第13話 盗賊狩りという名の下に
この物語の世界観ですが、中生代白亜紀前期の世界がぴったりあてはまるかなと感じました。
舞台は南アメリカに該当する大陸を十字に四分割した右上の真ん中から辺りにあるであろう“森”で始まります。
気候、季節、地形などは創作です。
中生代白亜紀前期の世界地図はあくまでイメージ図であるとお考えくだされば幸いです。
2016/3/29:本文修正しました。
2016/11/9:本文加筆修正しました。
『ん~~~~~~検証終わり!』
ギゼラの背中で伸びをしながら、ふぅっと息を吐く。
『あ、皆おかえり。捗った?』
ふと気が付くと皆戻ってきていたのだ。何だかちょっと体が重そうな感じもする。心配かけたから気疲れかな?
『主殿?』
『ん?』
あれ? ギゼラの声も怠そうだ。
『主殿は今何をしておられたのですか? 我の背中で急激に主殿の力が増しました。それに伴って我の体、否、我らの体も力が増えた気がするのです』
おいおい、どういう事?
…………あぁ~ひょっとして調教スキルかな?
この子達は調教したわけじゃないけど、僕と一緒に生活することを選んだからスキルの恩恵を受けてるのかもしれないね。眷属化はまだよく解らないから使ってないけど、調教スキルを食べた分だけ繋がりが強くなったのかも。
『そっか。それは多分ね、僕たちが長く一緒に生活してるから魂の繋がりが強くなった所為だと思うんだ。スキルを整理してたのもあるんだけど、その分影響を受けやすくなったのかもしれないね』
“魂”という表現が正しいのか分からないけど、神様の説明で似たような言葉を使ってたからな。これで聞き返されれば言い直せばいいか。
『そうでしたか。流石主殿、いつも予想外の事をされますね』
『はははは。それは褒められてるのかな?』
どうやら問題ないらしい。
『勿論です。こんな出鱈目な方を我は知りません。ただ、我らはこのまま休まなければ使い物にならないようです。申し訳ありませぬ』
ギゼラはそう言うといつものように輪を作り始めるのだった。輪が出来上がるとエドガーたちも重そうに中に入っていく。
『皆ごめんね。次からはちゃんと説明するからね。今夜は僕が見張りするから安心して寝てね』
『『『『ルイ様ありがとうございます』』』』
これで眷属化とかした日にはもっと危険な状態になるかもな。……安全な場所が確保できないうちは眷属化は止めておこう。そう自分に言い聞かせ、皆が集まったのを確認した僕は周囲を確認するために少し歩き回ることにした。
ギゼラが気にして頭を擡げようとしたんだけど、鼻を撫でてそのまま寝させてあげた。動ける者が動けばいいのさ。それに、この位置も森のかなり奥のほうだからそんなに魔物に遭遇することは無いはず。今までは大丈夫だったから。でも森の入口の方が騒がしい気がするんだよね。さてどうしたものか。
【漆黒】
[闇の精霊で暇な子居るかい?]
眼の前に暗闇を創りだしておいて、僕の呼びかけに黒く淡い光を放つ球体が1つ現れる。
[この闇をあげるからさ、ちょっとだけ見張っててくれないかな? 魔物が来たら一目散に逃げて僕に知らせてくれるだけでいいから]
僕の頼みに、黒く淡い光を放つ球体が左右に揺れる。
[え、これじゃ足りないって? ん? 他にも暇な子がいるから皆で見てくれるの? それは助かるよ。じゃあ、その子達の分も何個か出しておくね]
【漆黒】、【漆黒】、【漆黒】
こんなものかな。見ると球体が5つほど増えてる。物好きな子が多いな。
[じゃあ、皆よろしくね! 無茶しちゃダメだよ?]
僕の周りを6つの球体がくるくるっと飛び回って、魔法の闇の中に飛び込んでいくのだった。うん、おやつなんだ、あの子達のね。喜んでもらえてなにより。 さてと、【解除】。
どさっ
と、土の山ができるがその音で起きたものはいなさそうだ。うん、皆よく寝てる。ちょっと行ってくるね。大蛇の輪の中でモフモフ絨毯が呼んでる気もしたんだけど、ちりっと感じた違和感を確かめに森の中を移動することにしたーー。
◇
森と平野との境界辺りで松明の火が見える。馬の嘶きや怒声も聴こえてくる。先頭を走ってるのは馬車だろうか?という事は何かに追いかけられている?
この森が安全なところではないことを知りながらも、森の近くを走らざるを得ないということはそれだけ追い詰められているということだね。悪いけど、騎士同士なら傍観する。巻き込まれるのはゴメンだ。そうでないなら、状況次第かな……。
僕は急いで近くまで飛んでいく。うぁ、これは馬車の方が分が悪い。
「【鑑定】」
全体を捉えるように【鑑定】掛けると、僕の周辺にステータスの窓が所狭しと現れる。ざっと見ると相手は野盗だと分かった。フィールドワークする盗賊か。追われているのは辺境伯!? あ~顔見られたら面倒な人だね。でも抛っといたらあそこにいる人たち皆死ぬ。護衛もHpが減ってるとことを見ると怪我してるのかな? 大変な仕事だ。
知ってしまった以上知らぬ存ぜぬは性格上出来ない。これで医局の教授と揉めたんだけどな。そんなに簡単になるはずもないか。仕方ない。上手くごまかそう。
追っ手が馬に乗ってるみたいだし頭上から強襲して馬を奪って偶然を装いますか。
じゃあ、この体光って目立つから進行方向の少し上のあたりに。【漆黒】っと。闇に紛れて移動して。来たきた。
【実体化】どさっ「こんばんは。そしてさようなら」
「誰だてめぇ!? おわっ!?」
馬車を追いかける面子の1人の後ろで実体化して馬に乗る。と同時に3種類のドレインをかけて馬から蹴落すのだった。Hp100くらいは残してるから、落ちてもギリギリ死なないでしょう。
「さて、頂きますか。遅めの夕食を。【黒珠】」
【鑑定】を使ってるのもあり、誰がどこにいるのかが一目瞭然だ。生霊は夜目も利くのかもしれないね、そこそこ見えるから……。馬を操って向きを変えさせると、腕を盗賊たちに向けて振る。
「「へぶっし!?」」
「「ぐっ!?」」
「「がはっ!?」」
「「なにがっ!?」」
「「ーー!?」」
闇魔法のレベルが600に上がったおかげで一度に出せる数が上限いっぱいの100個になったから、はっきり言って一網打尽? しっかり精神を削り取らせていただきました。勿論、蹴落とした奴も漏れなくね。
奴らが使ってた馬も可愛そうだけど寝てもらってる。
前方に目を凝らして見ても馬車に追いすがろうとしている野盗たちは見えない。大丈夫そうだ。
でも、追いかけてきそうな者がまだ数名いるね。その前にこの人たちの吸っておこうかな。馬から降りて地面に転がる20名近い野盗たちにドレインを掛けていく。
気絶してるから無抵抗だね。簡単な仕事だ。あれ? 馬車が止まった?
早く逃げればいいのに。護衛でも待っているのかな? だとすればまだ後方か。こっちに戻って来る前に後方へ行ってみるか。まだ盗賊がいるみたいだしね。
再び馬にまたがって馬車が来た方に遡る。近づいていくと夜陰の中で剣戟音と火花、そして怒鳴り声が飛び交ってる様子が見えてきた。細かな人数が把握できないから【鑑定】を使う。
「【鑑定】」
戦っているのは騎士が3名。野盗が20名。圧倒的に騎士が不利だ。彼らの足元に瀕死の騎士たちが10名に盗賊たちが13名。随分本格的な襲撃だね。
ん~どうする? あれこれ説明するのも面倒だよね。
誰かに見られるのも嫌だし。
じゃあ、皆仲良く眠って貰おうかな。まずは自分の前に目隠し。【漆黒】
よし、これで向こうから見られることもないね。後ろにも一応。【漆黒】
【鑑定】方向良し!
「悪く思わないでね。出来るだけの事はしておくからさ。【黒珠】」
そう呟いて、争っている者たちに向けて魔法を放つ。次の瞬間予想外の方向からの攻撃に狼狽える間もなく、ばたばたと人が倒れていく。うわ~一方的だねこれ。酷い魔法だ。さぁもう1回いってみよう!
「【黒珠】」
皆さん、ごめんなさい。
死屍累々。いや勝手に殺すな! と怒られそうだから、すごい勢いてHpが減り始めてる騎士たちに【手当】を掛け、死にそうな野盗たちにドレインをして回る。
粗方吸い終わったのを確認して、Mpが0になって気絶している騎士たちに【魔力回復補助】を掛けて回るのだった。Mpを回復させる魔法は聖魔法にもないから、体内で魔力を凝縮させて回復を促進させる補助聖魔法を掛けたんだ。それなら野盗より早く目が覚めるでしょ?
起こしてもらえるかも知れないし。
ん?
森の方から視線を感じる。誰? 野盗の生き残り? という事は離れて見てたってことかな?
皆仲良く倒れたから、どうなったのか気になるよね。一人だけ動いてるようにも見えるし。こっちに来るかな? う~む、あれは躊躇ってるね。
こっちからアプローチかけるか。このまま馬で行くと勘付かれる。かと言って僕の持つ魔法の射程距離は長くて25mくらいだし。こっそり近づいて縛るか。
【漆黒】
20m置きに、前方へ闇を張り近づくことにした。掛けっ放しでもいずれ消えちゃうから問題ないし、まだまだ日の出には時間がある。
気配を消して近づくと小さな影が木陰から先程の先頭の後を心配そうに見詰めていた。髪の色は分からないけどツインテールだ。
「おねぇちゃん、大丈夫かな?」
え? あの中にいたの? ちょっと捕まえるのは後でいいか。気付かれたらその時対応すればいいわけだしね。【鑑定】
◆ステータス◆
【名前】サーシャ
【種族】レッサーフォックス / ツインテールフォックス族
【性別】♀
【職業】風火魔術師
【レベル】100
【Hp】11964/11964
【Mp】23377/23377
【Str】1615
【Vit】1015
【Agi】3383
【Dex】1246
【Mnd】889
【Chr】1759
【Luk】2550
【ユニークスキル】変化Lv83、幻術Lv70、遠隔感応
【アクティブスキル】風魔法Lv80、火魔法Lv50、体術Lv5
【パッシブスキル】風耐性LvMAX、火耐性Lv20
【装備】樫の杖、布の服、布の下着、布の外套、マジックバック
お稲荷さんだ♪
「お姉ちゃんは野盗の仲間なの?」
緊張させないように、フレンドリーに聞いてみる。
「ううん、おねぇちゃんは騎士に化けてるんだ」
お、意外にすんなり答えてくれたな。
「そっかぁ~。じゃあ大丈夫だよ。気絶してるけど野盗さん達より先に目が覚めるだろうから」
「そうなの?」
僕の方に振り返って確認してくる小さな女の子。ツインテールがふわりと揺れる。僕はロリータラブな人種ではないが、素直に可愛いと思う顔立ちだ。くりくりした目を大きく見開いてる。大人になったらさぞ美人さんになるだろうね。
「うん、傷も治しておいたし、大丈夫じゃないかな?」
「…………」
うん、この反応ようやく気が付いたって感じが堪らなく良いね!
「や、こんばんは♪」
「ひっ!?」
ぱしっ
逃げようとしたの腕を掴んででひとまず確保。訳ありっぽい。はぁ、つくづく僕はトラブルメーカーなのかなって思うよ。そのくせ自分で言うのもなんだけどお人好しさんだし。
「しーっ。ここで大きな声を出したら、折角潜入してるお姉ちゃんに心配かけて失敗しちゃうかも知れないよ?」
「ゔっ」
涙眼になってるのが分かる。悪役だな。このままだと悪いおじさんだ、僕。
「僕はね、そこの野盗さんたちを追いかけて来てたんだ。で、バレちゃまずいから皆を気絶させてたら君が居たのに気が付いてここに来た訳」
「え? わたし幻術使ってたのに見えたのですか?」
びっくりして女の子が聞き返す。
「え? 幻術使ってたの? うん、気が付かなかった。ごめん」
「う、そんな。謝れるとわたしの立場がないです。ぐすっ」
あちゃ、言い方間違えた。あぁ、お願いだから泣かないで~。
「あぁ、ごめん、そうじゃないんだ。僕はね状態異常の耐性があるから、幻術が効きにくいんだと思うよ。だから気にしないで」
「状態異常があってもわたしの幻術破られた事ないのに?」
「うっ、今ステータス見せてあげれないけど、そこは信じてもらうしかないね。元にここに居る訳だから」
この娘も熟練の上目遣いか! 危険すぎる!
「ううっ、そうですよね」
「ところでお嬢さんは、野盗のアジトを知ってるの?」
「あ、はい。知ってます。でもその前に辺境伯の居る街のどこかに囚われている仲間を助け出さないと意味がないのです」
「それで潜入ね」
なる程、これは小さいけど街に行くチャンスかもしれないな。
「はい。でもバレてしまいました」
女の子がシュンとする。
「え? バレた? なんで?」
「え? 貴方は辺境伯のお付の人じゃないのですか?」
「僕が? ないない。そんな面倒な人と関わり合いなんか持ちたくないよ」
「でも、貴方は人間じゃありませんか。それなのに辺境伯が面倒? え?」
ははは。その聞き方はアウトだよ。サーシャちゃん。この娘も危なっかしいのね。
「色々と訳ありなのさ。それと、人前に出るつもりならその聞き方はしちゃダメだ。自分が人間じゃないって言ってることになるよ?」
「あ……えぇっ!?」
「しーっ!!」
大きな声を上げそうになったから慌てて口を塞ぐ。おいおい。まだ安心できる状況じゃないよ。
あ、馬車が戻ってきた。後ろにさっきの盗賊たちがロープでくくられてる。無理やり気付けを施されたんだな。うん、騎士たちも起きれたようだし、様子を見るか。
「えっと、僕はルイ。君は?」
「サーシャです」
「分かった。じゃあ、サーシャちゃんは僕が良いと言うまでここで隠れて様子を見守っていてね。騒ぎを起こすとお姉ちゃんが捕まっちゃうことになるから」
「う、分かりました」
うん、実はいい子だね。何やら胸騒ぎがする。サーシャちゃんから離れて木陰に隠れる。夜だから隠れなくても良いはずなのだが、なんとなく気になったんだ。
馬車がここまで戻ってくるのも可笑しい。追われているのが解っているなら、護衛の者たちは自力で帰還できると信じでまずは自分の安全を確保するものでしょ?
それこそ安全な街に向けて馬車を走らせるはず。街は予想以上に遠いのか?
いや、これだけの人数を用意して意図的に襲わせてるのなら、それだと説明がつかない。だとすれば盗賊を手引きした内通者がまだ居るはず。
土の中に潜むか。【解除】どさっ
実体化を解除してそのまま土の中に潜り込んで馬車の下に向かう。馬車の真下に顔だけ出してみる。
「【鑑定】」
馬車の中には辺境伯と辺境伯の娘、それに侍女が1人か。護衛は外に2人。御者が1人。護衛は女騎士とおっさん騎士か。
「アッカーソン伯。どうやら皆無事のようです。ご覧になられますか?」
おっさん騎士が馬車の中にそう声を掛ける。
おいおい、おっさん無用心すぎるだろ。あんたらレベル50前後なんだから。ん? 人間のレベルってそれくらいなの? じゃあ、僕って……。
はっ! いかんいかん、落ち込むのは後だ。
「うむ。それにしてもどういうことだ? 野盗どもが皆気を失っているではないか」
渋い男の声がして馬車の扉が開く。
「デューオ様、まだ危険です。馬車にお戻りを! ライオ、血迷ったか?」
そうだそうだ、女騎士の言う通りだぞ?
「構わぬ。皆無事であったか? 何があったのか教えてくれっ!? がはっ!!」
馬車から降り立った紳士がのそのそと起き上がって頭を振ってる騎士たちに声を掛けるのだったが、語尾が裏返る!? 何だ?何があった!?
辺境伯の右胸からロングソードの刃が突き出ていたーーーー。
最後まで読んで下さりありがとうございました。
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