第137話 対峙
2016/10/1:本文誤字修正しました。
「それでも名乗らなくてはなるまい。わしがミカ王国が第31代国王ヒエロニムス・ギガス・フェン・ヴァルタースハウゼンだ」
顔に刻み込まれた皺からするとそこそこの年齢かな? 60代前半がいいところだろうか? 金髪よりも混ざっている白髪の方が多いから多分間違ってないはず。でも60代でこの体格はないよな。羨ましすぎる。一言で言えば渋いおっさんだ。肩まで延びた髪が絵になるというね。同年代のイケメンは僻みたくなるけど、父親みたいな年齢のイケメンは尊敬できる。そんな事を考えながらクリス姫の様子を観察する。
「と、父様、とうさまぁぁ!」
「おお、クリス! 息災だったか? 心配したのだぞ? 酷く叱った次の日に姿を消すから、叱り過ぎたとエルネやアレンカに怒られてしまってな。未だに口を利いてもらえぬのだ」
母親の腕から飛び降りるように抜けだし、父親の胸に飛び込んで泣き始めるクリス姫。そうだよな。しっかりしててもまだ6歳だもんな。それが見知らぬ奴らに掴まって海賊船に載せられて、山脈と砂漠を越えてきたんだ。砂漠で九死に一生を得るような経験をしたし、感動の再会だな。でも父親の方はそうでもないような気もするけど。気の所為か?
「ん? 今アレンカって言わなかった? 聞き間違いか?」
「わたしもそう聞こえたよ。同じ人? 侍女だったよね?」
横に居たカリナに耳打ちすると、くすぐったそうに首を竦めながら答えてくれた。そう、聞き間違いでなければ僕らを宿屋に案内してくれた侍女の名前と同じだ。王様の付きの侍女か?
「ゲルルフ。大儀であった仔細はアレンカから聞いておる。辛い思いをさせたがよく娘を守ってくれた」
「は。勿体無い御言葉でございます」
泣きじゃくるクリス姫をあやしながら、王様は僕の後ろに呆然と立ち尽くしていた護衛騎士の生き残りにそう声を掛けた。その言葉を受けてゲルルフが僕たちの間に進みでて傅く。おお、やっぱり訓練を受けてる人がすると様になるね。話を推察するに、僕らのことは王様に筒抜けと考えた方が良さそうだな。説明が少なく済むのはありがたいから問題ない。
「ふむ。ダークエルフのカリナ殿に、獣人のドーラ殿にルイ殿だな」
ゲルルフの礼を横目に王様の視線が僕らに移る。特に否定する理由もないので3人とも頷くだけにとどめておいた。本当は何を話せばよいか分からないからなんだけどね。
「時にルイ殿は変わった体のようだな」
覧られた感じはない。【鑑定】されてないのに話が伝わってるのはあおのアレンカさんからの情報かな。確か彼女に案内してもらってる時は生霊の体だったけど、今は肉体があるからね。そりゃ僕でも立場が立場なら聞きたくもなる。
「ええ。何処までお聞きか知りませんが、迷宮で呪いを受けまして」「嘘だな」「嘘ですね」
おっと言い訳中に王様とお妃? に否定されてしまった。それも全部言い終わらない内に。いや、カリナ「あら〜」って顔でこっちを見るな。
「ギガスの名で何か思い当たる事があるかな? ルイ殿」
「ぎがす、ですか?」
この世界の成り立ちはよく分からないけど、神様の類はギリシャ神話に出てくる神たちに酷似してる。神話の中であった親殺し、不貞、放蕩、享楽と言った処までは似てないけど流れとしてはそうだ。王様は第31代と言ったよな。つまり歴史ある王家の名前にぎがすとあるのは意味が有るってことだ。
ぎがす、ぎーがーす、ぎーがす、ぎがーす。思い付きそうな名前を上げてみる。
「ギガース!? まさか巨人族と繋がりが!?」
2分も考えては居ないけど、思い当たる言葉と合致したので思わず声を出してしまったよ。僕も驚いたけど、クリス姫の両親もそれなりに驚きの表情だ。そんなに簡単に言い当てられると思ってもみなかったということかな。
「驚いた……古き言葉の意味を知るものが居るとは」
「つまり、貴方もそれだけの時を生きて来たということかしら?」
おっと、クリス姫の母上は御高齢でいらしゃるぞ。気をつけろ。レディに年齢は禁句だ。
「いえ、わたしの知識は付け焼き刃です。正しく意味を把握しているというものではありません。それに存在し始めて日は浅いので」
当たり障りのない程度に臭わせておくことにした。説明するのも面倒だしね。初対面の人にそこまで言う必要ないでしょ? ただ、巨人族繋がりということは、クリス姫の母上は巨人と言うことか? 鎖は拘束用ではなくて縮尺を人に合わせるためのものか? それとーー。
「金色の瞳……」
僕が言うのも何だけど、今まで金色の瞳は人外の存在が持ってた。竜族と雪豹ぐらいか。ウチのエレンとガルムは特殊だから除外。二人とも金の瞳ということはそういう事か?
「初見でそこに気付くとはな。だがわしにはその力はない。この瞳の色は王位継承権の色だ。代々この金の瞳を持つものが王家の血を受け継ぐ系譜の中に現れる。その者が王となるように決まっているのだ」
「それまたすごい話ですね。血が濃くならないのですか?」
日本の天皇家が良い例だ。脈々と続く皇族の血を絶やさぬために親しい家だけで血を繋いできたために、血が濃くなり先天的なダメージを負って生まれてくる確立が増えたという。今のミカ王国の王家にも言えることだ。実情は知らないけどね。
「言いたいことは良く分かる。王家の子どもたちの嫁ぎ先は貴族だけではない。中には平民に嫁いだ者も居る。多くはないが、国の中に滞らずに広がっていると言っていいだろう。その中で金色の瞳を持つ者が生まれたら王位継承権が自動的にに第一となるのだ」
血の拡散を図ってるということか。確かに隔世遺伝で金の瞳が発現した人物を連れてくれば、血縁ではあるものの薄くなってる分危険は回避できる。どの方法でも100%確実に回避できる訳じゃないけど、考えてはあるみたいだね。それでも。
「よくそれで国民が納得しますね」
「建国以来受け継がれている作法だからな。自分の子が王になる可能性があるのだから嫌とは言わぬさ。何代か遡れば平民出の王も居るぞ? わしは伯爵家の出だがな」
なる程ね。これは国民性だな。おおらかでなければもっと反乱が起きてるはずだもん。じゃあ、色違いの瞳を持つ娘達はどう説明するんだ?
「でも、クリス姫は瑠璃色ですよね?」
「然もあらん。ヴァンダもわしも金の瞳だからな。ヴァンダと当代の王との間に子が生まれた場合、受け継がれる力が発現すると変色するのだ。妾の子には現れぬ。その色に合わせて古の名が贈られるのだ」
そういう事か。だからヴァンダさんはクリスティアーネという名前じゃなくラピスラスリを縮めて呼んだんだな。でもーー。
「良かったのですか? こんな話を部外者の僕たちにして」
それで用済み前の土産話だ、ってなったら洒落にならないぞ。
「ああ、構わぬ。この辺りは皆知っておる話だからな」
「は?」
耳を疑った。うん、きっと眼もびっくりして大きく見開いてたと思う。今聞いた話はそんなに軽くない話だと理解できるが、大平にしてるのも凄い話だ。まぁ考えてみればそこを弱みとして突かれることがないという利点はあるか。
ゲルルフは知ってて当然だし、カリナもドーラも結局のところ継承問題に関しては僕と同じで関心はないはず。現に話し自体に興味を示してないのがその証拠だ。
「力のことは?」
確認は大事だよね。そこも詳らかに教えてもらえるのかどうか。無理だろうけど。
「そこは明かせぬ」
「ですよね。安心しました。何処まで王家の秘密が明らかなのか気になったので」
「己の首を絞めかねぬ力の事は本人と家族以外は誰も知らぬ。其の方らも偶然に知り得た事を口外はせぬことだ」
僕の問い掛けに答えてくれたものの締める所は締めて来るね。流石は王様。本人が口を滑らせることがあっても他には言わないようにという無言の圧力を感じます。そんなに威圧してくることもないと思いますよ? 興味がないので多分すぐに忘れると思いますから。
「肝に銘じます」
ただ言葉としては発しておかないと、沈黙は否と捉えられると面倒だからね。
「で、ルイさんどうしますか? このままここで待っててもナハトアたちには会えませんけど?」
「転移で飛ばされたので、ワタシたちでは出れないと思います」
カリナとドーラの言いたいことは分かる。分かるけどどうしようもない。自分たちの意志でここに来たのなら出入りも自由だろうけど、飛ばされたんだから。
「う〜ん……僕としては謁見の間で皆と合流したいところなのですが、どうやればそこまでいけますか?」
「何、簡単なことだ。わしと一緒に戻れば良い。ここに来たのもクリスを迎えに来るのとヴァンダの顔を見ることを兼ねてだったからな」
何か言い方が気になるな。
「何時でもここに来れるのでは?」
「そうもいかぬのだ。これも制約でな。こんなことでもない限りもう来れぬのだ。クリス、母上の所に行っても良いか?」
「うん、父様」
父親の腕からするりと降りたクリス姫が僕の方に駆け寄ってくる。しっかりと抱き止めている内に御二人は自分たちの世界の中へ旅立たれたようでした。御馳走様です。クリス姫には早い気がしたので、そちらを見せないように立たせて話を聞いておくことにした。
「これから謁見の間に行くと、例の宮廷魔術師オーケなんとかというやつが居ると思います」
「うむ。オーケシュトレームだ」
クリス姫が訂正してくれる。むんと胸を張りながらの仕草が可愛い。
「そう、そいつです。カリナもドーラも姫も、その男の眼を見ないようにして下さい」
「何故?」
カリナたちも聞きたそうだったけど、クリス姫の方が先に口を開いたみたいだ。早いもの勝ちだね。
「これは飽く迄推測に過ぎませんが、7日ほど前に宿屋の前でやりあった男のことを覚えていますか?」
僕の問い掛けに3人は頷く。ゲルルフも既に立ち上がっていて僕の話に耳を傾けている様子が伺える。
「あの男は魔道具で僕とナハトア以外を魅了状態にしたんです。覚えてないかも知れませんけどね。あのアイテムがそのオーケなんとかの手に渡っているとしたら?」
「オーケシュトレーム」
「ありがとうございます」
どうやらクリス姫は訂正しようと躍起になってるようだ。でも御礼を言われた時の嬉しそうな表情に癒やされる。僕は断じてそちらの世界ではないと前置きしたうえで言うけど、「YESロリータNOタッチ」という輩が存在するのも理解らないではない。
「不味いですね」「不味いどころじゃないわ。骨抜きよ」
そう、異性だけに効果があるという訳ではなくあの場であの男の眼を見た者たちが状態異常に陥ったということが問題なんだ。本来女性種しかいない蛇女の【魅了】は異性だけ。男にだけ効果がある。その上位版の【誘惑】もそうだ。それなのにあの魔道具に効果は眼を合わせた者だった。それも見境なくだ。
つまり、同性の男であっても抵抗出来なければ状態異常を引き起こすということになる。短期間で爵位を得、宮中内で己の立ち位置を確保し、多くの者に支持されるという環境を創りだすということは普通では在り得ない。余程大きな手柄を立てたとしてもだ。
「さて、そろそろかな?」
熱い抱擁が終わったようなので立ち上がって王様達の反応を待つことにした。クリス姫も僕が立ち上がったのを見て両親の方に視線を向ける。まだ向い合ったままだが、幸い火傷しそうな口付けは終わっていた。うん、クリス姫にはまだ早い。
「父様、母様!」
と思っていたらその二人のもとにクリス姫が駆け寄る。3人が仲良く抱き合うというのは良い光景だね。オーケなんとかにも言い分があるんだろけど、幼い女の子を奴隷にまでして手に入れようとする奴の言い分は聞かん! 僕はクリス姫の味方だ。
「待たせたな。参ろうか」
余韻を楽しむことが出来たのか、妻から体を離してクリス姫を左腕に抱えた王様が僕たちを促した。ま、こっちはその一言を待ってたんだけどね。気を利かせてたのはこっちだよ? でも、人前でいちゃいちゃするのがどういうことかよく分かったは。あれに近いことをやってたのね。公然と。……なんか思い出しただけで恥ずかしい。
王様の背中を負って彼が出て来た陰に入ると、3m程の高さで幅2m程の円筒状に刳り抜かれた空間で行き止まる。ヴァンダさんが付いて来ない処を察すると、ここから出れない制約なんだと思う。その状態で娘に逢えたというだけでも幸運なのかも知れないな。僕たち4人がその空間に入ったことを確認してから王様が小さく何かを口走る。恐らく転移の発動呪文だろう。ブツブツと呟くように言葉を発して直ぐ、足元いっぱいに幾何学模様が鏤められた二重円が現れたんだ。
次の瞬間には、僕たちは部屋の奥にある同じ大きさの形状をした部屋に立っていた。王様の部屋か?
「この部屋は謁見の間の後ろにある部屋だ。皆が揃うまで待つ控室のようなものだが誰でも入れるものではないので安心するが良い」
そりゃそうだ。それにしても王宮って色んな作りが有るって熟思うよ。サフィーロの王城然りね。
「それで、もう謁見の前に出ても良いのですか?」
「ふむ。しばし待て」
僕の質問に王様が部屋の脇にあるテーブルに近づき、その上にあったソフトボール大の水晶球に触れた。あれも魔道具か? エレクタニアにはないな。そう想っていると僕らが出て来た隠し部屋から見た正面の壁に謁見の間の様子が映しだされたじゃないか!?
「へ? プロジェクター?」「わ、凄い!」「何ですかあれは?」「こ、これは……」
思わず驚きの声が漏れる。この世界に来て初めて見る映写技術だからね。あるとも思わなかったし。周りの面々も同じ反応だ。この世界の住民が知らないということは、希少価値の高い魔道具なんだろう。王家だけに伝わる魔道具ってとこか。欲しいな。リューディア辺りに相談すれば作ってくれるかな?
「ほう。ぷろじぇくたーが何かは知らぬが、ルイ殿はこの魔道具のことを知っているようだな」
「正確には似ている物を知っている、ですが。概ねそうですね」
「ふむ。驚く顔が見たかったのだがちと拍子抜けだな。まあいい。わしはこうやって謁見の間の様子を見てタイミングを図っておるということだ。今はその必要はないがな。主賓はまだだが出てもよかろう」
顎に生えた形の良い髭を触りながら王様が僕たちを促す。金色の瞳が何かを探るような感じで僕を見詰めているけど、気付かないふりをすることにした。異世界人ということを大手を振って宣伝するつもりはないが、以前ほど隠さなければいけないとも感じてないも確かだ。ナハトアとの旅で意外に多く異世界の人間が混じってることが分かったからかな。
壁に映しだされている映像にアレンカを含む女性が3人、ナハトアとヴィルに背負われたラドバウトの姿が見える。ちょうど今、フェナたち3人も謁見の間に辿り着いたみたいだ。
「リンダ……」
「参るぞ」
映像を父親の腕で見ながらクリス姫の小さな呟きが耳に届く。アレンカと一緒に居る2人の女性のどちらかがリンダと言うことか? 焦らなくてもすぐに答えは出る。王様の声に頷いて僕たちはその後に従うのだった。王様と一緒に謁見の間に登場するだなんてなかなか出来ないぞ?
「御父様! クリス!」「クリス!」「姫様!」
「エル姉様! アン姉様! リンダ!」
父親の腕に抱かれて謁見の間に登場したクリス姫を見て例の見知らぬ女性を含んだ3人が駆け寄ってくる。うん、アレンカだね。つまり、侍女に姿を隠した王女殿下だったって事? 分からないものだね。確か彼女にはあの男が使った魔道具の力に影響されなかった。瞳の色は市政の人たちとあまり変わらない気がしてたけど、よく見比べれば少し青味が強いのか。
「ルイ様!」「ルイ殿か!」「よお」「ラドバウト様!?」「姫様!」「ご主人様!」
僕の方にもそれぞれ面々が近づいてくるので手を振りながら全体を【鑑定】してみることにした。誰かに焦点を合わせるのではなく、全体を視野に収めるようにしてから小声で「【鑑定】」と唱える。上手くいった。ズラッとステータスが僕の前に並んでる。見るのはレベルの下の状態欄だ。
◆ステータス◆
【名前】ナハトア
【種族】ハイダークエルフ / ハイエルフ族 / ルイ・イチジクの眷属
【性別】♀
【職業】死霊使い
【レベル】97
【状態】加護
◆ステータス◆
【名前】ヴィルヘルム
【種族】ブラックドラゴン / ドラゴン族 / ナハトアの従魔
【性別】♂
【職業】フォールンナイト
【レベル】1000
【状態】生きる屍
◆ステータス◆
【名前】ラドバウト・フェン・バッカウゼン
【種族】テイルへルナ人 / 人族
【性別】♂
【職業】ロードナイト
【レベル】102
【状態】加護 / 重症 / 出血
◆ステータス◆
【名前】エルネスティーネ・カレンドゥラ・フェン・ヴァルタースハウゼン
【種族】テイルへルナ人 / 人族 / ミカ王国第1王女
【性別】♀
【職業】王女
【レベル】85
【状態】加護
◆ステータス◆
【名前】アレンカ・ベルデマール・フェン・ヴァルタースハウゼン
【種族】テイルへルナ人 / 人族 / ミカ王国第3王女
【性別】♀
【職業】王女
【レベル】71
【状態】加護
◆ステータス◆
【名前】リンダ・ラーベ
【種族】テイルへルナ人 / 人族 /
【性別】♀
【職業】偽王女
【レベル】26
【状態】催眠
◆ステータス◆
【名前】フェナ・リングダール
【種族】リンクス / 人猫族 /
【性別】♀
【職業】シーフ
【レベル】67
【状態】催眠
◆ステータス◆
【名前】ジルケ・フェン・トイヴォラ
【種族】テイルへルナ人 / 人族
【性別】♀
【職業】エスクワイア
【レベル】68
【状態】催眠
◆ステータス◆
【名前】イエッタ・ファルハーレン
【種族】テイルヘナ人 / 人族
【性別】♀
【職業】アサシン
【レベル】55
【状態】催眠
おいおいおい! 半分近くが催眠てどういうことだよ!? このタイミングでするんじゃなかった! 狙われるのは決まってる!
「時間がないのですみません! ぐあっ!」「きゃああっ!」
「なっ!?」「きゃっ!」「「ルイ様!」」「ご主人様!」「「リンダ!?」」「ヴィル、降ろせ! おわっ!? 勝手に降ろすな!!」「黙れ! ルイ殿!」「「「……」」」
【鑑定】の結果に驚いたけど、まずは体を動かす! そう思った瞬間、駆け寄ってくる者たちと王様の前に体を挟み行く手を遮るがリンダの手に握られていた短刀が僕の腹部を貫く! 姫様の誘拐から簒奪の方へ舵をきったっということかよ! フェナ、ジルケ、イエッタの動きも可怪しい。遠目にラドバウトが投げ捨てられているのが見えた。いや、ヴィルこちに来なくていいから大事に扱えよ重症人なんだから。
無碍に女の子を殴り飛ばすのも躊躇われたから、リンダの手首に手刀を当てて掌底打を左胸に叩きつけて吹き飛ばす。うん、むにゅっとした感触は一瞬だけど味わえました。イエッタたち3人もヴィルの機転で事なきを得たみたいだ。当身で気絶させたってところかな。
「今の内に【治療の雨】」
「うそ、治療魔法の範囲魔法ですか!?」「初めて見た」「これはまた……」
クリス姫を除く王族3人は僕の魔法を見たことないからね。物珍しいんだと思う。それよりも。
「僕は大丈夫だから! ラドバウトさん大丈夫ですか!? 【手当】」
床に蹲るおっさんに駆け寄る。駆け寄りながら自分の方も短刀を抜いて治療しておく。物理攻撃だからダメージは無いけど肉体の方は痛く見えるからね。
「あ、そうだった! ルイ様、槍傷の傷穴は塞いだんですが、回復薬が足らなかったので中途半端なんです」
「そうだろうね。状態も出血が続いてる。傷が塞がったってことは内出血が溜まってるってことだ。血栓が出来る心配もなくはないけど、謁見の間の絨毯を血の海にすることもないからこのまま治すよ。【治癒】」
ナハトアが僕に寄り添いながら説明してくれる。【鑑定】結果を見れば一目瞭然なんだけどね。ま、そこは言わなくてもいいだろう。素直にナハトアの言葉に頷いて治療を施す。あとはーー。
「これはこれは皆様お揃いで」
1人楽しそうに格式高い魔術師の装いをした男が謁見の間の入り口に立って挨拶をして来た。この男がオーケなんとかというやつか。チラッと王族の面々の表情を盗み見ると皆険しい表情になっている。特にクリス姫がそうだ。間違いないというわけか。
『ルイ様。困ったことが……』
不意に耳元でナハトアの声がする。エルフ語だ。
『何?』
『ホノカとナディアが【誘惑】状態です』
『つまり?』
『操られてるので厄介なことに……』
そうなるわな。亡霊相手にも状態異常引き起こせる魔道具ってどれだけ高性能なんだよ。だからあんなに余裕綽々な顔をしてるのか。
「王よ。今日この日で貴方の」「【突き抜こうとする腕】」
オーケなんとかが口上を述べ始めたのでその足元から左腕を呼び出して顔に拳骨をぶち込んでやった。クリス姫の事もそうだけど、僕の前で【魅了】とか【誘惑】とか使うなよな。これでも人並に所有欲っていうのがあるんだよ。あ〜腹立つ。その間にも魔法が顕現して拳がオーケなんとかの顔にめり込み見事に吹き飛んで窓枠ごと飛んでいったよ。悪役らしい声と一緒にね。
「ぶへーーーーーーっ!」
「「「「「「「「「「へっ!?」」」」」」」」」」
最後まで読んで下さりありがとうございました!
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