彼には世界が変わって見えた。(おもむ)ろに右手を伸ばすと、ガラス製の水槽が容易(たやす)く砕け散り、中の薄紫の液体と共に地下室内へ飛び散る。


 ズルリと水槽であった場所から這い出すミスラーロフ。立ち上る魔力は以前とは比べ物にならないほど強大で、契約(・・・・)で身の安全が守られていると解っているホノカとナディアでさえ(おのの)かずにはいられなかった。


 「素晴らしいーー」


 それがミスラーロフの第一声だ。それだけで空気が振動する。


 …… ミスラーロフ、答えてもらうわよ? ……


 「おや? 何をでしょう?」


 珍しくホノカだけが言葉を発した。


 …… 姉さんを何処に連れていったかよ。調べはついてる。あとは ……


 「ああ、あのゴミですか」


 …… なっ!? っ!? ……


 ホノカの言葉を最後まで聞かずにミスラーロフは言葉を被せる。全く感情を載せずに淡々と。その言葉に2人が気色ばむのも無理からぬことだろう。


 「もともと貴女を組織に縛り付けておくためのお飾りでしたからね。さっさと実験に付き合ってもらいましたよ。ええ、とても貴重な実験体でした」


 …… 何を言ってーーまさかっ!? ……


 「ええ、お察しの通りです。狂魔の角(・・・・・・・)から取り出した素体を使った例の実験の完成は、貴女の姉上のお陰ですよ」


 …… そんな! ミスラーロフ〜 ……


 ナディアのトーンが下がる。生前ルイと対峙した時を彷彿(ほうふつ)とさせる圧力が彼女から放たれるも、ミスラーロフは何処吹く風だ。


 「無駄です。どうせ我々はお互いに傷つけ合うことすら出来ないのですから。ククククク。そんな貴女がが知りたいのは姉上の行方でしょう?」


 …… !!? ……


 そんなにあっさりと口を割るとは思っていなかった2人の表情が驚きに(いろど)られる。


 「女狐が有効利用すると(のたわ)ってさっさと持ち去りましたよ。子飼いの角なし竜に運ばせてましたね。ですから、ここにはありません。あるのはわたしの研究の記録だけですよ」


 …… そんなーー。 大丈夫よ〜。有効利用すると言ったのならまだ生きてるわ〜。あの女はそういう奴よ〜 ……


 「さて、この場を壊すわけには行きませんから侵入できないようにします。このまま留守を頼んでも?」


 …… 冗談でしょ? 契約には縛られてるけど〜、あんたに義理立てる気はないわ〜 ……


 ホノカとナディアはチラリとカリナたちに目配せして天井に吸い込まれていくのだった。それを見送るとミスラーロフは肩を(すく)めて地下室を後にする。ズルズルと蛇腹を動かして移動するその姿はあまりに醜く、いびつさをまとっていたーー。




             ◇




 同刻。


 魔王領南王宮の通路を歩く3人の男女の姿があった。


 2人の女はエルフだ。特徴のある長く尖った耳が雄弁に物語っている。1人は白肌。もう1人は黒褐色の肌をしたダークエルフ。エルフの方は魔術師のような外套(ローブ)を纏い、右手に拳大(こぶしだい)の宝石をあしらった杖を持っている。ダークエルフの方は軽装備だ。胸当て、腰ベルト、ブーツに革の籠手(こて)。腰ベルトに挿してるのは2本の奇形剣(クノペシュ)だ。


 もう1人は豪奢な服を身に着けた大柄な男。エルフの女たちよりも手の幅1つ半は背丈がある。背中に巨大な鎌剣(ハルパー)を背負っている。そのための革ベルトを右襷掛(みぎたすきが)けにしていた。革ベルトは意匠の凝らしてある胸当ての上からだ。籠手も脛当てもしてるが、手首から先、足首から先は覆いはない。そういう仕様なのだろう。腰ベルトには左右に1本ずつナックルガードの付いた厚めの両刃剣(ブロードソード)が見える。


 一見すると長剣(ロングソード)見紛(みまが)うが、ブロードソードの特徴は斬る事を主体としているので切先が尖っていない。突きの要素を排除しているゆえに、剣先が半円だったり、剣先が朝顔(フレアー)状に広がっていたりする事が多いのだ。そうなると必然的に鞘が先端に合わせて幅びろになる。(おおよ)その見分け方と言えるだろう。


 「ナハトア様、本当に先程の亡霊(レブナント)たちは大丈夫のでしょうか?」


 エルフの女がダークエルフに確認を取る。レブナントの話が出ているということは、彼らの前でナハトアがホノカとナディアを召喚したのだろう。ただ、その聞き方に棘を感じたナハトアは不機嫌そうに眉間に(しわ)を寄せるのだった。


 「何よ? わたしのやることが信用できなって訳?」


 「い、いえ、そういう訳ではありません」


 「じゃあどういう訳だっていうの?」


 慌ててエルフの女が取り繕おうとするものの、取り付く島もない。それを見かねた男がエルフの女の肩に腕を回しながら(かば)うのだった。


 「そう言ってくれるな。ヘルトラウダも悪気があって言ってるのではない。死霊魔術師(ネクロマンサー)自体見ることがないのだ。魔王領では不死族(アンデッド)共を使役する様子など御伽話(おとぎばなし)でしか聞かぬ」


 「まあ、珍しい職というのは間違ってはいないわね。でも、ヘルトラウダはエルフでしょう? シムレム出身なら珍しくない」


 「いえ、わたしはハグレ(ざと)の出なのでシムレムには入れないのです」


 ナハトアは肩をすくめながら不機嫌なまま反論するも、ヘルトラウダにさえぎられてしまう。彼女の言葉に不機嫌さが消え、申し訳無さそうな表情へと変化するナハトアは、少し間を置いて謝るのだった。


 「……それは、ごめんなさい」


 「いえ、良いのです。隠すつもりはありませんでしたし、ハグレに居たのは祖父の代からですから」


 エルフのハグレ里。


 それは何らかの理由でエルフたちの国があるシムレムから外洋に追放された者たちの集まった里だ。多くは罪を犯したことに起因するものの、特殊な例もあるという。そしてハグレ里はシムレム以外の大陸の秘境で小さな聚落コミュニティーを形成して子孫を繋いでいく。追放されたという背景があるゆえに、排他的な性質に凝り固まることが多いとされる。


 ナハトアはシムレムに帰れる身だが、追放された者の子孫はシムレムには帰れない。何かしらの力が働いているのだという。シムレム風に言えば罪を子や孫が受け継ぐゆえに“咎負(とがお)い”になるのだとか。その背景をよく知っているナハトアは彼女にびたのだ。


 そこへ進行方向から騎士を思わせる装備に身を包んだ男が、ガシャガシャと鎧を響かせながら駆け寄って来ると、男の前にひざまずき無く報告する。


 「申し上げます! 南王宮上空に“けがれ”を放つ黒雲が垂れ込め始めました!」




             ◇




 同刻。


 ミスラーロフはおのが研究の為に集めた魔物たちを始末し終えると、駆け付けた南王宮の警備のために点在する兵士たちに手を掛け始めるのだった。


 ミスラーロフの居る場所は南王宮の中でも西宮せいぐう場所だ。


 南王宮は槍穂先やりほさきの十字形に似ており、槍の柄側に当たる部分が南向きだ。北に向かって伸びているのが南王宮への入り口を兼ねている階段井戸といえばいいだろう。単純な説明だが、そういうイメージで地下宮殿が広がっている。


 この男が向かっているのはおのあるじである魔王の元だ。いや、すでに主だったと言い換えたほうが良いだろう。ミスラーロフの行おうとしていることは八虐はちぎゃくの大罪にある謀反むへんなのだから。だが、このまま行けば更なる罪を重ねることになるだろう。


 素よりそのつもりで行動を起こしているミスラーロフに躊躇ためらいは一欠片もなかった。ゆえに立ちはだかる兵たちを物言わぬ肉塊に変える作業を淡々とこなしながら、進んでいたのだ。


 「何だあの魔物は!?」


 「矢が刺さりません!!」


 「我々では傷も付けれないというのか!?」


 「陛下に報告を!」


 「ミスラーロフ様御乱心!!」


 「く、来るな! う、うわぁぁぁあーーっ!!」


 「ギャアアァァァァァ――――ッ!!」


 風切り音と共に数十本という矢の雨が変化へんげしたミスラーロフに降り注ぐが、猿の剛毛と蛇の鱗によってことごとく弾かれる。遠距離からの牽制の合間に短槍を手にした兵士たちが取り囲むように一斉に槍を突き出すが、どれも傷を付けるまでに至らなかった。


 兵士たちは皆魔族であり、人族や獣人族と比べても能力が高いにもかかわらずーーだ。悲壮感を漂わせながら叫ぶことしか出来ないというのもうなずける。刃が弾かれたことに驚く兵士たちの隙を縫って大きな手で兵士たちを掴み、引き千切り、爪で切り裂き、尾で弾き飛ばして血河の上を悠然を進んでゆくミスラーロフ。次の瞬間ーー。


 ドガーーーーーーーーーンッ!!!


 そんな恐るべき魔物と化した男の頭上で天井が激しく瓦解し、ミスラーロフは爆発共に降り注いで来た大量の瓦礫と土砂に押しつぶされたのだった。


 「何だっ!?」「何が起きた!?」「天井が崩落したぞ!?」「魔法攻撃か!」「西宮せいぐうへの通路が断たれたぞぉーー!! 避難が先だ!」「陛下に報告を!!」


 至る所で怒号が飛び交い、兵たちが慌ただしく駆けまわる。土煙が吹き下ろされる(・・・・・・・)風で払われると、そこに居合わせた者たちはただ唖然と口を開いて見上げていた。


 崩れた天井から蒼天が顔を覗かせていたのだ。


 「「「「「「「「「「ッ!!!!!!」」」」」」」」」」


 ゾクリッ


 そこに居た者たちの背筋に悪寒が走り、肌が粟立あわだつ。普通に生活していては感じることのないであろうおぞましい雰囲気が辺りを満たし始めたのだ。先程まで暴力の嵐を振るっていたミスラーロフからは感じることのなかった寒気のせいで、誰かが身震みぶるいをする。


 ガラガラ


 未だ崩落の危険が去った訳ではない天井の穴から石が落ちて転がってゆく。しかし、視線を穴から離せない。まるで吸い付けられるかのように見てしまうのだ。


 その視線の先に人影が現れる。


 「ヒッ」


 その人影と視線が合った兵士の1人が短い悲鳴とも呻きとも取れない声を発して気を失い、床に倒れた。


 「懐かしい同族の気配を感じて寄り道したが、どうやら気の所為であったようじゃの」


 艶のある女声だが、誰1人として欲情することはなかった。その姿が現れた時点から更に悪寒を強く感じるようになって来たのだ。ある者は気を失って先ほどの兵士のように倒れ、ある者はその無言の圧力に耐え切れずにその場で吐き、ある者は腰を抜かしたまま後ずさりその場から少しでも遠ざかろうとしていた。


 「ーーっ!」


 その女声に呼応するかのように瓦礫がれきの下から声が漏れ出る。恐らくミスラーロフであろう。天井崩落を直撃しながらも生き長らえているということだ。恐るべき生命力と言える。


 「ほう。面白い気配じゃの。蛇とも猿とも取れぬ。いや、他のものも混ざって居るのか……」


 「ガアアァァァァァッ!!!」


 瓦礫の山が咆哮と共に弾け飛ぶ。


 何とミスラーロフは無傷で姿を現したではないか。如何にその体の硬さが優れているかが分かる。弾き飛ばされた岩石で兵士たちが体の一部を吹き飛ばされ絶命しているが、ミスラーロフにとって些細なことだ。一瞥いちべつもすること無く、憤怒と喜悦が入り混じったような表情を猿面に浮かべて見上げている。


 「ーー猿と蛇の体が合わさっておるじゃと? 待て、その体は……」


 「やってくれましたね。これだけ強い“けがれ”をまとっている者に出遭うのは初めてですよ」


 「その体、蛇女ラミアではない。蛇王女ナーガの体じゃな。何故雄猿(オスざる)がその体を持つのじゃ?」


 人影の背後でゆらりと細長くしなやかなものが揺れる。


 「フハハハハハ。その違いに気づくとは素晴らしい。嘸高名さぞこうめい不死者アンデッドだとお見受けする」


 「ーーゾフィー?」


 「おお! その名を知っているとは僥倖ぎょうこう! わたしの為に生贄になってもらったナーガの女がそんな名でしたよ! アンデッドとは言え力を持つ魔物はわたしの更なる力になるでしょう。わたしの糧になりなさい!」「【石礫ストーンバレット】」「ヘブシィッ!?」


 猿顔で叫ぶミスラーロフの顔に顔を覆い隠せるほどの大きさをした岩が減り込み、吹き飛ばす。本来、【石礫ストーンバレット】という魔法は大きくても子どもの拳大こぶしだい程度の石を飛ばす土属性魔法だ。それがこのような大きさで顕現することなどまずありえな現象であった。


 「【嵒石の投槍(ストーンジャベリン)】」


 「ま、待ち、グアアアァァァァァッ!!」


 間髪入れずに石で出来た短槍が吹き飛ばされたミスラーロフの体に降り注ぐ。頭上からの攻撃に対処す暇さえ与えられずに、ミスラーロフの体に次々と突き刺さり針山のような様相を呈するが、容赦はされなかった。


 「【落石ロックフォール】」


 ミスラーロフの頭上にある崩れていない天井がゆっくりと(たわ)み始め水滴が落ちるかのように巨大な岩をこぼしたではないか!


 「ーーーーーーッ!!?」


 声にならない叫びが通路に響くが直後に落とされた巨岩の質量が宮中を揺らす。2人の争いに巻き込まれまいとはるか遠くから見守っていた者たちにとって、言葉にならない状況の連続であり、目の前で起きている出来事がはたして現実なのかどうかさえ覚束無おぼつかない状態に陥っていた。


 しかし静寂を切り裂くように通り抜けた男声に兵士たちの心が奮い立つことになる。


 「何だ今の音は!!」「おお、陛下!!」「陛下がいらしてくださった!!」


 2本の両刃剣ブロードソードを手にした金糸雀色カナリアいろの髪の男が2人の美女を伴って現れたのだ。大柄な男の双眸そうぼうに光る深緋色こひきいろの瞳に怒りの色が浮かんでいる。


 「この“けがれ”。ーー屍ノリッチが居る!?」


 美女の1人、黒褐色の肌をした白髪の髪をなびかかせるダークエルフの女が驚いた声を上げて立ち止まる。その言葉に男ともう1人のエリフの美女がダークエルフの顔を見返すのだった。


 「何!? リッチだと!?」「え!?」


 「む、この薫りはーー」


 「ガアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 だが状況は刻一刻と変わる。突如、大岩の下敷きになっていたミスラーロフが血塗れになりながらも岩を砕き巨大な(かいな)を振り回しながら姿を現したのだ。先程の魔法によるダメージは深刻でなないものの、十分あったように見受けられる。


 「何だあのバケモノは!?」


 「陛下! あの上半身、猿魔族です!」


 男の叫びに隣りに立つエルフの美女が指摘する。合わせてダークエルフも。


 「ミスラーロフ!」


 「何!?」


 2人の美女から一転、男は魔物化したミスラーロフに視線を戻すのだった。


 「これはこれは、魔王陛下。良い所に。陛下の御蔭で斯様かように素晴らしい力を手に入れることが出来ましたぞ。猿魔族の血は稀少と言われているもの納得です」


 「貴様!!」


 ミスラーロフの言葉に大柄の男、魔王ガウディーノ・ド・リーラシュヴェーアトが激昂げきこうする。だが頭上から殺気と共に水を差す女声が響く。


 「待て、其奴そやつは妾の獲物じゃ。横からしゃしゃり出て邪魔をするでない、小童こわっぱ


 「え!? この声ーー」


 三者三様の怒気と殺気が渦巻く戦場の中で、ダークエルフの女は声の主を見ようと紺色の瞳が揺らぐ眼を細める。その行動に合わせてなのか、彼女の左腕にはまっている黒い金属の腕輪ブレスレットが誰に気付かれること無く、淡黒い光をほのかに纏っていたーー。







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