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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第三幕 砂の王国
142/220

第135話 潜入

大変遅くなり申し訳ありません。

まったりお楽しみください。

 

 「さあ、久し振りに稽古を付けてやろう! オレが居なかったからといって羽根を伸ばしてたんじゃねぇだろうなぁ!?」


 右頬に刻まれた向こう傷(スカーフェイス)を歪めながらラドバウトが吠える。多勢に無勢。その状況を彼は今楽しんでいた。相対するは自らが鍛え上げた者たちだ。操られているとは言え斬るつもりはないがそれで剣先を鈍らせようとも思っていない。多少の傷ならば構わないだろう。


 「相手は老いた前騎士団長だ! (ひる)むな!」


 「おいおい、(ひで)ぇいわれようだな! よっ!」「うわあぁぁぁーーっ!!」


 単騎を抑えるのは前衛の槍兵の勤めなのだが、彼らの目の前には例外が居た。人であるのにも関わらず魔獣や巨人族がよく手にする【剛力】のスキルを生まれながらに有していた人物なのだ。普通の人間と比較するほうが間違っている。槍の先を掴まれた兵士が振り回され、槍衾(やりぶすま)に大きな穴が開く。


 「ちぃ、相変わらず厄介な人ですね、団長は!」


 「褒め言葉にしちゃあ、まあまあな出来だな!」


 吹き飛ばされた兵士たちは強い衝撃を受けて我に返り始めているものもいる。ラドバウトの眼にはそう写っていた。(よど)んだ眼に生気が戻って来てるのである。つまり、何かしら衝撃を与え続ければ全員の正気を戻すことも可能という訳だ。己の内で結論を導き出しながら、にやりと口角を歪めるのだった。


 「何が可笑しいのです?」


 「お前らと殴り合いが出来ることだよ、ドミニク」


 ギイィン! 「うわあぁぁぁーーっ!」


 ドミニクと対峙している横合いから切りかかってくる兵士の剣を弾いて奥襟を掴むと、反対方向から斬りかかろうとしていた兵士に投げつける。視線はドミニクに向けたままだ。


 「投降するなら今ですが?」


 「悪ぃな。それはオレの趣味じゃねぇんだよ」


 「仕方ありません。力尽(つからづ)くでも縄に付いてもらいましょう。腕の1本くらいは覚悟してくださいね」


 「言うようになったじゃねぇか。口だけは達者になったみたいだな」


 シュッ パシッ


 「槍兵どんな鍛え方してるんだ? 全然ダメじゃねぇかよおぉっ!」「うわあぁぁぁーーっ!!」


 背後から突いてくる槍を脇の位置で掴み、ぐるんと一回転させてドミニクの後ろに立つ騎士たちに放り投げるが、鞘に入ったままの剣で叩き落とされていた。「ひでぇ」と思いながらドミニクの出を見るラドバウト。どの道囲まれたままでは分が悪いのは確かだ。いつの間にか背中を突かれる危険がつきまとうのである。こうなれば混戦に巻き込むのが良い。


 ギィン!


 (しばた)く間にドミニクの剣先が喉元へ襲いかかるが、難なく弾いてドミニクに肩でぶつかる。


 「お前の剣は綺麗だな。惚れ惚れするよ」


 「ぐっ! しまった!」


 剣撃の応酬を予想していたドミニクはその衝撃のせいで反応が遅れ、その隙にラドバウトは包囲している兵士たちの中に飛び込むのだった。次の瞬間、兵士たちが四方に吹き飛ばされ始める。いつの間にか兵士から奪った戦棍(メイス)が左手に握られており、それが兵士や騎士たちを殴り飛ばしているのだ。右手の剣は振るわれる剣や槍を弾くだけに見えた。進行方向にドミニクも慌てて立ち塞がる。


 「【強撃(サンプ)】!」


 「【受け流し(パリー)】!ぐあっ!!」


 グワァンッ!


 「受け方が甘いってただろうがよっ!」


 ラドバウトの振り下ろされた戦棍(メイス)の勢いを剣で受け流そうとしたドミニクであったが、そのまま剣を足元に叩き落とされる。石畳みに嫌われて激しく金属音を響かせるドミニクの長剣。間髪入れず半回転の勢いを載せた右手に持つ剣の(かしら)でこめかみを兜の上から強打されて彼は吹き飛ぶのだった。恐らく意識は残っていないだろう。だが、ラドバウトの視線はそこに向いておらず、目の前に居る稽古相手たちの顔を見て獰猛に微笑むのだった。


 「さあ、稽古の続きだ」




             ◇




 同刻。


 ナハトアたちは王宮内を足早に進んでいた。駈歩(かけあし)ではない。歩を早めていた。先頭にたつのはジルケだ。この旅の間に背中まで伸びた金髪が彼女の動きに合わせてふわふわと揺らぐ。


 「ジルケ、先に我々が着いた場合の事は考えてあるのか?」


 「問題ありません。ラドバウト様と打ち合わせ済みです」


 並んで歩きながらナハトアがフードを(かぶ)ったまま話し掛けた。二人の後ろにフェナが続く。ちらりとその姿を確認しながら、先程見た遣り取りを思い出して感想を漏らす。


 「それにしてもあの男、騎士団長とはな。見かけによらないものだ」


 「(・・)騎士団長ですが、歴代の団長の中では群を抜いてる御方です」


 ラドバウトと別れた後の出来事を眼にすることになったのであればジルケの弁にも納得したのだろうが、それだけではナハトアを納得させる材料にはならなかったようで、「ふむ」と短く(うなず)いただけでこの話題は終わってしまった。ただ、あの後間違いなく2人は囲まれたはず、無事であることを願いながら急に気配を感じて後ろを振り返る。ジルケもそれに釣られたが2人の目が驚きて大きく見開かれることになった。


 「お待たせしました」


 「「イエッタ!?」」「っ!?」


 そう、ラドバウトの背中を守るつもりで残ったのであろうイエッタが追いついてきたのだ。驚かないはずがない。そしてもう1つ懸念が浮かび上がる。


 「ラドバウト様は御無事です。わたしが居ては本気が出せぬと放り投げられてしまいました。わたしが御姿を見た時には槍兵を振り回しておられましたし、問題ないと思います」


 「「「槍兵を振り回す!?」」」


 イエッタの言葉に3人は思わず問い返してしまったのだ。槍兵を振り回す様子が思い浮かばなかったのである。しかしイエッタの表情を見る限り冗談を言ってるようにも見えない。あの人物がそれほど化け物じみた力を持っていたことに3人は改めてぶるっと肩を震わせるのだった。追手は掛けられているだろうが、その(ほとん)どをラドバウトが引き受けてくれた事に違いはない。4人は顔を見合わせると駈け出す。


 「あ、待て!」「居たぞ!」「追えっ!」


 その理由が後ろにあった。包囲網から離れて追ってきた騎士と兵士が追いついてきたのだ。10人程度の人影が見て取れる。


 「あっ!?」


 横を走るジルケが驚いた声を上げたのでナハトアは彼女の視線の先に眼を向ける。一瞬だが見覚えのある女性が通路を右に曲がった瞬間を確認できた。慌ててジルケの顔を見直すと表情が厳しい。それを見てナハトアは短く告げて立ち止まるのだった。


 「先に行って!」


 「「「えっ!?」」」


 ナハトア急な行動に3人が慌てて立ち止まり振り返る。理由がわからない。いや、立ち止まったということはそういう事なのだろうと薄々気が付く面々がそこに居た。先程の女性を追えということだろう。


 「ナハトアさん、お願いします」


 「直ぐ後を追う。足止めするだけでも時間は稼げるから。話す時間も必要でしょ?」


 「すみません、お願いします!」


 ジルケはそう言ってナハトアに頭を下げると、女性が消えた通路に向かって駈け出すのだった。その後をフェナとイエッタが追う。見送るナハトアに耳に追手の足音と金属が擦れる音が近づいてくる。大きく息を吸って吐くと、ナハトアは短く自分に言いきかせるのであった。


 「さあ、やるわよ」




             ◇




 ナハトアに促されたジルケは走っていた。何としても問い詰めねば! という思いが彼女の中に生まれており、それが今の彼女の行動を支配しているといえる状況なのだ。フェナもイエッタも何か言って注意を促したいのだがジルケの表情を見ていると言えずに居たのである。


 ジルケの眼は通路の奥の部屋に入っていくあの女性の姿を捉えていた。


 「ロミルダさん……」


 そう、彼女とは10日以上前にクリス姫の護送のためシドン砂漠を横断しようとした際、砂蚯蚓(サンドワーム)の襲撃を受けて行方知れずになったまま別れたのだ。安否を気にしていたというのもある。しかしそれ以上に気になることがジルケの胸の内にあった。それを確かめなければ、という思いが彼女を突き動かしていたのだ。


 「……」「……」


 イエッタとフェナは当初彼女たちと別行動で、後に合流しただけにその機微までは理解できない。それでも、ジルケの思い詰めた表情から事の深刻さを感じ取っていたのだ。特に何かを確認した訳ではないが、フェナとイエッタは何も言わぬまま(うなず)き合いジルケの背を追うであった。


 こんこん


 目的の部屋の前に立ち扉をノックするジルケ。マントの下に隠している長剣の鯉口(こいぐち)を切り何時でも抜剣できるようにして部屋の中の反応を待つのだった。


 「どうぞ」


 部屋の奥から聞き慣れた女声が聞こえてくる。それからゆっくりと扉に手を掛けて開き、扉だけ勢いで開くように押し開けるのだった。つまり、部屋の入り口に立ったまま動いていない。視線の先にはジルケが求めていた人物が背筋を伸ばしていつものように静かに立っていたのであった。


 「ロミルダさん、あの日以来ですが御無事だったのですね」


 正面に立つ老婦人に声を掛けながらも視線で周囲を観察する。見えるところに人影はない。奥の両袖机の横に立つ止り木に(はやぶさ)が1羽止まって眼を閉じているだけだ。


 「ジルケ! まぁ、心配していたのですよ!? 野営場(キャンプ)の中で姫様や貴女の姿が無かったものですから気が気でなかったのです。幸い何名かは生き残れたのでそのまま王宮に帰ってくることが出来ました」


 ジルケの声とその姿を見た老婦人が驚いて近寄ろうとするのを、ジルケは右手を上げて無言で制する。


 「……ウド、ヨーナス、クルト、カスパルは亡くなりました」


 クルトの事はロミルダも知っていることだったが、敢えてこの旅でなくなった4人の名を挙げてみた。


 「そうでしたかーー。姫様を御護りしたのですから騎士の本望は十分に果たせたことでしょう」


 ジルケの言葉に眉を寄せて悲しむロミルダだったが、一拍を置いてはっきりとした口調でその死を褒めたのだった。それにジルケは違和感を感じた。反応があまりに早いのだ。見知った者たちではない。海賊船に囚われる前から言えば半年は苦楽を共にしてくた仲間だーーと思っていた。


 「……何故姫様が御無事だと思われたのですか?」


 「ーー」


 その疑問をぶつけてみたところ、ジルケの言葉にロミルダは無言で顔を(しか)めたのだ。何故4人の名前が出た時にその表情にならなかったの? そんな思いがジルケの脳裏を(よぎ)る。疑念が確信に変わり始めた。イエッタとフェナは何時でも行動できる態勢を取りつつも、対峙する2人の反応を見ながら左右の状況に気を配っている。再会をゆっくり喜んでいる状況ではないのだ。


 「わたしは一言も姫様の状況など口にしていません。何故姫様の様子が分かったのですか?」


 「……ふふふ。わたしとしたことが詰めが甘いと叱られてしまいますわね。それにしてもジルケ、貴女も賢くなりましたね」


 「ええ、砂寄(すなよ)せの笛をわざわざ渡されたことにも気付かない愚かさを恥じましたから」


 「……」


 「何故です? ロミルダさん! 何故あんなことを!」


 そうなのだ。本来であれば砂除(すなよ)けと呼ばれる笛を全員(・・・・)が持っていたはず。それなのにその(ほとん)どの兵士が手にしていたのは|砂寄せの笛だった。つまり、その笛を吹けば吹くほど砂の中に住む魔物たちを際限なく呼び寄せる事になる凶悪な道具が、一部の者を除いて支給されていたのである。


 裏返せばその過酷な状況下で生き残れたロミルダが手にしていたのは砂除けの笛だったと、状況証拠が叫んでいるのだ。何故ならあの日、笛を届けてくれたのは駐屯地の騎士ではなく、ロミルダだったのだから。


 クルルル


 ロミルダの横で隼が機嫌良く喉を鳴らし、誰かから(・・・・・)もらった肉を(ついば)んでいた。


 「「「っ!?」」」


 ロミルダは一歩も動いていない。それなのに今まで微動だにしなかった隼が食事を始めたのだ。警戒度が一気に跳ね上がる。通路の方ではナハトアのお蔭で誰1人として来る気配がない。


 「それはわたしの口から説明したほうが良さそうだね。従騎士(エスクワイア)ジルケ殿」


 「誰っ!?」「くっ!」「気配がなかったっ!?」


 隼を挟んだロミルダの反対側から男声が語り掛けて来たのだ驚かないはずがない。現に3人は攻撃態勢に入っている。魔法が使えたなら直ぐに打ち込んでいただろうが、魔法の使えない彼女たちにとっては次善の対応だっと言えよう。だが姿が見えない。


 「オーケシュトレーム、といえば分かってもらえるかな?」


 何もない空間が揺らぎ始め声の主である男が静かに現れる。50歳までは届いてないであろう初老の男だ。左手が懐に差し込まれてもぞもぞ動いているが、彼女たちは男の視線から眼が離せなくなっていた。


 「「「……」」」


 「クリス姫はあの時点で死んでもらおうと思って、この()に文を持たせて行かせたんだけどね、見事に失敗だよ。生きて返って来たのであればそれはそれで利用価値がある。ロミルダもそうだが、君たちも(・・・・・)協力してくれると嬉しいな」


 そう話し掛けた瞬間、オーケシュトレームと名乗った男の眼が妖しく揺らいだように見えた。それこそ気の所為かも知れない。それでも、目の前で起きた行動は驚かずにいられないものだった。今まで警戒状態にあった3人が緊張を解き、頬を赤らめながらそこに(ひざまず)いたである。そして一斉に頭を垂れたのだ。


 「「「はい、仰せの通りにいたします」」」




             ◇




 同刻。


 ミカ王国が王族クリスティアーネ第5王女殿下付きの侍女アレンカは、そのクリスティアーネ姫を先導して騒ぎの中後宮を移動していた。


 「何があったか聞いていますか?」


 「小火(ぼや)騒ぎが北門の方であったようです」


 辺りをキョロキョロ見回しながら先を歩く侍女に声を掛けるクリスティアーネ。それに短く応じながらアレンカは少し足を早めるのだった。


 「それにしては騒ぎが収まってないようですが?」


 「……」


 「アレンカ?」


 「もうじきエルネスティーネ様の御部屋でございます。詳しくはそちらで」


 喰い下がるクリスティアーネをアレンカは無視しようとするのだったが、殺し文句で黙らせようとしたものの失敗に終わる。


 「……それにしても何故姉上は急にわたしを御呼びになったのでしょう。半年は顔も見ていないというのに。何か聞いていますか?」


 「それも後ほど」


 「はぁ……。気が重いわ」


 溜息と共に(ようや)く静かになってくれたことを内心喜びながら、アレンカは表情を消したまま角を曲がり、目的地に辿り着く。


 こんこん こんこん こん


 「アレンカで御座います。クリスティアーネ様を御連れしました」


 「入りなさい」


 決められていたノックだったのだろうか、アレンカは躊躇(ためら)うこともなくリズミカルに扉をノックし(おもむ)きを伝えるのだった。それに呼応して奥から若い女性の声が返ってくる。


 かちゃり


 アレンカがドアノブに手を掛けることもなく、扉が自然に部屋の内側に向かって開いた。理由は簡単だ。部屋付きの侍女が扉を開けたのだ。部屋の正面に見えるのは格調高いテーブルや調度品。声の主は居ない。部屋付きの侍女に一礼してアレンカは部屋に入ることなく、体を左に半回転させ一歩後ろに下がるのだった。肩口で切り揃えている癖のない金髪が一連の動きでふわりと動く。


 自分の前が開けたことを確認したクリスティアーネは気付かれないように深呼吸し、ゆっくりと部屋の中に足を踏み入れるのだった。初めて(・・・・)訪れる姉の部屋。視線を動かさないようにしなければと思うものの、自分の部屋と比べてしまい目移りしてしまっていた。背後で扉の閉まる音が小さく聞こえる。


 「クリスティアーネ様。御行儀が悪うございます」


 「あ」


 自分の後ろでアレンカの小声が聞こえておもわず赤面するクリスティアーネ。その姿を部屋の奥に設置された天蓋付きのベッドから優しいげな笑みを浮かべた美しい女性が見詰めていた。


 「こちらに来なさい。クリス」


 「は、はい、御姉様」


 柔らかい声がベッドの上で上半身を起こした女性から発せられる。その声にビクッと体を弾ませながらも、クリスティアーネはベッドの横までぎこちなく移動するのだった。


 「そんなに緊張しなくてもいいのよ? 半年顔も見てないのだからよく見せて」


 「は、はい、御姉様」


 「綺麗になったわね、クリス。もっと顔を近くに」


 「こ、こうですか? 御姉様」


 「ふふふ。大丈夫とって食べたりしないわ。まだ微熱が引かなくてね体が思うように動かないのよ」


 「風邪と聞きましたが……あ」


 ベッドの横まで移動したもののクリスティアーネはどうすればよいか分からずにオロオロしていた。普通の会話をしたいと思っても何を話して良いのか浮かんでこないのだ。そんな妹の様子を見かねたのか、エルネスティーネは妹の手を引いいて自分の胸に抱きしめたのだった。急なことで更にクリスティアーネの頭は真っ白になる。そこへ追い打ちが来たーー。


 「王族には慣れた(・・・)かしら? リンダ(・・・)?」


 「ーーっ!!」




             ◇




 その頃。


 ラドバウト(おっさん)たちの陽動のお蔭で、僕らは警備の手薄になったルートを駈歩(かけあし)で移動していた。


 一番駈歩なのがクリス姫だ。一番楽してるのが僕。なのでクリス姫にジト眼で見られてしまう。仕方ないでしょ、生霊(レイス)なんだからフワフワ浮くのは仕様です。それに【実体化】はここぞという時の為に温存してる。そこまで言うつもりはないけどね。


 「大丈夫です。行きましょう」


 今は、ドーラが太鼓判を押してくれる様子を後ろから(なが)めている。流石は狼の獣人。鼻が利く。ルート上に人が居るかどうか気配だけじゃなくて臭いで分かるというのは便利だな。ウチの()たちの中には居ないタイプだ。犬系といえばシェイラ、レア、サーシャの3姉妹が狐の獣人だから、そこそこ鼻が利くかもだけど【臭覚察知】というスキルは派生してない。


 話を戻すと僕らは今二列縦隊で進んでる。ドーラとゲルルフ、クリス姫とカリナそして僕の順だ。僕のポジションは殿(しんがり)であり、遊撃だ。ドーラが兵士を見つけてくれた時点で移動し、【黒珠(ダークボール)】の一斉掃射で意識を刈り取る。思っていたよりも兵士が少ないお蔭で僕の出番はあまりない。そこはおっさんたちのお蔭だな。ただしーー。


 「問題はクリス姫の体力だな」


 肩で息をし始めてるクリス姫を見ながら思わず心の声が漏れてしまった。ジロリとクリス姫に(にら)まれてしまう。いやいや、6歳の体力にしては驚異的だけど、大人のそれには敵わないのは当然だよ?


 「問題ない。いざとなればわたしが姫様を背負う」


 「嫌じゃ」


 即答だった。


 「は?」「え?」


 あまりの反応の良さに僕とゲルルフさんは思わず聞き返してしまったくらいだ。


 「あちしはルイの背の方が良い」


 「えっと……何でそんな眼で僕を見るんですかゲルルフさん」


 「な、何でもない」


 ぷいっと顔を逸らすゲルルフさん。その顔は一緒にお風呂にはいろうと言って娘に断られたお父さんのような表情ですよ……。僕も妹の(みのり)が父親を拒絶した時の表情を間近で見てるから良く分かる。ショックだよね、あれは。で、季は僕といっしょに入る! と息巻いて引っ張っていったんだけど、凄い気まずいんだは。ゲルルフさん御愁傷様です。貴男の勇気は忘れません。


 と言っても、このまま姫を放っておく訳にもいかず。指名もあるので前言撤回して使うことにしました。


 「【実体化(サブスタンティション)】。では、クリス姫背中にどうぞ」


 「うむ、苦しゅうない!」


 「……ゲルルフさんすみません」


 「き、気にするな! 姫様のことを考えればこれでいいのだ。いや、これ()いいのだ」


 と、遠くを見つめるゲルルフさん。まあ、これだけ機嫌が良くなれば致方(いたしかた)ない。ドーラが行っても良いかと眼で確認してきたので頷いておく。目的は誰が姫を背負うかではなく、姫を謁見の間に連れて行く事なんだから。


 「出発します」


 ドーラに促される形で皆が立ち上がり一路王宮内への隠し通路へ向かう。久し振りの肉体だけど感覚は悪くない。こういう緊張感も必要だ。


 そんなことを考えている内に王宮に隣接する塔に辿(たど)り着く。周辺には妖しい気配はない。ゲルルフさんが塔への扉を確認してくれたが解錠してあるとの事なので塔の中に入ったんだがーー。暗い。扉から射し込む陽の光で奥の方まで何となく見えるけど、1階はエントランスのようで階段は正面にないね。かと行って扉を開けたままだと誰かに気付かれて追われるからそれもしたくない。となると。


 「カリナ、明りをお願い」


 「はい。光り在れ。【発光(ライト)】」


 まだカリナは短縮詠唱を身に着けてはいないみたい。明りの発現を確認して僕が扉を閉める。ずぅんと重々しい音が塔内に響き渡った気がするけど反応はないな。警備が手薄になったのか、元々警備の必用無い場所なのか……。あれ? これフラグ立てた?


 「皆、止まって! ちっ!」「えっ!?」「あっ!」「こ、これは!?」


 慌てて奥に見える階段へ進み始めていた3人を呼び止めたけどもう遅い。3人も何が起きたかを察して自分たちの足元に視線を落とす。自分だけ逃げたとしても巻き込まれた3人が無事に帰還できる保証はない。姫1人この場に置いてゆくことももちろん出来ない。ならば、と1階の石畳みの床全体に浮き上がった幾何学模様の魔法陣の上に僕はクリス姫を背負ったまま飛び込んだーー。


 「転移のトラップだぞ!」


 同時に閃光が塔の1階を包み込むのだったーー。







最後まで読んで下さりありがとうございました!


ブックマークやユニークをありがとうございます! 励みになります♪


誤字脱字をご指摘ください。


ご意見ご感想を頂けると嬉しいです!


これからもよろしくお願いします♪


PS:仕事が立て込んで忙しく執筆が進んでないのが現状です。

今週来週は特にハードスケジュールなので、26日以降は通常のペースに戻せるように頑張ります。

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