第15話 辺境の街へ
2016/12/2:本文加筆修正しました。
2017/8/26:本文加筆・削除修正しました。
朝気がついたら、サーシャちゃんがお腹の上で寝ていた。あぁ、結局上がってきたのね。
で、皆から説明を求められた。とほほ。
『主殿、この仔狐はどうしてここにいるのです!?』
『ルイ様、ツインテールフォックスが何故ここに!?』
『え、いや、その、あのね、昨晩見張りをしてたら、森の外が騒がしくなってね。この娘を保護しました』
(((じぃぃぃぃぃ…………)))
ひぃぃ! 皆の視線が痛い!! 信じてないでしょ、その視線!
『皆様初めまして。サーシャと申します。ルイ様には昨晩危ないところを救って頂き、仲間を助ける手助けをして下さると約束してくださいました。それで、わたしたちはこれより辺境伯の住まう街に出かけます』
と二尾の仔狐が僕の前にちょこんと座ってぺこりとお辞儀をする。
『主殿!?』『『『ルイ様!?』』』
『う、ごめん。いつものお節介癖が出ちゃってね。こういう成り行きになっちゃったの』
『『『『はぁぁぁぁ…………またですか…………』』』』
『う……返す言葉もないです。ごめんなさい』
皆諦めてくれた。いや違うな、呆れただな。でもなぁ~この性格は昔っからだから今更直せないよ。
『じゃあ、仕方ない、わたしじゃ足手纏いになっちゃうからギゼラに任せたからね!』
『うむ、カティナよ。任されたぞ』
は? どういう事? 僕は慌ててギゼラとカティナを交互に見る。
『ルイ様は糸の切れた蜘蛛みたいに何処に飛んでいくか分からないから、お目付け役です!』
いやそれを言うなら、糸の切れた凧でしょ? ん? 凧って異世界にあるのか? じゃあ、カティナの用法が正解なのか?
『一晩寝たら体も軽くなりましたので、街まで一飛びできますぞ、主殿』
いやいや乗ってる人のこと考えようね、ギゼラさん。
そう言われてみれば皆体が一回り大きくなって毛艶が良くなったような気がする。ギゼラに至っては鱗がより水色っぽくなってきたようだ。綺麗な色合いだな~って思う。
『ギゼラ』
『何でしょう主殿?』
『綺麗になったね~』
そう短く言って大蛇の首筋を撫でる。
『なっ!? 何にを※△□○◇※▽!?』
慌てたのかギゼラの言動が可笑しくなった。反応が可愛らしね。ん? 視線を感じる。
『出た。ルイ様の魔物誑し攻撃。あれに耐えれる訳がないわ』
ヘルマが少し離れたところから呟いてる。おいおい何酷い事を。思ったことを言ってるだけじゃないか。
『皆も一晩寝たら体つきも少し大きくなったみたいだし、何だか毛艶が凄く良くなったよね! 触ってて幸せだったよ♪』
『『『『~~~~~~~~~~~~~~♪』』』』
『み、皆様と仲がよろしいのですね』
皆が一様にデレてるのを見ながらサーシャが二尾の仔狐の姿で見上げてくる。何でも人に変われる時間には限りがあるみたいで、必要でない時にはこの姿で居た方が楽らしい。
『そうだね♪ 御蔭で皆と好きなこと言い合えるようになったよ。僕の自慢の家族さ♪』
『『『『~~~~~~~~~~~~~~♪』』』』
なんだろう、今度は皆の視線が暖かい。
『エドガー』
大うさぎの家長を呼ぶ。
『はい、ルイ様』
一際大きなうさぎが近づいてくる。
『緊急時の時だけどね、この森の奥に古城があるからもし身に払いきれない危険が及んだら皆でそこに逃げるようにね』
ぽふぽふと首筋を叩きながら、これからのことを注意しておく。
『分かりました』
『なるだけ早く済ませて帰ってくるつもりだから、後のこと宜しくね! ヘルマとクラムは自分とお腹の子の事を一番に考えて行動するんだよ?』
『『はい、ルイ様!』』
『じゃ、いってきます!』
『『『『いってらっしゃいませ♪』』』』
『ふぁ~なんだか凄いですね~。デミグレイジャイアントさんたちがこんなに慕う方って、ルイ様は一体どんなお方なんでしょう?』
大蛇に跨って手を振る僕の肩に飛び乗ってきたサーシャが耳元で呟く。擽ったいよ。
こうして大蛇と二尾の仔狐と体を着けたレイスは一路、辺境の街フロタニアに向かうのだった。
◇
三日後の夕方、のんびり辺境伯の一団の殿を遠くに見つめながら僕たちは街に着いた。日の沈む方角に街があるということは西、“帰らずの森”が東ということになる。
おお! 僕は今まで真反対だと思ってた……。良かった方向音痴だって突っ込まれなくって。
サーシャちゃんには生理現象と称して距離を取り、実体化を更新しながら何とか辿り着いたと言っていいだろね。
僕は特に何かを食べなきゃいけないわけじゃないから苦にはならないけど、二人はそうはいかない。特に草原に出ればギゼラのお腹を満せる獲物は激減する。御蔭でギゼラはゲッソリしてる。ごめんね。
僕お金もないから、家畜も買ってあげれない。
サーシャのお姉ちゃん、レアという名前らしんだけど、彼女とは日没後街の外で合流することにしてる。まあ、ギゼラが街の中に現れればどうなるか想像するのは簡単だ。それなら待ちましょう!
宿に泊まるお金もないんだからね!
ギゼラはその間に食料を調達して見ると言って飛んでいった。どうやら僕がいるところは分かるみたいで、はぐれはしないらしい。大したもんだ。
辺境の街だけあってちゃんと街壁がある。入り込む場所が少なくなればそれだけ護り易いということだろうからね。数百人は住んでるんだろうか? もう少し多いかな?
!?
『ねぇ、サーシャ。悪いけど、離れて草むらの中で人に化けててくれない?』
この三日間で僕たちはかなり仲良くなれた。御蔭で「ちゃん」付けを外しても良いとお許しがもらえたのは嬉しいね。
『あ、う、うん、ルイも気を付けてね!』
何かを察したサーシャが背中から足元に飛び降りて走っていく。これで大丈夫でしょう。しかし誰だ? あからさまに殺気を叩きつけてくるなんて失礼にも程があるよ?
街の門の方に眼を向けると1人のメイドさんが立っているのが見えた。メイドさんだ! こっちでは本物だね! でも、殺気はあのメイドさんからのような気がするのは?
なんで? 僕メイドさんになにか悪いことした!? ううん、記憶にない。記憶がなくなるほど呑んで粗相をした覚えもないよ。その前にそんな機会は皆無だったけどね! この距離なら5分も待てば着く距離かな。
レアさんが来るのかと思いきや、当てが外れたのか。はたまた不測の事態なのか。うん、ギゼラがまだ帰ってきてなくて正解だったね。
「あ、あの時の侍女さんか」
顔が見える距離になって僕は気が付いた。そう馬車から不埒な騎士の首を一刀のもとにすぱーんと刎ねたスーパー侍女さん。でも、なぜにそんなに殺気を纏ってるんだろう。
「御初に御目にかかります。ルイ様で間違いございませんか?」
「そうですよ」
綺麗な人ですね。蘇芳色の鎖骨まで伸びた癖のない内巻きの髪がオレンジ色の瞳と妙にマッチしていて一瞬見蕩れてしまう程だ。殺気さえ無ければ更に魅力的に感じるんでしょうけど。
「申し遅れました。私、コネリア・フェン・アッカーソン様にお仕えします、ジルと申します」
「それはそれは御丁寧な挨拶、痛み入ります。何分田舎者ですから不調法の段、御許しください」
「まぁ、そこまでご挨拶できて不調法とは、ご謙遜ですわ。(こんなに殺気をぶつけてるのに飄々としてるだなんて)」
腹の探り合いかな? ううっ美人さんに冷たい眼で見られるのはきつい。ギゼラやカティナが人だったらこんな眼で見るのかな? って思うと寒気がする。
「あの、ジルさん」
「はい」
「そろそろその殺気を引っ込めて頂けませんか? 連れの女の子が怖がて出てこれないのですが」
「ルイ様はなんともないのですか?」
「僕? まさか!? 冷や汗だらだらです。ジルさんみたいな美人さんに恨まれること何かしたかかな? って理由を探し回ってるとこですよ」
「身に覚えは?」
「……ごめんなさい。ないんです」
と頭を下げた瞬間にそれはやってきた。ジルさんの抜き手だ。
「ひぇ~~っ!! いきなり何するんですか!?」
足元の影と気配でジルさんの抜き手側、右に回り込んで避ける。
「ちっ! あれを躱すのですか!?」
舌打ちした!? なんでぇ~!? おわ、上手く勢いを使うなぁ! 抜き手の勢いを回転する力に変えて、左の後ろ回し蹴りが的確に顳かみを襲ってくる。スカートがふわりと舞って一瞬見とれそうになるのだったが、不用意な一言を漏らしてしまった。僕の莫迦!
「ほわぁ、白い。はっ!? い、いえ、何も見てないです、はい、決して何も!?」
体を後ろに反らせて後ろ回し蹴りを躱したらちらっと飛び込んできたんだって。
「見ましたわね! お か く ご!」
本気モードはいられたみたいです!? やめてぇ~~!!
「今のは不可抗力! おわっ! ですって! だから、見れたのは嬉しけど! ひゃっ! 見せたのは、くっ! ジルさんでしょう!? おっと!」
流れるような蹴りや抜き手、払いを繰り出してくるのだったが、これなら向こうの世界の師匠の方が怖い。でもいい加減に止めてもらわないと話もできないよね? 投げちゃうかな?
「くっ! なんでこんなに当たらないのです!?」
「そりゃ、当たれば痛いからですよっと!」
話しながら攻撃できるということは、それなりの使い手だ。普通は攻撃する時に吐く息のせいで会話なんてままならない。
「攻撃も、殺気も、全部、受け流されるなんてっ!」
回し蹴りすると、見えますから! 見せたいんですか!? 見えそうで見えないって振りじゃないんだよね? 前蹴りでも見えてますから! それっ!
「だから、見たのは、謝りますから、一先ず、収めて、貰えませんか!?」
「ちっ」
また舌打ちされた!? ていうか、このままだと埒が明かないぞ。
「ごめんなさい! 投げます!」
ジルさんの裏拳を受け、そからの右廻し蹴りをギリギリで躱して背中に回った僕はジルさんの体を投げるために腕を前に回して。
むにゅ♪
「あ……」
「え……」
これ死んだわ。
「きゃああぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!!!」
右の掌に幸せな感触を残したまま意識が飛んだーーーー。
最後まで読んで下さりありがとうございました。
ブックマークやユニークをありがとうございます! 励みになります♪
誤字脱字をご指摘ください。
ご意見やご感想を頂けると嬉しいです。
宜しくお願い致します♪