SS 【戦乙女たちの行進】 死の風
お待たせしました。
今回も説明文あります。
まったりお楽下さい。
2017/1/8:本文誤植修正しました。
“青き貴婦人”と讃えられるサフィーロ王国王都カエルレウス。その頭上に輝く櫛冠のように聳える王城にて、騎士たちが慌ただしく報告に勤しんでいた。騎士たちは息を切らして駆け込んで来るが、報告を聞く者たちはその場で静かに耳を傾けるだけだ。
報告を受ける者たちは正面の玉座に座す王、右の武官6名、左の文官5名。
「申し上げます! 南門はオーク! 数は凡そ200! 対するはアッカーソン辺境伯爵率いる茨騎士団40騎と青騎士300騎、南区冒険者71名であります!」
「申し上げます! 東門はゴブリン! 数は凡そ300! 刃狼100! 対するはライラック侯爵率いる紫虎騎士団70騎、青騎士300騎、凡そ傭兵150名であります!」
「申し上げます! 北門はコボルト! 数は凡そ300! ミノタウロスと思しき敵影3頭! 対するはゴールドバーグ侯爵率いる金牛騎士団90騎、フェレーゴ子爵率いる黄猪騎士団30騎、青騎士200騎、北区冒険者63名であります!」
青騎士。それは王都と王城を守るために組織された選り抜きの守護騎士団のことだ。青騎士団に入団した者には青く染められたマントと、馬の尾毛を切り揃え頭頂から後頭部へ扇状に広がる鶏冠飾りの付けられた兜が下賜される。この毛が青く染められているという理由から、青騎士と呼ばれ始めその名が定着したのだという。
「エーレンフリート」
「は」
王の声に、右列の玉座側から2番目男が玉座に向き直り頭を垂れる。180㎝ほどの背丈だろうか。癖のある金髪を短く刈っている所為なのか精悍に見える。
「五柱将軍の筆頭であるお主の意見を聞きたい。この“氾濫”どう思う?」
「恐れながら申し上げます」
「うむ」
「過剰な戦力かと存じます」
「ほう」
「魔法師団を派遣していないのは僥倖でした。青騎士も更に半数減らしたとしても対応できるレベルでしょう」
「その根拠は何だ?」
「は。オーク共は速度がありません。森の中とは言え良い的です。ゴブリンやコボルト共は数こそ居ても殲滅まで時間は掛かりますまい。ブレードウフルが機動力があり厄介ですが、注意すべきはそれぞれの“氾濫”の中に王が居るかどうかです。他の戦力で道を整えそこを青騎士が叩けば問題ないと存じます。これが桁1つ違えば大変なことになりますが……」
身振り手振りを踏まえながら持論を展開するエーレンフリート。彼の右隣に並ぶ4人の男と1人女性はその意見を聞いて頷きながら聞いている。ただ1人エーレンフリートの左隣に立つ男と、向かい側の文官5人は微動だにせず、黙したまま耳を傾けていた。
「……ふむ。其の方の申す通りに事が進めばそうであろうな」
少し間を置いて王は白い顎髭を触りながら双眸を細める。何処か煮え切らないような響きの篭った言葉にエーレンフリートが眉を寄せながら伺う。
「恐れながら申し上げます。陛下はそうならぬとお考えなのですか?」
「其の方の通りに事が運ぶとも、運ばぬとも言い切れるだけの要素が手元にないであろう? 久しく戦がなかった故、非常時に物柔らかな思考を持つことの大切さを説く者が減ったのは嘆かわしい事だな」
「「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」」
耳の痛い言葉に左右の臣は目を伏せる。それをジロリと見渡すと王は大きく溜息を吐くのであった。
「時にエレクタニアの者が今王都に居ると耳にしたのだが、真か? ルイが来ておるのか?」
「そうではありません、父上」
右列の玉座側から1番目男が玉座に向き直り頭を垂れる。
「何? 違うのか? テオドール、発言を許す」
テオドール・フェン・ヴァレンティーノ。サフィーロ王国大公であり、国王ゲオルグの息子である彼は、父親とは違う強い癖のある群青色の髪で耳を隠している。二重で大きな目の奥に光る紺碧色の瞳には悪戯っぽい色が浮かんでいた。
「ありがとうございます。ルイは来ておりません。今東テイルヘナ大陸に居ると聞き及んでいます」
「何と……今度は東か。ふはははは。引き籠りたいと宣っておった割りには何とも忙しい事だな」
ルイの人となりを覚えていた王は楽しげに笑うのだった。王の中で好印象の人物なのだろう。
「然様でございますな。それで王都に居る者たちですが、ルイの臣たちのようです」
「ほう」
息子の言葉を勘繰るように両眼を細る。
「自分が戻るまでには時が掛かるだろうからそれまで好きにするようにと言われ、冒険者として今ここで活動しているとか」
「誰か接触を持ったか?」
「フロタニアと隣接していることもあり、アッカーソン辺境伯爵と懇意にしているようです。この度の経緯も辺境伯を通して知り得たものです。その他からの接触は無いかと思われます。ただ1つ気になることが」
「申してみよ」
「は。先日ゴールドバーグ侯爵家令嬢アンネリーゼ・フェン・ゴールドバーグが一時行方知れずになった事があるという情報があります」
「初耳だな。詳しく申せ」
「は。表向きには保養地にて休養をして来たと言うことになっておりますが、誘拐されていた節があります」
「事の顛末は?」
幾分、父の言葉の端に棘をテオドールは感じ始めていた。報告が上がってきていなかったということもそうであろうが、自分の膝下で蛮行を見過ごしていたということに憤りを感じているのだろう。息子は正確に父親の感情を見抜いていた。それ故に続く言葉を素早く紡ぎ出す。
「野盗団の首を持ち帰ってきた事で解決済みと認識しております。野盗団の頭には逃げられたそうですが……」
「ふむ」
「その際に囚われていた者たちの中にアンネリーゼが居たとか」
「詳しいな。見てきたようではないか」
間髪入れずに息子を問い質す。ここでの沈黙は家臣に疑念を抱かせかねぬと判断したのだろう。
「明確に攫われていたと断定できる証拠がないのですが、集めた情報を纏めて推察するとそうとしか言えないのです。その野盗団を屠ったのが」
「エレクタニアの者らということか」
「然様でございます。見目麗しい13人の麗人が南門でそう報告しております」
「ほう」
「皆ルイのお手付きでしょうから、変な気は起こさぬのが得策かと愚考します」
「……つまり、娘を助け出した礼と称してゴールドバーグ家が後々接触すると?」
息子の言葉を瞬時に思い巡らせたが、少しの沈黙が謁見の間を支配する。息子の言わんとすることを汲み取ろうとしたのだ。自分の言葉と絡ませて導き出した言葉を口にすると、息子は小さく頷いて報告を付け足すのであった。
「特にアンネリーゼが人狐族の者らに執心だったと聞き及んでおりますれば、眼は必要かと」
「ふむ。相分かった。この際皆にも申し伝えておく。エレクタニアの者らを臣に迎えることは許さぬ。本人の意志があれば考慮せぬもないが、それ以外にも細心の注意を払わねばならぬ契が我が国とエレクタニアにはある。反故には出来ぬ。そうなれば害を被るのは我らだけだ。ここに居るものだけでなく、全ての家に周知徹底させるように。良いな?」
「「「「「「「「「「「は」」」」」」」」」」」
勅命に11名の臣は右手を心臓の辺りに当てて恭しく頭を垂れるのだった。その内の1人に王が声を掛けると頭を垂れた姿勢のまま、体を王の方に向き直す。
「ベルナール」
「はい」
「この件を書面に起こして各当主宛に書状として持たせよ。その際、その場でこの命を読み、当主のサインを貰って書状を持ち帰るように。代読・代筆は認めぬ」
「畏まりました」
更に深く頭を垂れる文官の薄藍色の短髪に白髪が混ざっているのが見える。御辞儀から身を起こそうかとした瞬間、ピクリとベルナールの体が身動ぎ青色の瞳が下座に視線を飛ばした。慌ただしく3名の騎士が駆け込んできたのだ。
「「「申し上げます!!! 南門で戦端が開かれました!!」東門で戦端が開かれました!!」北門で戦端が開かれました!!」
◇
同刻、王都南門。
ドオオオオオオオオン!! ブギィィイイイイイイイッ!!
連続する爆発音と爆炎。立ち込める土煙と血腥い焼けた肉の臭い。そして豚に似た絶叫と人間たちの雄叫びが周囲を満たしていた。
「魔法を使える者と射手は後方へ下がれぇっ!!」「白兵戦だ!!」「茨騎士団は左翼に回るぞ!!」「青騎士の前に出るなよーっ!!」「冒険者どもは右翼だ! お前ら、気合入れろぉーーっ!!」「おおおおーーっ!!」「「「突撃ぃぃっ!!」」」
オーク。錆青磁色の皮膚と脂ぎった黒髪をした人型の魔物だ。顔は猪の顔をぎゅっと押しつぶしたようなもので、豚鼻は人と同じうように下に向いている。背丈は平均2m前後。体重は100kg前後ある。馬鹿力と比較的低い知性を併せ持つオークだが、人間との違いはその振る舞いだろう。オークは暴力的かつ攻撃的に物事を解決しようとする。事実、最強の者が恐怖と蛮行をもってそれ以外の者を支配する生態だ。欲しいものを力ずくで手に入れ、虐殺するか、連れ帰れるようなら村まるごと奴隷にする以外のことなど考えもしない。それが200体、武器を手に肉の波となって雪崩れ込んで来たのだ。脅威以外の何物でもないだろう。
ーー阿鼻叫喚。
数の暴力に知略と数で対抗するも、オークと人間の力の差は歴然であり、エーレンフリートの読み通りには事は進まないようであった。数の上で人間側が有利だとしても押し返され、拮抗しているのだ。魔法を使える者たちは完全に距離を置くのではなく後方から補助魔法で援護し、射手たちは乱戦の隙間を縫うように一助の矢を放っている。経験の浅い者たちは、手の届く範囲で負傷した者たちを戦場から城門付近へ担ぎ帰る仕事に借り出されていた。どれも命懸けだ。
ーー叫喚呼号。
その様子を少し離れてみている4人の美女の姿があった。
エリザベス、コレット、ディード、リンだ。騎士たちが駆る普通の馬よりも体躯の良い2頭の輓曵馬に2人ずつ跨がっている。リーゼとリン。コレットとディーだ。彼女たちは合図を待っていた。流れを確実に人間側へ変えるための合図を。
「居たぞぉーーっ!!」「オークキングだっ!!」「ジェネラルも居やがるッ!!」
ドーン!!
「行くわよっ!」「分かりましたわ」「「はいっ!」」
その時南門の上空に火炎球が放たれ爆発する! それを確認した4人は馬の腹を蹴り森の中を駆け抜ける。白いマントを靡かせて馬を駆る彼女たちは凍てつく死の風になるのだったーー。
◇
同刻、王都東門。
紫の縞模様の白虎が描かれた甲冑を身に着けた男たちによって慌ただしく集まった騎士や傭兵たちに指示が出されている。門の前にある本陣らしき場所に、癖のある白髪が混ざった赤銅色の髪を短く刈っている中年の男が腕組みをして佇んでいた。緑色の瞳から放たれる鋭い眼光と男の醸しだす雰囲気がお飾りの大将ではないことを周囲に知らしめているようだ。
質実剛健と称されるカール・フェン・ライラック侯爵その人である。
「風属性の魔法を使える者は一列に並べ! 奴らがここに来るまで時間はまだある。焦るな!」
「合図に合わせて【烈風刃】を唱えたら後方に移動。事前の打ち合わせ通り班に分かれてMpの消費に合わせて補助魔法を掛けよ!」
「弓兵は【烈風刃】が放たれたのを合図に一斉射撃! その後、打ち合わせ通りに各班に分散して魔法使いの護衛と刃狼への攻撃を優先!」
「青騎士は重盾で壁を作って正面で受け止めよ! ぶつかったのを合図に右っ腹を我が紫虎騎士団が突く! 傭兵団に左を頼む!」
「両側の牙が喰い付いたら殲滅だ!」
「「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおーーーっ!!!!」」」」」」」」」」」
雄叫びを上げる兵たちの声を切り裂くように、ライラック侯爵の下に伝令が飛び込んで来る。
「距離、凡そ50!」
その言葉に侯爵は右手を掲げ、号令と共に振り下ろしたのだった。
「放てっ!!」
ーー紫電一閃。
魔法によって創りだされた刃渡り1m程の見えない三日月形の刃が、迫り来るゴブリンや刃狼の間を吹き抜ける。何が起きたかもわからないまま駆け抜ける魔物たちの頭上へ、風切音と共に撃ちだされた矢の雨が降り刺さった。当初の予定通り魔法を打ち終わった者たちは盾を構える者たちの壁の隙間を抜けて後方へ移動する。
ギャアアアアアアアアー―ッ!!
血飛沫と断末魔が大盾を構える騎士たちの眼前に響き渡る。数は多いとは言えゴブリンの戦力は高が知れている。1mに満たない背丈で、膂力は人と比べて大人の男性並みだ。魔狼を飼いならし騎乗する文化があるものの、今回のケースではダイアウルフの亜種であるブレードウルフに跨る者は見受けられない。そこからは殲滅戦の始まりだ。ものの四半刻も経たない内に体勢が決したように見える。
ーー屍山血河。
魔物たちが一方的に屠られていく様子をやや離れたところから見詰める4人の美女の姿があった。
シンシア、アスクレピオス、ギゼラ、カティナだ。リーゼたちとは違って馬には乗っていない。遊撃隊として出番を待っていたがその必要もないかも知れないと思った矢先だった。前方の気配が大きく膨らむ。
「どうやらゴブリンは心の隙を突く呼び水だったようだな。征くぞ」
ドォォォ――ン!!
シンシアの掛け声を打ち消すようにゴブリン側から火炎級が10発近く撃ちこまれ、着弾とともに肉片や泥砂礫が爆炎と共に飛び散るのだった。
「魔法使いが居るようだな! カティナはメイジを優先的に頼む。アピスは足止めを、ギゼラはアピスのサポートを!」「分かった、シンシア姉」「任せて」「分かりました」
「オーガだっ!! オーガが出たぞ!!」
そんな声を背に雑木林と草原の重なる戦場を白いマントをはためかせながら3人は駆ける。カティナの姿は既にない。彼女たちは戦場を切裂く死の風になるのだったーー。
◇
同刻、王都北門。
「な、何だあれは!?」「ひ、火柱!?」「どういうことだ!? 他にも伏兵が居るのか!?」「北区の冒険者はここに揃ってるぞ!?」
北門前に陣取る騎士たちや冒険者たちの口から状況が飲み込めてない声が上がっていた。事前の打ち合わせにはない出来事と言うことだ。それも北門の防備を固める面々からは説明を求める視線が現場の責任者であろうゴールドバーク公爵に注がれていた。
2m近い背丈に100kg近い体重の偉丈夫は、腕を組み口を固く結んだまま眼を瞑っている。戦場においては歴戦の騎士と名高いボニファーツ・フェン・ゴールドバーグ侯爵。齢58にしても筋肉の鎧はその強度を保っているようだ。茸を思わせる髪型だが強面で人前で笑うことはない。だがここ最近では末の娘にダダ甘らしいともっぱらの噂だ。知らぬは当人だけ。
もとい。眼を閉じたまま微動だにしない侯爵たちの眼前であり得ない光景が広がっていたのだ。3方から5m程の火柱が燃え昇ったかと思うと、その延長線が交わる辺りに竜巻が生じたのである。それが火柱の火を巻き込み始めたたかと思った次の瞬間、さらに巨大な天に昇る炎の竜巻のような昇り渦に姿を変えたのだ。その長さは30mを越えるだろうか。
この現象をボニファーツは知っていた。否。正確には伝え聞いていた。
ーー戦略型殲滅魔法【炎竜巻】。対象となる大群を【火柱】で取り囲み、中央部で巨大な【竜巻】を引き起こす。大規模火災の現場で起きる現象を魔法で人為的に創り出す連携魔法だ。小規模ではあるが目の前で起きている現象がまさにこれなのである。一体誰が……? その疑問の答えを黙したまま探していたのだ。
この状況を創り出した原因は立ち上る炎の竜巻の近くに居た。5人の美女の姿がある。内4人は火耐性があるのだろうその熱を前に平然としているが、1人だけ少し距離を置いて立っていた。
アイーダ、シェイラ、レア、サーシャ、そして離れて立つジルだ。
「良いかい、この魔法はこの人数でもこれだけの威力があるんだ。だから殲滅魔法って言われてるんだけどね。間違っても森の中や密閉空間で使うんじゃないよ」
「火事になるから?」
「それもあるけどね、一番は仲間も巻き込んじまう危険があるのさ。燃えやすいものが傍にあると引火しちまうからね。この状況がもっと酷くなる。密閉空間てのは洞窟とか地下室だよ。こいつに空気が吸い込まれて窒息するらしい」
サーシャの問いにアイーダが説明を加える。
「らしい?」
「あたしもこの中に入ったことがないからね。聞いた話さ。その状況で生き残れるのは火耐性を持つ火棲生物くらいのもんさ。火の勢いが強けりゃアンデッドでも燃えちまうだろうからね。火が消えたあとに見たら窒息で死んでた奴が居たそうだ。分かったかい?」
アイーダの背中にジルの声が届く。アイーダにしては歯切れの悪い言葉であるのが引っ掛ったのだ。肩を竦めながら答えるアイーダの前でますます炎の竜巻は勢いを増して天高く伸び始める。
「でも、制御できないと意味ないでしょ?」
「良いところに気が付くじゃないかい、シェイラ。今から実演してあげるから見てるんだよ。ジル」
「はい」
「もう一度【竜巻】を頼むよ。発現位置は、今立ち昇ってる炎竜巻の先端だからね」
「……やってみます。【竜巻】!」
新たな竜巻が上空に現れ、更に渦巻く炎を巻き上げていく様子を北門の前で集まった者たちが見上げていた。火災旋風とも言うべき炎がその新しく現れた竜巻に吸い上げられて、地表面に炎が無くなったのだ。火の気が無くなって初めて惨状が明らかになる。焼け焦げた大地、樹木、先程まで生きていたであろう魔物たちの炭化した無数の亡骸。風に乗って肉の焦げた臭いが騎士たちや冒険者たちの鼻を刺激し、我に返った彼らはゾロゾロと足を向けるのであった。
ーー死屍累々。
「こりゃひでぇ……」「こんなになるのかよ」「うえぇっ!」「おい、無理すんな」「あいつらがこれをしたってのかよ」「……恐ろしいな」「アイーダ様!?」
あまりの状況に現実を受け止めきれないでいる面々の中で、5人の美女の1人に気が付く者が居た。
「おや、ボニじゃないかい? あんたがこっちの大将だったのかい? 悪い事したね。手柄を横取りしてしまったよ」
駆け寄ってくる金牛の意匠が施された鎧を騎士たちとゴールドバーグ侯爵の姿をアイーダは視界に捉えていた。眼の前に息を弾ませて来た侯爵に、アイーダは頭を下げることなく謝罪する。騎士たちが気色ばむも、侯爵が手で制す。
「良いのです。アイーダ様が居て先程の戦略型殲滅魔法であれば納得がいきました。この者たちは? アイーダ様の弟子ですかな?」
「ふふふ。教え子というのも間違っちゃいないけどね。正しくは妾仲間ってところかね」
「め、妾ですと!?」
「まだ妻だと言ってもらえてないからね。今の時点ではそうだろうさ」
侯爵の反応を楽しそうに見ながら、チラリとシェイラたちの方に目を向けるとうんうんと首を縦に振っているのが見えた。殺伐とした戦場が和みかけた時、騎士の1人が東の空、エレボス山脈の峰を指差して叫ぶ。
「何だあの黒い塊は!?」
皆が見たそれは黒い雨雲のように見えたが、周囲に雨雲はなく部分的に小さく掛かる雲としては不自然過ぎる動きをしているのだ。東の空に蠢くそれは、不気味にうねりながら雲散することなく王都に近づいていたーー。
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