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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第三幕 砂の王国
127/220

第125話 サンドワーム

※残酷な表現があります。

 

 クリス姫たちの一団を追う僕たちの眼に、巨大な蚯蚓(みみず)が砂の中から現れたのが映っていた。


 「あれは……」


 「ちっ、サンドワームだな。誰かが襲われたらしい。動くな。動けばサンドワームがここにも来る」


 僕の(つぶや)きを向こう傷(ラドバウト)のおっさんが拾ってれた。あれがサンドワーム。でかいってもんじゃない。2km近く離れた距離から5㎝くらいの大きさに見えるって在り得ないだろ!?


 「ここからでも見える大きさって……」


 その違和感にナハトアも息を呑む。皆フードを(かぶ)って口元に覆い布を巻いている。砂対策だ。それにしても振動に反応する魔物ね。砂漠の土竜(もぐら)みたいじゃないか。僕はまだしも、皆に迷惑を掛けれないのでおっさんの言うことに従うという方向で4人にも話は通してある。砂漠は知らないことが多すぎる。砂漠といえば駱駝(らくだ)かと思いきや、駱駝はミルクを搾る家畜だとか。そして砂蜥蜴(すなとかげ)。場所も変えれば乗り物も変わるってことだ。


 「それにしてもあんな魔物相手に10日も過ごすのは酷じゃないですか?」


 「普通は砂除(すなよ)けっていうこういう笛を持ってるもんだ。だからサンドワームが近くにいても襲われることはまずねぇ。それに動かなければあいつらは去っていく」


 だから今見たのは可怪しいんだよ、とおっさんが続けてくれた。違和感を感じるということか。おっさんの胸元に棒状の笛がぶら下がっているのが見える。犬笛より大きい。あれが砂除けか。いずれにしても初日から前途多難という訳だな。


 遠くに見えるサンドワームが姿を消してから10分ほどその場に留まり、おっさんの合図で追跡を再開した。目標は付かず離れず。この距離だとすぐには駆け付けれないが、近づき過ぎると見つかるんだ。これで我慢するしかない。向こうではアクシデントがあったみたいだがこちらにはとばっちりはなく、夜を迎えたーー。




             ◇




 パチパチと爆ぜる焚き火音が無言の野営(キャンプ)の中に響き渡っている。


 「うっうっうっ……クルトぉ〜」


 幼い声の嗚咽(おえつ)が聞こえてきた。クリス姫のものだろう。クルトを含めた5人の護衛騎士たちは彼女が幼い時からいつも傍に居た者たちなのだ。そこにジルケが加わり、ロミルダが最後に教育係り件侍女という形で加わったのだが、その内の1人が離れていたとはいえ、眼の前で命を散らしたのである。幼い心に掛かるストレスはかなりのもだろう。膝を貸すジルケもその事を察して何も言わずにクリス姫の背中を優しく擦っている。


 時折ゲルルフ、ウド、ヨーナス、カスパルが様子を見に来るもジルケが顔を振り変わらないことを知らせていた。彼らも付き合いの長い仲間の1人を失ったのだ悲しいに決まっている。だがそれを幼い姫に見せるわけにはいかなかったのだ。それが自分たちに課されている責務であり、誇りなのだから。それにしても、とジルケは昼の出来事に違和感を感じ思い返していた。


 そもそも砂除けの笛を吹く時には離れて吹く必要はないのでは? 守るべき傍で吹くことに意味があるはず。もし、昼のように1人が先触れで吹き鳴らして進んだとしても、後続が襲われたら一溜まりもないのだから。チクリと胸が痛む。


 ルイが話してくれた事が蘇ってきた。わたしたちを消そうとしている何者かが居る? この砂除けの笛で? いや、そもそもこれが砂除けの笛だとははっきり言えない。考えたくもないが、自分たちに渡されている笛は砂寄(すなよ)せの笛なのでは? という不安がどんどん大きくなって来た。


 チャラっと紐を通して首から下げている笛を手に取る。クリス姫は泣き疲れてそのまま自分の膝を枕に寝ているようだ。今はまだこのままでいいだろう。そう思いながらジルケは首から笛を外し、まじまじと見詰めるのだった。


 砂寄せの笛。それは戦争で使われる事がある道具であった。エレボス山脈を背に唯一の国しかないミカ王国が何処と戦をするというのだ? 魔王とである。ミカ王国より南の地域は魔王領であり、過去激しい戦いが繰り広げられたと聞いている。その時に使われた道具が砂寄せ。名前の通り砂漠に住む砂を冠する魔物たちを呼び寄せて敵を襲わせ、自分たちは手を下さない手法として用いられたのだという。外道の笛だ。この笛もそうなのでは? そしてクルトが持っていたものも……、とジルケは思ってしまった。


 「もしそうなら、クルトは……」


 誰かに殺されたことになる。辛うじてその言葉は呑み込んだ。何処で誰が聞き耳を立てているか分からないのだから。だが自分にこの笛は必要ない。ジルケはそう覚悟を決めて笛を眼の前の焚き火の中へ放るのだった。


 ーー!


 火の中で弾ける音と一瞬だけ笛の音が出るが、ジルケの耳には薪が爆ぜる音しか聞こえない。そして、四半刻(30分)ほど後に野営(キャンプ)の傍の砂丘が音もなく盛り上がったことも、誰1人気付かなかったーー。




             ◇




 砂蜥蜴が動けなくなる時間ギリギリまで僕たちは距離を詰めた。ちょうど真横までとはいかないけど、斜め後ろくらいの所に居る。とは言っても2km近くは距離が離れては居るんだけどね。砂丘の(くぼ)みを利用して砂漠用の簡易テントを張り

焚き火を囲んでいたんだけど。


 「ったく、夜中にそんな姿でウロチョロされたら追跡の意味がねえだろうが!」


 早速怒られてしまった。


 「そうはいっても好きでこの姿になったわけじゃないんですから」


 初めての砂漠の夜を満喫したいじゃないか。正直あれだけでっかい魔物を吸えばそれなりにレベルも上がるだろうし。う〜んレベルというより、砂漠で吸えるスキルが気になってると言った方がいいか。でも、向こう傷(スカーフェイス)のおっさには分かってもらえないんだ。


 「だったらじっとしてろ!」


 この通り堅物でね。


 「それができたら苦労しませんって」


 逢ってから時間もないので僕のことを理解してもらえてないから仕方ないよね。そんなにかっかっしなくてもいいのに。


 「か〜、お前らも何とか言ってやれ!」


 味方を増やそうとラドバウト(おっさん)がナハトアたちに援護を求める。あ、それ無駄ですから。


 「無理です。ルイ様ですから」


 ナハトア、よく分かってる。


 「ルイさんにそれは今更よね〜」


 カリナ、そこは少し酷くないか?


 「ご主人様ですから」


 都合のいい言葉に聞こえるんだけど、そこの処どうなの、ドーラ?


 「それがご主人様です」


 うん、よく分からないけどキラキラした眼で言うのは止めて、フェナ。僕が段々痛い人になってくる。いや、もう遅いか。


 「こいつも大概だがお前らもか!?」


 「ぷっ、あ、すみません」


 思わず突っ込みを入れたラドバウトにイエッタが堪らず吹き出した。うん、笑えるのは良いことだよ。と思ったけど、ギロリとおっさんに睨まれてしまい、慌てて頭を下げていた。気にしなくていいのに。と思ったら透かさずカリナがフォローしてくれてた。よく気がつく娘だね。僕より年上だけど。


 「あ、いいのいいのイエッタちゃんは笑った顔が可愛いから。おっさんはむさ苦しいけど〜」


 「放っとけ! ちっ、ったくどいつもこいつも」


 「まあまあ、あんまりかっかっしてると頭の血管切れますよ?」


 いい加減にトーンを落としてもらわないとこっちも気が滅入る。ということで何気なく(いさ)めたら、火に油を注ぐことになってしまた。あらら。


 「誰がかっかっさせてると思ってるんだ!?」


 「え? おっさん?」


 思わずラドバウトを指す僕たち5人。イエッタは「えっ!?」という表情でその様子を見てる。


 「はぁ? オレか!? オレが悪いのか!? オレの何処が悪い! 当たり前のことを言ってるだけだろうが!」


 「五月蝿(うるさ)いよ〜。その声でも魔物は寄ってくるんだよ? 知ってるの?」


 「ぐぬぬぬぬ……」


 「ぷぷっ」


 1人(わめ)くラドバウトにイエッタの頭を撫でながらカリナがとどめを刺す。正論を返されたせいか口惜しそうにこちらを見詰めていたが、その様子を見てまたイエッタが笑いを堪えていたのが微笑ましかった。うん、可愛い子なんだから笑顔がいちばん! 彼女のことは少しラドバウトから素性を聞くことが出来た。暗殺を生業(なりわい)とする所で育ってきたのだとか。いきなり感情が表に出るようになったと言うのも信じ難い事だけど、感情を殺すように教えられるはず。何かしらきっかけがあったんだろう。


 「そろそろ防寒対策をしておかないといけないんじゃないかな?」


 そんなことを考えていたが、皆があまりにのんびりしていたので声を掛けることにした。道具屋のおっちゃんの受け売りだけどね。ラドバウトのおっさんが「へぇ」と感心した表情でこっちを見てたからタイミングは良かったということか。ごそごそとアイテムバッグから防寒着を取り出し身に付ける4人。その様子をラドバウトは唖然と見ていた。


 「なんだその装備は?」


 「あぁ、これですか。エレボス山脈を越えてきたと言いましたよね? 標高の高い山を越えるので防寒対策で購入しておいたんです」


 毛皮で作られた防寒具を見ながらラドバウトが呻くように言葉を零す。自分たちは4、5枚の毛布をアイテムバッグから取り出しているところだったのだ。明らかに違う防寒対策に面食らったのだろう。


 「購入したって、金貨1枚でどうにかなる装備じゃないだろ?」


 「まぁそこそことだけ言っておきます。お二人はないんですか?」


 前に言ったじゃないですか。お金は間に合ってるって。


 「多めに毛布に包まって過ごすのが砂の民のやり方だ」


 「寒さに強いとか?」


 「そんな訳あるか! 安月給でどうやったら毛皮が買える?」


 そうだよね。砂漠で生活してるんだから熱さに強いよな。基本夜に出歩かないだろうし。あ、そうだ、たしか余分に買い物してたのがあったはず。グラナード王国の港街で購入した防寒具セットは確か男女1セットずつ余分に買った。これを予期してたわけじゃないけど、雪山で誰かを保護するかもって思ってたんだよ。使うタイミングがずれたけど、有効活用してもらうならそれでいいや。


 「そうですか。ちょうど男女1セットずつ余ってますから、お近づきの印にさし上げますよ」


 どさどさっとラドバウト(おっさん)とイエッタの前に投げるように置く。いや、投げたわけじゃないよ? ほら、浮かんでたからそのまま出しちゃんだって。


 「なっ!?」「えっ!?」


 「サイズが少し合わないかも知れませんが、暖は取れるはずなので我慢してください」


 「お前これ本当に良いのか?」「毛皮だ……」


 思わず手に取る2人。うん、素のリアクションは何時見ても面白いね。


 「ええ。僕には必要ありませんし、皆は持ってますから」


 その言葉に顔を見合わせて、ラドバウトとイエッタは直ちに防寒具を身に(まと)うのだった。それはもう僕たちが呆れるくらいに素早く。ま、着込んだ後の幸せそうな表情を見てると僕としても人助けが出来たと喜べた。ただ、おっさんの嬉しそうな顔は要らないけどな。


 夜間は皆に眠ってもらい僕が寝ずの番をする。火の当番は出来ないけど、防寒着をあれだけ着込んでいれば少々のことはないだろう。朝までの間、僕がすることといえば魔力操作の特訓だ。習得している魔法でスリム化や硬化が出来ればそれに勝ることはない。時間があるのなら有効に使うべきさ。そして何事もなく朝を迎えるーー。




 朝5:30。地平線が白んできた。夜明けだ。


 砂蜥蜴(すなとかげ)は日光浴させないと体が温まらないから移動できなと教えてもらったが、使わないで済んだ毛布をかけてもらっているからいつもよりは早く動けるのでは? と期待してしまう。クリス姫たちの野営(キャンプ)の方を(のぞ)いてみるが、煙は立ってない。まだ火を起こしてないということだ。つまり起床してない。でも追跡する側がのんびりでいいという訳にもいかないだろうから起こすことにした。


 慌ただしく身支度を整え、食事を済ませ、各自の水袋を確認する。炎天下で移動し続けるというのは重労働だ。水分がないだけで命に関わる。勿論塩分も。塩は岩塩が簡単に手に入るのでそれを各自が舐める。そう、1人1個ね。いや、流石に他人が舐めたのを舐めたくはないだろう。期待通り砂蜥蜴の調子も良さそうだ。さあ、どう動く?




             ◇




 それは男にとって青天の霹靂(へきれき)だった。


 交代で寝ずの番をしていた兵士に軽く手を上げて挨拶を済ませ、男は用を足しに野営(キャンプ)から少し離れたところまで足を伸ばす。姫が居る手前、近場で用を足せないのだ。ここなら大丈夫だろうと男は立ち止まり用を足し始める。幾分我慢していたこともあり、開放感からぶるりと背中が震えたその時だった。


 「え……」


 突然朝陽が遮られ、影の中に立たされることになったのだ。恐る恐る視線を上げると、巨大なサンドワームがそびえ立っていた。


 「う、うわわわぁっ!!」


 「何だ!?」


 「どうした!?」


 「あひゅ、、、、あごぉ、、、、」


 男の叫び声に寝ずの番をしていた兵士たちが声のした法を向くと、巨大な砂蚯蚓(すなみみず)が咀嚼音を響かせていたのであった。ごくりと唾を飲み込む音が響く。


 「サンドワームが出た! ガリムがやられた! 出立の準備を!」


 「砂除(すなよ)け笛を吹け!」


 ーーーーーーーーーー!


 1人の兵士が首から下げた笛を吹き鳴らし、もう1人が野営(キャンプ)内を一直線に走り抜ける。自分の行動がどういうことに繋がるかを分かった上での行動だ。そして皆から離れた所で同じように砂除けの笛を吹き鳴らしたのであった。


 ーーーーーーーーーー!


 「姫様、参ります!」


 「ジルケ!?」


 その警告と騒ぎにジルケは羽織っていた防寒着をアイテムバッグに収めると、クリス姫を強引に立たせるのだった。クリスの方もジルケに早くに起こされて身支度は整っている。同じように防寒着をアイテムバッグに収めるものの怪訝(けげん)そうにジルケの顔を見上げるのだった。


 ジルケはというと、砂蜥蜴にかけていた毛布を剥ぎ取り直ぐ乗る準備を始めていた。慌ててジルケの後を追うクリスの視界に昨日見たサンドワームが飛び込んできたのだ。


 「ひっ!」


 その数、3(びき)。直径5mはあろうかという巨大なサンドワームの体がしなりながら地面に向かって突き刺さっている。それに合わせて耳を覆いたくなる絶叫が周囲に包み込んでいた。


 「姫様! お手を!」


 砂蜥蜴に(またが)っているジルケから声が掛けられびくっと体を震わせるクリス姫。すぐさまそれが何を意味しているかを悟り、右手を伸ばしてジルケの背中に抱き着くのだった。


 「ジルケ! 姫様、無事ですか!?」


 そこにゲルルフとカスパル、ウドとヨーナスがそれぞれ砂蜥蜴に跨って眼の前に現れる。昨夜は自分と同じように暖を取ったのだとジルケは胸を撫で下ろすのだった。だがそれも一瞬の事で、3騎はサンドワームの居ない側に向かって走り始める。


 「逃げるなら今だ! こっちにはサンドワームが居ない(・・・)!」


 ゲルルフの言葉にジルケは違和感を覚えた。居ない(・・・)? これだけの数が現れていた居ないということなどあり得るのか? と。


 「待ってください! そっちは止めて、ギリギリサンドワームの届かない横をすり抜けましょう!」


 「「「「!!!!」」」」


 瞬時に彼女の言わんとしていることを察した4人は黙って(うなず)き、手綱を引く。先頭にゲルルフたち、間にジルケと姫を挟み、殿(しんがり)にウドたちが砂蜥蜴を駆る隊列だ。案の定、自分たちの行こうとしていた側から叫び声が上がる! 他の3疋と遜色ない大きさのサンドワームがそこに(そび)え立っていた。擦れ違う兵士たちの口に砂除けの笛が見える。いけない! ジルケの眼にその笛を吹こうと口に運ぶゲルルフの仕草がスローモーションのように見えていた。


 「ゲルルフさん、吹いちゃダメ!!」


 ーーーーーーーーーー!


 ジルケは自分を呪った、何故その危険を察していながら彼らに伝えなかったのか、と。吹いてしまったゲルルフは「何!?」と言う驚きの表情でジルケを見ている。その眼が驚きのあまり大きく見開かれることになった。


 「ウド! ヨーナス! 避けろ!!」


 「ちぃっ!」「構うな! 先け行け! 姫様を頼む!!」


 ゲルルフの眼に映し出されたのはジルケたちが乗る砂蜥蜴の横の砂が盛り上がり、先端の尖った尾が現れる様だった。その横をジルケたちが駆け抜けるが、後続のウドたちは行く手を阻まれることになる。砂蠍(すなさそり)。中型の魔獣だが、砂蜥蜴に乗る人よりも一回りは大きい存在だ。逃げきれないならば盾になる! それが男たちが(あらかじ)め決めいてた事だ。ならば、とヨーナスが飛び降り剣を抜く。


 「ウド!? ヨーナス!? いやぁっ!! ジルケ、お願い戻ってぇぇぇ!!」


 「御容赦を!! 彼らの決意を無駄にしてはなりません! 姫様が無事であること、それが彼らの想いを報いる事になるのです!」


 それに気が付いたクリス姫が飛び降りようと身動(みじろ)ぐも、ジルケがクリスのスボンをがっちり掴んで放そうとしない。遠ざかる2人の姿を目に焼き付けるように叫ぶクリスであったが、ジルケは感情を押し殺して(いさ)めるのだった。


 突然、ジルケの背中にクリスの顔が押し付けられる。何が? と一瞬思考が動くが考えられることは1つ。彼らの死を見届けたのだろう。だが、危険が去ったわけではない。こうやって走り続けている以上標的になることは時間の問題だ。悲しみに暮れる暇があるなら、姫を生き延びさせる算段を巡らす。


 「ゲルルフさん、()められました! その笛は」


 「砂寄せか! くそっ、もっと早くに気が付いていればーー」


 「反省は後回しにしてください! 野営(キャンプ)からできるだけ離れて一度体制を!?」


 先を走るジルケが事情を説明しようとするが、一連の出来事のお蔭でゲルルフたちは事態を飲み込めていた。クルトの1件もそうだ。ぎりっと歯噛(はが)みする。今後の方針をと思い声を掛けたその時だった!? 影がジルケの前を横切る。


 「えっ!?」


 「ぐああああああっ!!」


 「ごふっ!? かふっーー」


 「ゲルルフさん!? カスパルさん!?」


 眼の前を走る砂蜥蜴の上にカスパルの姿が無かった。そして笛を捨てようとしたゲルルフの左腕も。一体何が? 混乱した思考を戻すには時間がかかる。状況は更に悪い方へと転がり始めていたのだ。ふと影が横切った方に顔を何気なく向けると、カスパルだったと思われる体に無数の鮫が(たか)っていた。砂鮫だ。


 「ひぃっ!?」


 「くっ、走ればサンドワーム。止まれば砂鮫の餌食だ。どうにもならん!」


 だが、彼らは忘れていた。振動でサンドワームが寄って来るということを、そしてそれは自分たちが動かなくとも何かが動いていれば良いのだということもーー。現実は時として残酷に牙を向く。まさに今がそれであった。


 「さ、サンドワームだと!? そうか。砂鮫に引き寄せられたか」


 野営(キャンプ)を襲った個体よりも更に大きな個体が砂を撒き散らして現れる。そして躊躇(ちゅうちょ)なくカスパルの遺体に群がる砂鮫の上に飛び込んだ。標的が逸れている。「今だ!」とゲルルフは朦朧(もうろう)とする意識の中で叫ぶ。姫を逃すために。


 ジルケがびくんと体を震わせて砂蜥蜴の腹を蹴りゲルルフを追い越す。その後ろにゲルルフが続く。何時まで殿を守れるか分からないが、盾にはなれる。その強い想いが彼を動かしていた。背後で砂鮫を貪り食べるサンドワーム。そのサンドワームに食いつく砂鮫。


 逃げ切れたか!? と思ったその時だった。眼の前の砂が大きく盛り上がったのだ。


 「「そんなーー」」


 サンドワームは1疋とは限らない。獲物が多ければ群れてくるのは当然のことだ。そして、砂鮫の数が予想を超えて多かったのが彼女たちには災いだった。それに釣られたサンドワームが振動を追ったのも本能のなせる業だと言えよう。眼の前に死が聳え立っていたのである。ゆらりとサンドワームが巨躯(きょく)(しな)らせた時だったーー。


 サンドワームが横に吹き飛んだのだ!?


 「ごめん! 気付くのが遅れた!! 【治癒(ヒール)】!」


 「「「ルイ様!?」」」


 何故ここに!? という疑問と助かった! という安堵感で砂蜥蜴から落ちそうになる。辛うじて意識を保ち見上げた先に、半透明の体をしたルイの姿が浮かんでいたーー。








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