第146話 考慮
説明回です。
まったりお楽しみください。
※2017/2/7:本文誤植修正しました。
2017/11/4:本文誤字修正、段落調整し加筆ました。
2018/10/2:ステータス表記修正しました。
朝――。
メニュー画面で時間を確認したら6:06を示していた。
廃墟の周りで朝陽を浴びながら小鳥たちがチュンチュンと囀っている。
外の音や空気が入ってくる気配はないが、マジックミラーみたいになっておりこちらから外は丸見えだ。アビスの特殊な空間の中で頭を抱えている裸の僕がいた。上半身を起こした僕の隣りにアビスが静かに寝息を立てている。
どうしてこうなった?
何があったかをゆっくり思い出してみることにする。魔猿の魔王たちに襲撃されてナハトアたちを連れ去られ、間一髪アビスに助けられた処にアビスにアルキュオネ様とアステロペー様の2人が現れた。御二人に状況説明をしてもらっている内に僕の体の中にある“虹ノ涙”というものが心臓みたいに拍動を打ち始め、気が付いたらアビスを食べてた。
うん、これまで抑えつけてたものが1回で済むはずもなく、求め求められ応え……の繰り返しだったね。
ーー御馳走様でした。
まぁ抱いたら用なしなんて、そんな春を売る御仕事の方扱いをするつもりはサラサラ無い。大事にします。それくらいの甲斐性がなきゃ幻滅もいいとこでしょ。
逆に寝首を掻かれかねん。
合間合間に色々と話をすることが出来たのは収穫だったな。
アビスともう1人男形の真っ黒マネキン人形は、所謂【魔法生物】という話だった。
吃驚だよ。何でも数千年前に存在していた都市で【暗黒魔法】が人類史に初めて生まれた瞬間、【暗黒魔法】に喰われてしまったらしい。その都市には数千人の人族や獣人族、妖精族、魔族が居たそうなんだけど、動物や魔物を除く人の姿をしたものが全て【魔法生物】に作り変えられてしまったそうだ。
そんなことがあるのか? と思ってしまったけど、現に眼の前に居るんだから信じないわけにはいかない。つまりアビス達の年齢は訊くことも憚られるくらいということになる。
闇魔法に【常闇の皇帝】、【深淵の女帝】という2つの召喚型魔法がある。彼らを喚ぶための魔法だ。
この魔法とアビスたちの関係を訊いてみたら面白い話が聞けた。
先に都市に住んでいた者たちが【魔法生物】になったという話がここで生きてくる。つまり元住民が2つの召喚魔法の喚び掛けに応じて現れるということなんだ。【暗黒魔法】開封のためには彼らの中、特にアビスに連なるモノを喚び出す必要がある。ここで誰が出るのかがもめるらしい。
僕の場合のようにアビスと契約を交わすのは稀で、普通は秘匿魔法を開示できるようにして帰っていんだとか。ダークの場合も同じで、2つの召喚魔法は知っていても使えない闇魔法使いが多いんだと笑いながら教えてくれた。ということは僕は随分と幸運だったようだ。
何処に住んでいるのかは秘密だって。そりゃそうだろう。この世界にはまだまだ知らない場所が沢山ある。精霊界しかり、魔界しかりだ。また行ける機会がある事を願おう。
後は、僕がアビスの空間に居れることと触れる理由を訊いてみた。
アビスも良く解らないらしい。ここに引っ張り込んだ時は無我夢中だったからよく覚えてないそうだ。それでも今の僕があるのはアビスのお蔭だから感謝しか無いんだけどね。未だに気持ちよさそうな寝顔のアビスの頬を撫でる。あれ?
ーー耳の上に菱形の長い方を横にしたような小さい出っ張りがある。こんなのあったっけ? 触ってみたら硬かった。
「ん……」
おっと、今起こすのは可哀想だな。そうそう、これは仮定だと前置きされたんだけど、無理矢理喚ばれてもないのに出たことと、僕を抱え込んで戻って来たことが不測の事態を引き起こしてるんじゃないか? って言われたな。
斬られた部分がお互い混ざり合ったのかも知れないと言われたけど、何方もあり得る話だから納得して置くことにした。お蔭でできたんだから、不満がある訳がない。
それでも此処に居続けるのは現実逃避だ。
アビスのお蔭で心の余裕が生まれた事は感謝だけど、遣るべき事を棚上げにはしたくない。
ナハトアも大事だ。
他の子らは正直あの魔王が悪いやつでなければ嫁に貰って欲しいとも思うよ。【扇情】の加護の力があるはと言え、お互いに惹かれ合うのは良いことだと思う。
はは。僕自身もかなり内向きで利己主義を振りかざす酷いやつだとは思うよ。身贔屓だし。
でもナハトアはやらん!
というか、斬られた分の借りは返してもらう。まずは1発殴る。
「ん……主様?」
「おはよう。無理をさせちゃったね。大丈夫?」
「あ……いえ、その、体がぽかぽかしてます。ん……」
面白いな【魔法生物】とはいえ、素体は人型だ。人並みの反応もするし、感情も、記憶もある。
半身を起こしたアビスに口付けして抱き寄せ。体温を感じることにした。そう、どうやら此処に居る間は霊体なのにそうじゃない感覚になるみたいなんだ。理由は分からない。
さっき言ったように、アビスの魂みたいなものが混ざったからなのかも知れないけど、何もわからないんだ。この瞬間は役得ではあるんだけどね。
うん、そうなんだ。【魔法生物】になる前の記憶があるらしい。でもご丁寧に記憶の中にある全ての人物から名前が取り除かれているんだと。名前を連想するような風景の記憶もぼんやりして思い出せないようにモノの名が消えているらしい。名前と肉体を欲する傾向が強いのはその所為というのも分かったのは収穫だ。
「そろそろ行かなきゃ」
「ーーーーっ!」
僕の言葉にアビスの体がビクッと揺れる。
お互い解っていることだけど情を交わすと離れ辛くなるんだ。出来ればこのまま甘い時間に浸りたいという欲求が沸々と湧いてくる。それを許せば僕はナハトアを失うだろう。それはダメだ。
「アビスの特殊な空間だからこそ素敵な一夜が過ごせた。ありがとう」
「主様ーー」
「ここから出たらお互いが触れ合う時間は殆ど無いかも知れない。でも、前よりずっとアビスを感じてる。沢山貰ったからだろうね」
「わ、妾も沢山愛していただきました。ん……」
この柔らかい唇をずっと味わいたくなる。独占欲が強いんだな、僕は。
はは……向こうの世界でそんなに溜まってたことあったか?
まあ、それはいい。それよりも大事なことを伝えておかなきゃ。
「アビス、大事なことだから一度しか言わない」
「……」
「必ずアビスの名と器を用意して迎えに来る。その時は僕の傍に来てくれるかい?」
「ッ!? ーーーーは、はい! お待ち申し上げております! あーー」
僕の告白にアビスはビクッと肩を震わせて僕の顔を見詰め返してくる。眼はない輪郭だけの顔。でも僕の脳裏には一瞬だけアビスであろう黒髪紫紺眼で優しく微笑むの女性の姿が浮かんでいたんだ。きっと肌を重ねたことで得られた何かが作用してるんだと思う。だから気持ち悪い存在だと思うことはない。
他人が見ればゲテモノ喰いと嘲られるかも知れないけど、僕の思いが揺らぐことはない。
アビスもナハトアも傍に置く。そう決めた。
少しだけ間を置いたアビスの口が開き、承諾の言葉を聞いてどっと疲れた感じになる。生霊なのにーー。でもアビスがそう言った瞬間、彼女の臍より低いお腹が黄金色に光り始め、全身を包み込む。僕はただ見てるだけだ。
その光も一瞬で、光が消えて残っていたのは先ほどと変わらない姿のまま僕に縋り付くアビスだった。何だったんだろう?
「良かった。ん……」「ん……あーー」
安堵と共にもう一度唇の感触を味わい、ゆっくりとアビスの両肩を押しながら距離を取る。
引き止めたい想いと名残惜しさが入り混じったような甘い声が短くアビスの喉を震わせた。また押し倒したくなる気持ちを抑えアビスから距離を取ることに成功した。かなり精神的なダメージが大きいよ、これ。
直ぐ後ろにこの空間を隔てる見えない壁があるんだけど、何となく出れる気がしてる。直感だ。
「じゃ、アビス、行ってくる。魔法が使えるようになったらなるだけ早く喚ぶから、待ってて」
「いってらっしゃいませ。主様の御武運をお祈りしております」
今生の別れでもないし、また会える別れなんだけど何だか胸の奥がキューっと切なくなるな。ぎこちない笑顔を浮かべて手を振って僕はアビスに背中を向けた。なんか恥ずかしというか、また飛び込んで抱き締めたくなりそうだったのもある。眼の前の空間に手で触れると波紋が広がり、すぅっと向こう側に手がすり抜けた。そのままアビスの言葉に背中を押してもらう形で1歩を踏み出す。
そこは昨夜のまま変わらず朝陽を浴びる野営跡だった。焚き火の火は既に消えており、細い煙が立ち上っている。ここで手も足も出ずにいいようにやられたって訳かーー。
「リベンジーーだな。でも、まずは片付けるか」
飛び散った皿や鍋、テントなどをアイテムボックスに回収して更地に戻す。
次は結界だ。何処まで行けるか確かめないと。
そう思って僕は街の内部の方に進もうとした。ドンッと体に鈍い衝撃が伝わってくる。キャンプの位置から出れないってことかよ。
試しに魔王領に向いて南向きに広がっている街の遺跡へは入れない。東回りでも西回りでもダメ。結界に阻まれちゃうんだ。流石アルキュオネ様。結界が半端ない。
生霊であれば物理的な障壁も意味をなさずに通り抜けれるんだけど、神力で張り巡らされた結界の所為で魔王領に入れなくなってしまった。これをどうにかして破らなきいけないんだけど、うん、確かに今は手も足も出ない。あとは北かーー。
「北には結界がない? いやいやそんなことはないはず。エレクトラ様ならありえるけど」
北に進むと結界の壁は現れなかった。勿論直ぐには、という但し書きが付く。調べた結果、北の砂漠側に向かって中心直線が300m程の菱形状に結界が張り巡らされていたよ。横幅は最大で200mあるかどうかだな。つまり、砂漠の中はある程度自由に動けるという訳だ。
「ふう。僕に今あるモノっていったら医術と合氣道と魔力くらい? 医は仁術だし、合氣道は基本的に護身術の部類だから相手を殺害する為に特化した業はない。だとすれば魔力か?」
そういえば、例のソウルイーターという魔剣に喰われてからステータスを確認していない。まずはそこからか。
「ステータス」
◆ステータス◆
【名前】ルイ・イチジク
【種族】レイス / 不死族 / エレクトラの使徒
【性別】♂
【称号】レイス・モナーク
【レベル】1(-364)
【状態】加護++++(New) / 封印(New)
【Hp】3,000/3,000(-728,000)
【Mp】122,000/122,000(-22,980,747)
【Str】119(-33,433)
【Vit】112(-27,260)
【Agi】113(-23,080)
【Dex】88(-16,782)
【Mnd】85(-15,592)
【Chr】47(-13,122)
【Luk】39(-9,464)
【ユニークスキル】エナジードレイン、エクスぺリエンスドレイン、スキルドレイン、※※※※※、※※※※※、実体化、眷属化LvMAX(範囲眷属化)、強奪阻止
【アクティブスキル】鑑定Lv230、暗黒魔法Lv1、闇魔法LvMax、聖魔法Lv500、武術LvMax(+849)、剣術LvMax、杖術Lv781(+521)、鍛冶Lv207
【パッシブスキル】魔法障壁Lv528(New)、隠蔽LvMax、暗黒耐性Lv1、闇吸収、聖耐性LvMax、光無効、エナジードレインプールLv20、エクスぺリエンスドレインプールLvMax、スキルドレインプールLvMax、ドレインガードLvMax、融合Lv245、状態異常耐性LvMax、精神支配無効、乗馬Lv146、交渉Lv500、料理Lv80、採集Lv190、栽培Lv156、瞑想LvMax(+200)、読書Lv740、錬金術LvMax(+313)、航海術Lv474、操舵Lv80
【装備】シュピンネキルトのシャツ、綿の下着、綿のズボン、ブーツ、アイテムバッグ、封偽神の首輪
「は? レベル1? 嘘だろ? 365だったレベルが全部吸い取られたてことか? ドレインガードが機能しなかったと言うことは別のモノを吸い取られたからレベルが下がったってことか」
呟きながら思考を纏めてみる。
【吸収】というスキルは本来僕のように細分化されては居ないし、スキルや経験値が吸える事もない。身体にある生命力《Hp》と魔力《Mp》を吸い取ってしまうものだ。全部吸い取られると生霊や死霊のような霊体を持つアンデッドになるーー。
……今更だけど何で全部吸い取られるとアンデッドになるんだ?
ゾンビとかグールはウイルスです。なんて言われれば、「あ、そうなんですね」の一言で納得するだろうけど、明らかに生前と死後で質が変わるのはウイルスでは説明がつかない。尤も、ウイルス説が正しいのかどうからもわからないけどな。
冷静に考えたら、物理的な肉体が非物理的な霊体に変わるって可怪しいだろ?
吸いながら書き換える何かを流しこんでるってことか?
だったら、僕の吸い殺したやつが生霊化しないのも頷ける。理論的には書き換えする物質が出ないようにすればいいんだから。じゃあ何を出すんだ?
人を魔物へ変える素? 魔力?
「ーー魔力か。そうか。魔法を発動させると魔力を消費する。スキルを発動させても魔力を使う。血液や指紋に個人差があるように、魔力に個性があるとしたら?」
思わず思考が言葉となって零れ出ていた。
生霊には生霊の、死霊には死霊の特徴を持った魔力があり、それが【吸収】している最中に吸われる側の体内に押し出され、新しく吸った魔力が身体に補充される。そうなればMpの総量は同じだ。
という仮説を立ててみたけど、その説だと僕の場合には当てはまらないんだよな。
「あっ!? だから【プール】があるのかーー」
気が付いてしまった。そういうカラクリか。つまり、魔力は魔法が発現するための燃料もしくは触媒という役割だけでなく、放出できるということ。今は女神様達の御蔭で回復してるものも、恐らく斬られた直後はMpが1だったはず。
つまり、ソウルイーターは身体に蓄えた魔力を喰らい尽くす魔剣ってことか。当然来られれば身体的なダメージも喰らうことになる。いや、違うな。魔力が体に及ぼしている作用を含めて喰らい尽くす、と言った方が正しいだろうな。これならレベルが1まで下がっているとしても納得できる。
あとは理論を実践だな。
「……試してみるか。ーーーーはあっ!」
右手を突き出して魔法を放つ時のように魔力を放とうとしてみた。
ーー何も起きない。
そ、そう簡単に魔力は動かせないってことか? 変な技名とか叫ばなくて良かったーー。思わず周りに誰も居ないか確認してしまう。ふぅ……。
というか、魔力が動いた気配なんかこれっぽっちもなかった気がする。これっぽちじゃないな。微動だにしなかった。くそっ。
まずは体内の魔力の動きが分かるようにならないと話しにならない。
そうすれば良いか分からない僕は取り敢えず、座禅を込み眼を閉じて瞑想の様な姿勢を取ることにした。
邪魔されたくないのでアイテムボックスから砂除けの鈴を取り出し腰にぶら下げておく。そう言えばと周囲を見渡したけど、砂蜥蜴たちは気が付いたらもう居なかった。勝手に帰ると言ってたからきっとそうなのだろう。
ゆっくりと腹式呼吸を繰り返しながら、僕は自分の中に沈んでいったーー。
◇
同刻。
東テイルヘナ大陸の南方。その南端に広がる大湿原の中、南洋に面した崖にほど近い場所に壮麗な造りの階段井戸はある。
南王宮だ。
その王の間にある絢爛豪華な玉座に30歳に達しているだろうか、という男性が座っていた。金糸雀色の剛毛髪を短く刈った風貌は鋭く、王者の風格を漂わせていた。頭に戴く王冠が紛れもなく彼が王であることを雄弁に語っている。
固く瞑った双眸の動きが瞼越しに分かる。落ち着きがない。それを証明するかのように肘置きに置かれた左手の指たちが忙しくリズムを刻んでいた。
「陛下」
王座の右手奥から女官らしき女性が歩み寄り声を掛ける。緩やかな波打つような金髪が顔の右半面を隠し、背中で揺れていた。隠れていない右の青い瞳が主の姿を捉えている。
「ヘルトラウダか。どうだ?」
「はい。ナハトア様は相変わらず手が付けられぬ状態です。召喚具は一式他の場所で保管しておりますが、夢々ご油断なされませぬように」
「様? 召喚具だと?」
「はい。ナハトア様はハイ・ダークエルフの死霊使いであられます。スキルまでは拝見できませんでしたが、わたくしでは手に負えませぬ」
「なんとーー其の方でもか。それにハイ・ダークエルフだと? 久しく聞かぬ言葉だ」
ヘルトラウダと呼ばれた女官の報告を聞きながら、魔王は閉じていた両眼を開く。深緋色の瞳にじっと見据えられた彼女は怯えることもなく、淡々と言葉を続けるのだった。髪の隙間から出る耳の先が尖っているのが見える。
「わたしもです。ハイ・エルフはシムレムの深部から出ることがありません。わたしたち普通のエルフですら何十年かに一度くらいです。その上ハイ・ダークエルフとなれば尚更でございます」
「そなたの【鑑定】でも覧れぬということか。惜しいなーー」
「後宮に招きますか?」
「……本音を言えばな。だが肯くまい。俺も無理強いは好かぬ」
「その方が宜しいかと。あの方は既にルイ・イチジクという御方の眷属。称号が消えておらぬと言うことは眷属主が存命であることの証し。決してご無理をなさいませぬように」
「ーー生きているというのか? あの傷で? ふ、ふふ、ふはははははははは! 面白い! ならば此処の迎えに来るまで待つことにしようではないか。晴れて雌雄を決するのもまた一興だ」
ヘルトラウダという名のエルフの言葉に魔王は独り呟く。しかしそれも一瞬で、機嫌よく高らかに哄笑し始めたではないか。先程までの何かを憂う表情は何処にもない。魔王は勢い良く玉座から立ち上がると、それに合わせてその傍に寄ったヘルトラウダの腰に手を回して抱え上げ、玉座の後ろへ続く通路へ消えて行くのだった。
◇
三刻後。
中天に輝く太陽が僕をジリジリと照らしてる。と言っても生霊の僕には暑さは問題ないんだけどね。
「何とも締まらないな……」
ボヤきたくもなる。
カッコつけてアビスと別れて魔力の修行を始めてみたものの、一歩目から盛大に躓いてるんだぞ? ボヤくどころかウガーーッて叫びたくもなるけど、上から見て腹抱えて転げ回られたくないのでぐっと我慢してる。
くそ、こうなったら逆転の発送だ。敢えて魔物を呼び寄せて実践形式に変えてみる。何か切っ掛けが掴めれば一気に行けそうな気はするんだ。
そう思いながら砂除けを外してアイテムボックスに入れ、代わりに砂寄せの鈴を取り出して腰に取り付ける。
ーー案の定直ぐにサンドワーム、砂蠍、デザートヴァイパー、砂鮫、デザートフォックス、砂男などがわんさか現れた。それだけこの周辺の食物連鎖が厳しいということだろう。魔物同士が互いを餌だと思って襲いかかっている。僕も例外じゃない。
でも、生霊という特殊な体の御蔭で傷一つつかないから今の時点では余裕だ。魔法で攻撃されなければ、という条件はつくけどね。ま、そのうち魔物たちが魔法を使い始めるだろうからそこだけ注意すればいいか。
ーーと思っていたのはほんの数分前の話。どうした!?
僕の体が一瞬黄金色に光ったかと思ったら、魔物たちの標的が僕独りに絞られてた件。
どう説明してくれる!?
こっちは「知るかっ!?」と叫びたい。
けど、そんな悠長な暇はないんだ。どの魔物も必死に僕に追い縋るように迫ってくる。眼を血走らせ、涎を大量に垂らし、興奮の雄叫びを上げながら僕に迫って来るんだ。
狂気。その言葉がぴったりだと思ったよ。狂気に取り憑かれた魔物が僕を狙って殺意を向けてくる。今までこんな状況に出喰わしたことすら無いんだから僕自身も余裕がなくなるのは当然だろっ!?
捕食される側になったという感覚が僕の中で生まれた瞬間、それは起きた。
ゾクリ
体全体が氷のような冷たい手で握り締められた様な息苦しさと、寒気に襲われたんだ。粟立つ感覚を生霊の体で味わうとは思わなかった。それ程大量の殺気を一身に浴びたと言うことだろう。そして僕は久し振りに脳内アナウンスを聞くことになった。
《気配察知を修得しました》
後まで読んで下さりありがとうございました!
わたしの中で、簡単に身に着けれるというイメージが強いこういったスキルは習得(or 修得)までに時間がかかっても良いのでは? と思ってしまったのでこうなりました。
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