SS 【戦乙女たちの行進】 羨望と嫉妬
新しい年になりました。
本年も宜しくお願い致します。
早いものでレイス・クロニクルも今日で丸1年です。
皆様のお蔭でここまで続けてくることが出来ました。感謝致します。
では、レイス・クロニクルをまったりお楽しみ下さい。
2017/1/8:本文誤植修正し、加筆ました。
2017/12/25:本文誤植修正しました。
エレボス山脈。東西テイルヘナ大陸を隔てる切立った背骨のような峰を持つ群峰だ。頂に万年雪を冠する尾根も珍しくない。人が立ち入ることを拒絶するその山並みには人では到底敵わぬ魔物も住むという。ルイたちが東テイルヘナ大陸においてエレボスの峰を超え南下する際に出遭った雪豹もそれに含まれる。その山からゆらりと流れ出た黒い雲が、サフィーロ王国の王都に影を落とそうとしていたのだ。
その黒い雲がより大きく視認できる距離に差し掛かった頃には“氾濫”は鎮圧されていた。主に13人の美女たちの手によってーー。
サフィーロ王国の将軍に過剰と言わしめた戦力を歯牙にも掛けない殲滅力を彼女たちは示したのだ。それは当然看過で来るものではなく、驚愕を持って白日の下に曝される事となる。力も特筆すべきものだが、その美貌に多くの男たちが絆されたと言っても良いだろう。緊張感を何処かに放り投げた何人かの勇者たちがアタックを掛けたものの見事に玉砕していた。騎士や冒険者の中にも当然女性は居るものの、男たちの痴態を見た彼女たちは苦笑を持って見守っているようだ。
「綺麗な人だな……」「惚れた」「はいはい、あんたには無理よ」「結局あの娘らに良いとこ持って行かれたのか……」「だが許す」「可愛いは正義だ」「ちっ、死ね変態」「あんたそんな趣味があったの!?」「ウチに欲しいな」「無理でしょ」「御しきれませんって」「公爵たちの知り合いだと」「今の内に仲良くなっておくか?」「お前行ってみろよ」「い、いや、さっきの勇者みたいにオレの心は強くねぇ」「「「はぁ〜〜」」」
人兎族のカティナは種族特性として聴覚が発達している。その兎の耳に嫌な記憶を呼び覚ます声が聞こえていた。
「殿下。どうしたのですか? いつもであれば有無を言わさずに前に出られるはずですのに」「言うな。わたしに構うな」「どうしたのですか? あの人兎族を見てから様子が可怪しいですが……」「なっ!? 違うぞ。断じてそれはない!」「はは〜ん。殿下ひょっとして恋をされましたな」「ばっ、莫迦を申せ!」「女と見れば見境のない殿下に限って」「違うぞ。あいつらにそんな気はサラサラ無い!」「またまたこれは伯爵様に報告ですな」「なぁっ!? いいからわたしに構うな! それとわたしをあいつらに見せようとするな!」「……初々しい」「漸く奥様候補が……」「……長かった」
不機嫌そうにカティナは耳をペタンと畳むと何も言わずにシンシアに抱きつくのだった。彼女の視界にもあのフェレーゴ子爵の姿が入っており機嫌を損ねていたのだが、カティナや皆の手前抑えていたのである。黙ったままシンシアはカティナの体を優しく抱き返す。その様子に黄色い声が響いていたのだが、2人は聞き流すことにした。寒気を感じるような視線を向けられていることに気付いていたからだ。
彼女たち13人は少し離れた所で個別に集まっていたのだが、負傷者や死者はすでに門内へ移されており、戦える者がたちが開けた場所で一堂に会していた。場所は北門と東門の中間辺りだ。魔物の死体の処理と分担を決めるために集まったのだ。それが反って現場を混乱させていたのは皮肉な話だろう。結果として緊張感は霧散していく。
戦場では在り得ない気の緩みが騎士団や冒険者、傭兵たちへ広がり始めた時に一箇所に集まっていた美女たちの中から声があがる。リンだ。顎を上げて飛来する雲のような塊を見ながら、緩んだ空気を切り裂くような鋭い一声を発した。
「皆さん、飛竜の群れが来ます! 迎え撃つ準備を!」
◇
同刻。王都カエルレウス某所にある地下室にて可憐な少女と巨躯を揺らす老執事の姿があった。
1ヶ月ほど保養地にて休んでいたとされるアンネリーゼ・フェン・ゴールドバーグ侯爵令嬢と執事のヨーゼフだ。アンネリーゼは丈の長い白い袖なし外套を身に着けて顔から下がすっぽり覆い隠されている。マントにはフードも付いており、深々と被っている。暗がりですれ違ったのなら特定は難しいだろう。
ーーこぽっ
薄紫色の液体が上部まで満たされた、巨大な円柱型の透明な水槽の中に全裸の女性が浮かんでいる。老執事の持つ油灯に照らされて全身が照らしだされる。妊婦のようなお腹をした女性だ。
ーーこぽっ
その姿はあまりに無残なものだった。美しい容姿の持ち主であった名残はあるものの、全身に血管のようなものが浮き上がり醜く盛り上がっているのだ。太い血管だけでなく細い血管のようなものまで見事に浮き上がって脈動している。時折口元から空気の泡が漏れでているが呼吸をしているという様子は見受けられない。このような状況でなければ撓に実った双丘に目を奪われるだろうが、卑猥さよりも醜悪さが眼に付いてしまう。
ーーこぽっ
その姿を水槽の前に立つ少女と老執事は黙したまま見詰めているのである。老執事の体が揺れていたのは少女が指す部分を照らすように油灯を動かしていたのだ。今も水面を指さされ油灯を持ち上げて見せている。液体の中で水草のように広がる長く伸びた黒髪の更に上部、水面付近になにかが浮かんで層のようになっているのが見えた。
ーーこぽっ
「ふふふ。苗床としては申し分のない素体だわ。ミスラーロフも良い仕事をしてくれます。それに実験も成功ね。丸薬より遥かに小さいものがこれだけ作り出せれば思いの侭ね」
アンネリーゼは眼を凝らして浮かんでいるものを見詰める。それは無数の点の集合体だった。直径が蟹の卵のような大きさであり形状なのだ。色は乳白色をしている。それが卵なのか、種なのか、単なる気泡の集合体なのか分からない。ただ、アンネリーゼにとっては十二分に満足の行くものであったことは確かだ。
踵を返した時に2人の周囲からチャラッと鎖が擦れる音がした。
彼女は薄い笑みを浮かべたまま水槽に背を向けると来た道を戻り始める。その直ぐ後ろにヨーゼフが控え彼女の先を照らすのだった。光が遠ざかってゆく中で水槽の何かに付けられている女性が薄らと双眸を開く。黒い瞳が遠ざかる2つの影を捉えるとその口元が微かに動くのであった。
こ ろ し て
ーーと。遠ざかる油灯の明かりがふっと消える。それに続いて重々しく扉が動いて締められる音が地下空間に重々しく響き渡るのだった。彼女の声は誰にも届かない。再び静寂が地下室を闊歩していたーー。
◇
「皆さん、飛竜の群れが来ます! 迎え撃つ準備を!」
「固まるなぁっ! 散開しろぉっ! 射手と魔法を使えるものは迎撃の準備をせよっ!」「青騎士が大盾で壁を作んだよ! ぼさっとするんじゃないよ! 魔法を使える者たちと射手はその後ろだよ! カール! あんたのは墜ちた飛竜の処理を指揮するんだ! 分かったね!?」「分かりました! いい加減餓鬼扱いするのやめてもらえませんかね!? オレもう50超えてるんですよ!?」「五月蝿いね! 餓鬼扱いをされたくなかったらちゃんと仕事してから口利きな!」
リンの言葉にすぐさま反応したのは2人だ。ゴールドバーグ侯爵とアイーダの号令で騎士や冒険者、傭兵たちが我に返り慌てて動き始める。2侯爵と対等に遣り合うアイーダを恐ろしいものでも見るかのように騎士たちや傭兵たちが見ているが、本人は特に気にした様子もない。
「伝令っ! 王城へ報告だっ! 壁を超えられて王都に入られたら大事だぞ!」「はっ!!」
そんな遣り取りを完全に無視して、アッカーソン辺境白が号令を飛ばす。その言葉に彼の騎士団から1人が馬に跨って駈け出すのだった。
ディードとシンシア、そしてリンの眼にははっきりと飛竜の群れが見えていた。彼女たちには【遠目】のスキルがあるのだ。彼女たちの出した結論は迎撃。その数ざっと50頭。2、3頭の飛竜が飛来しただけで街や村は大混乱になる現状で50頭というのは脅威以外の何物でもない。
「凡そ50頭だ。アイーダ」
カティナを脇に抱いたままシンシアがアイーダに向き直って告げる。ディードとリンが否定しない処を見ると概ね正確な数なのだろうとアイーダは理解した。同時に次善策を立ち上げる。
「3桁迄ないなら余裕だね。サーシャ、シンシアに幻術を頼む。翼を出してもマントを着けてるように見せれるかい?」
「うん、大丈夫。任せて」
「よし、シンシアは直接空で迎撃。ディーは地上から翼の付け根を射抜いてくれるかい? 止めは他の者たちに任せる」
「任されましたわ。あんな蜥蜴地上に這い蹲らせてご覧に入れますわ」
「そうか、頼む。カティナとリンは落ちた飛竜の処置だよ。あいつらの尾には毒針がある。落ちてきたらあんたたち2人で尾を落としていってくるかい?」
「アイーダ姉、任せて」「わ、分かりました」
「リーゼとコレットにはとどめを刺そうとする奴らのサポートだよ。手柄を焦って注意を怠って最期に噛みつかれて終わりってやつがいるからね」
「分かったわ」「承知しました」
「シェイラは呪曲を頼むよ。飛竜たちがあんたに惹きつけられるように奏でてくれるかい?」
「王都じゃなくてこっちに注意を向けさせるって手はずね?」
話が早くて助かる。そんな思いを載せてアイーダはニヤリとシェイラに微笑み、まだ策を告げていない面々に顔を向ける。その横でシェイラがアイテムバッグから弓が変形したような竪琴の両端に刃が付いた楽器を取り出し、それを水平に据えてポロンと絃を弾き始めるのだった。弓が変形したようとはいったが、ディードが持つ巨大な弓に引けを取らない大きさなのだ。それが弓ではないと言い切れるのは、弓なりに反った内側に17本の絃が張られているからだろう。
「アピスは飛竜が地面に落ちたら木魔法で拘束。ギゼラ、ジル、レア、サーシャは風魔法でシンシアとディーがダメージを与えた飛竜を叩き落として欲しい。サーシャはシンシアに幻術を掛けた後で良い。出来るかい?」
「縫い付ければいいのね。分かったわ」「分かりました」「承知しました」「了解した」「うん、分かった!」
「サーシャ頼む」
カティナを解放して金髪を揺らしながら人狐族の末妹の前に立つシンシア。純白の袖なし外套は先程の戦闘で生じたであろう泥飛沫や血飛沫の跡は見当たらない。そのマントの下に漆黒の甲冑が光沢を放っていた。
「うん、じゃあ掛けるね。大きな衝撃を受けたら解けちゃうからそれだけ気をつけて。【虚ろな外套】」
「分かった。後は頼むぞサーシャ」
「うん!」
サーシャの忠告に耳を傾けながら自分の体が見えない魔力に包まれたのを感じたシンシアは、ぽふっとサーシャの頭に籠手を嵌めた手を優しく置いて一撫でする。サーシャの頬が桃色に色づた時シンシアの背中に竜を思わせる一対の翼が現れたのだった。次いでゆっくりと羽撃き始めるとあっという間に空へ飛び立つ。サーシャの幻術のお蔭で翼は見えておらず、風属性の【飛翔】の魔法を使ったと思ったことだろう。
ポロロン♪
その横でシェイラが緊迫した雰囲気を塗り替えるかのように琴を奏で始めた。いつの間にか3本の支柱が琴の裏へ取り付けられ安定感を増している。呪曲とも魔曲とも称される音魔法の真髄は楽器を介した時に発揮されるのだ。音魔法を習得できる者は限られており、英雄譚を歌い歩く吟遊詩人や楽士という職に在る者全てがこの魔法を使えるわけではない。歌声で人を誘い出す魔物たちの中にはこの魔法を用いる輩も居るという。それだけ稀有な魔法なのだ。
「綺麗……」「音魔法の使い手なのか」「彼女たちは何者なんだ」「……いい」「好奇心、竜をも殺すだぞ」「そ、そうだな」「落ち着いて曲を聞きたいわ……」「ワイバーンがこっちに来るぞ!」「あの女性飛んでったな……」「どんだけ規格外なんだよ」「何あの弓……。身体に合ってないじゃない」「ぷーっ! 弾けるのかよ?」
シェイラの隣りにディードが巨大な弓を片手に立つ。それを見て隊列を組み終わろうとする者たちが失笑したのだ。片やシェイラが奏でる曲に耳を立てる者たちも居る。
ビィィン! ザッ! ザッ!
ディードが巨弓の握を左手で持ち、弓弦を弾いて感触を確かめ、先端が杭のように尖った矢筒をアイテムバッグから取り出し地面に突き刺す。その数、2本。1本あたり30本前後の矢が補充されているようだ。ディードが弓弦を苦もなく弾いてみせた事で動揺が背後で起こっていた。華奢な細腕をした少女が巨大な弓を使えるというのだ、驚かないほうが可怪しいだろう。矢それ自体にしても普通の矢と比べると倍近く長い。材質も木とは違う感じもするが詳しくは判らない。
「お、おい、届くのかよ」「まさか!?」「魔法でも無理だろ」「あれ届くんだったらオレ等要らなくね?」「それいったら私たちもでしょ。魔法放つ前にやられちゃうんだから」「違いない」「美しい……」「美人揃いだな」「手を出しても返り討ち確実だろうけど……」
ぴゅるるるるるるるるるーーーーーっ!
鏑矢がディードの巨弓から一直線に放たれ飛竜の翼の付け根を切り裂く。
ガァァアアァァアァァァッ!!
蕪の音に驚く飛竜は回避を忘れディードの良い的に変わった。続けざまに放たれる恐るべき威力の矢が次々に飛竜の浮力を奪い高度を下げさせる。
「ふっ。わたしも負けては居れぬな」
その様子を上空で眺めていたシンシアも翼を羽撃かせて飛竜と鏑矢を縫うように空中を滑空し、白刃を煌めかせる。
四半刻もしない内に殆どの飛竜が高度を落とすか、浮力を保ちきれずに大地と口付けを交わしていた。そうした個体にライラック侯爵率いる騎士団や傭兵、更には冒険者たちが群がっていたのだ。
「尾が切られてる」「まじか……」「相手はワイバーンだぞ?」「お前一人でワイバーンの尾が切れるかよ」「近づいても尾で弾かれるに決まってるだろうが」「そうだよな」「……じゃああれは何だよ」
彼らが眼にしたのは、飛竜の尾だけを一刀のもとに切り落としてゆく2人の美女の姿だった。褐色の肌をした灰色の短髪から兎耳を出している人兎族と、灰褐色の長い髪を風に靡かせながら眼で追えない動きをする2人に言葉を失っていたのだ。
「尾がなければ恐れるに足らん! 蔦で抑えられている内に首の長さを考えて下半身を狙え! 経験の少ないやつは正面に立つな、死ぬぞ!」
ライラック侯爵の号令に皆ビクッと肩を震わせて現実に戻る。その頃には彼女たちの姿は消えていた。
「「「「【風の潰圧】」」」」
「えっ!?」「あれで【風の潰圧】!?」「嘘だろっ!?」「【下降噴流】じゃねえのかよ!?」「在り得ない」「何よあれーー」「4人でワイバーン叩き落としちゃったよ」「あんな力が有ったら……」
【風の潰圧】は風属性魔法の中でLv30に取得するものだ。対する【下降噴流】はその上位版とも言っても良い範囲の広さと威力を誇る魔法で、Lv300で取得可能となる。それ故に先程のような驚きが生まれるのだ。
そもそもこの世界の魔法は魔力を込めれば低レベル魔法でも威力を増し範囲を広げることが出来る事が知られている。加えて低レベル魔法でも、スキルレベルが上がることによって単数発動であったものを複数発動できるようにもなるのだ。侮る事なかれ。その現実と力の差を見せつけられている者たちにとっては屈辱と苦痛、羨望と嫉妬を感じざるを得ない状況だと言えるだろう。
「あんたたちも何をぼさっとしてるんだい。撃ち落とせなかったと悄気る暇があるんだたったら殲滅戦に行ってきな! 他の奴らに経験値を取られて階位を上げ損なっちまうよ?」
「「「「「「「「「「「ッ!!?」」」」」」」」」」」
暗い感情が浮かぶ視線を美女たちに送り始めていた矢先に、アイーダが残っていた者たちに発破を掛ける。すると何かを思い出したかのように慌ててとどめを刺しに回っている者たちの後を追うように駈け出すのであった。「やれやれ」と言った感じでアイーダは肩を竦めると、鼻から息を吐き、アイーダは口元を歪める。人間の弱さを身を持って経験しているアイーダだからこその対処法だろう。
「ふぅ、これで終わったかしら。手柄を残すのも骨が折れますわ」
矢筒を地面から引き抜いて土を落とすと、ディードは矢が残っている矢筒を腰に掛け空をアイデムバッグへ戻すのだった。リーゼやコレットの姿が遠くに見える。支援は必要ないと見切ったのだろう。カティナとリンもアピスに纏わりついて戻って来ている。
「まだだ!」
「「「「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」」」」
残心させながらもそろそろ大丈夫だろうという思いが頭を擡げてきた時に、頭上から怒気を孕んだシンシアの声が響き渡る。何事かと見上げた先に居るシンシアの視線は自分たちの方ではなく、エレボス山脈の方に向けられていることに気付く。何かが来るということか? そんな思いが地上に居る12人の脳裏を過るのだった。
「悪食が来る!」
「あくじき?」
「正しい名前は知らん。我々の間ではヤツのことを悪食と呼んでいるのだ。飛竜の変亜種だと思えばいいが、奴らには眼がない。すまんがあれはわたしだけで殺らせてもらいたい」
「天敵?」
「いや、奴らが存在する周辺は根こそぎ生在る者が喰われるのだ。生きるための狩りは我らとて行うが奴らは際限がない。被害が広がる前に駆逐するのが竜種としての我らの責務なのだ」
カティナとリンが首を傾げるのだったが、2人になるだけ分かり易く説明をするシンシア。シンシアが言うようにこちらに向かって不快な何かが近づいて来ている。悪食というくらいであれば、死体もいける口なのだろう。この周辺の飛竜は死にたてホヤホヤだ。それに加えて解体作業を始めた騎士団や冒険者、傭兵たちも多数この周辺にはいる。抛っておけば被害は広がるだろう。尤もシンシアはそのつもりはないようだが。
「仕方ないね。シェイラ、レア、サーシャは城壁の上にできるだけ大きくて広い目隠しの幻を作ってくれるかい? 王都の連中にシンシアの姿を見せたら度肝を抜いてしまうからね」
「それもそうね」「混乱は避けねばな」「うん、分かった!」
アイーダに促されて王都を取り囲む城壁の下に辿り着いた3人が幻術を掛ける。
「「「【欺く壁】」」」
キィィィイィィイィィィ――――ン
そう唱え終えた瞬間に耳が痛くなるほどの高音が空気を切り裂く。耳を抑えながら慌てて振り向く3人の眼にもそれははっきり見えるほどの大きさになっていた。先程の飛竜の倍はあろうかという大きさの翼竜がこちらに向かって飛んできている。浅緑色の皮膚だが鱗は見当たらない。額から一角馬を思わせるような一角が額かあ突き出ているが、顔は鰐を思わせるような平べったさが際立っている。眼らしきものは見当たらない。シンシアの言う通り眼がないのだろう。
「行ってくる!」
シンシアは短く眼下の仲間に目礼して浅緑色の翼竜に飛びかかるのだった。
2人が重なる瞬間、閃光で視界が遮られたと思うと、2種類の咆吼が周辺の空域に轟くのだった。絡みあう巨大な黒竜と盲目の緑竜。撒き散らされる怒気と威圧。経験のない者たちがそれに耐えれるはずもなく、気が付くとそれらに当てられた者が1人また1人と草むらと血の海に倒れ込むのだった。それを騎士たちが助け起こし木陰へと避難する。
ガァァァァァァァァッ!! ギャオォオォォォォッ!!
羽撃き、響き渡る吼え声、肉体が、魔法がぶつかる音、それら全てはこの戦いに人が軽い気持ちで水を差して良いなどと一欠片も思わせない迫力がある。それは地上からシンシアの戦いを見守る12人の情勢たちも例外ではなかった。ただ、彼女たちの脳裏にあったものは怯える者たちと同じではなく「シンシアを怒らせないようにしよう」と言うものだった。彼女たちらしく微笑ましい逸話であったと言えよう。
|血腥さが立ち籠める森と草原の上空、激しい巨獣たちの戦いが空中で繰り広げられている頃、太陽は西に傾き始めていたーー。
後まで読んで下さりありがとうございました!
思いの外SSが尺を取ってしまいましたが、もう1話SSを挟んで本編に戻る予定です。
……戻れるのかな? い、いえ、戻してみせます!_φ(..;)
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