第131話 思惑
遅れて申し訳ありません。
11時台に仕上げられなかったので、1日ずらしてしまいました。
この熱さは驚異的です。どうぞ熱中症にご注意ください。
熱さで思考がまとまらないのでしばらく更新ペースを落としたいと思います。
3日に1回は上げれるように頑張ります!
「それにね、この依頼はあたしの可愛い姪っ子に手を出す度胸があったあんたが、本当に姪っ子に相応しいのかを試す試験だからそのつもりで取り組んでおくれよ?」
oh……。
「せ、成功というか依頼の達成はどう判断するおつもりですか?」
色々と聞きたいことが一杯あったのに、今ので全部吹き飛んでしまった! 最低限の確認くらいはなんとかしておかないと! にんまり微笑むドロテーアを見ながら僕も笑顔で問い返す。きっと引き攣った酷い笑顔だろうね。
「そうだね〜。次に逢った時に少しずつ確認させてもらおうかね。どうせ一度には解決できない案件だしね」
理解ってらっしゃるならいいです。叔母様。ヴィル! どうしてお前平然としてるのかな? 矛先が自分に向いてないだけでそんな余裕綽々な態度を取ってて良いと思ってるかい?
「分かりました。でも手が要ることに変わりありません。ヴィルに手伝ってもらっても?」
「なっ!?」
いきなり話を振られたヴィルの顔が強張るほど驚いているのが見えた。ふふふ。
「おや、あんたもなかなか良いこと言うじゃないかい。あんたの頑張り具合で姉さんに報告するかどうかも決めようかしらね」
「る、ルイ殿!!」
「自分は関係ないなんて言わせないよ? 僕だけ叔母様から試験だなんて不公平にもほどがある。ほら、旅は道連れ世は情けっていうだろう?」
「うぐっ」
慌てて取り繕おうとして僕を静止しようとするけどもう遅い。ドロテーアも頭の回転が早いから面白いように事が運ぶ。と言ってもこれ以上の事は考えてないので巻き込めればそれで成功さ。少し気は晴れたけど、依頼された内容はかなり難解なものだ。テーブルの上に置いてある瓶詰めの狂魔の角を持ち上げで見るが、これがそこまで大事になるものなのか実感が湧かない。大型の生物に着けて成長させた場合どれほどの角に成長するのかも分からないし、支配力がどれ程のものかも分からないんだ。
「これは僕が預かってても?」
「ああ、良いよ。現物が手元にあれば見極めやすいだろうからね。さてと、あんたたちアレーナに行くつもりだっただろう? もう陽も傾き始めてるし今夜はここで寝たら良いさね。明日地上まで送ってあげるよ」
その顔は砂蛙の憩い亭の女将のものに変わっていた。服装も。角ももう見えない。【鑑定】してみようかとも思ったけど、ここでまた難癖つけられるのも怖ったから覧ないでおくことにした。ヘタレだし。それに皆も特に断る理由がないのと、砂漠の真ん中と言っても地下だけど、柔らかい布団の上で安心して寝れる誘惑に敵うはずもなく、満場一致で1泊することになった。
瓶を動かすとからからと液体の中で狂魔の角が転がる。その様子を見ていた僕の眼に触手のようなあるいは根のようなものがすぅっと伸びて直ぐに引っ込んだように見えた。何だ今の? 生きてるのか?
◇
同刻。
ミカ王国王都アレーナ。砂の意を冠するこの都は巨大なオアシスを中心に栄える都だ。ミカ王国の大半は砂漠と砂漠化していない草原で占められている。故に作物の作付に向かない。それでもエレボス山脈の麓では山から下る雪解け水のお蔭で豊かな穀物地として国を支えているのが現状だ。勿論雨も降るが、エレボス山脈を境に北と南ではかなり気候も違う。四季があるわけではなく、乾季と雨季のサイクルしかないのだ。
雨季の時には砂漠に川が生まれ、オアシスに流れ込み乾季の間人々の命を支えるものとなる。そのオアシスがミカ王国内に点在しており、そのオアシスに人々が集まってコミュニティーを形成し、村を興し街に成長させてきたのだ。その一つがここ王都アレーナであった。
陽が傾き日中とは異なる赤色や紅緋色のような色合いの夕陽が、オアシスの中に佇む湖面を染める。その湖面を一望できる岩場の上に築かれた王宮のバルコニーで、まだ幼さを顔に残す少女が刻々と過ぎゆく時を眺めていた。
「クリスティアーネ様」
バルコニーに体を預け手摺に腕を載せていた少女がその声に振り向く。
「アレンカ……」
「そろそろ冷えてまいります。どうぞお部屋にお戻りください」
1人の侍女がその場に控えていた。年齢は20代半ばであろうか。癖のない金髪を肩口で切り揃えている。前髪も眉を少し隠すくらいで真っ直ぐに揃えられていた。清潔感を感じさせる髪型だ。白茶色の肌は年齢相応に瑞々しさを感じさせる。顔をお辞儀で伏せているためにその表情は見えない。
「もう少し居させてください」
「はい」
顔を王宮の外に向け直して短く乞うと、アレンカと呼ばれた侍女は短く許可したのだった。
「アレンカ」
「何でございましょう?」
湖面の上を吹き抜ける風で漣が立つのを見ながら侍女の名を呼ぶ。
「わたくしの事を父上は何と仰っていますか?」
「大人びて来たが、子はいつの間にか成長するものだ、とお喜びでございます」
「そう……。アレンカ、貴女はどう思うのですか?」
アレンカの答えはクリスティアーネの求めているものではなかったらしく、改めてアレンカ自身に問い質す。
「わたくしめは姫様付きの侍女でございます。姫様を評価するなど、恐れ多いことでございます」
「評価して、とまでは言ってないのだけど?」
自分の問いに珍しく言葉多く返して来たアレンカに思わず振り向くと、気になった言葉に喰い下がる。
「それでもでございます。ここは王宮。どこに眼や耳があるか分かりません」
迂闊なことは話せない。そう侍女は釘を差したつもりだった。
「話し方も変だと思わない?」
「……」
その答えに躊躇わずに質問を重ねるが、アレンカは沈黙でそれに答えるのだった。いや、その答えが肯定の意味を持つと幼い少女は納得することにした。この侍女は早くから違和感に気付いている。その思いが少女の心に込み上げて来た。
「そもそも」「姫様!」
クリスティアーネが更に口走ろうとした矢先にアレンカの強い声が少女の体にぶつかり、ビクッと身動がせることに成功する。それ以上はダメだという強い視線が少女の視線を捉えて放さない。それでもなお口を開こうとしていたが、アレンカの視線に射竦められてしまいきゅっと下唇を噛むのだった。
「はぁ〜、ごめんなさい。貴女の言う通りね。部屋に戻ることにするわ」
「はい、姫様。そう致しましょう」
一度アレンカの視線から目を逸らして大きく溜息を吐くと、そのまま自分の部屋へと足を踏み出すのだった。アレンカの横を通り過ぎる時にチラッと彼女の様子を見るべく視線を移したが、下腹部に両手を重ねた状態でお辞儀をしている。その時だった。
「オーケシュトレーム様にご注意ください」
擦れ違う瞬間に少女アレンカが小さく忠告したのだ。
「ーー喉が渇いたわ」
一瞬返答するまで間を開けたが、その言葉はアレンカの忠告に対するものではなかった。
「畏まりました」
しかしその反応は彼女にとって満足のゆくものであったらしく、先程までの厳しい表情ではなく柔らかい笑みが口元を飾っていた。クリスティアーネの直ぐ後ろに付くと、そのまま共にバルコニーを後にしバルコニーに併設している主人の部屋に戻る。クリスティアーネはゆっくりと備え付けのソファーに腰を下ろし、アレンカを見詰め、彼女の振る舞いに注目していた。
「御飲み物を取ってまいります」
そう訓練された動きを淀みなくおこなってお辞儀するとそのまま部屋を後にする。彼女は何者だろうか? そんな思いが新たに芽生えたのも事実である。自分がオーケシュトレームの手の者だとは思わなかったのか? そのような素振りは自分に仕え始めてこの方見たことがない。何事も卒なくこなす有能な姫付きの侍女だ。少し試してみようかしら。そう思う立ち、窓際にある両袖机の上にある小さなパピルス紙に2つの質問を書く。
わたくしが手の者だとは思わないの?
本物ではないとしたら?
それを書いた処でアレンカが飲み物とグラスを置いたワゴンを押して戻って来る。葡萄のジュースだ。それを受け取りながらクリスティアーネはパピルス紙を渡す。その紙に視線を落とすのを確認した少女はちぐはぐな質問をすることにした。
「そろそろ雨季かしら?」
「ーーそうは思いません、姫様。もう2ヶ月は先でございましょう」
「そう。そうなのねーー。そう言えば姉上が寝込まれたと聞いたが?」
「ーー問題ございません。ただの風邪でございます」
その答えにクリスティアーネは思わず目を見開く。本物かどうかは問題ないとアレンカは言った。どういう事なのか? 真偽が聞きたい。その思いが少女の中に渦巻き始めた。ただ、この状況だと話してもらえないのは明らかだ。先程でもそうだったのだから。
「ーーそう。問題がないのでしたら一安心です」
違う。安心など出来ない。
「おかわりはいかがですか? 姫様」
少女の気持ちが揺らいでいることに気付かない振りをしながら、アレンカが尋ねる。見るとグラスの中身はもう無かった。いつの間に飲み干したんだろうか。ぼんやりそう思いながらグラスを差し出す。
「ええ、お願いするわ」
グラスとパピルス紙を交換する。
「そう言えば姫様」
「何かしら?」
グラスに葡萄ジュースを注ぎながら何かを思い出したようにアレンカが声を漏らす。ピクリとその言葉に反応してクリスティアーネは思わず聞き返すのであった。
「何でも昨年はお隣りのグラナード王国で良い葡萄がたくさん採れたそうで、近々こちらにも新しい葡萄酒が届くとお聞きしました」
「葡萄酒が? わたくしはまだお酒は飲めませんからね」
「それでも我が国では気候もあり葡萄酒は他国から仕入れるしかありません。本物を味わうことも大切でございましょう」
アレンカとの何気ない会話の中に散りばめられた欠片がクリスティアーネの腑に落ちた。思わずソファーから腰が浮きそうになるタイミングでアレンカがグラスを差し出しにこりと微笑む。もう少し彼女のことを信頼してみよう。そう思いながら少女はソファーに背中を預けてゆっくりとグラスを傾けるのだった。白茶色の喉が滑らかに上下し葡萄ジュースを飲み込む。口の中に甘酸っぱい葡萄の薫りが充満して鼻に抜けていく。今はその余韻に浸っておこう。そう思いながら少女は薄暗くなってゆく外に視線を向けうのであったーー。
◇
翌朝。
朝陽が上がる前はまだ砂漠の気温は低い。
「へーっくしょんっ!!」
ラドバウトのくしゃみで皆が気が付いた。僕の方はそもそも寝てないからその瞬間も知ってるんだけど、やってくれたよ、ドロテーア。
今僕たちが居るのは遺跡のど真ん中だ。それも砂漠の上にあるね。どんな方法を取ったのか知らないけど、砂漠の地下深くにあった砂蛙の憩い亭の部屋で寝ていた僕たちは、何の前触れも告知もなく見事に放り出されていた。
「え? え? どういう事!?」「ドーラ、起きてよ!」「何だこりゃ!?」「ふぇっ!?」「なっ!?」
若干名まだ寝てる娘もいるけど、眼が覚めた者の反応は皆予想通りだ。荷物が失くなったわけでも、砂蜥蜴が逃げ出したわけでもないから危険な状態という訳じゃない。訳じゃないんだけど当然、張本人の姿もないだよな。接した時間は短いけど分かる。完全に悪巫山戯だ。
「怪我はない? 取り敢えず現状が確認できたら、食事を軽く取って出発しませんか?」
頭が混乱してるだろうから、冷静になる時間は要ると思う。ただ、これから気温が鰻登りに上昇するからのんびりしている時間がないことも確かだ。僕の言葉に皆ゴソゴソと支度を始めるのだった。さてさて、地上に出れたのは良いんだけど、ここは何処だ? 王都はどっちなんだーー?
◇
同刻。
東テイルヘナ大陸南部、遥か上空を巨大な4つの翼を持つ紫黒色の竜が飛んでいた。
「ふふふ。ルイか。良い子じゃないかい。あんなこと言っちゃったけどあの子ならシンシアも安心さ。ヴィルもどうにか闇堕ちの手前で留まっているようだし。あの子のお蔭なんだろうね」
巨大な竜はそう独り言を漏らしながら眼下に視線を落とす。何も告げずに別れたけどそれはそれで面白いだろうという、竜族特有のおおらかな性格とルイに対する期待の表れでもあったのだが、当の本人は気付いていない。ドロテーア自身も全てを事細かく言う性格でもない為に、意思疎通が上手く図れなかったのが今朝の行き違いの原因だろう。
今ドロテーアが向かっているのは北半球に存在するアオニア大陸。かつてルイがアンジェラたち巨大鷲に連れて行かれた鷲の王国もある大陸だ。陸地の上空を選んで飛行するルートもあったのだが、人外の地域は基本魔王領。いくら上空で地上と距離があるとは言え、何事も起きずに素通りできるほど甘い地域ではない。それで、テイルヘナ大陸の南端から北極地域周辺に鎮座するクサンテ大陸の横を掠め、大洋に出てぐるりと縦に周りアオニア大陸を目指しているのだ。気流などを加味すれば2日もあれば行けるだろう。
久し振りの郷帰りだ。皆元気にしているだろうか。懐かしさに思いを馳せながらドロテーアはアオニア大陸の北端にある竜の隠れ里に向けて羽撃くのだった。
◇
2日後。
陽が傾き始めた時、巨大な影が山の中にある聚落の上を通り過ぎた。村人たちが色めき立つ。結界で守られた郷への侵入者が居るのだ。招かれざる客。村人たちの多くは家に隠れ、屈強な男たちが村の中央にある広場に集結する。だが奇妙なことに男たちの手に武器はない。
「何事か?」「何があった?」
そこに腰まである金髪を靡かせながらうら若き美女が2人歩み寄ってきた。彼女たちの頭にも男たちと同じように角が4本見える。羊のような角や、山羊を思わせる角がそれぞれの側頭部から生え出ていおり、それは個性と言っても良い有様だ。彼女たちの角は2人とも真っ直ぐな角が4本突き出ていた。
「これはヒルデガルド様、イザベラ様」
2人の美女に1人の男が頭を下げる。
「竜族と思われる姿が見えました」
「誰かしら?」「郷に関係があるものだろうな」
男の答えに彼女たちは眼を細める。思惑がありそうな表情が一瞬だけ顔を覗かせるが、直ぐに消え去って笑顔がそれを覆い隠す。どちらの顔も均整が取れておりその美貌は男たちの視線を奪うに十分過ぎるものだ。それでいて彼女たちはそれを鼻にかけるわけでもなく、普通に接している様子が見て取れる。彼女たちが慕われていると感じるには十分な証拠だろう。
「同族であるのなら警戒は必要ないでしょう。歓迎の準備を」
「力ある者が帰参してくれたのなら良いのだけど」
「ふふふ。そう言わないのイザベラ。時間はまだまだあるわ」
「そうだな。姉上の言う通りだ」
どうやら2人は姉妹のようだ。言われてみれば2人とも切れ長な眼をしており、少し目尻が上がっている。双子と言っても良いような容姿だが、ヒルデガルドと呼ばれた者の耳たぶに黒子が見えた。そこで見分けるか、話し方と雰囲気で接するしかないだろう。服装も似たような服装を身に着けているのだから。
そこに先程の巨大な影が再び訪れる。
「「「「天竜!?」」」」
男たちが驚愕の声を上げながら羽撃く巨大な竜の正体を言い当てた。
「「ドロテーア叔母様!?」」
それ以上に驚いたのが彼女たちだ。彼女たちの声に呼応するかのように、天竜はゆっくりと高度を落とし広場に着地するのだった。ずぅぅんと大きな地響きが山々に響き渡り鳥たちが驚いて木々の間から飛び去っていく。ちゃくして直ぐに天竜の紫黒色の鱗に包まれた巨躯が窄み始め、小太りの女性が姿を現すのだった。
「ヒルダにイザベラかい? 暫く見ないうちに綺麗になったもんだね」
「「ドロテーア叔母様!!」」
小太りの女性に名前を呼ばれた2人は満面の笑みで勢い良く彼女に抱き着く。そんな2人を優しく受け止めて背中を撫でてあげるのだった。
「カミラ姉さんやマルガは元気かい?」
「カミラ叔母様は相変わらずです」
「母上も元気です。シンシアの事が気になってるみたいですが」
「そうかい。シンシアだけど、あの娘に縁のある者に逢ったよ。ヴィル坊にもね」
「「本当ですか!? 叔母様!?」」
仰け反るようにドロテーアの両側でヒルデガルドとイザベラの2人が驚く。その双眸に妖しい色を湛えながら……。
「お待ち。あんたたち何時角が増えたんだい? この郷にあたしが居た時は確か2本だ、が!?」
その瞬間、2人の姪がドロテーアの両腕を後ろに絡めとり、身動きが取れないように肩を極められてしまう。
「流石は叔母様。このタイミングで気付かれるとは思いませんでしたわ」
「もっと油断させてからと思ったが、叔母様相手ではそうも行かないらしい」
「ヒルダ、イザベラ、どういうことだい!? 説明おし!!」
がちゃり
ひんやりとした冷たい鉄の感触が両手首から伝わってくる。手枷を嵌められたのだ。
力が出ない。単なる手枷ではない。そういう力を備えた拘束用の魔道具と見るべきだろう。鎖も切れないことに苛立ち、ドロテーアはぎりっと奥歯を噛みしめる。
「ふふふ。叔母様の存在は厄介だと思ってたのですが、仲間になっていただけるなら話は別ですわ」
「姉上、今のうちに」
「そうね」
イザベラに促されてヒルデガルドが太ことから蓋付きの小瓶を取り出す。その中には先日ルイに渡したものが数多く詰まっていた。驚きのあまり大きく目を見開く。
「それは、狂魔の角!? そうか!! あんたたちもその角が生えてるんだね!!(何てことだい。この可能性もあるってことを忘れてた。村全体がそうだってことなのかい!? ルイ、済まないね。あんたの顔を見れそうにないよ。シンシアとヴィル坊の事を頼んだからね)」
「あら、流石は叔母様。調べておられたのですね。でしたら話が早いわ。ドロテーア叔母様。我らがベルキューズ陣営にようこそ」
何かが左右の額に着けられた気がしたがドロテーアの意識はそこで途絶えたーー。
◇
5日後。視線の先に街が揺らいでいる。
例の遺跡だけど、どうやら地元では有名な場所だったららしくラドバウトがすぐに方角を割り出してくれた。後はひたすら砂漠の旅。どこを見ても砂、砂、砂。正直気が滅入ったよ。
僕はまだ良い。生霊だからね。熱さも平気。食事も取らなくても大丈夫。だけど旅する生身の体を持つ面々は大変だ。食べれば用をたさなきゃいかない。お腹は減る、喉は乾く。熱さで頭がくらくらする。氷魔法なんかないからね。ひたすら【疲労回復】を掛けるくらいさ。
本来のルートから外れていた事もあり少し時間は掛かったけど、漸く僕たちは熱気と砂塵巻くミカ王国の王都アレーナに到着した。中東の巨大な城跡を思わせる赤茶色のレンガを積み上げたような壁が僕たちの行く手を阻む。壮観だね。都に入るための城門で毎度のことのように身元調査が行われているのが見える。あれって、クリス姫が受けたら不味いんじゃない? そう思った時だった。
僕たちも入都するために列に並んでいたんだけど、この列に逆行するように小柄な人が近づいて来た。フードを深々と冠っているせいで顔は見えない。何となく女性のような気もするけど、飽く迄勘だ。その人物の目的は僕たちだったようで、きょろきょろと列に並んでいる者たちをチェックして僕たちに気付くと慌てて駆け寄ってきた。その自己紹介に僕は耳を疑ったーー。
「御初にお目にかかります。わたくしクリスティアーネ姫殿下付きの侍女、アレンカと申します。抜け道が御座いますのでご案内致します」
「え?」
最後まで読んで下さりありがとうございました!
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