第138話 ギガース
遅くなり申し訳ありません。
まったりお楽しみ下さい。
※少し残酷な表現があります。
「王よ。今日この日で貴方の」「【突き抜こうとする腕】」
オーケなんとかが口上を述べ始めたのでその足元から左腕を呼び出して顔に拳骨をぶち込んでやった。クリス姫の事もそうだけど、僕の前で【魅了】とか【誘惑】とか使うなよな。これでも人並に所有欲っていうのがあるんだよ。あ〜腹立つ。その間にも魔法が顕現して拳がオーケなんとかの顔にめり込み見事に吹き飛んで窓枠ごと飛んでいったよ。悪役らしい声と一緒にね。
「ぶへーーーーーーっ!」
「「「「「「「「「「へっ!?」」」」」」」」」」
…… きゃー! マテウス! ちょっ、ルイくん酷いですよ〜 ……
あまりの事に僕以外の傍観者が声を合わせて眼を見張っている。まあ騎士道の風上にもおけないと言われてしまうかも知れないけど、あいにく僕は騎士じゃない。この国の臣下でもない。ただの生霊だ。遠慮する必要はないでしょ。パンパンと掌の埃を払うように交互に掌を合わせる。ホノカとナディアの声が聞こえた気がしたけど気の所為か?
「勝手に人のものに手を出すな」
「ルイ様」
耳打ちをして来たのでナハトアはそのまま直ぐ右隣りに立ってる。振り向けばそれこそ口付けも出来るくらいの距離だ。
「ん?」
「ホノカとナディアはわたしの従魔なんですが……」
ナハトア、何故にジト眼で見るのかな? 窓枠の失くなった窓を眺めているとナハトアがそう訴えてきた。あれ? 僕なんか変なこと言った? ……あ〜言ったかもね。所有物扱いしてるな。いけないいけない手当たりしだいにハーレムを膨らませる事はしないという約束だったんだ。でも、腹立たしいのは正直な気持ちだ。自分への好意を奪われるというのは嫌なものだと良く分かった。
「ああ、ごめんごめん。つい。2人は僕の眷属じゃなかったね。ナハトアが無事でよかったよ」
「ーーっ!」
そう言って左頬に軽くキスをしておいた。黒褐色の頬が赤く染まるのが見えたのでそのままぽふぽふと頭を撫でてから、オーケなんとかの落ちた窓に近づく。あれくらいじゃ死なないだろうけど、どれくらいダメージを与えれたのか確認はしておきたい。ホノカとナディアも慌てて落ちたあいつを追いかけてみたいだし。そう思って歩き出すと後ろの方で何やら声が聞こえてきた。
「毎度毎度思いますが、ルイさんの所業を見てるとイラッとするのは何故でしょう?」
いや、カリナ、その言葉の意味がよく分からないんだけど?
「ご主人様、わたしにもして欲しいです」
ドーラは平常運転だね。
「あ、貴女たちはな、何を言ってるのですか!? は、破廉恥です!」
「エル姉様。男女の仲。街ではあれくらい当たり前です」
「あ、アンそうなのですか!?」
お姫様たちも普段からああなんだろう。擦れてない姉上と庶民慣れした妹君か。
「むむ。わしも見せつけたが、何とも他人の物は甘過ぎるな」
王様、僕としては見せつけた気はないんですけど?
「父様も同じです」「父様の方が質が悪い」「父様、あちしがしてあげる」
「クリスは優しいの〜」
「「「「助平親父」」」」
末っ子には甘い父親の典型的な例だね。それに周りも容赦無いね。カリナにドーラ、君たちは部外者でしょ? 普通に息ぴったりで突っ込んでるし。
「娘から愛されて何が悪い!? 理不尽だ。わしは妻たちにちゃんと愛情を示しておるぞ!?」
「御父様もその辺りでお鎮まり下さい。まだオーケシュトレームがどうなったのかもわからないのですから」
王様もエルネスティーネ姫には頭が上がらないと見える。クリス姫の失踪で2人から随分叩かれたって言ってたし、母親譲りなのかな? 綺麗な奥様だったけどね。
「う〜ん。ルイさんを怒らしたんだったらそのオーケなんとかと言う奴の命は無いかもね」
「普段は優しい方なんですけど、女性絡みになると感情の起伏が激しいんです」
むむ、カリナもドーラも何を可怪しな事を。そんなことないよ。偶々そういうケースに出食わしてるんじゃない? 海賊の襲撃の時とかどちらかに拘ってなかってでしょ?
「あの方は女性に甘い男なのですか?」
「どうだろ? 自分に好意を示してくれる女性への庇護欲を抑えきれない人って言った方がいいかも」
「それは分かります。流石カリナさんです!」
「へへへ。ありがとうドーラ」
女性に甘いって……。うん、自覚はあるよ。そりゃ僕だって男だもん。格好いいとこ見せたいって思うし、守りたいって思うよ。それ普通じゃないか? 取り立てて騒ぐほどの性質じゃないと思うんだけどな。カリナも褒められて良い気になるなって。
「ルイ様、本当ですか?」
ナハトアの声に冷気が乗ってく気がするよ。視線が冷たい気も……。
「誰彼見境なく庇護欲全開させてるわけじゃないよ? 一番はナハトアも含めた眷属だからね。その中に女の子が多いのも事実だけど」
「どういうことですか?」
ん、ナハトア顔が近い。説明を求めるなるなら言葉だけでもいいでしょうに。
「いや、ほら、あの眷属になった時の儀式を見てたんでしょ?」
「……」
僕の問いに黙って頷くナハトア。勝手に儀式の結界内に入り込んでいたのがきっかけでこういう縁が生まれたんだから、分からいもんだね。思い出せてるようなので、こっちもそういうつもりで説明しておく事にした。そこへーー。
「あの中に居た娘たちも含めて家族だって言ってるの」
ずうんんーー。
「何だ!?」
王宮を揺るがす振動と音が足元から駆け上ってきた。慌てて窓枠ごと無くなった窓のであった穴から下を覗き込む。ナハトアの気配も後ろにある。
「何だあれ」「巨人? いや、何だあの足? ルイ様何なのですか、あれは?」
僕の思いを隣りに並んで見下ろしたナハトアが言い表してくれた。確かに巨人だ。身長は4mはあるだろうか。体が大きいのはそういう種であることを考えれば理解できなくもないが、両足が蛇なんだ。それぞれ左右の膝から下が1匹の大蛇なんだよ? 蛇が鎌首を擡げれば頭まで届きそうな大きさに見える。そりゃ誰だって目を疑うに決まってる。
「莫迦な!? あの姿は!?」
気がつくと隣りの窓を開け放ち王様が驚きのためか恐怖のためかワナワナと体を震わせながら声を絞り出していた。王女たちの姿は窓際にはない。後ろをみると、ヴィルとラドバウトたちが手分けして気絶した者たちを謁見の奥の間へ運び込んでいる最中だった。クリス姫も姉上たちと一緒に移動してくれたようだ。
視線を眼下で咆哮する巨人の変異種に戻しながらギリシャ神話のことを思い返していた。もしかして……。何となくだけど思い当たる節をぶつけてみることにした。
「もしかして、先祖返りですか?」
「ーーっ!?」
どうやら正解のようだ。言葉はもらえなくともその表情で十分。直接の両親でなく、それより遠い祖先の形質が子孫に突然に現れることだけど、隔世遺伝もこの一種だ。でもこれは、人ととしての遺伝子がというレベルのものじゃない。巨人と人間の混血児が存在するこの国ならではの影の部分に違いない。
『おのれ! 人間風情が真の支配者であるオレに歯向かうのか!』
眼下から他言語の響きがする。僕の耳は便利なもので自動翻訳済みだ。
「ルイ様なんて言ってるんでしょうか?」
「う〜ん……」
チラッと王様の方を見るが何も反応できていない。つまり理解できてないということかな? でも、確認は必要だ。思い込んで対応を間違っちゃあね。やり直しが効かないんだし。
「王様。自分は真の支配者だと宣っていますが、首を刎ねてもよろしいんですか?」
「……あの男の瞳は古の約定に則っても王たる資格はない。簒奪だ。例え今が金の瞳であったとしても人の姿の際にそれが顕現していないのであればそういう事だ。それにヴァンダも反応していない。ルイ殿頼めるか?」
…… いくらルイくんでもそれはさせないわ。 そうよ〜。マリウスが王様になるの手伝うんだから ……
「ホノカ、ナディア!?」
「なっ!? 生霊なのか!?」
…… 残念。ルイくんとは違う存在よ。 ぶ〜。わたしたちは亡霊よ〜 ……
王様からの言質を取った処に半透明のグラマラスな美女が左右の空間に現れた。ホノカとナディアだ。【誘惑】状態なら何を言っても無駄な気もする。【誘惑】された相手を第一に考えるようになるのだから。それでも僕たちとの関係を忘れ去ってるわけじゃなさそうだからね。強い衝撃と言っても霊体を持つものに物理的にダメージを与えて状態異常解除もできない。かと言って聖属性の魔法をぶつけると彼女たちの存在そのものを消してしまうことになるからそれもダメ。どうする?
「2人とも眼を覚まして! 操られてるのがわからないの!?」
…… 操られる? それはないわ〜。わたしたちは自分で決めたんだから〜 ……
「そうは言っても貴女たちは渡しの獣魔でしょ!?」
…… そうなのよね。 簡単よ〜。ナハトアも手伝ってくれればいいのよ〜 ……
3人の会話は平行線だ。取り付く島もない。その間にもマテウスと2人に紹介された先祖返りの巨人が蛇の足で器用に蜷局のようなものを巻き始めたのが見える。まさかね。
「王様! ここまで飛んで来る気だ! 王様も奥へ避難して下さい。御言葉は頂いたのでこちらで善処します!」
「そ、そうか。すまぬが宜しく頼む!」
「ホノカもナディアも【鑑定】スキルがそのまま残ってるんだろ? それぞれ覧てみたらどうだ? マテウスに役立つスキルが見つかるかも知れないぞ? 【治療の雨】」
…… そうね。あつっ! あら〜ルイくんも良いこと言うじゃない〜。ちょっと、熱いじゃない〜 ……
闇属性というか魔物に聖魔法の回復は効かないだろうけど、確認と検証も兼ねて掛けてみた。ダメ元だったけどやっぱり無理か。拒絶反応が出てる。つまりナハトアに従ってる従魔たちが状態異常に陥った場合。聖魔法では回復できないってことだ。最悪召喚具の中でじっと回復を待つくらいか?
「ごめんごめん。ちょっと試してみただけさ。それより、2人とも【状態】欄どうなってた?」
…… 【誘惑】だったわ。 【誘惑】だったわ〜 ……
2人の顔が険しくなる。
…… わたしを【誘惑】してどうするつもり? 【誘惑】しなくてもいつでもオーケーよ〜 ……
え、そっち!? そう来たか!
「阿呆か! 何で僕が【誘惑】の魔法が使えるんだよ! 蛇女の固有スキルだろ!? 男の僕が使えるわけがない!」
久々に初めてこの世界へ来た時みたいに突っ込んでしまった。落ち着け。解除できないなら、ん? 何処行った? 姿がない!? 一瞬だけホノカたちに注意が奪われた所為で視線を切ってしまったので慌てて巨人の姿を探すが、眼下にはなかった。土埃が舞っているだけだ。
ぞくっ
背筋に悪寒が走る。まさか!? 視線を上に移すと大きな影が僕らの居る窓口に覆いかぶさっていたんだ。不味いっ!
「ナハトアごめん!」「きゃあっ!!」
ナハトアの襟を掴んで一気に後ろに投げ飛ばし、僕も窓から距離を取るった途端に巨大な拳骨が窓の穴から突き入れられ壁と床を砕く! 蜷局を巻いていたのはこのためか! っていうか蛇なら飛んで来るって想像も出来たけどこれはないだろ! 飛び散る煉瓦の破片が頬を切るがそんなことを気にしてる暇はない。
『殺す!』
「そう簡単には殺されたくないから抵抗させてもらう! 【槍影衾】」
…… させない! 【闇の外套】 【闇の外套】 ……
「ちぃっ!」『がああああーーっ!!』
40本の棘のような漆黒の槍が四方から巨人に向かって飛び出て行く様子を見ながら僕は舌打ちした。見事にホノカとナディアの邪魔がはいったんだ。彼女たちに闇属性の物理攻撃は効かない。ナハトアの方も召喚具に強制送還しようとしてるみたいだけど難しいみたいだ。参ったな。
完全に防がれたわけじゃないけど、それでもかなりのダメージ軽減になってるのは分かる。闇属性の攻撃に闇属性の防御だからね相性が良すぎるよ。というか、巨大化して服破いてるんだからそれどうにかしろ!
「【水珠】! 【水弾】!」
ナハトアの方から小さな水の弾丸のようなものが20発、巨人向けて打ち出された。見ると、ナハトアの周囲に10の水の球体が浮かんでる。バレーボール大のものだ。確かに水属性であればホノカとナディアの防御魔法に邪魔はされないだろう。あの水球は何んだ? ん? あの首にあるのは!?
全裸の巨人の首に着けられたネックレスに視線が吸い寄せられた。あの男が持っていた物と同じものだ! 蛇女の眼! こいつのせいか!
『おのれ、おのれ! 【火炎球】!』
「こんな所で火魔法使う気かよ!? ここに住むつもりなんだろ!? ちっ、蛇が邪魔だな。ナハトア、飛び火を消化したら蛇をどうにかしてくれる?」
僕に向かって直径2mくらいの火球が飛んでくる。発現場所は巨人の手じゃなく、右蛇の口だ。
「分かりました! 【水の壁】【驟雨】」
目の前にナハトアが作ってくれた水の壁が現れ火球を受け止めてくれたけど、水蒸気と弾けた拍子に飛び散った火が絨毯やカーテンにしがみつき引火してしまう。そこはナハトアに任せたから、水蒸気が舞い上がっている内に巨人と距離を詰めてあのネックレスを奪うことに決めた。雨が顔を打ってくる。ナハトアの魔法だろう。
…… マテウス、ルイくんが来たわ! 右側よ〜 ……
良い感じに紛れたと思ったらこれか。ほんと面倒だな。でもーー。
「魔法だけに頼ってるわけじゃないから、問題ない」
水蒸気の中からボフっと空気を突き抜ける音と共にどちらかの蛇の頭が顎をめいいっぱい開いて現れた。遅い。どの道蛇の部分だけだろうから重心は変わってないはず。ならーー。
『ぬあっ!?』
「甘いね」
ギリギリの処を見切って蛇の噛みつきを躱し、その首に腕を回して引っ張ってやった。蛇の身体は鞭のように弾力性と伸縮性に富む。ギゼラが大蛇から人化する前に散々組手を付き合ってもらったから良く分かるんだ。伸びた時の慣性の法則を上手く使えばそのままの力を利用して足を掬える!
…… えっ!? 嘘でしょ〜 ……
「【沈黙】!」
魔法対策か。ナハトアも一人旅が長かったみたいだし戦闘慣れしてるのは助かるな。ナハトアの魔法の発現と共に僕にも顔周辺に圧力を感じ始めた。ぐっと喉に意識を集中してその圧力を跳ね除けるようにしていると、ふっと感じていた圧が消える。その頃には水蒸気も雨も消えていた。
「ふぅ」
駈け出しながら短く息を吐き声が出るかどうか確認してみる。問題ない。抵抗出来たってことだな。
『ーー! ーーーー!! 【ーー】! 【ーー】!! ーーーーーー!!!』
…… ーー! ーー〜 ……
ホノカとナディアもか。ふふ、まだまだだね。今のうちだ。ナハトア、ナイスアシスト!
「【漆黒】【暗視】【魔力検知】」
僕が飛び込んで来る姿をバランスを崩して尻餅をついたままの状態で見守る巨人。彼の意識とは別に2匹の大蛇が鎌首擡げ、噛み付こうと体を撓らせた処へ暗闇を発生させる。何だ!? ネックレスが魔道具ってことが分かるで【魔力検知】を発動させたのは良いんだけど、別の大きなものが胸の中にあるのに気付いた。
「【影刃】」「ーー!」「ーー!」『ーーーー!!』
暗闇だろうが蛇の能力を考えれば問題にしないことくらい織り込み済みだ。右手の中に淡黒い一振りの短剣を作り出し噛み付いてくる蛇を躱してその体を切り裂きながら僕は巨人の首元に手を伸ばす。ぶちっと鎖が切れる感触が左手に伝わってきた。確かに目当てのネクレスが手の中にある。右手を翻して首筋に短剣を突き立てて駆け抜ける。肉を貫き骨に当たる感触が掌に返って来た。良し。
「【鑑定】」「ルイ様!」
そのまま駈け抜けて暗闇の中から抜け出ると直ぐ、あの胸の中にあったもうひとつの魔道具に意識を集中した。ナハトアの心配していたという感じの声に右手を上げて応えておく。血の臭いが充満し始めたけどあれが果たして致命傷になりえるのかまだ分からない。息があることは確かだもんな。
…… ーー! ーー! ーー〜! ーー〜! ……
ホノカとナディアが僕の方によってきて物凄い剣幕で何かを言ってる。怒ってるのは判るけど、お門違いだよ? と思ってたら、自分の眼に魔力が集まり始めたことに気付く。あれ? 何だこれ?
◆ステータス◆
【種族】先祖返り / ギガース族
【名前】マテウス・フェン・オーケシュトレーム
【性別】♂
【職業】拳闘士
【レベル】182
【状態】沈黙
【Hp】38,408/43,224
【Mp】16,100/18,300
【Str】4,600
【Vit】4,600
【Agi】2,215
【Dex】2,852
【Mnd】2,961
【Chr】4,494
【Luk】3,181
【ユニークスキル】火精霊の衣、火竜の爪、剛力Lv101
【アクティブスキル】火魔法Lv161
【パッシブスキル】偽装Lv91、乗馬Lv61、旅歩きLv75、警戒Lv63、料理Lv29、野営Lv36、宮廷作法Lv51、火耐性Lv135
【装備】
ユニークスキルに本来巨人じゃないスキルがある。胸にある魔道具を見てドクンと大きく鼓動がなった気がした。
◆ステータス◆
【アイテム名】火竜精霊の技量の血晶石
【種類】魔導具
【効果】【技量の血晶石】の有する能力を自由に引き出せる。
【使用者】マテウス・フェン・オーケシュトレーム
技量の血晶石ーー。ツインテールたちを無残な姿に変えたあの呪具から創りだされた忌まわしい魔道具。2年も時間が過ぎたというのに昨日のことのように思い出せるあの風景。あれが何処かで行われているということか。あの男の手によって……。
巨人に暗闇を張ってネックレスを奪い、首に魔法で作った短剣を刺して鑑定するまでほんの僅かな時間しか経過していない。奥歯をギリッと噛みしめると同時に怒りが吹き出すのが分かった。まずはこいつだ。相変わらず僕の周りで何かを喚いているホノカとナディアを睨みつけてから、こいつを再び突き落とすことに決めた。
「【引き裂こうとする腕】」
『ーーーーーー!!』
巨人の影から巨人に負けない黒い右腕が現れ、その腹に爪を立てる様に5本の指を突き刺すと膂力に物を言わせて自分が創りだした穴から外に投げ出されたのだった。黒い右腕は巨人の体から離れる寸前にその腕を下に勢い良く動かし、影の中に沈んでいく。声にならない叫び声と、振動が足元から伝わって来た。落ちたな。
…… ルイくんごめんなさい! わたしが悪かったわ。だからね? ルイくん〜。あなたの魅力は良くしてってたんだけど、何だか急に男らしくなったわぁ〜 ……
「はっ!? ちょ、ちょっと2人もどうした!? 纏わりつくのやめて。ナハトア!?」
「2人とも戻りなさい」
…… ひっ!? ほらぁ〜ナハトアもそんな顔してたらルイくんに ……
「も・ど・り・な・さ・い」
怖〜。ナハトア滅茶苦茶怒ってるぞ? 何があった!? ホノカとナディアの訳のわからない抱擁が緩んだ隙を付いて僕も飛び降りる!
「ルイ様!?」…… ルイくん今生身よ!? 男らしいわぁ〜 ……
何か聞こえた気がしたけど気にしない。
『ガァァァァァァーーーーーーッ!!』
眼下で【沈黙】の解けた巨人が炎を纏って叫んでいた。借り物のユニークスキルか。そんな借り物で耐えれるか? その足元を標準に魔法を発現させる。
「【舞い喰らう闇の盾】ぐあああっ!!」
黒い炎が壁のように巨人を取り囲んで燃え上がろうとした矢先、体に鋭い痛みと衝撃が走り、落下途中で王宮の外壁へ縫い着けられてしまうように体をめり込ませることになってしまった。何があった? 何をされた? どうなってる!?
慌てて動かせる範囲で首を動かして状況を確認する。嘘だろ……。
そこで見たのは右腕の肘から下を失い、右肩に杭のようなものを撃ちこまれ、左足の膝から下が辛うじて筋肉で繋がっているようにブラブラとし、左胸に杭のようなものが撃ちこまれている姿だった。左腕の脇に体には刺さらなかった杭のようなものが壁に突き刺さっているのが見える。左手はネックレスを握ったままだ。
「ぐああっ! ごふっ!」
右肺の大部分がやられたのか息がし辛い。喀血する。刺さった範囲だけじゃなく周辺にもダメージが出るものが撃ちこまれたということか。ダメージを受けてるということは魔力を纏ったものに違いない。眼下を見ると、両足の蛇が黒い炎に飲み込まれ、巨人が絶叫している声が響いていた。
ジクジクと痛みが生じているのがわかる。生身を着けているのが仇になったのかどうかわからないけど、痛覚のお蔭でこのまま放って置くとHpを削られ続けるだろうと言うことは容易に想像できた。それが命取りになるということも……。
「ルイ様!!」
上からナハトアの声が聞こえる。
「やあ。ははは、かっこ良く飛び降りたつもりが、ごほっ! 狙い打ちにされたみたいだ、がはっ!」
「い、今そちらに!!」
「来るな!!」
「で、でも!!」
「焦らなくても、回復魔法がある」
危険な事この上ない状況にナハトアの背中を晒すわけにはいかないだろ。左手に持ったままだったネックレスをアイテムボックに入れて左手を自由にする。咳き込まないようにゆっくり息を吸い込み、回復魔法を唱える。
「【静穏】! あれ?」
「ルイ様! どうされましたか!? 早く回復を!」
「魔法が使えない?」
最後まで読んで下さりありがとうございました!
ブックマークやユニークをありがとうございます! 励みになります♪
誤字脱字をご指摘ください。
ご意見ご感想を頂けると嬉しいです!
これからもよろしくお願いします♪