第141話 絡まった糸を解く
遅くなり申し訳ありません。
まったりお楽しみ下さい。
「沈黙は許さぬ。疾く答えよ。ロミルダ、お前はいつから息子が先祖返りであることを知っていた?」
おっと、マテウスってロミルダさんの息子だったの!? って言うことは眼の前に居る僕は息子の仇。何て言うか、1ヶ月少々付き合いがあると悪くは見えないんだよな。でもまぁ、ここはミカ王国で僕は部外者だから王の裁きに口を挟むつもりはさらさら無い。聖人君子じゃないからね。
王様から問い質されてロミルダさんは戦々恐々だ。片や老いたるも武人。片や王女付きの老侍女。誰がどう見ても王様に歩がある。手は出せないでしょ。
「は、半年前からでございます」
「何? クリスが拉致された時にはお主はそれを知っていたというのか?」
「さ……然様でございます。陛下」
「待て。それは息子の状態を知った上でクリスを攫ったということだな?」
「ーーっ!」
更に威圧が増したことでロミルダさんの体がビクッと揺れる。只さえ公開処刑的な場面で精神的に来てるだろうに、それに輪をかけては辛いな。話せるのか?
「沈黙は許さぬと申したはずだ。次はない」
「御慧眼、畏れ入りました」
「最後に問う。計画を立案し実行に移すように促したのは誰だ?」
おっと、口では厳しいことを言ってるけど逃げ道を作ったな。死んだ息子の所為にするか、死してなお息子の名誉を守るか。息子の名誉って言っても王家に手を出してる時点で死罪だけどな。どの道ロミルダさんには息子の名誉を挽回する余地はない。自分の首も危ないのに……。
「畏れながら申し上げます」
「許す」
「む、息子が先祖返りだと証明したのは、ま、魔族でございます」
「何!? 詳しく申せ」
おっと斜め上から答えが来たな。そう来たか。誰を犯人に仕立てあげる? 反応を見ている内に侍従や侍女たちが担架であろうものを運んできた。豪華な布が敷いてあるところからすると、王族に気を遣ったという感じだな。フェナとカリナに付き添いを頼んでおくか。
「僕はここをまだ離れられないから、フェナとカリナ済まないけど付き添いを頼む。後で追いかける」
「承知しました」「分かった」
王様も運び出される娘に一瞬だけ視線を移したけどすぐにロミルダさんに戻す。クリス姫とアレンカ姫、ジルケとイエッタも後に続くのが見えた。ここに残ったのは僕、ラドバウト、ゲルルフ、ナハトアにドーラか。
「1年前、息子が修行から戻ってまいりました。何処で学んだのかと言うことは問うても教えてくれませんでしたが、魔術師としての能力は秀でたものとなっていると分かりました。それで、宮仕えとしてその力を発揮できれば国のためになると薦めたのが始まりでございました」
「1年前か。わしにも覚えがある。その頃には何も顕現してなかったのであろう? 何故半年前にそうなった? 半年前といえば宮廷魔術師の団員に推挙された頃であろう?」
「はい。その通りでございます」
「晴れて宮廷魔術師の一員となった息子の下に、息子の師と名乗るものが現れたのでございます」
「それが魔族だと? 何故魔族だと分かった?」
「よ、横に広がるような角と蝙蝠のような翼、す、砂蜥蜴のような尾が生えていたのです」
魔族は魔族でもその特徴は悪魔だな。アイーダも素は似たような姿だったし。ロミルダさんの話を聞きながら全裸のアイーダをつい想像してしまい、慌てて首を振る。相手は上位悪魔だ。下位悪魔には翼はない。あるのは角と2対の腕だ。
「むう。その特徴。其奴は悪魔に相違あるまい。まさか悪魔に魅入られておったとはーー」
ロミルダさんの言葉にショックを隠し切れないのか王様は左手を口元に当てて、暫く沈黙していた。確かに上位悪魔の力は侮れない。アイーダと模擬戦をしてもらったが力も魔力もかなりあった。アイーダの場合は格が上がったばかりだったからそれ程の変化はなかったみたいだけど、長くその地位に居る者は侮れないよな。
「その者の名は?」
辛うじて口を開き質問を続ける王様。確かに一番の手がかりは名前だ。偽名じゃなければ……だけど。
「た……確か、み、ミスラーロフという名前だと息子が申しておりました」
「ミスラーロフ!?」「ルイ殿!!?」
その名前に思わず僕は反応してしまう。思わず出た大きな声に王様も驚かせてしまった。恥ずかしっ。只、もしかして……という思いのまま話を聞いて頂けに予想通りの名前が出て来て吃驚したんだよね。話の流れが出来過ぎてるから誰かの入れ知恵が在ったはず、と思ってた処にこれだ。さてどうするかな。
「陛下。僕が質問をしても良いですか?」
「許す」
「ありがとうございます」
これで越権行為を責められることはないな。王様の斜め前に出てロミルダさんへ質問することにした。もしもが在ってはいけないんだけど、念の為の立ち位置だ。
「ロミルダさん。先祖返りというものは普通生まれた時点でその特徴が顕れていたはずです。息子さんが赤ちゃんの頃そういう他と異なる特徴がありましたか?」
「…………いえ」
やはり。少し間を開けてなんとか紡ぎだした否定の言葉に、僕は自分の中の仮説が正しかったな、と自己満足することが出来た。この時点では周りの人たちが消化不良になるからここでは終われないんだけどね。
「つまり、人為的に先祖返りが創りだされたということですね」
「何!? ルイ殿それは本当か!?」「「っ!?」」
王様やこの国の人たちにとってこの現象は由々しき事態なんだろうけど、外国人の僕たちからすれば彼らのような危機感はない。だから冷静で居られるんだけどね。
「ーーっ!?」
ロミルダさんも思い当たる節がありそうだな。ミスラーロフ、【技量の血晶石】、僕のアイテムボックスに収まっているフロタニアで回収した【凝血の呪器】と【凝血の呪液】、それに先日の【キメラ】の存在……。バラバラになっていたピースを纏めていくと1つの結論が僕の中で導き出される。それはーー。
「まず始めに僕はそのミスラーロフという男を知っています。そしてそいつが行った命をゴミとしか思わない所業の数々もです。それを踏まえて今回のケースを鑑みるに、ロミルダさんの息子はあいつが進めていた人体実験の最終被検体とされたのでしょう」
「えっ!? 人体実験!? そんなーー」
「あなたの息子は言葉巧みに唆された。“悪魔に魅入られた"という言葉の使い方が正しいのか判りませんが、出世欲、権力欲、家族への愛……、色々なものが不幸にも都合よく合わさった結果なんでしょう。丁度その時に甘い言葉と力が手に入る手段があった。その結果がこれです」
「そ……そんな……う、ううぅぅっ」
僕の説明にロミルダさんは両手を絨毯に突き、崩折れるのだった。あわよくば道連れにとでも思っていたのかもしれないな。その決意を圧し折るくらいに衝撃的な内容だったという訳だ。それにしても……と思考が漂う。問題はどうやって人工的な先祖返りを起こせたのか、なんだよな。色々と思惑の糸が絡まってる。どう解く。
「ーーの。ーー殿」
「ルイ様! 王が御呼びです!」
「あ、ごめん! 申し訳ありません、陛下。少しぼーっとしておりました」
王様の呼び掛けに気付いていなかった僕はナハトアの声で我に返る。ほんの数秒だけど思索に沈んでいたようだ。慌てて王様に向き直って小さくお辞儀をする。家臣じゃないから礼節は最低限でいい。それにしてもナハトア、君の中の順位制は随分偏ってるね。普通、こういう場は気を利かせて王様の方を上にするでしょ? 明らかに僕のほうが上だよね? ……いや、まぁ眷属だからそうなのかな?
「先程の実験という話はどういうことなのだ?」
それは気になりますよね。王様は民のことも考えないといけないから余計に気になるよな。
「ええ。どういう方法でそれを可能にしたのかは分かりませんが、ミスラーロフという男は魔物や人から能力を抽出する術を持っているようです」
「なっ!?」
じゃなきゃ説明できないスキルが多過ぎる。【技量の血晶石】に含まれてるスキル然り。
「そのための魔道具や呪具を作成する能力も持っていることを考えると、年若い存在ではないと推察できます。何かを結果するということは失敗と成功の連続ですから、一夜にしては成せない。言い換えれば時間がかかる。相手が上位悪魔であれば年月を経た老獪で厄介な相手だと言えるでしょうね」
「むむむ……」
悩ましいのはこっちも同じだよ。あの時ミスラーロフは殺せてないはず。僕の直感がそう伝えてる。でなきゃ転移で消えたことも説明できない。だったら生きてると仮定して準備した方が良いに決まってる。あ、ロミルダさんから聞くことは聞いたから、治療に行かなきゃ。
「陛下、わたしはこれから姫様の治療に伺いたいのですが宜しいでしょうか?」
「暫し待て。わしも共に参る」
あ、そですか。
「畏まりました」
「それで人工的な先祖返りをどう説明するのだ?」
「これは飽く迄わたしの仮説ですが宜しいですか?」
「構わぬ」
「……恐らくですが、副作用が出ない形で巨人の血を体に流し込んだのでしょう。そして特殊な魔道具を身に着けて自分にはないスキルを使えるようにした、と言った処でしょうね」
「……そのようなことが?」「ーーっ!」
動揺する王様と驚きのあまり眼を大きく見開くロミルダさん。うん、その顔で裏付けが取れたね。眼の前でやってたってことか? 不用心過ぎるだろ。それとも自己顕示欲が強いのか?
「ですから、仮説と申し上げました。只、ロミルダさんの反応を見る限り強ち間違ってはいなさそうですね」
「むう。誰でもそれを身に取り込めばその力が得られると?」
まあ、普通そう思うよな。【技量の血晶石】に関して言えばその認識で間違ってないだろうけど、後者は違う気がする。ロミルダさんは俯いて絨毯に付いた手をぎゅっと握りしめていた。息子の事を考えているのかな? 泪を流しているわけではなさそうだ。
「適合するかどうかはその人物がもつ潜在能力次第だと思いますよ? 合わなければ暴走して死ぬか、自我のない魔物モドキになるのが関の山でしょうね」
「せきのやま?」
「あ、いえ、そういう末路でしょうね」
関の山って言葉はこっちにはないってことか。由来自体が日本語なのか? 異世界だから通じない単語も在って当然だな。それにしてもロミルダさんが大人し過ぎる。もっと低抗するかと思ったから、ナハトアにも残ってもらったんだけど。……杞憂だったか。
「うむ、そうだな。身の程を弁えぬことの代償は己の命という訳か」「っ!?」
王様が僕の説明に顎髭を撫でながら頷いている眼の前で、ロミルダさんの足元に小さな魔法陣が現れる。詠唱はなかった! 魔道具で魔法が発現したということか!?
「なーーっ!」「陛下!」「「ルイ様!」」「ちぃっ!!」「御覚悟!!」
ナハトアとゲルルフは僕の名前を呼ぶだけが精一杯でその場から動けずに居た。動けたのは僕とラドバウトの2人。陛下は驚いて身を固くしてしまってるから玉座から動く暇はない。ロミルダさんの動きが極端に早くなりその右手が霞む。何かを投げたようだ。
とすっ
小さな衝撃が伸ばした右腕に走る。見ると注射器のような物が刺さってるじゃないか。不味い、これ刺さった勢いで中身を押し出せる仕組みになってるぞ!?
「【解除】!」
「あっ!?」「なっ!?」「ーーっ!?」
肉体がすっと消え、腕に刺さっていた注射器が床に落ちる。そっちに視線が移りそうになったけど、それよりも先にロミルダさんの首が宙を舞っていた。ラドバウトの一振りで切られたことも理解らずに絶命したみたい。「御覚悟」の「ご」のまま固まった表情がシュールだ。こっちまで吃驚して思わず声が出ちゃったよ。王様は僕が半透明になったことで驚いてるみたいだけどね。
それにしても少し体に入ったかもしれないな。違和感は感じれ無かったけど、【解除】して正解だったな。首から血を吹き出して仰向けに倒れていくロミルダさんの遺体を横目に、絨毯の上に転がる注射器をアイテムボックスに回収する。例の呪具と一緒に封印だな。こんなのが出回ったら大変だ。下手に捨てれないんだったら保管するに限る。
「る、ルイ殿。そ、その体は?」
「ああ、これは迷宮の呪いで体だけ生霊になってしまったんです。特殊なケースなのでご覧のように日光に当たっても問題ないですし、“穢"もないんですよ」
「そう言われてみれば……」
「驚かせてしまい申し訳ありません。大まかな事は姫様のもとに移動しながらご説明します。それでも宜しいですか?」
「相分かった。誰かある! 絨毯を綺麗にせよ。では参ろうか」
あっさり呑み込んだね? もっと色々突っ込んで来るかと思いきや、予想外の引きの良さだわ。こういう人物だからあの可怪しな結婚関係を受け容れられるということか? 王家には色々闇が付き纏うものだから詮索しないでおこう。敢えてトラブルを呼び込まなくてもいい。
王様の呼び出しに侍従たちがワラワラと湧いて出て来た。王宮の騒動も沈静化してきたって事か。後処理を見るつもりもないようで玉座を立つと、姫様が運ばれて行った通路へ歩き始めるので僕もフワフワと追従することにした。居場所が理解らなくちゃまずよな、と思ったらドーラを残したんだけど必要なかったみたい。
王様、ラドバウト、僕、ナハトア、ドーラ、ゲルルフと続く。先導する侍従は居ない。問題ないんだろうけど不用心だよな。まあ僕が決める事じゃないからおっさんに任せるか。それにしても、ロミルダさんの最後の動き。あれは完全に素人の動きじゃなかったな。でも、一緒に旅してきたから言えることだけど体捌きは完全に素人だった。上半身だけ達人? そんなことある訳無い。と言うことは人外の力が働いたってことだ。魔法陣が現れたのもそういうことだと思う。でも、魔法陣が発動するまでの予備動作がなかったんだ。何処で発動してたんだ? そんな事を考えつつも、時折王様から問い掛けに適度に応じながら進んでいくのだった。
◇
10分は歩いただろうか。
漸く姫様の部屋の前に辿り着くことが出来た。そとにジルケとカリナ、フェナの姿が見える。イエッタの姿はないな。ふむ、中は妹たちと侍女たちだけということかな? いや、宮廷の御典医も居たりするのか? まだそういう職種の人に出逢ってないから見てみたいという好奇心はあるよな。診断の仕方とか、治療の方法とかーー。おっと、1人でテンション上げてても仕方ない。
「わしとルイ殿だけが入る。皆はここで待て」
僕は入れて貰えるらしい。ここまで擦れ違う度に侍従や侍女、文官武官の方たちを慄かせてしまっていたので少し凹んでいるんだ。そんなに悲鳴を上げて後退ったり、気絶したり、逃げたりしなくても良いじゃないか。部屋の中でも似たような反応が返ってくるだろうな……。
「陛下が御見えになりました」
侍女の手によって引き開かれた扉を一瞥してフワフワと王様に続いて部屋に入る。小さな悲鳴が各所から上がる。はぁ〜〜またか。気分が上がりかけた処で水を掛けられた感じが否めない。こんな姿だから仕方ないといえば仕方ないんだけどな。でも、クリス姫もアレンカ姫も見慣れたのか拒絶反応はない。因みにアレンカ姫はドレスに御色直しだ。こうやって見ると確かにお姫様だな。
「陛下ーー」
「エルの調子はどうだ?」
「は。熱のために意識が朦朧としておられますが、その他のに目立った症候は見当たりません」
王様の到着に気付いた御典医が姫様のベッドから3歩離れて御辞儀する。御典医の説明を背中で聞きながら王様は娘の手を取ってその場に用意された椅子に腰を下ろすのだった。うん、馴れていらしゃる。これが王族なのね。僕には無理だな。真似は出来ても所詮は付け焼き刃だ。
「高熱が出る前に何か症状は出て無かったんですか?」
「どうなのだ?」
「はい、特にこれといって、ひぃーーっ!?」
「ああ、すみません。呪いでこうなってるので無害な生霊なのでお構いなく。それにしても、特に症状がないのに熱が出るはずがないですね。原因があるから熱が出るわけですしーー」
「どうなのだ?」
「も、も、申し訳あ、ありません! わたくしどもも原因が何なのか突き止めておりません。お、お許しください!」
「ああ、僕はそこまで大袈裟に責任追及するつもりはないですから落ち着いて下さい。あと、姫様付きの侍女の方はいらっしゃいますか?」
可哀想に……。蒼白になりながら土下座する御典医を慰めはしたけど、どうするかは王様の判断だ。無事に切り抜けられると良いね。となればいつも姫様の様子を見ている人の証言が鍵だな。
「わたくしでございます」
僕の問い掛けに姫様のベッドから少し離れた所に立つ40代と思しき侍女が一歩進み出てお辞儀するのだった。流石王宮だね。皆よく訓練されてる。これを見るとウチの娘たちも遜色ないな。アーデルハイドの訓練によく耐えたもんだ。
「調子を崩す前に姫様の様子がどうだったか思い出して欲しいんだ。いつもと違ったこと何か言ったり、不調を訴えたり、違和感を口にしたりしなかった?」
「そうでございますね。……そう言えば」
「やっぱりあったんだね?」
「わたくし共には何が何やら分かりませんが、月のものでもないのに腰が痛いと仰られたり、御小水に向かわれる頻度が増えたりということはござました」
お、確信に迫る情報が早くも出て来たかな。
「御小水の色を侍女の皆さんは確認されるんですか?」
貴族ってどういう生活なのか分からないから聞くだけ聞いてみる。
「はい。月のもの意外にも可怪しな事が無いとも限りませんので確認しております」
「血が混ざっていたことは?」
「ございました」
やっぱり。
「ルイ殿、それで何か判るのか?」
「ええ。今この体なので触診が出来ないのですが、大まかな病の目星は付きました」
「真か!?」「えっ!?」「本当でございますか!?」
王様、御典医、侍女と声を揃えて驚かれた。う〜ん……。やっぱりこっちの世界の医術はかなり遅れてるんだな。魔法があることの弊害でもあるんだろうけど。
「ええ。月のものでもないに御小水に血が混ざる。御小水へ行く頻度が増えた。腰が痛い。そして極めつけに高熱。十中八九、腎臓でしょう」
「「「じんぞう……?」」」
あれ? 腎臓って通じない? 他の言い方は何だっけ?
「えっと、腎の事です」
「ああ、腎の事か」「腎がどう悪いのでしょうか?」「ーー」
おっと、何とか通じたな。でもこの説明で理解るか? ……無理だろうな。臓器の病が解明されたのは近代になってからだからね。どれくらい前かは忘れたけど。説明しても無理だろうな。だったら簡単に説明すべきか。その前に診断だけどどうする? 超音波エコーなんて機械な……い? いや、ある。代用品はある。
「まだ診察してませんので何とも言えないんですが。気になることがあるので先に調べても良いですか?」
「うむ。宜しく頼む」
「任されました。少し耳鳴りがするかもしれませんが我慢して下さい。【鑑定】」
取り敢えず腎臓の位置探しだ。【鑑定】かけるといつもの通り姫様のステータスが出てきた。じっくり見たいとこではあったんだけど、それを消して体の表面ではなくて意識を内臓に向ける。思っている通りの病名なら回復せずに砕いた方がいい。まずは腎臓だ。何処にある?
【鑑定】を掛け続けて探すこと5分。漸く右側の腎臓が見つかった。片手をお腹の上、腎臓の真上辺りに置いてその奥を診るように腎臓を探して【鑑定】を掛けて状況を確認する。こうなると【鑑定】はチートスキル確定だな。開腹しないでも診れるのは時間と体力の節約になる。
◆ステータス◆
【臓器名】右腎臓
【種類】泌尿器
【状態】腎臓結石。腎盂腎炎。
【使用者】エルネスティーネ・カレンドゥラ・フェン・ヴァルタースハウゼン
やっぱりな。診断が出来ないから表面に出てるものだけを処置して拗らせてるパターンか。ま、ここまで診る技能も思考も無いんだから仕方ないよな。
「お待たせしました」
「それでどうなのだ? ルイ殿?」「「ーーーー」」
王様が食い気味で問い質して来る。「お待た」くらいで被せて来たから思わず引いてしまった。王様とは言え、いいおっさんだ。そんな顔が自分の顔に迫ってきたら自然と体も仰け反るよね? 僕だけじゃないよね? 綺麗な女の人はドキドキするけどーー。おほん。御典医と侍女は僕の返答が気になるようで急かせるような視線が刺さってくる。
「結論からいいますと、何も処置しなければ腎の働きが弱くなり最終的に働かなくなります。この腎は左右に1つずつあるものですが、1つが動かなくなると無理しますから、結局働き過ぎて今以上の症状が現れてしまい、エルネスティーネ姫の命を奪うことになるでしょう」
「なっ!?」「ーーっ!?」「そんなっ!?」
「その前にこの症状を放っておくと命取りになりかねませんけどね」
この程度の説明なら理解してもらえるんだな。本来20代で腎結石ってほとんど起きないはずなんだよね。サフィーロ王国の辺境伯の奥さんの時もそうだったけど、この世界の人は基本的に肉食だ。野菜をあまり食べない。それに地域柄水が貴重な地域だけに水もあまり飲まない生活なんだろう。そりゃ腎臓も悪くなる。その辺りのケアも必要だな。
「それで、エルは、エルは治るのか!?」
「そうですね。五分五分と言った処でしょうか。生身があれば手術も可能なのですが、生身を着けるにはいろいろ制約があって自由に着けれないんです。脱ぐのは先ほど見ていただいたように楽なんですけどね。厄介な呪いなんです」
「五分……。いや、五分でも良い。頼む! ルイ殿! エルを、エルを治してくれ!」
「「陛下!?」」「「御父様!?」」「「ーーっ!?」」
部屋に居た王様と僕以外が眼を見張る。王が何処の馬の骨とも分からない生霊に頭を下げたのだ。本来王が頭を下げてはならぬと言われているはず。恐らく公式に頭を垂れるときは戦に敗れた時だけだろう。事件と言ってもいい出来事が彼らの眼の前で起きていたのだ。
「お待ちください! 王が頭を下げてはダメです! 家臣が回りにいるのに何をされてるんですか!?」
なので、一先ず頭を上げさせる。後で何を言い出されるか分かったもんじゃない。
「娘の為ならば頭を下げることなど安いものだ」
「それでもです。皆さん、今見たことは忘れて下さい。良いですね?」
何とか両肩を押し上げながら王様を起こしてから、家臣たちに念を押すとカクカクと皆首を縦に振っていた。滑稽さが眼について吹き出さないようにするのが大変だったけどーー。
「ふう。五分というのはこの姿で治すのが、と言うことです。生身を着ければ問題ないですが、今出来る範囲での話をしただけです。この姿で直せるかどうかは五分ですが、残りの五分は時間はかかりますが治せるのでご安心下さい」
「おお! そうなのか!? 宜しく頼む!」「分かりましたから、御顔を!」
再び頭を下げてくる王様を押し止めながら承諾する。考えているのは【加護スキル】の【共鳴】だ。【加護スキル】は分別的にパッシブと表記されてるけど、さっきみたいに使える事が分かった。自分の体に対しては常時働いているけども、体外で効果を発揮するためには条件があるということだ。便利ではある。
それで思いついたのは、体外衝撃波結石破砕術だ。本来は高度な機械で発生させた電磁波を利用するんだけど、【共鳴】も調律次第で代用できるんじゃない? と閃いた訳。ぶっちゃけて言えば、試射なしのぶっつけ本番だ。
「では、耳が痛くなるかもしれませんので、その時は耳をふさいで下さい。始めます。【共鳴】」
次第に空気が振動し、耳鳴りが起き始める。僕の掌に音が反射してくる感覚が伝わって来た。何処に何があるのかが脳裏で視える。腎臓の位置も把握できた。結石の位置も問題ない。後は砕くだけだ。掌から発生する力の波の強度を僕は少しずつ強めていくことにしたーー。
最後まで読んで下さりありがとうございました!
これで第三幕終了です。
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