第134話 陽動
遅くなりました。申し訳ありません。
本編再開です。
まったりお楽しみください。
※2017/2/9:本文加筆修正しました。
2017/8/25:本文誤植修正しました。
【魔法障壁Lv527】魔法障壁Lv1と統合され魔法障壁Lv528へ。
【錬金術Lv814】錬金術Lv687と統合され錬金術LvMaxへ。
《余ったスキルはプールに戻ります》
【瞑想Lv720】瞑想Lv774に統合され瞑想LvMaxへ。
《余ったスキルはプールに戻ります》
【武術Lv871】武術Lv151に統合され武術LvMaxへ。
《余ったスキルはプールに戻ります》
【杖術Lv524】杖術Lv257に統合され杖術Lv781へ。
《【スキル名称】魔道具創造Lv856 身に着けますか? はい/いいえ》
はい!
《そのスキルは身に着けることができません》
あ〜久々にこのアナウンス聞いたな。【魔道具創造】だなんて子ども心を擽るようなスキルを見たら誰だって欲しいと思うよ。今風に言えば中二病? よく分からない病名だけどな。まあ、習得が無理なら誰かに付けてあげなきゃね。宝の持ち腐れだは。
僕たちがエレボス山脈を越えシドン砂漠を渡りミカ王国の王都アレーナに辿り着くまで15日かかり、クリスティアーネ姫の王宮潜入作戦を立ててから今日まで7日程宿屋に足止めされていた。つまりやることがない。【実体化】してにゃんにゃんしたいと思っても所謂敵陣の懐に居る所為で気分が乗らないし、もしもを考えちゃうんだよな。情報収集はしなくてもラドバウトから適時入って来るし。
そういう訳で、踊る砂蜥蜴亭の4人部屋でふわふわと中に浮かびながら、これまで吸い取ってたスキルの整理をしてたんだ。
【地魔法Lv219】エレオノーラへ譲渡。地魔法Lv1と統合され地魔法Lv220へ。
【地魔法Lv273】ガルムへ譲渡。地魔法Lv6と統合され地魔法Lv279へ。
【闇魔法Lv675】カティナへ譲渡。闇魔法Lv101と統合され闇魔法Lv776へ。
【闇魔法Lv352】ナハトアへ譲渡。闇魔法Lv305と統合され闇魔法Lv657へ。
【火魔法Lv705】ガルムへ譲渡。火魔法Lv8と統合され火魔法Lv713へ。
【火魔法Lv261】エレオノーラへ譲渡。火魔法Lv1と統合され火魔法Lv262へ。
【錬金術Lv502】リューディアへ譲渡。錬金術Lv587と統合され錬金術LvMaxへ。
《余ったスキルはプールに戻ります》
【錬金術Lv90】エレオノーラへ譲渡。錬金術Lv90。
【瞑想Lv495】アスクレピオスへ譲渡。瞑想Lv495へ。
【調合L689】エレオノーラへ譲渡。調合Lv338と統合して調合LvMaxへ。
《余ったスキルはプールに戻ります》
【調合Lv28】リューディアへ譲渡。調合Lv785と統合して調合Lv813へ。
【魔道具創造Lv856】リューディアへ譲渡。魔道具創造Lv856へ。
【武術Lv23】エレオノーラへ譲渡。武術Lv7と統合して武術Lv30へ。
【地耐性LvMax】ガルムへ譲渡。地耐性LvMaxと統合して地無効へ。
【地耐性LvMax】エレオノーラへ譲渡。地耐性LvMaxと統合して地無効へ。
【闇耐性LvMax】エリザベスへ譲渡。闇耐性LvMaxと統合して闇無効へ。
【闇耐性LvMax】コレットへ譲渡。闇耐性LvMaxと統合して闇無効へ。
【火耐性LvMax】ガルムへ譲渡。火耐性LvMaxと統合して火無効へ。
【火耐性LvMax】エレオノーラへ譲渡。火耐性LvMaxと統合して火無効へ。
お蔭で随分整理できた。エレンやガルムへの譲渡が多かったけど、2人は領地に縛られてるからスキル上げに時間がかかる。上手に分配できれば留守番組にも寂しさを紛らわせてもらえるかな、と思ったんだ。都合の良い言い訳だろうけど。リューディアなら何か面白い物作ってくれるかも、という期待もある。さて、家に帰ったらなって言われるかな。
あの男、ミスラ―ロフについても話しておいた。そこで出逢ったウチの女性陣についての馴れ初めは省いたけど、言いたいことは伝わったはず。
今4人部屋にはナハトアとカリナ、ドーラとフェナが居る。真昼の外は酷暑ということもあって誰も外出する気は無いようだ。銘々が装備を手入れしたり、体を休めたりと自由な時間を過ごしているんだけど、ふとナハトアと視線がぶつかる。何か言いたげなジト眼だ。今もナハトアの闇魔法のレベルをぽんと上げたところだからね。
『ルイ様。ステータスで2点、可怪しな箇所があるんですけど?』
ナハトアが内緒話をしてくる時は大概エルフ語だ。エルフ語を取得している人種は限られるらしく、習得まで並大抵の努力では届かないほど時間がかかるらしい。僕は神様から貰ったズルギフトで自動翻訳されるんだけどね。
『ん? 何?』
因みにエルフ語が話せるのはナハトアだけじゃない。同じダークエルフのカリナもだ。なので会話に加わらないまでも聞き耳をたてていることが分かる。だってさ、耳が動くんだよ? ぴくぴくってあからさまに聞いてますって仕草なんだけど、きっと気付いてないと思う。
『ちょっと前まで精神支配のスキルLvは上限だったはずなのに、今見たら無効って』
『えっ!? 何それ!? 精神支配無効!? 在り得ないでしょそんなスキル!』
「わ! どうしたんですか?」「ひっ!?」
ナハトアの言葉に反応したのは彼女の親友であるカリナだった。その反応にドーラとフェナが驚いたんだけど、なんとか胡麻化して宥めることに成功したよ。困ったもんだ。
『カリナは聞くだけ。いい?』
『う……。気になる』
『まず1つ精神支配の方は、僕がここに来る前に神様と取引した結果だよ』
『『えっ!?』』
『しーっ! 僕は他の人からスキル1つだけ奪えるスキルがあるんだ。ユニークスキルは対象外だけどね。それで前に珍しいスキルを手に入れてそのまま持ってたんだけど、ナハトアのもとに放り出されるちょっとした時間で取引したんだ』
全部を言う必要はないよね。信用してない訳じゃ無いけど、防衛線は自分の中と外に在ったら良いと思うんだ。ステータス自体は家族にも見せてるしね。
『取引ですか?』
『そう、どうやら僕が奪っていたスキルは神様も看過できなかったみたいでね、それを回収する代わりに何か1つだけスキルで対価を払うという話になったんだ。それで僕を含めた眷属の精神支配耐性の格を上げて欲しいってお願いしたらこうなった』
『ふぇ〜ルイさんって神様と接触出来るんですね』
『いやいや、神様の方からの一方通行だよ? その時に対応するだけさ』
あの時はナハトアの危機に間に合ったから良いようなものの、強引過ぎる手法は歓迎できない。「結果オーライだから問題無いじゃろ?」と言われそうだけど、嫌なものは嫌だ。
『それだけでも凄いことですよ?』
『きっとそうなんだろうね。で、もう1つは?』
『闇魔法です』
『ああ、それはさっきちょっといじった』
『いじった!? え? えええええっ!? ルイさん、他人のステータスをいじれるんですか?』
カリナの反応が面白い。というか、僕の行動が規格外何だと思う。少しは自覚はあるんだけど眷属の事には歯止めが効いてないよな。うん、効かせてない。
『あ、言い忘れてたけど。ナハトアは僕の眷属なんだ。だからその範囲でズルが出来るのさ』
『ええー。何ですかその関係。と言うか、ナハトアあんたいつの間にそんな関係になったの?』
『言いたくない』
『むきーっ。だいたいいつもあんたはそうやって肝心なことをはぐらかす! だから行き遅れるのよ!』
『なっ!? 独り身のあんたに言われたくないわ! 胸ばっかりでっかくなって!』
ヒートアップしそうだからここら辺で止めないとね。胸にコンプレックスでもあるのかな、ナハトアは?
『まぁまぁ落ち着いて。胸の大きいも小さいのもそれぞれいい所があるよ。そういうナハトアだってそこそこ胸あるでしょ?』
『なっ!?』『え!?』
いや、ナハトア、そんなあからさまに胸を隠すような仕草をしなくてもいいじゃないか。僕だって男だ。それなりに経験もさせてもらったから興味があるに決まってるだろ? カリナも呆れないでね。
『まぁ何だ。こそこそするより、はっきり好き嫌いを言ってる方が潔いだろ?』
『し、知りません!』『あはははは! やっぱりルイさんは面白いねーっ!』
一先ず、危機は脱した。何を話してるんだろうか? とドーラとフェナが怪訝な表情でこっちを見てるからエルフ語での会話はこれでお仕舞いだな。と想っているとーー。
こんこん こん こんこん
とリズミカルに扉がノックされる。部屋の中の雰囲気がそれだけでピリッと引き締まった。これはラドバウトと決めておいた関係者だけの合図だ。その内の誰かが来たという事が今のノックで分かる手筈なんだけど、さて誰だろう?
「どうぞ」
「揃ってるようだな」
僕の言葉に扉が開き、おっさんとクリス姫、お供のジルケ、ゲルルフが部屋に入って来る。この部屋へ来る前に呼んでおいたんだな。おっさんが部屋の中を一瞥する。用心深いのは良いことだ。気にする素振りも見せずに僕たちは彼の言葉を待つことにした。何となくは分かるけどね。
「これから王宮に向かう」
「「「「「「「えっ!?」」」」」」」
白昼堂々と!? 今夜決行というのかと思ったら斜め上からやって来たな。確か最初の話では10日後という話だったけど、それはないと踏んでたんだ。それがまさかの昼とはね。でもそれは僕としてもはありがたい。生霊の体は常時微発光してるから夜だと明らかに目立つんだよな。
「準備はできているか?」
僕は最初から問題ない。同室の4人も何時でも出れるようにはしていたみたいだ。部屋を出る前に手順が説明された。クリス姫は僕とカリナ、ドーラとゲルルフの5名で王宮の謁見の間を目指す。ラドバウトの組はフェナ、ジルケ、ナハトアの4人だ。同じく謁見の間を目指すがこっちは陽動の意味が強い。背格好がよく似ているフェナがクリス姫の身代わり役になるという。イエッタは別の役割があると聞いた。
「ホノカ、ナディア、ヴィル。ナハトアを頼んだよ」
…… 任せて。 大丈夫よ〜 …… 「承知」
「ルイ様ーー」
ナハトアの頬が少し赤くなった? でも黒い肌だからあまりわからないんだよな。子ども扱いするなってことか? まあフォローは入れておこう。
「心配症なのは昔からさ」
「わたしも心配してほしいな」「欲しいです」「です」
「カリナとドーラは僕の組だからちゃんと守るよ。クリス姫第一でだけどね。フェナも大丈夫。ホノカたちが守ってくれるから」
媚を売られても、ドーラとフェナは僕の意識の中のペット枠から出てこないからそんな気にはならないんだよね。カリナはナハトアとは違った美人さん何だけど、踏み込んで良いのかわからない感覚があるんだ。何でか分からないんだけどね。勘かな? ま、何を言っても言い訳なんだけどさ。一先ずケアはしなきゃね。他の娘に構ってるとナハトアのジト眼が刺さる。う〜ん……嫉妬しやすいのかな? その辺りもじっくり観察しないと見えてこないか。
僕たちが侵入するルートはそれぞれ違う。真反対から入るわけではなくて、同じ側で少し距離を置く感じにするらしい。それだと見つかった時に一網打尽にされるんじゃ? とは思ったけど、敢えてそうするってことは打算が有るんだろう。まずラドバウトたちが入り、10分後僕らが入るという手筈だ。
◇
踊る砂蜥蜴亭から王宮まで徒歩で四半刻は掛かる。
勿論宿からは別々にタイミングをずらして出発したけど、あんまり間を開ける訳にもいかない。突入時間がずれれば計画の失敗に繋がるんだから責任重大だ。僕たちはおっさんたちとは別ルートで潜入ルートまで移動する事が出来た。案内はゲルルフ。元々王宮仕えだったんだから案内はお手の物だ。それにしても堂々と入るには目立ち過ぎる。どうするんだ? と思っていたらーー。
「火事だーーっ!」「北門と西の塔付近に別れろ!」「手の空いてる者は水を汲めっ!」
ベタな陽動がありました。僕たちが居る側の反対方向だ。
そうこうしてると10分が経つ。さあ、どう入る?
僕たちが潜む建物の陰から衛兵2人が立つ勝手口が見えてる。あそこの衛兵を気絶させて、と思っていたらゲルルフがすたすたと歩き出すじゃないですか。
「え!? ちょっ」
「行きましょう。普通にしておいてください」
「え!? え!? カリナどういう事?」
「わたしに振らないでくださいよ。分かる訳ないじゃないですか。ドーラは?」
「いえ、何も思い浮かびません。ただ、緊張したような臭いはしてないので大丈夫ではないでしょうか?」
そうすんすんとドーラが臭いを嗅ぎながら答えてくれた。便利だね、犬の嗅覚っていうのは。まぁドーラは狼だけど。感心しながらカリナに視線を向けると肩を竦めるだけだった。そのままフードを深く冠ってるクリス姫の背中を押しながらカリナがゲルルフの後に続く。ドーラ、僕の順番だ。なるだけ歩いているような素振りで続くんだけどパントマイム下手だからな〜。
「止まれ!」「何者だ!」
当然止められる。誰が行ってもそうなるよ。どうするの? 押し通る?
「久し振りだな」
「「百人隊長!?」」
けんとぅりお? あれか? ローマ軍で言うところの百人隊長か? ゲルルフって以外に上の役職だったのか。そんな人物を護衛に回すとは余程信頼しているか、煙たがっていたか……だな。
「火急の用で連れと共に通りたい。頼めるか?」
「「はっ! 御勤め御苦労様です!」」
おいおいおい、そんなザルで警備が成り立つのか? いやゲルルフの顔が利いたからなのか?
「すまぬ、助かる。さあ行きましょう」
クリス姫以外の信じられないものを見る視線を受けながら、ゲルルフが静かに促す。目の前の扉が開いてるんだから疑いようがないんだけどね。それにしてもーー。
「正攻法過ぎるでしょ」
「はは。彼らはわたしの直属の部下だった者たちなのです。今は門衛をさせられていますがれっきとした騎士団の一員なので顔が利いたのですよ」
「なるほど」
それしか言いようがないでしょ。どれだけ騎士団OBに甘いんだ。いや、今の体制に不満を持っているということの裏返しか? いずれにしても無血で王宮内には入れたのは良かった。騒がれるだけで命の危険に晒されるんだからな。そんなことを考えながら先頭を走る4人の後を追って王宮の謁見の前へ向かうのだった。
◇
同刻。
先行しているラドバウトたちの一団に1人の若い女が合流する。
「ラドバウト様、2箇所の陽動完了しました。油を多量に使いましたのですぐには消えないと思います」
「イエッタか。ご苦労。このまま合流してくれ」
「はい」
ナハトアとフェナは彼女の変わりように瞠目した。もともとラドバウトを暗殺するつもりが返り討ちに遭ったと聞いている。一緒に砂漠を旅して居る時でさえ彼に従ってはいるものの、何処か剣呑さを感じさせる素振りが眼に付いていたのだ。それが今は完全に上下関係が出来上がっていたのである。イエッタの心が変わる何かがこの7日の間にあったのだろう。2人はそう思うことにした。
イエッタの言葉通りに2箇所から黒煙が上がっているのが見える。場内の兵士たちや騎士たちの動きが慌ただしい。幾人かはラドバウトたちを見咎めようとするのだったが、ラドバウトの顔を見て一礼して去っていくのであった。ジルケはフードを冠ったままなので気付かれてはいないようだ。
「団長! 戻ってきて下さったんですか!」
そんな中1人の騎士らしき男が駆け寄ってくる。右脇に飾り羽の着いた兜を抱え、格調高そうな装飾を施された胸鎧を身に着けている処を見ると、それなりの立場の人物であろうと推察できた。恐らくはラドバウトの顔見知りなのだろう。その疑問もすぐに払拭されることになった。
「ドミニクか! 別件だ。火急の用でな来た」
「心変わりはありませんか?」
「諄い。それに団長はオレではなく今はお前だろ。ドミニク」
ドミニクの短く刈った金髪が生暖かい砂漠の風に揺れる。風と共に砂塵も舞うが、この2人には気にならないようだ。
「確かにそうですが、わたし個人は留守を預かっているというだけですよ?」
精悍な顔立ちの2人が見つめ合えばそれなりに絵にはなるが、纏い始めた不穏な空気はそれを見る者たちの内に緊張感を生じさせていた。ナハトアが少しだけ立ち位置をずらしイエッタのマントを引く。その動きにドミニクの眼がチラッと反応したのをナハトアは見逃さなかった。思わず小さく舌打ちをする。
「この話は何度もしたはずだ。通らせてもらう」
「残念です」
背後の動きに合わせるようにラドバウトがドミニクの左横を通り抜けようとした瞬間だった。ドミニクの左手がラドバウトの左腕を掴んだのだ。
「ドミニク? しまった。走れ!」
ラドバウトの声にナハトア、ジルケ、フェナの3人が弾かれたのように駆け出す。イエッタ1人を残して。
「侵入者だ! 捕まえろ!!」
ドミニクの命令に反応して武装した騎士たちが建物の中から雪崩れ込んで来るではないか。つまり、このルートを取ることを読まれていたことになる。3人はその隙を縫って包囲網から逃れることが出来たが、イエッタだけはラドバウトの背中を守っていた。舌打ちしたくなる気持ちを抑えてラドバウトはイエッタに視線を向けるが、彼女の表情に迷いは見られない。つまり敢えて残ったということだ。ドミニクの腕を振り払って距離を取るが、包囲網は完成されるつつある。逃げ場はない。
「何故あいつらといかなかった」
「貴男を殺すのはわたしです」
「……オレはこいつらを斬ることは出来んが、こいつらはオレを斬ることが出来る分かるか?」
ラドバウトは気が付いていたのだ。ドミニクを始めとする騎士団の眼が淀んでいる事に。つまり操られている、とラドバウドはイエッタに説明していたのである。その説明にピクリと彼女の肩が揺れる。その間にも鞘に金属が擦れる音が響き続けていた。
そんな音が何処か遠くで響いているかのようにイエッタは感じていた。と同時に疑問も湧いてくる。
「こんな時にお尋ねするもの変ですが、何故わたしを助けたんですか?」
「はっ。全くだぜ。気紛れ、同情、欲望、まぁ色々あるはな」
「胡麻化さないでください!」
イエッタの強い語調にラドバウドはぼりぼりと頭を掻きふぅっと1つ息を吐く。
「勿体ねぇと思っちまったのさ。お前はまだ若い。幼い時から暗部に育てられたんじゃ世の中を味わっちゃいねぇ。野郎には興味はないが、偶々オレの目の前に降って来やがったのがお前だっただけだ。だから助けた」
「な、そんな理由でわたしを辱めたのかっ!」
今度は完全にラドバウドに向き直ってイエッタは激昂する。絶体絶命だというのに周囲に気が行ってない証拠だ。そんな行動にラドバウドは溜息を吐きながらもう一度ぼりぼりと頭を掻くのだった。周囲を威圧しながら口を開く。真剣な眼差しで彼女の眼を見ながら。
「ああ、あの事な。あれは何もなかった」
「なっ!」
その一言に目を見開く。その時の情景がイエッタの脳裏に現れては消えていく。全裸で、股の間には血が数滴落ちていたーー。
「宿の女将、なんつったか。ドロテーアに手伝ってもらってな。服を剥いでもらって、鶏の血を上手い具合に散らしてもらったのさ」
「何でそんな事を!」
「何で? 莫迦か。そんなに安っぽく女を捨てるな。あの時の目的は、お前の折れた心がオレに向く事だった。そうなれば任務が果たせなかったと自害することもねぇ」
ギィン!
突き出された槍の穂先を何時抜いたのか分からない速さでラドバウトの剣が弾く。
「だからお前を犯す必要なんて無かっただけさ。だがまぁ、オレも男だ。熟れた果実が目の前に置いてありゃ気にもなる」
ギィン ギィン! ぱしっ!
「人がまだ話してる時に手ぇ出すな! 莫迦野郎がっ!!」「うわぁぁぁぁ!!」
目の前に現れた槍の穂先を仰け反って躱しながら柄を掴むと、その槍を持つ兵士ごと反対側へ投げ飛ばすのだった。人間業ではない。その所業に包囲網が少しだけ広がる。迂闊に手を出せないと悟ったのだろう。だがラドバウトの事をよく知る騎士たちは始めから距離を取っていた。操られているといえ、自分たちの頂点に立っていた男の実力を忘れたりはしていないのだ。
「自分を抑えるのが大変だっただけだ。だからお前は綺麗なままだ。オレを恨まなくても良い。好きに生きろ。まぁ、ここを無事に切り抜けれればの話だがな」
「そ、そんな……」
「信じる信じないはお前次第だ。こんな場所で嘘言っても仕方ねぇだろ。それに今のお前には“死相"が出てねぇ。オレの方は五分五分だな。オレの分まで姫さんのことを頼む。その後は好きに生きろ」
周囲に気を配りながらラドバウトはイエッタの体をぎゅっと抱き締めて言伝るのだった。イエッタは急な事に対応できず息をするのがやっとだった。辛うじて男の名前を口に出来ただけだ。
「ら、ラドバウトさ、ま?」
「お前をぶん投げる。後は自分でなんとかしろ。おらぁぁぁぁぁっ!!」
「え、きゃああぁっ!!」
瞬時にイエッタの脇を抱えると、ラドバウトはぐるんと彼女を抱えたまま勢いを乗せるために一回転してイエッタを宙に放り投げたのだった。突然のことに槍を突き出す者もおらず、イエッタの体は放物線を描いて包囲網の遥か後ろに着地する。無事に着地できたのは彼女自身の力だ。
「やられた! 10名で追え! 逃すな!」「はっ! 行くぞ!」
「っ!」
溢れ出しそうになる泪を堪えてイエッタはナハトアたちが消えた王宮内に駆け込むのだった。今自分がしなければいけないことに意識を向けなければ、自分の内に存る事に気付いた感情に押し潰されそうな気がしたのだ。
そんなイエッタの後ろ姿を見送ってからラドバウトは大声を張り上げる。少しでも自分の周りに注意を引くことが姫の目的を叶える事になるのだと言い聞かせながら。その勇姿に中天の太陽は熱く燦き、吹き抜ける風が椰子の葉を戦がせ喝采を送っていたーー。
「さあ、久し振りに稽古を付けてやろう! オレが居なかったからといって羽根を伸ばしてたんじゃねぇだろうなぁ!?」
最後まで読んで下さりありがとうございました!
ブックマークやユニークをありがとうございます! 励みになります♪
誤字脱字をご指摘ください。
ご意見ご感想を頂けると嬉しいです!
これからもよろしくお願いします♪
◆スキル誤植について
ご指摘くださり感謝致します。
他にも違和感がある部分がありましたので、簡単ですが説明させていただきたく追記を載せます。
まず【譲渡】されたスキルは基本加算されます。
【パッシブスキル】がカンストすると“LvMax”と表記されます。
この状態で加算されてもスキルはレベルアップしません。
但し、LvMaxに達している同じスキルを【譲渡】された場合、乗算され“無効”と表記されます。
この無効へ更に無効に達している同じスキルと【譲渡】した時に、乗算され“吸収”となります。
修正前はLvMax→吸収になってる箇所がありましたので、修正しました。