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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第三幕 砂の王国
124/220

第122話 来客

 

 「ん……」


 ベッドのシーツに(くる)まって女性の小さな声が漏れる。寝返りをうった際に自然と出たのだろう。その様子を部屋の椅子に腰掛けた向こう傷(スカーフェイス)を持つ男がじっと見詰めている。テーブルの上には葡萄酒の瓶とグラスが2つ置かれており、そのうちの1つに赤い液体が満たされていた。更に言えば、男は上半身に何も身に着けていない。視線を部屋の中に移すと、脱ぎ捨てられた服や水が入った平桶(ひらおけ)が置かれている。


 「ん……ここは……。ベッドの中、えーー」


 意識がハッキリしてきたのだろうか、自分が置かれている状況を理解し始めて意識が一気に覚醒する。と同時にがばっとベッドの上で上半身を起こすのだった。白茶色の瑞々しい肌のなかにまだ幼さを感じさせる風貌とは相容れないふくよかな双丘が揺れる。


 「えっ!? 裸!?」


 慌ててシーツを胸元に引き上げた時、視界の隅で椅子に腰掛けた男の姿を認めたのだった。男の上半身が裸であること、そして自分は一糸纏(いっしまと)わぬ姿であることに眼を大きく見開く。


 「よう、眼が覚めたかい?」


 「き、貴様はーー」


 「ああ、襲われたからな、代わりにオレも襲ってやった。それだけだ」


 「なーー」


 男の言葉にシーツをがばっと(めく)ると血の染みが点々と見えた。すぐに憤りを宿した視線を男に向ける。


 「そう睨むな。命があっただけでも儲けものだぞ? 相方はあっけなく返り討ちに遭っちまってるんだからよ」


 「ーー」


 女はぐっと下唇を噛み、叫びたくなる気持ちを堪えているようだった。男の言うことも理解できたのだろう。あの時裏口から出て来れたということは正面から行った相方が任務を遂行できなかったからこそなのだから。襲いかかった時までの記憶はある。しかしその後はないのだ。ずきんと左のこめかみに痛みが走る。片眼を歪めるように閉じてこめかみに手を当てると腫れているように感じた。


 「ああ、悪いな。あんまりに暗殺者らしからぬ動きをしたもんでこっちもカッとなって殴っちまったよ」


 「え?」


 その言葉に耳を疑う。言い換えると襲い方が下手過ぎて腹が立ったと言われてることに気が付いたのだ。何故襲ったではなく、襲い方がお粗末だったと言われれば何も返しようがない。


 「大体な、昼間に狙うって莫迦(ばか)か? 莫迦なのか? 誰が見てるか分かんねんだぞ? それを真っ黒い装束(アバヤ)を着て、刀振り回すはナイフ投げるはもう少し頭使えってんだ。夜ならまだしも日の陽向に紛れるんだったら、そこいらと同じ衣装で来るもんだろうが」


 そう一方的に愚痴った男は喉が渇いたのか、気持ちを落ち着かせるためなのかグラスに注いでいた葡萄酒をぐいっと飲み干すのだった。窓から入ってくる陽光はまだ日が高いことを示している。飲み干したグラスをテーブルに置きながらふ〜っと大きく息を吐く男。一連の動きを眼で追っていた女の表情が崩れる。

 

 「ぷっ」


 女は思わず吹き出していた。眼の前にいる男が自分の標的である事は間違いない。それが任務を果たせなかったばかりか、純血を奪われ、(さげす)まれるのかと思えば不手際を(ののし)られたのだ。理解がついて行かず最早(もはや)笑うことしか出来なかったのである。


 「ふん」


 男はその仕草を鼻で笑いつつ再びグラスに葡萄酒を注ぐのだった。この度はもう1つのグラスにも。2つのグラスを持って立ち上がるとベッドにまで歩み寄り、先程自分が口を着けたグラスから少量の葡萄酒を飲み込んで見せる。(おもむ)ろにそのグラスを女に渡すのだった。


 「飲め」


 「優しいのですね?」


 「どうかな。どの道お前は任務に失敗した。これからどうするつもりだ?」


 グラスを受け取るもすぐに口にしようとせず、くるくると葡萄酒をグラスの中で回している。その様子を横目に彼女の隣に腰を下ろす。ぎしりとベッドが(きし)むも気にせずに、新しいグラスの葡萄酒に口を付けるのだった。その一連の振る舞いを女は優しいと評したのだ。


 「普通は新しいグラスの方を渡すものですよ?」


 「それだとお前が警戒して口にも付けんだろう。そんな初歩的な事くらいお見通しだ。ただの葡萄酒だ、気にせずに飲め」


 そう言って自分はグラスの中身を一気に(あお)り、立ち上がってグラスをテーブルの上に戻すのだった。振り返った眼はじぃっと女を見詰めている。女の方も(しばら)くをその視線を見詰め返していたのだが、気恥ずかしくなったのかすっと外し、男が口を着けていた所に自分の唇を当てて葡萄酒を一口飲むのであった。酸味が口に広がる。


 この方法は毒を盛られてしまう危険を回避する行為の一つだ。飲み物、料理、食事に使う道具なども、一度相手が使ったものあるいは口にしたものを交換して使うことにより自らの身を守るよう考案された作法である。勿論普通に考えれば失礼な行為なのだが、敵国や敵陣で身を護るためには()むを得ない行為であったといえよう。それをこの2人はここで行ったのだ。一方は安心させるため、他方は信頼を表すために。


 「オレの事は知っているな?」


 「はい。ラドバウト様」


 「だがオレはお前を知らん。せめて名前だけ教えてくれ」


 「イェッタです」


 その名前が本名なのか偽名なのか分からないが、ラドバウトは信じることにした。


 「そうか。良い名前だな」


 「え?」


 聞き間違いだろうかと彼女は思った。これまで誰1人として彼女の名を褒めてくれた者は居なかったのだ。


 「覚えやすい、良い響きだ」


 「ーー」


 改めて言われて恥ずかしくなり耳を赤くしながら(うつむ)くのだった。散々なことをされているのに頬が緩みそうになったのだ。見られるわけにはいかない、イエッタはそう思ったのである。


 「イエッタよ」


 「はい」


 名前を呼ばれて顔を上げる。少しは落ち着いただろうか? と内心思いながら男の眼を見る。


 「どうせ行くとこがないだろう? このまま暗部に戻っても消されるのが落ち、あるいは慰みものに落とされて終わりだ」


 「……」


 図星だった。孤児である自分が暗部で生きてこれたのは、同年代の者たちに負けないように研鑽を積んできたお蔭なのだから。だがそれさえこの男、ラドバウトに容赦なく打ち砕かれたのだ。自分が所属していた組織は失敗を許す組織ではないことは身を持って知っている。失敗は許されないからこそ死物狂いになって任務を果たすのだ。しかし自分は……と視線を思わずシーツに落とす。しかしこの男か口走った提案に思わず顔を上げ耳を疑った。


 「オレが直々に鍛えてやろう。どうだ? オレに付いて来て隙が在ったらオレの首を狙ってみる気はないか?」


 「は?」


 この男は何を言ってるのだ? イエッタはそう思わずに居られなかった。自分に仕えろというのならまだ話はわかる。自分の首を狙えるように鍛えてやるから付いて来いと言ってるのだ。頭が可怪しいのだろうか?


 「ふははは。そんな顔をするな。可怪しな事を言ってることぐらい百も承知だ。だがオレと一緒に行動すれば暗部の奴らと顔を合わすことになるぞ? その時の逃げ文句の1つくらい持っていたほうが良いだろう」


 イエッタの顔を見てラドバウトは吹き出すのだった。笑われて少しむくれた表情をするイエッタ。その歳相応な表情を見てラドバウトは悪戯っぽく微笑んだ。何だいい顔出来るじゃないか、と。そして、部屋の備え付けられているクローゼットから町娘が身に付けるような服を洋服掛けごと取り出してベッドの上に投げたのだ。


 「これは?」


 服とラドバウトを交互に見比べるイエッタ。現状が理解できてないのだろう。無理もない。


 「サイズが合うと良いな。これを着たら下に降りてこい。そろそろ夕飯時だ一緒に食うぞ」


 ラドバウトはそう言って背中を向けて手を振ると部屋の外へ出て行ったのであった。とんとんと階段を降りて行く音がイエッタの耳に(こだま)しているように響いていたーー。




 「おい、おばちゃん! もう少ししたらイエッタが降りてくるからよ、そしたら飯頼むわ」


 食堂のカウンターテーブルに肘をついて奥に声を掛ける。奥の小部屋からひょこっと小太りの女将が顔だけだして様子を伺ってきた。


 「あいよ〜。その様子だと上手く言ったようだね?」


 「下りて来るまで分かんねぇが、多分な」


 その顔に気が付いて肩を(すく)めながら苦笑すると、定位置なのか食堂の端の席を選んで腰を下ろすのだった。眼は閉じてはいるものの、気持ちはは階段の方に向けられている。服を着たとしても窓から外に逃げ出すことも可能だ。先程までの会話だけで信頼を得たとも思ってないが、彼女自身が逃亡を選ぶのか庇護を選ぶのかまで決めるつもりもなかった。彼の言葉を借りれば「好きにすればいい」ということだろう。


 しばらくして柔らかい足音が階段から響いてきた。恐る恐る板を踏みしめる時の(きし)みが、足音の主の気持ちを表しているようだ。それに気が付いたラドバウトの右眼が薄っすらと開かれる。


 「あの……」


 そこに降りて来たのは、町娘が好んで着そうな可愛らしい白いブラウスと赤い肩掛けストレートスカートに身を包んだイエッタの姿であった。恥ずかしそうにもじもじしている姿はラドバウトにとっては眼福だったと言えよう。


 「似合ってるじゃねぇか」


 「す、スカートを履くのは子ども時以来なので、なんだかすぅすぅしま」


 「あぁら、よく似合ってるじゃないかぃ! マギーもいい服を見繕ってくれたもんだね」


 「ひっ!!」


 恥じらう姿に眼を細めてぼそりと感想を口にするラドバウトだったが、その褒め言葉にイエッタは更に恥じらう。だが、急に背後から声を掛けられて飛び上がる。まるで気配を感じなかったのだ。


 「何だい、取って食いやしないよ。席に座んな、夕飯を持って行ってあげるから」


 豪快に笑いながらイエッタの腰の上を数回落ち着かせるように軽く叩いて席に着くように促す。何故気付かなかったのか分からないままラドバウトの居る席に移動しようと足を踏み出した処で、不用意な一言がイエッタの羞恥心を更に煽るのだった。


 「は、はい! すみません!」


 「なぁ、イエッタよ」


 「は、はい」


 「さっきまで貴様! とか言ってなのにいやにしおらしくなったな。まぁ年頃の娘らしくていいんだが、おわっ!? 何しやがる!?」


 キランとイエッタの手元が光ったかと思った途端、ラドバウトの左頬を掠めるように食事用のナイフが通り過ぎて壁にカツンと刺さった。眉間を狙ったつもりなのにまんまと躱されたのだ。怒った振りでこの場をのり切ろうとしたのだが、何故か止めようとするラドバウト。


 「う、うるさい! 望み通り殺してやる!」


 「ま、待て! ここじゃ不味(まず)い」


 「何処だろうと命を狙われる覚悟が在ったからあんなことを言ったのだろう!」


 「い、いや、そうなんだが、ここじゃ不味いって」


 「何遊んでるんだい!! ナイフを痛めたら飯抜きだよ!!」


 その理由が分からないまま更にナイフを手に取って投げようとした矢先に、再び背後から(しか)られてしまったのだ。ナイフを落としはしなかったものの再び驚きのあまり飛び上がる。


 「ひぃっ、す、すみません!!」


 「ほら言わんこっちゃない。だから不味いと言っただろ?」


 「ゔ〜もっと詳しく、先に言っておいてください」


 (うつむ)きながら、小太りの女将の後ろをとぼとぼと付いて歩き、席に着く。そのままぼそりと苦情を吐き出したのだった。無理もないだろう。たかだか宿屋の女将に訓練を受けた自分が2度も背中を取られるは思っても居なかったのだから。それが理解っていたラドバウトも苦笑する。


 「無茶を言うな。まぁ、次から気をつけるさ。それと、食事時と就寝時に襲いかかるのは禁止な。色仕掛けなら歓迎するが、それ以外はダメだ」


 「なっ!?」


 「仲が良いことだね。命を取るか取られるかって間柄だったていうのに。ほら、冷めない内にお食べ」


 料理を順番に運んでテーブルに置いていく女将に促されて、イエッタは料理を口に運ぶのだった。


 「あ、ありがとうございます! あ、美味しい……」


 「おばちゃんエールをもらえるか?」


 「あいよ〜!」


 「ま、そういうこった。食べてる時と寝てる時以外は気にすることはねぇさ。お前もおばちゃんに怒られたくはねえだろ?」


 「そ、そういう事なら妥協しましょう」


 料理を口に運びながら、ラドバウトの提案に渋々応じるイエッタ。彼女の口の中は幸せに満たされていた。いつも冷たいスープと堅いパンしか与えられない生活をしていたのだ。任務上料理は支給されたものしか口にしてこなかったのである。温かい料理が不味いはずがない。


 「ねぇあんた、イエッタっていったかい?」


 「は、はい!」


 後ろから声を掛けられて慌てて顔を上げる。


 「食事が終わってからでいいんだけど、お客が来ることになってるんだよ。支度するのに手が要るから手伝ってくれないかい?」


 「わ、わたしで良ければ!」


 命令される事はあってもお願いされる事は今までなかった彼女にとって、女将の依頼は新鮮であり、必要とされているというささやかな喜びをイエッタの心に植え付けるには十分過ぎるほどの気遣いであろう。慌てて口の中のものを飲み込んで返事をするその表情には陰りが見えなかった。自然と口角が上がっていたのだ。


 「そうかい、じゃあ頼んだよ」


 「は、はい!」


 笑顔で女将に快諾の返事を返すと再び食事に没頭した。余程美味しかったのだろう。見る間に皿の上にある彼女の口の中に消えていく。その食べっぷりと笑顔に苦笑しながら、ラドバウトは自分の皿を彼女の前に差し出す。「え?」という表情をするイエッタに嫌いなものが入ってるから代わりに食べてくれと任せて、自分はエールをぐいっと(あお)るのだった。喉を鳴らしながら流し込まれる酒が見る間に減っていく。その背中を壁に刺さったナイフが物悲しく油灯(カンテラ)の明りを反射さて見詰めていたーー。




             ◇




 その夜。砂蛙の憩い亭へ夜の闇に紛れて4人の客が訪れた。どかどかと床を賑やかに踏みしめる音が食堂に引き渡る。食堂の隅の席で1人の男が酒を飲んでいた。右頬に|向こう傷《スカーフェイスがある。ラドバウトだ。どうやらそのまま飲み続けているらしい。


 「あ〜、ここだここだ。すみませ〜ん」


 朗らかな女声が食堂を行き巡る。


 「あ、い、いらっしゃいませ! お食事ですか? 宿泊ですか?」


 その声にイエッタが反応して厨房から出てくるのだった。結局彼女は色んな頼みごとを女将さんからされてしまい、断り切れずにバタバタと忙しく動いていたのだ。マントのフードを深く(かぶ)った客達を観察する。どうやら皆女性のようだな、と心の中で(つぶや)いた。


 「食事は済ませてきたよ。4人泊まりたいんだけど大部屋空いてるかな?」


 「お、お昼に来た方のお連れさんですか?」


 その言葉に頼まれていた事を思い出す。


 「昼に来た? ああ、そうそうルイさんが見つけて来たって言ってたわね。そういうことになるかな。ドーラ?」


 そうイエッタと会話している女性がフードを取る。イエッタと同じ肩に掛かる金髪がフードを外す際に、指に掛かって揺れた。黒い肌に人より長くて尖った耳。緑色の瞳がイエッタを見詰めていた。彼女の声に応じて隣りに立つ女性もフードを取り、懐から折りたたまれた布をイエッタに手渡す。


 「お借りしていた前掛けです。ありがとうございました。それと、これはご主人様から借りたお礼だから必ず渡して欲しいと預かったものです」


 「え、あ、え? ダークエルフ!? (こっちは獣人。でも綺麗な人たち……)」


 「ごほっ! ごほっ!」


 イエッタは相手が初めて見るダークエルフだということ、ラドバウトは「ご主人様」という言葉に驚く。彼の場合、更に(むせ)て咳き込んでいた。


 「それで料金はお幾らかな?」


 「え、あ、すみません。1泊1人銀貨1枚です。朝と夕だけ食事が付いていますが、その他は別途料金を頂きます」


 「そう。じゃあ4人の1泊分ね」


 ダークエルフの女性は懐から銀貨を4枚取り出しカウンターに置いてにこりと微笑んだ。彼女の後ろに立つ女性がフードを外さずに食堂内を観察していることにイエッタは気付く。脳裏に追手? という不安が過るも、よく考えてみるとこのお客は自分がここに担ぎ込まれる前に来る手はずになっていたものだから、関係ないと言い聞かせるのであった。


 「確かに頂きました。(これが冒険者と言われる人たちなのかしら?)」


 代金を受け取りながらそんなことを考えていると、奥から小太りの女将が顔を(のぞ)かせる。


 「あんたたちのことは聞いてるよ。部屋は3階の302だから案内する。土産もありがたくもらっとくから、ルイっていうのかい? 宜しく伝えておくれよ」


 「はい、でもまあ、そのうち床下からこんばんは〜ってやって来ると思いますけど」


 「違いない」


 ダークエルフの娘と気軽に話す女将に尊敬の視線を送りながら、イエッタは後ろの2人を更に観察する。それぞれが持つ雰囲気が一般人と明らかに違うのだ。それ故に冒険者だろうかと考えたわけなのだが、女将から詮索する質問はしないように注意されていたので好奇心を満たすのを思いとどまっていたのである。


 結局後ろの2人はフードを外すこともなく、女将さんに連れられて3階へ消えていったのであった。その後ろ姿を見送った後、ラドバウトの方に眼を向けるがこれまで見たことのない厳しい視線が階段の方に向けられていることに気付いて慌てて目を逸らす。女将さんに詮索するなとは言われたものの、気になる客であることに違いはなかったのだ。あれこれと少しの時間物思いにふけっていたイエッタだったが、頼まれていた仕事を思い出しパタパタと厨房の中へ入っていくのであった。




             ◇




 その頃僕は最初に入った銀の竪琴亭で刺客(らいきゃく)を待っていた。予約(アポ)はない。カリナたちが出てどれくらい経ったかな? 半刻(60分)くらい?


 「待ってても来ないというケースがあるんだけど、どうかな〜」


 空中に仰向けになって横になった状態で思わず不安が漏れたけど、今回の宿替えは飽くまで危険の予防だからな。何も起きないに越したことはない。何もやることがないので魔法で遊ぶことにした。


 「【黒珠(ダークボール)】」


 BB弾程の大きさまで凝縮できた闇属性の初級魔法。この魔法は使いやすいからお気に入りの魔法の一つなんだ。これまで凝縮して、弾幕の盾のように設置することも出来た。後は操作性を上げることが今の課題だ。魔法というのは発現した段階で性質が決まっている。直線に進むか、追尾するか、広がるか、纏わりつくか、(そび)え立つかのどれかが必ず当て嵌まるんだよね。それを変えれないかな? という挑戦さ。


 「これが地味に魔力を使うんだよな」


 今まで試して来てBB弾の(たま)1つ分の幅が動いたくらいで、今はその動きを繰り返しているだけだ。みんなに言わせれば、そんなことを考えて実行してるのは僕ぐらいのものだっていうんだよ。酷い話さ。狂った研究者マッドサイエンティストはこの世界でも居るだろうに。


 ん? 【黒珠(ダークボール)】の数? 今は最大設定にしてるから、1度の詠唱で最大数の100珠がでるよ。だからその100珠を同時に動かすために魔力を垂れ流しにしてるってことかな。自虐的な表現だけど、現状そうじゃないと否定できない自分が居るんだ。楽しくてね。


 カーテンを閉めた窓の前にその100珠を配置して、上に浮かんだまま右左上下と小さく動かしている。窓から忍び込んできてもすぐ対応できるようにね。でも、本来魔法というものは発現してから10数秒で消えるものの方が多い。余分に魔力を込めれば時間を伸ばすことができるが、それらは謂わば設置型や召喚魔法の部類に特定されることが多いんだ。攻撃魔法は現れてすぐに結果を出して終わりというのが普通というか常識だ。


 僕みたいに攻撃魔法を発現させた状態で「待て」をさせることはありえないんだと、エレクタニアに居る時から怒られた。非常識すぎると。規格外(でたらめ)だと神様のお墨付きを頂いておりますが何か? まぁこんな楽しい時間は長く続かない訳で、外の気配が動き始めた。


 「さて、そろそろ忙しくなるかな?」


 こんこん


 え? このタイミングで誰?


 部屋の扉をノックする音がした。宿の人には出かけてくるとしか伝えてないんだけど、帰るつもりはないから荷物も全部持ち出している。宿代も当然前払いだから僕らが居ないという事がバレかても問題はない。でも、クリス姫たちや兵士たちにも宿のことは伝えてないから、来客は敵の可能性があるということか?


 こんこん


 思考を巡らせていると返事をするタイミングを逸してしまった。帰るかな? とも思ったけど更にノックされて名乗ってきたのだーー。


 「ジルケです。お話したいことがあり参りました」







最後まで読んで下さりありがとうございました!


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これからもよろしくお願いします♪

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