第149話 変化の兆し
遅くなりました。
まったりお楽しみください。
※2017/2/16:本文加筆修正しました。
2017/6/28:本文加筆修正しました。
2017/11/4:本文段落調整し、本文加筆しました。
2018/10/2:ステータス表記修正しました。
パリィィィィィィィーーーーーーン!!
その音はちょうど静寂に包まれた密室の中で割れたガラスの様な音だった。
何処で鳴ったのか判らない音だったけど、僕の意識を現実に引き戻すには十分過ぎる程澄んでいて、心奪われるような余韻をもたせる残響音だ。
意識が戻って来たお蔭で、頭の中に流れているアナウンスの言葉を捉えることが出来るようになったみたい。耳を澄ませて聞いてみると思わず頬が引き攣ってしまった。
《王氣を修得しました》
《闘術レベルがMaxであることを確認しました。これにより闘術の封印が解かれ王闘術へ昇華します》
《王闘術を修得しました》
《王闘術・王威を修得しました》
「どうなってるんだ……?」
冷静になってきたものの状況把握が出来ていない現状に変化はない。
まさに我を忘れて殺戮、もといい殲滅行為に及んでいたんだ。
眼下に広がる屍山血河を眼にして自分がしでかしてしまったことの大きさに引いてしまったよ。やり過ぎたなって思ったもん。それにーー。
右肩の斜め上の方でふわふわと浮かんでいる七色に燦く魔石らしき鉱物も気になる。
大きさは僕の胸の中にあるものと同じくらいの大きさだ。
何だこれ?
僕に付き纏っているのは間違いなさそうだけど、いつからここにあるんだ? そう思ってつんと指先で押してみた。
《体外魔石精製中です。どうされますか? 中断する / 完了する / 解除する》
「は? 体外魔石精製? えっとこれは何? 魔物たちが腹の中に抱えている魔石と同じものなの?」
気になる事だらけだけど、【鑑定】が使えない今は詳細がわからない。取り敢えず腰の砂寄せの鈴を外してアイテムボックスに放り投げる。これでモンスターたちがわんさか出ることもないはず。落ち着いてどうするか考えよう。
「このままここに浮かせておいてもね。ここまで育って『解除』はないよな。折角だから『完了』で」
《体外魔石精製を完了します。魔石を利用しますか? はい / いいえ》
「おっと、今は使わないほうが良い気がする。だから、『いいえ』だな」
いいえを選ぶとふわふわと浮かんでいた魔石が僕の眼の前に移動してきてぽとっと浮力を失う。慌てて手に乗せてアイテムボックスへ納めるのだった。
魔纏は呼吸をするような感覚で自然と出来てるみたい。この状態が苦にならないというのは自分のものに出来たってことだろう。
「それにしても随分でかいのが混じってるなーー」
そう言いながら視線を再び砂漠に向ける。今はあれからどれくらいの時間が経ったのか判らないけど、朝陽が昇り始めた頃だ。さあっと音もなく伸びてくる陽射しに照らし出されて、モンスターたちと砂漠の様子が明らかになって来たよ。うへっ。
ーーーー死屍累々《ししるいるい》。
まさにこの言葉にぴったりな状況だ。大小様々なモンスターの死体が所狭しと並んでる?
折り重なってると言ったほうが良いのか。砂漠は砂というよりも泥沼と言った方が良いような状態だ。モンスターの体液や血液が混ざってどす黒く変色してる。きっと臭いも相当だろうね。今の僕は匂えない体だから問題ないけど。
そう言えばと思い出す。蟻地獄が何個か出来てた記憶があるけど、何処を見てもそれらしきものは見当たらない。
「ーーあ〜食べきれないくらいの量だってことか。ははは……」
乾いた笑いが自然に出てた。まぁ、生ごみの不法投棄に近いもんな。自然に還るからそれで良いのかとも思うんだけど、魔石はどうにかした方がいい気がする。生きてればアイテムボックスは収納できないけど、放置された物としての扱いなら、シンシアの時見たいに収納できるんじゃないか?
「モノは試しだ」
アイテムボックスをスタンバイして魔石に意識を向ける。竜骨や財宝を収納するときも似たような感じで出来たから、多分この方法でいけるはず。
結果は成功だ。何て言うか、朝陽に照らされたサイズや形が異なる数えきれない程の魔石がシャワーの巻き戻しのようにアイテムボックスへ飛び込んで来たよ。思いがけない絶景を見た気がしたね。すごい綺麗だった。で、アイテムボックスの表示を見たらーー。
「ぶっ! に……2,183個ぉっ!?」
とんでもない数が収納されてた。ははは……。
「よくもまあこれだけ……。というか何日掛けてこれだけ殺しまくったんだ?」
落ち着いて考え……いや思い出すが正しいな。記憶を遡ってみることにした。
状況証拠は、あの時は一夜明けた後から砂寄せの鈴を着けたんだ。今は夜明け。これで最低でも丸1日は過ぎてる事になる。夜の襲撃から数えれば1日半だな。
ということは10日引く1日半で、残る8日半。
「それはないな。希望的観測というよりも願望が都合良く顔出してる。状況分析だ」
1人突っ込みをしながら頭を振って再考することにした。魔纏が出来るようになったのはほぼ夜だ。そこから一晩で2,000匹を越えるモンスターを倒すためにはどれだけの時間がかかる?
1匹1秒で殺せば12時間で理論上43,200匹は屠れる。
「これもないな。手の届かないモンスターを吸引する力はない。一度に覆いかぶさって来れるとしても僕の体に対してなら数匹だ。魔力の刃が100mも伸びて一回ぐるんと回転すれば真っ二つではい終わり、なんてどれだけ夢見てるんだよ」
1匹あたり30秒だとすると、1440匹。モンスターの大きさもまちまちだからこの計算が可怪しいのは判る。特にここに転がってる成竜クラス並の大きさを誇るモンスターたちの死体には何十箇所も傷がある。つまり一薙で殺せていないという証拠だ。
「とう言うことは、少なく見積もって丸2日、多く見積もって丸3日ーー。単純に引き算すると残り6日半。いや最悪を考えて、残り5日として行動した方が良さそうだな」
残念なことに僕のメニューには時間を表示できても暦はない。だから時差調整は勝手にしてくれるものの日にちの経過がわからないんだよな。こういう時は特に困る。それでもーー。
「僕の飛行速度なら距離的に問題ないかな」
安心は出来ないけど、心の余裕が生まれてるのは確かだ。僕の飛行速度は凡そ時速60キロだと考えている。
速度計はないけど、一度コレットの召喚した輓曵馬の様に大きな体をした吸血鬼馬と素の状態で駆け比べをしたら同じくらいだったんだよ。コレットの話だと、ダンピールホースと騎士たちが乗る馬は体格は違えど同じくらいの速さで走れるらしい。
で、馬は平均して時速50キロ前後らしいから、疲れ知らずの僕はそれくらいで飛べるという訳さ。
今居る場所を考えても、休まず3日3晩飛べば問題ないはず。それにーー。
「あの何かが割れる音はきっと結界が割れた音だ。上に行ってもぶつかる気配がない。後はーーこの死体の処理だな」
10mを越えるサンドワーム、砂蠍、デザートヴァイパー、砂鮫の死体が何十匹も転がってるんだ。こいつらから抜き出した魔石はかなり大きかった。それだけレベルも高く長く生きてきたんだろうなと思う。けど死んでしまえば食料だ。
サンドワームは食べれるところがなく外皮が加工品になる。砂蠍とデザートヴァイパー、砂鮫は食材にも加工素材にもなるとラドバウトのおっさんが教えてくれた。砂鮫はフカヒレだろうと思ったらヒレは捨てるらしい。もったいない。
「軒並み全部収納出来なくな無いだろうけど、大きいのだけ収めておくか。それから移動だ」
この体だと食べる機会はないんだけど、エレクタニアに帰ってからでも食べれるだろう。
そう思い直して少しだけ回収しておくことにした。後の死体は放置する。蟻地獄が復活して処理してくれるかも知れないし、腐肉が砂と混ざって土壌を形成して林が出来るかも知れない。まあ、水が近くにないからその望みは薄いだろうけど。
15分後。目星い死体を回収し終えた僕は、太陽の位置を確認して魔力を身に纏ったまま南へ飛び出した。基礎レベルが上がった所為なのか、今まで以上に眷属の居る方向を感じやすくなったんだ。ナハトアは南に居る。
ぐっと体に力を込めると推進する力が増した気がしたーー。
《王闘術・魔纏秘技:飛翔を修得しました》
「おいっ!? 自重しろっ!!」
◇
同刻。
今わたしは魔王領、南王宮に居ると侍女から聞いた。ここに運び込まれてから3日半が過ぎたらしい。
担ぎ込まれたのは夜で、夜が明けるまでそのまま寝ていたーーううん、気絶していた。それから2日は半狂乱状態で泣き叫んでいた記憶がある。今となっては恥ずかしい。
ぱちゃ
大きな浴場の湯船に胸まで浸かっているわたしは、肩にお湯を手尺で掛ける。ふぅ〜良いお湯。旅を続けているとお風呂なんて入る機会が滅多に無い。拉致されているという点を除けば快適な場所だ。自由にさせているということは何かしらわたしに利用価値があると思ったからこそなのだろう。
「喉元を喰い千切ってやるわ」
浴場の高い天井を睨みつけながら呟いたわたしの独り言が聞こえたのか、後ろで控える侍女がビクッとしていた。
良いのよ、あなたは悪くないんだから何もするつもりはないわ。ルイ様を切り刻んだあの男と、カリナたちを連れ去ったあのミスラ―ロフという男は許さない。
でも不思議と心が落ち着いているのは、ルイ様の存在をより強く感じることが出来るようになったから。あの男に殺されてしまったかと思ったけど、そうじゃなかった。
昨夜辺りからわたしの中で力が溢れて来てる気がする。それにーー。
「来なさい、彷徨い続ける物言えぬ霊よ。汝が苦しみを我に示しなさい。【召霊】」
死霊魔法の力そのものも高まっているの。
霊を見ることが出来る力である【霊視】も意識を向けるだけで認識できるようになった。普通に考えて急激な成長だなんて在り得ないことだわ。意思の疎通も出来るようになるとも思ってなかったのよね。
大浴場周辺で有力な情報が得られればと思い呼び出してみたけど、現れたのは女の霊が1体だけ。恨みなど無いということかしら?
あるいは大規模な浄化の儀式を執り行った場所か、ね。眼の前でゆらりと半透明の体を揺らす女は見た処、獣人のようだ。猿の耳に似た獣耳が頭部にある。同性のわたしから見ても、美人というよりも可愛らしいと表現したくなる容姿だ。
けど、この姿何処かで見た記憶が――。
『ーーーー』
後ろで控える侍女に霊は見えないけど、彼女が現れた所為で浴場の気温が下がるわけではないものの、寒さを感じているはず。
霊とはそういうものだ。
彼女は言葉を話せないものの、その気持ちを汲み取ることは出来る。それが死霊魔術師という職業。
先代のネクロマンサーに聞いた話では、霊が自然と寄って来る高位のネクロマンサーが居たらしい。遥かな高みね。目標くらいにはしても良いかもと思う。これもルイ様の御蔭だ。
意識を向けてみると彼女はここではない別の場所で殺されたらしい。お腹の子を出産前に無理矢理腹を裂かれて奪われたのだとか。酷い話。それでもその子は辛うじて生きてるらしい、という意思が届いた。
どういうこと?
犬や牛じゃあるまいし、生まれる前の子が母親から離れて生きていける訳ないじゃない。
『ーーーー』
「色の付いた水に浸かってる? 溺れ死んじゃうでしょ?」
『ーーーー』
驚いた。話を聞いてみてミカ王国の王都でルイ様から聞いた話に驚くほど似ている。ガラスの筒のような物の中に色の付いた水が縁まで満たされていて、その中に浸けられているらしい。ミスラ―ロフという名前に聞き覚えはないかと尋ねたら怨霊化しそうな勢いでにじり寄って来た。こ、怖いじゃない!
「胸に穴が空いてなければ、まだ助かる可能性があるらしいけど。え? わたし? 無理ね。自由にお風呂を使わせてもらってるけど、これでも捕虜だから」
『ーーーー』
「は? 側室? 誰の? あたな死にたいの?」
巫山戯ないで!
誰があの猿魔王の側室よ!
少々の冗談なら笑って聞き流すけど、これは無理。あいつの話を聞くだけでも殺気が漏れてしまう。可哀想に後ろの侍女が「ひっ」っと引き攣った悲鳴を小さく上げていた。ごめんね、貴女に怒ってるんじゃないのよ。
『ーーーー』
「そう、わたしはルイ・イチジク様の眷属。今頃こっちに向かっておられるわ。だから貴女の子も助け、え?」
『ーーーー』
「ダークエルフと狼の獣人の女、それに蛇女も同じ部屋にいるの!?」
ばしゃっ
思わず湯船から立ち上がってしまった。この娘の話だとダークエルフと狼の獣人の女が連れて来られたのは3日前らしい。カリナとドーラが連れ去られた時間と重なる。
不味いわね。フェナがそこに居ないということは、当面危険はないということかしら。だとしたら、優先順位はカリナたちね。
『ーーーー』「!?」
不意に霊の意識が後ろに向けられた。嬉しさと悲しさが溢れてくるのが判る。わたしにも判る気配が背後にあった。猿魔王だ。誰か1人連れて風呂に来たのね。お盛んなことで。
「ほぉ。湯浴みするまでに落ち着いたか。一時はどうなるかと心配していたのだがな」
「ーーーー良い身分じゃない、フェナ」
「っ!?」
「そう責めてくれるな。俺が乞うて妻になってもらったのだからな」
「妻!? 嘘でしょ!?」
そう、猿魔王の隣りに全裸で立っていたのはあのフェナだった。怒りで頭が真っ白になりそうになったけど、ゆっくり呼吸をして落ち着かせる。けど、胸の音が外に聞こえるんじゃないかと思うくらいドクドクしてるのが判るわ。
「る、ルイさんが亡くなったって聞いて、どう仕様もなく悲しくて、それでーー」「聞きたくない」
フェナが言い訳じみた事を言い始めたのをピシャリと遮る。
あ〜ほんと頭に来るわ。
「何をしてこの娘を誑かしたのか知らないけど、こいつの嫁になるならあんたはわたしの敵よ。ったく、カリナやドーラが人体実験の餌にされそうだったいうのに、良いわよね、あんただけ頭の中お花畑で」
「そ、そんな!?」
『ーーーー』
「ああ、そうそう、あんたもそうよ。攫って来た娘へ何したのか知らないけど旨いことやったものね。ミア似の娘が手に入って良かったわね?」
「なっ!?」
そうなの。頭に血が上ってたからミアに言われるまで気が付かなかったけどフェナとミアは瓜二つなの。死に別れた奥さんに似てるんじゃ手も出したくなるわよね。
フェナもフェナよ!
あんたの決めたことだからこれ以上は言うつもりないけど、もう少し状況を見て欲しかったわね。
バシャッとお湯を蹴って湯船から上がると、わたし付きの侍女がそそくさと布で水気を拭きに来る。何度かこの手の経験はあるから侍女の行動に驚きはしないけど、面倒くさいわ。好きにさせて欲しい。
水気を拭いてもらい、睨みつけるように2人に視線を向け、何も言わずにその場に立ち尽くす2人の横を通り過ぎようとした瞬間だったーー。
ガシっと猿魔王に右肩を掴まれたので、反射的に裏拳を当てて弾く。
「気安く触らないで! わたしに触って良いのはルイ様だけよ!」
「す、すまん。だが、お前は今ミアと言ったのか? 答えてくれ! 何故お前はミアを知っている!?」
「本人に聞いたのよ」
「なん……だと? ミアは何処だ!? 生きているのか!?」
「キャッ! ちょっ、触るなって言ってるでしょっ!!」「陛下っ!?」「旦那様!?」『ーーーー!』
舌の根も乾かない内に今度は両肩を掴んできたので鼻っ面に掌底をお見舞いしてやった。侍女とフェナとミアが焦ってるけどいい気味よ。
「す、すまぬ。ミアは俺の妻だ。いや、だったと言った方が良いか。幼馴染でな。だがある時を境に俺の前から姿を消したのだーー」
「はぁ、仕方ないわね。敵に塩を送る気はサラサラないんだけど、今回はこの娘に免じて許してあげるわ。ミア、貴女が決めなさい。このままこいつの傍に居続けるのか。気持ちを伝えて消滅するか」
「何を言ってーー」
「黙りなさい。良い? 貴女はもう死んでる。死者が現世に居続けるには意識のない亡者になるか、自分の持つ力を一時的に高めて気持ちを伝えて消えて行くしかないの。今はわたしが居るから意識を保っていられるけど、何時までも貴女をここに呼び留めて置けないわ。だから貴女がどうしたいか決めなさい」
わたしにしか見えないミアに向かってゆっくり話し掛ける。侍女や猿魔王、フェナからすれば何もない空間へ話しかけているように見えるわね。鼻血を垂らしながらわたしを問い質そうとする、全裸の猿魔王を制してミアの回答を待つ。
『ーーーー』
「そう、理解ったわ。そうしなさい。但し、時間はゆっくり100を数えれる程度しかないからね?」
『ーーーー』
ミアから感謝の気持ちが伝わってくる。猿魔王には勿体無い娘だわ。
頭を振って、今すべきことに集中することにした。死者に気持ちを寄せるのはネクロマンサーとして当然のこと。怒りを沈めて心を落ち着かせるためにゆっくりと深い呼吸を始める。
「常世より来たりし娘よ。仮初の器に汝の憩いを与えましょう。刹那に乗せた己が懐いを届けなさい。【顕現化】」
『陛下ーー』
「ミアッ!!」
「あんたはこっちに来なさい」「えっ!? な、ナハトアさん、耳っ! 耳ぃ〜〜っ!」
魔法の完成と共にミアの半透明の体が目指できるようになる。間違いなく知り合いのようね。無粋な邪魔はさせちゃだめね。この色ボケ猫にも言っとかなきゃいけないだろうし。2人だけの時間は短い。わたしはフェナの耳を引っ張って2人から離れた場所まで来るとフェナを抱き締めた。
「ふぇっ!?」
「良い? 1度しか言わないからよく聞きなさい。あんたが何処の誰と一緒になろうが構わないの。だけど、ルイ様に敵対しないこと。ルイ様は死んじゃいない。こっちに向かってるわ。今のあんたじゃ信じきれるかどうかもわからないけどね。覚えておきなさい。それが長生きする秘訣よ。それと、ドーラがミスラ―ロフって奴に捕まってる。カリナもよ。そこだけは手を貸して」
「な、ナハトアさん? え? ルイさん、死んでないんですか? じ、じゃあ、わたし……むぎゅっ」
もう一度抱き締めてフェナの言葉を遮っておく。釘も差しておかなきゃね。
「もうルイ様は諦めてもらうわよ? 今のあんたはあいつのお嫁さんなんでしょ? しっかり支えなさい!」
「わきゃっ! ナハトアさん!? いったああぁぃっ!!」
裸の付き合いも悪くないけど、あいつの前だけは嫌。肩を持ってくるっと回転させてフェナをあいつの方に押し出す。ついでにお尻を強めに打ってやったわ。ふん、これくらいで許してあげるわ。
ミアの体から光の筋が立ち上がり始めてるのが見えた。時間もあまりないわね。頑張りなさい、ミア。さて、と。
「湯冷めしない内にもう行くわ。お幸せに。あと、わたしに手を出したら殺すって伝えといてね」
「えっ!? えっ!? ちょ、ナハトアさん!?」
わたしとあいつを交互に見ながら立ち尽くすフェナへ背を向けて手を振り、わたしは大浴場を後にした。何処かでモヤモヤとした違和感を感じつつも、穏やかさを取り戻していることに気が付く。
どうして?
疑問の答えが出ないままわたしが衣を身に着け部屋に向けて歩き出した頃、絶叫と殺気と抑えがたい魔力が背後で立ち昇っていたーー。
◇
飛び始めて3刻は経った。
太陽が丁度南天に見えるから、飛んでいる方向は間違いなさそうだ。
「今回はドレインプールが全く使えなかったから何も吸えてないけど、それを捨てても文字通り余りある実入りだよな」
移りゆく景色を視界に収めながら僕は空を滑空してる。魔力を身に纏ったことによる恩恵の1つだな。まさかここまで動きや感覚が変わるとは思ってもなかったんだ。というか、どれだけレベルが上がったのかも確認していないことに気付いた僕はステータスを見てみることにした。
「ステータス」
◆ステータス◆
【名前】ルイ・イチジク
【種族】レイス / 不死族 / エレクトラの使徒
【性別】♂
【称号】レイス・モナーク
【レベル】1000
【状態】加護++++ / 封印
【Hp】2,000,000 / 2,000,000(+1,997,000)
【Mp】64,211,000 / 64,211,000(+6,299,000)
【Str】92,119(+92,000)
【Vit】75,112(+75,000)
【Agi】66,113(+66,000)
【Dex】46,088(+46,000)
【Mnd】43,085(+46,000)
【Chr】36,047(+36,000)
【Luk】26,039(+26,000)
【ユニークスキル】エナジードレイン、エクスぺリエンスドレイン、スキルドレイン、※※※※※、※※※※※、実体化、眷属化LvMAX(範囲眷属化)、強奪阻止、体外魔石精製LvMax(New)
【アクティブスキル】鑑定LvMax(+770)、暗黒魔法LvMax(+999)、闇魔法LvMax、聖魔法LvLvMax(+500)、王闘術Lv10(New)、剣術LvMax、杖術LvMax(+219)、鍛冶LvMax(+793)
【パッシブスキル】気配察知LvMax(New)、魔力感知LvMax(New)、魔力操作LvMax(New)、魔法障壁LvMax(+472)、隠蔽LvMax、暗黒耐性LvMax(+999)、闇吸収、聖耐性LvMax、光無効、エナジードレインプールLvMax、エクスぺリエンスドレインプールLvMax、スキルドレインプールLvMax、ドレインガードLvMax、融合LvMax、状態異常耐性LvMax、精神支配無効、乗馬LvMax(+854)、交渉LvMax(+500)、料理LvMax(+920)、採集LvMax(+810)、栽培LvMax(+844)、瞑想LvMax、読書LvMax(+260)、錬金術LvMax、航海術LvMax(+526)、操舵LvMax(+920)
【装備】シュピンネキルトのシャツ、綿の下着、綿のズボン、ブーツ、アイテムバッグ、封偽神の首輪
ステータスを見て頭を抱えてしまった。
「何と言うか……。色々突っ込みたいけど、自重しなかった自分の所為でもあるから何も言えない」
大型の魔物たちのレベルが相当高かったのが原因だろうな。それしか思い当たる部分がないと思いたい。
今どれくらいの強さなのかはっきり言って判らない。人間よりも上だということは間違いない。大型のモンスターが単独で倒せるくらいだからな。ラノベに出てくる主人公くらいに強いのかどうかも微妙なとこか。
毎回毎回、自分の女を連れ去られる主人公ってどんだけ間抜けなんだよ。予防しとけって話なんだよな。
ま、小説みたいに強くてかっこ良くいければ言うことなしだろうけど、花もない僕には泥臭さがお似合いだ。英雄や勇者って柄でもないし。そんな厄介な仕事は他の転生者なり、転移者に任せるさ。でもーー。
「何で砂寄せの鈴を使う前にモンスターたちは僕だけに標的を絞れたんだ?」
冷静になったお蔭で、ふとあの時感じた疑問が首を擡げてきた。
確かーー、僕の体が一瞬黄金色に光ったんだよな。光るもの持ってなかった気がす……る。ん?
「黄金色? 黄金? 金? ああ! この所為かっ!?」
慌ててアイテムボックスに入れていた黄金の林檎を取り出すと、見事にテラテラと光り輝いてた。コイツの所為か。何て言った?
「結界から出て、いや違うな。結界が破れるまでは食べるな、だった気がする。どっちにしても条件はクリアしてるか」
神様だからそんな妖しい物を寄越すことなしないだろう。何方にしても、モンスターたちが血眼になって僕を狙ってたのはこの林檎も関係してるってことだ。恐らくだけど、力が上がる要素がこの林檎に含まれてると考えた方が無難だし、色々と納得できる。
「食べれるものだろうから、食べてみるか」
シャリっとした林檎独特の食感と甘さが口の中に広がる。あれ? 生霊なのに何で味が判るんだ?
「美味い!」
しっかり蜜の溜まった林檎と同じ味が口の中で広がり、おいしく食べれるということも相まってあっという間に食べきってしまった。食べきって思ったんだけど、これ、種がないんだ。芯も柔らかくて美味しかったから1個丸々食べてしまったよ。途端に体が黄金色に光り始める!?
《※※を取得しました》
「※※って何だよっ!!」
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