第147話 纏い装うモノ
今回も説明回と言って良いかも知れません。
まったりお楽しみください。
※2017/2/7:本文誤植修正しました。
2017/2/26:本文加筆修正しました。
2017/5/14:後書きの脱字修正しました。
2017/11/4:本文段落調整しました。
《気配察知を修得しました》
そのアナウンスを聞いた途端に世界が開ける。そんな感覚に襲われた。
今までは強い殺気を向けてくるものや、気勢を上げつつ向かって来るものしか感じれなかったんだ。それが【気配察知】のスキルが僕の体の中で機能し始めると、何処に何が居るのかが手に取るように分かる。
気配の大小、動き、位置、眼が合っている相手ならばどう動こうとしているかまで感じ取れるんだ。
ゾクリッ
粟立つ感じが再び僕の背筋を這い体中を巡る。恐怖でそう感じたんじゃない。
逆だ。湧き上がるような悦びに体が震えたんだと理解った。
きっと僕の顔には笑みが浮かんでるだろう。狂気じみた笑みがーー。
どんな顔をしてたって構うもんか。戦える術に手が掛かりそうな感覚があるんだ。これを逃すわけにはいかない。
実際、魔物たちの物理的な攻撃を躱したり躱さなかったりした状況だったけど、【気配察知】のお蔭で悉く躱せるんだ。愉しすぎる!
「っ!?」
背後で気配が膨らむ。
ああ、これが魔法を撃とうとする直前の気配なんだな。
その直後、【石礫】や【嵒石の巨槍】、【落石】に【砂礫刃】、【嵒石の投槍】などが雨霰のように襲いかかって来た。
偶に火属性や風属性の魔法が飛び交うが、どれも僕の体に掠らない。掠らせるつもりもないけどね。
ーーけど。と魔法や攻撃を躱しながらふと思考が引っ張られてしまう。ここに現れた数えられないくらいいる魔物たちは最初、出合頭に視線が合った相手に襲いかかっていたんだ。それなのに、僕の体が黄金色に光ったかと思ったら、全てが僕を標的にし始めた。何でだ?
ゴウッっと鼻の頭をかすめるように【嵒石の巨槍】の太くて巨大な棘が空へ突き出される。おっと、戦闘中に考え事なんてまたダークに怒られるな。
「ちょっと鼻がピリッとしたけど掠ってたのか?」
いや、鼻先を掠めた記憶はないし、感覚もない。何だ?
違和感を感じながらも攻撃を躱す事に専念する。ただ、逃げ回るというのは言いたくないけど、躱すことばかりに集中するとそれが修練ではなく慣れて来て作業になってきてしまう。退屈が顔を出し始めた。僕の悪い処だ。
気分を換えるか。
時折、さっきのようにピリッとかパチッという静電気を感じる時みたいな刺激を少し不快に感じながら、攻撃を躱しつつこちらからも反撃を加えてみることにした。
考えてみて欲しい。相手の物理攻撃が当たらないということは、こちらからの攻撃も物理的なダメージを出せないということだ。すれ違いざまにカウンターで貫手や蹴り、肘打ち、手刀、拳打と繰り出すも、想像通りスカスカと相手の体をすり抜けるんだな。けど面白い。
調子に乗って、撃ち出された魔法にも同じようにしてみてやろうと遊び心が疼き始める。
「どうなる? 直撃はダメージを受けるだろうけど、躱した後は弾かれるのか? それとも魔法は殴れるのか? ふふふ……検証だ」
殴りやすい魔法を選ぶ。断然【嵒石の巨槍】だ。大きさといい、躱しやすさといい被験体には持って来いだね。
【嵒石の巨槍】は突き出された後そのまま砂漠の彫刻のように刺々しさを演出できる魔法だ。
先程から何十本も突き出ていて砂漠の中の棘林みたいになってる。
地形が変わるくらいに魔物がわんさか犇めき合ってるっていうことなんだけどな。それを伝って飛び掛かって来る奴も居れば、邪魔だとぶち壊して現れる奴も居る。
試しに置物になってる岩の棘に触ってみたけど、すり抜けた。この状態だと無理らしい。つまり伸びきる迄が魔法ということだ。さて、じゃあちょっと場所を変えるか。
あまり混雑してるとうっかり死角から魔法を打たれてしまい、分かってても躱せなくなる場合がある。それは避けたいよな。だから、棘林じゃない場所で仕切りなおしだ。案の定、魔物たちがゾロゾロ追ってくる。
【気配察知】を身に着けてから一刻は経ってる。
眼を閉じてても十分察知できるほど習熟できたと我ながら思う。それに太陽もかなり傾いてきた。そろそろ魔力を放つ切っ掛けを掴みたい処だ。時間が惜しい。
「この辺りでいいか。よし、実験開始だ」
幾つもの魔法を躱していると漸く目当ての【嵒石の巨槍】が眼の前に迫ってきた。タイミングを計りながら岩の棘の先を避けて、掌底打を撃ち込んでみるとーー。
ぬるん
ーーと、何とも鰻や鯰の体に触れた時のようなヌメッとした感触が生霊の掌に伝わって来たよ。生理的に一瞬だけゾワッと寒気が走ったような気がする。
でもそれだけじゃない。思わぬ結果が眼の前で起きてたんだ。岩の棘がまっすぐ伸びきること無く、ぐるんと弧を描くように反り返った形で固まったじゃないか。おいおい、マジか。眼の前の結果を消化しきれずに唖然としたために、魔法を受けそうになって慌てて上空に逃げる。
「ふぅーーっ。これは興味深すぎる。魔法は対象物に衝突する瞬間に硬さを持つ事になるぞ!? それにあのヌメッとした感触。あれが魔法によって撃ち出された魔力か?」
いや、違うな。
そもそも魔法とは事象のことだ。その事象を引き起こすための切っ掛けがあってこそ機能するもの。
じゃあ、切っ掛けは何?
ーーーー魔法陣か。
向こうの世界の考え方で言えばプログラミング。自然界の中でこういう事象を引き起こすという仕組みを動かすために魔力が要るということか。というか、これって体から放出された魔力がまだ物質の中に留まっているって言うことじゃないか!?
そう思考が纏まった瞬間だった。頭上がすぅっと暗くなるーー。
「なぁっ!? デカすぎだろっ!?」
僕の頭上に現れたのは直径10m近い巨石だった。【落石】にどれだけ魔力を込めたのか知らなけど、かなりの質量だぞ!? 今更横に逃げても初速が遅いんだから巻き込まれるのは確実。だったら当たって砕けろだ!
「男は度胸!」
僕は落ちてくる巨石を支えるよにそのまま右の掌を頭上へ突き出して上昇する。手触りの悪さに全身が粟立つ。
ぐにゅぅぅぅぅぅっ ゾワゾワゾワッ
僕が浮かんでいた位置が魔法の着弾点だったとして、それまでに当たればもしかしてという思いがあったんだけど、都合良く事が運んだと言っていいと思う。今石の中だ。これも【実体化】した生身だとこうはいかなかったはず。魔力と同じ見えない力の塊である生霊だからこそ、質量のあるものの中へ干渉できたんだから。
それにしてもーーと、巨石の中の魔力を繰り抜きながら思う。このヌメッとしたようなモノが魔力なんだ。それを僕の手が左右に散らしているーー。何でだ?
反発するモノが掌から出てるのか?
だから、さっきのロックスピアを逸らすことが出来た?
意識を集中しろ。何が僕の掌にある?
ーーーー何だ? 薄いシャボン玉の幕のような半円形のものが……。
《魔力感知を修得しました》
「あれが魔力か!? うおぉっ!?」
脳内アナウンスと同時にヌメッとしたモノに色彩が生まれた。薄い飴色のような茶系の色だ。それだけでなく、気配と相まって魔力を帯びたモノの情報が一気に頭の中へ流れ込んで来る。
「ぐぁっ、これ酷すぎる。一気に情報を整理できるわけ無いだろ!? 頭が割れそうだ!」
空いてる左手で頭を抑えながら僕はそのまま一気に上空へ飛び出した。直後に鈍い地響きと砂埃が舞い上がる。呼吸が荒くなってるのが分かる。でも、今の僕に呼吸は意味がないんだけど、肩で息をしてるくらいに頭痛が酷いんだ。生霊なのに痛みを感じるって可怪しいだろ? と自分で突っ込む元気もない。
魔法の気配と魔力を四方八方から感じる。何をどう躱せば良いのか道が分かる、そんな感じだ。感覚が可怪しい。
「くあっ……。無意識の内に掌から魔力を出してたのかよ。はっ、どんだけ見えてないんだ」
思わず苦笑してしまう。苦笑しながらもぬるっと撃ち出された魔法を躱す。うん、動きが気持ち悪い。
10分くらいは痛みに悶えただろうか。
漸く頭痛が治まり、意識がはっきりして来た。
魔物たちもMpが無尽蔵にあるわけではないようで、こちらと睨み合ったまま小康状態だ。正直助かる。上空へ来れるやつは今の時点では存在しないから、今の内に把握できることを把握しておこうと思う。
視線を眼下から、先程まで魔力を噴出していた右の掌に戻す。勿論、今は何も出ていない。
「あの時の感覚を掌に……」
そう思いながら右の掌に意識を向ける。手から噴水まではいかないだろうけど、あれだ、渓流の源で川砂を小さく押し退けて湧く水のようなイメージだ。
こぽっ
「おおっ!?」
一瞬だけど、掌にさっきのシャボン玉の幕のようなモノが見えた。何となくコツが分かったぞ。イメージだ。それも具体的ではっきりとしたイメージがあればいけるはず。
高鳴る胸はないけど、そんな気分に浸っている僕はもう一度掌に意識を向けて先程と同じようにイメージをしてみた。水の流れのように体から外へ湧き出てくる感じだ。ゆっくりと、はっきりと、そして丁寧にイメージしていく。
こっぽっ
さっきより大きく湧き出て来た。
「よし!」
後はこれを意識して止めれるかーー。
蛇口を締めて水の流れを止めるように体の奥から出て行こうとする魔力を体の中に留めるようにしてみた。ゆっくりと掌に湧き出る魔力が減っていき最後には見えなくなる。成功だ。
《魔力操作を修得しました》
「よしっ! よしっ!」
思わずガッツポーズをしてしまった。でも、それだけ嬉しいんだ。【気配察知】、【魔力感知】、【魔力操作】はどれもパッシブスキルだから習得できたってことだね。いや、これはそもそもの話、本来なら皆が持ってるスキルなのかも知れないな。
スキルに気が付いてない状態だから秘匿されているように見えてしまう。
有り得そうだ。
そもそも僕がスキルを覚えれませんって宣言されてるのに習得できているということが良い証拠だろ?
未だ眼下の魔物たちに動きはない。単発的に新しく顔を出したやつが魔法を撃ってくるくらいだ。眼を瞑ってても躱せる。今の内に【魔力操作】の習熟度を上げておこう。手からじゃなく、体の他の部位からでも出せるようにならなきゃ。
そう思って僕は頭頂部に意識を向けることにしたーー。
◇
同刻。
魔王領、潮の香るとある地下室にミスラーロフは居た。魔王と別れてから既に八刻は過ぎている。
油灯のような光源もないのに室内はぼんやり明るい。それはそうだろう。所狭しと巨大な円柱型の水槽が5つ並んで鎮座しており、その中に満たされた紫色の液体が淡く光を発しているのだ。
ミスラーロフはその水槽に触れながら怪しく微笑んでいる。
「漸くーー漸く最終段階に必要なコマが揃った」
5つ並んだ水槽の内、すでに4つには先客が居た。
「陛下に触れられた女が2人いましたが、幸いダークエルフはこれで手に入った。危険橋を渡らずに済みましたね。10日以内に事は起こせそうです。2,3日あれば呪液が完全に染みこむでしょうからね」
右側の2つには蛇女族と仔猿がそれぞれ浮かんでる。ラミアは浸かっていると言った方が良いだろう。
真ん中はまだ誰も居ない。
左側に視線を移すと、そこに居たのは全裸のダークエルフの女と、犬系の獣人の娘だった。仔猿の4つある両眼は閉じたままなので分からないが、他の3人の視線は虚ろなままだ。恐らく抵抗する意志がないのだろう。
「もう1人の女は貴男の母上に良く似ていましたよ? ククク」
そう呟いて仔猿の浮かぶ水槽をコンコンと指で叩くも仔猿の反応はない。そして視線を新たに手に入れた素材に向ける。
ーーそう、ダークエルフと犬系の獣人は連れ去られたカリナとドーラだ。
「ククククク……、あの生霊には礼を言わねばな。まあ、あのソウルイーターで斬られたのだ既に存在すらしていまい。わたしがお前の女たちを上手に使ってあげますよ。クククッ、アハハハハハ!」
ミスラーロフの哄笑が地下室内に響き渡る。その声に反応する者は誰1人居らず、時折水槽内で湧き上がる気泡が無機質な音を聞かせるくらいだ。一頻り笑った男は踵を返すと、コツコツと靴の音を立てながら地下室を後にするのだった。
暫くして重々しい扉の閉まる音が室内に轟き、ガコンと鍵の掛かる音が追従する。誰も居なくなった地下室内を優しい薄紫色の光がぼんやりと燈しだしていたーー。
◇
あれから二刻が過ぎていた。
陽が地平線に沈み、満天の星が夜の帳を飾り始めているーーなんて柄にもなくナレーションをするつもりはない。そんな長閑な雰囲気を楽しめるような状況じゃないんだ。
感覚だけど1日は経った気がする。残り9日でモノにして、この女神様が作った結界を抜けなきゃいけないんだ。移動日を考えたらあと2、3日の内に形にならないと洒落にならん。
そんな僕は絶賛奮闘中だ。
何とかって?
魔力に決まってるだろ。
頭頂部から噴水とまではいかないけど、湧き出させることは出来たんだ。そこからが行き詰まってる。駄々漏れで纏まらない。こう、くるんと自分の体全体を包み込んでしまいたいんだけど、それが難しいんだよ。
何て言えばいいか……。そう、水滴の中に自分が居る状態にしたいんだけど吹き出させるのが精一杯というね。情けない。
肝心のMpの方は回復量の方が高いらしく見た感じ減ってはいないようだ。ん?
「こいつは……」
頭上で気配を感じ見上げると、あの長剣がゆっくりと降りて来ているのが眼に留まる。こいつのお蔭で僕は九死に一生を得たようなもんだ。あそこで魔剣の軌道を変えてくれてないきゃ今頃僕はここに居なかった。
「ーー随分草臥れたな」
一瞬、言葉に詰まった。
刀身が見るも無残に罅割れ、砂のようにサラサラと朽ちているんだ。そこで僕は思い出す。
ソウルイーターという鎌の様な魔剣に斬られた者は、例えその時に運良く生き延びたとしても傷から魂が喰われていくのだとーー。
「お前たちのお蔭で僕は助かった、ありがとう」
今の僕にはどうすることも出来ないが、昨夜の礼は言えると思い直し頭を下げることにした。
そう言えば、こいつらもミスラーロフの実験の犠牲者だったな。あの時僕を助けずにミスラーロフに攻撃を加えていれば恨みは晴らせただろうに。何とも言えない気分になる。助けてもらった手前、軽々に指摘できないし、責めるつもりもない。あるのは感謝だけだ。でもーー。
「その体だと、長くは保ちそうにないな。今の僕に何かできることがないかい?」
聞くだけ聞いてみることにした。色々封じられてるけど、何かできるんじゃないか? という思いも背中を押したんだと思う。
「えーー」
急に宙に浮くロングソードから3つの小さな人魂が抜け出てきた。次の瞬間、淡い光がふわっと広がったかと思ったらロングソードが砕け散ってしまった。人魂は少しずつ形をハッキリさせてくる。火のようなものを纏った小さな蜥蜴とゴリラの子ども、仔ドラゴンだ。
確かこの剣には4つの魂が宿っていたはず。人族の子どもが居たんだ。
「ーーもしかして、お前たちを吐き出すために力を使ったのか?」
僕の予想があっていたことは残った3匹の反応を見れば明らかだ。もう、あの子には会えないということか。何とも割り切れない気分になる。でも事はそれで終わらなかったんだ。
「えっ!?」
火のようなものを纏った小さな蜥蜴び形をした人魂が僕の体に入り込んできたんだ。
――どういう事!?
急なことで反応出来なかった。殺意も害意もない行動だったから余計にね。それを思うとカリナの時もそうだったんだよな。言い訳だ。みっともない。
「ん? 魔力を出して纏うイメージをする? お前を体に巻きつけるイメージでもいいの?」
驚いたことに、僕の中からあの蜥蜴の意志が伝わって来たんだ。僕に取り憑いた訳じゃないらしい。それも失礼な言い方だけどな。でも、その気持ちに応えようと思う。
ゆっくり呼吸して気持ちを落ち着かせ、眼を瞑って頭頂部から魔力を湧き出させる。
徐々に量を増やして僕の体がすっぽり隠れるくらい流れ出させた。ここからだ。この魔力をあの蜥蜴の姿に似させて体に巻きつかせるようなイメージを描いて、魔力を操作する。
15分くらいは掛かっただろうか。
急に魔力がずるんっと引っ張り出される感覚が生まれた。慌てて眼を開くと、僕の体を螺旋状に体を伸ばして動くあの蜥蜴の姿が見えた。どういう事!?
「あ、眼が合った」と思った瞬間だった。
《魔纏を習得しました》
「まてん? え、あ、おいっ、待って消えないで!」
《武術レベルがMaxであることを確認しました。これにより魔纏は武術と融合し、闘術へと昇華します》
脳内アナウンスが流れる中、ロングソードがそうであったように、この蜥蜴も淡い光となって夜空に消えていってしまったんだ。僕の為に残りの力を使ってくれたってことなのか!? だったら、お前たちはーー。
《闘術を修得しました》
無機質なアナウンスが流れる中、魔力が安定して来るのが分かった。うっすらと膜を作って僕の体を包み込んで留まっているのが分かる。このためにあいつは。そう思いながら残った2つの人魂に眼を向ける。
「僕のために残りの時間をくれるっていうのか!?」
僕の質問に残った2匹が肯く。何だよそれーー。
格好良すぎるだろ。そんなことしてもらっても僕には返すものがないっていうのにーー。
そんな弱音を知ってか知らずか、ゴリラの子どもの人魂が止める間もなく僕の中にすぅっと消えていった。端からそのつもりだったんだろう。同化した訳じゃないけど、別の存在が僕の中にあるのを感じれる。その存在が両腕に力を送り込み始めたーー。
「う、え!?」
まるで漫画に出てくるようなゴリラの肘から手首のように膨らんできたんだ。そりゃ驚くって! オマケに手全体も前腕の大きさに比例して巨大化し始めてる。飽くまで魔力の膜の話だよ!?
うっすら見えてるシャボン玉のような色合いの膜が両腕の肘から先の部分だけが巨大化してるんだ。風船のように体と膜の間に空気がある訳じゃなくて、魔力自体が詰まっていると言えばいいかな。重さは感じない。想像通り僕の手と連動しているようで、拳を作ったり指をいっぱいに広げたりすると同じように動いてくれた。感覚も悪くない。
そこに、ゴリラの子どもから鎧の手をイメージするようにというメッセージが届いた。慌てて籠手のイメージを脳内で探す。日本の武者鎧の籠手だと今の姿にはそぐわない。だったら西洋甲冑の籠手だ。
動きが邪魔される鉄板を筒状にしてただ形を作ったモノじゃなく、指一本一本から手背、手首、がしっかり自由に動き、殴っても簡単には壊れず、なおかつ刃物を受け流せるような鱗構造の西洋籠手をイメージする。
《闘術・魔纏技:手甲を習得しました》
「あーー」
そう脳内アナウンスが響き渡ると同時に両腕から淡い光がぽわっと強く点って闇に消えていってしまった。思わず掴み取ろう手を動かしたけど、間に合わない。
……ありがとう。
それでも哀感に浸る暇もなく、仔ドラゴン《ドラゴンパピー》の人魂が僕の中へ飛び込んで来た。伝わってくるメッセージは時間がない、ということだ。直ぐに竜のような鎧をイメージするようにと急かされた。
確かにロングソードが朽ち果てた時間を考えると皆同じように、ソウルイーターからダメージを受けているんだ。いつ消えさっても可怪しくない。この気持ちに報いるには、僕が彼らの力を受け止めること以外に無いんだ。切り替えろ!
僕は重騎士のように盾を片手に闘うスタイルじゃないから重厚な鎧は必要ない。
求めるのは動きやすさ、強度、そして竜? 竜ーー。イメージが難しいぞ。
竜はともかく、ガントレットと同じ鱗構造で細分化されて折り重なるタイプが理想だ。肩当てと上肢覆いはなるだけ小さく両腕の邪魔をしない構造でいい。肩と脇は蛇腹のように折り重なりって動きやすく、その上に胸当て腹当てがあれば動きを邪魔しないだろう。腰回りや下肢も太もから足の先まで鱗のような重ね構造ものでいい。兜は邪魔だな。あっても精々額から頬を守る程度のものでいい。
《闘術・魔纏技:鎧装を習得しました》
脳内アナウンスの響きに一瞬ビクッとなる。僕の体の周りの魔力が固形のものへ変化し始めてる感じがあるが、ドラゴンパピーから更に催促が入る。
ーー竜?
これでどう竜をイメージしろと!? そう思った瞬間、脳裏にシンシアの竜の姿がふっと浮かんできた。黒より深い漆黒の鱗をうねらせ飛ぶ彼女の姿はとても美しい。大きく広げられた翼と畏怖を覚える角、靭やかだが恐るべき力を秘めた尾そして黒光りする爪。それを自分に重ねて見ることにしたーー。
《闘術・魔纏技:鎧装が竜の力を得たことにより昇華します》
「は?」
脳内アナウンスが響くと僕の体全体が淡い光に包まれる。正直理解が追いつかない。僕の体に纏わりつく魔力が硬質化して異形の鎧に姿を変えていく。とは言っても、相変わらずシャボン玉の膜のような色彩なので感覚として変わっているというだけなんだ。細部まで見えてるわけじゃない。
そこに追い打ちのアナウンスが響く。
《闘術・魔纏秘技:竜装為鎧袖を修得しました》
「へ?」
最後まで読んで下さりありがとうございました!
「竜装為鎧袖」は作者の偽漢文です。他意はありません。
何となくこう読めたら良いなという希望と期待を山盛りに創作してみました。
生温かい目で見守っていただけると幸いです。
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