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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第三幕 砂の王国
121/220

第119話 関門を潜る

第三幕 砂の王国 開幕です。

2016/7/17:本文脱字修正しました。

2016/7/21:本文ステータスデータ修正しました。

2016/7/29:本文修正しました。

2018/10/2:ステータス表記修正しました。

 

 「三日月が綺麗だな……」


 月を(なが)めていた視線を足元に移すと、1頭の狼らしき個体がお座りをして僕を見上げていた。はっはっと短い呼吸を繰り返しながら尻尾を振っている処を見ると、どうやら僕に気があるようだ。でもこっちには思い当たる節がない。狼との接点がないんだ。狐はあるけどね。


 「君は誰?」


 『ご主人様!』


 わうっと甘えた鳴き声が頭の中で自動変換される。


 『ドーラ!?』


 『そうです!! というか、わたしの声分かるんですか!?』


 『うん、そこはほら僕だから……』


 『え、あ、そうですよね、ご主人様ですもんね』


 いや、そこで納得されてもね。それ思い出したことがある。確か【眷属化】の魔法を使ってウチの女神様(エレクトラ)が来て説明をしてくれた話だ。確かーー。




             ◆




 「それは獣のままでいるか、獣人になるかです。精霊くんたちや人型に具現化してる子たちは、種の格を上げるか、進化するかを選ぶことになるでしょう。誰であれ選んでしまった場合、後戻りは出来ません。獣を選んだ子は変化(へんげ)で人の姿になれたとしても基本種としては獣のままです。獣人になる子は変化で獣の姿にはなれても基本獣人という枠になります。2つが互いに交わっても子は出来ません。ですから、しっかり選びましょう」




             ◆




 ーーこんな話だったはず。ということは。


 『変化?』


 『はい! 正確には“獣化”です。変化は狐と狸だけですから』


 あ、やっぱり専売特許みたいなものがあるんだ。わんわんと嬉しそうに鳴くドーラを見ながら何となく納得して微笑むのだった。棒を投げたら嬉しそうに走って行きそうだなと思いながら。


 『今入れないけどあの中にドーラのお仲間が捕まってたよ。女の子は間に合わなかったけどね。でも出る前に傷の方は癒やしておいたから大丈夫だと思う』


 『そうですか。なら大丈夫です。顔も知らないメンバーも居ますのでこのまま帰りましょう』


 そう割り切った態度のドーラに疑問をぶてけてみた。


 『処で、獣化って服どうなってるの?』


 『えっ!? あ、あの……』


 『はは〜ん。ドーラって見かけによらずそっちの趣味があったんだ〜』


 『ひっ、い、いえ、ありません!! わたしはご主人様が心配で!!』


 『何処で脱いだ(・・・)のか知らないけど、先に帰って着替えないと大変なことになるよ?』


 僕の言葉を最後まで聞くこともなく煤毛の狼(ドーラ)が脱兎の如く暗闇の中に消えていくのだった。年齢相応に可愛らしい処もあるんだよな。もっと普通にすればいいのに。まあ、背負ってる責任感がそうさせないんだろうね。


 《タッタラッタァァァッ~♪》


 懐かしい音が頭の中で響き渡り、その後にアナウンスが流れる。


 《レベルが上がりました!》


 おっと、さっきの戦闘がこれで一区切り着いたってことか。どれくらいレベルが上がったかな? ステータス。フワフワと移動しながら見ることにした。


 ◆ステータス◆

 【名前】ルイ・イチジク

 【種族】レイス / 不死族 / エレクトラの使徒

 【性別】♂

 【称号】レイス・モナーク

 【レベル】121 (+60)

 【状態】加護++

 【Hp】243,000/243,000 (+120,000)

 【Mp】7,461,263/7,461,263 (+3,730,631)

 【Str】11,104 (+5,492)

 【Vit】9,072 (+4,480)

 【Agi】8,089 (+3,988)

 【Dex】5,646 (+2,779)

 【Mnd】5,185 (+2,550)

 【Chr】4,385 (+2,169)

 【Luk】3,159 (+1,560)

 【ユニークスキル】エナジードレイン、エクスぺリエンスドレイン、スキルドレイン、※※※※※、※※※※※、実体化、眷属化LvMAX(範囲眷属化)、強奪阻止

 【アクティブスキル】鑑定Lv230、闇魔法LvMax、聖魔法Lv500、武術Lv151、剣術LvMax、杖術Lv257、鍛冶Lv207

 【パッシブスキル】隠蔽LvMax、闇吸収、聖耐性LvMax、光無効、エナジー(使用)ドレイン(不可)プール(制限)Lv20()エクスぺリエンス(使用)ドレイン(不可)プール(制限)LvMax()、スキルドレインプールLvMax➊、ドレインガードLvMax、融合Lv245、状態異常耐性LvMax、精神支配無効、乗馬Lv146、交渉Lv500、料理Lv80、採集Lv190、栽培Lv156、瞑想Lv800、読書Lv740、錬金術Lv687、航海術Lv474、操舵Lv80

【装備】シュピンネキルトのシャツ、綿の下着、綿のズボン、ブーツ、アイテムバッグ 

【所持金】0


 スキル系は上がってないな。基礎レベルだけでもありがたいか。白豹王の件もあるしステが上がるのは歓迎だ。スキルドレインプールも落ち着いて見る時間がほしいから後回し。多分似たような構成のスキルばかりだろうからね。


 ステータスを確認しながら移動しているといつの間にか野営(キャンプ)まで戻ってきていた。ドーラも既に戻ってきていて何喰わぬ顔で食事をしている。チラチラとこっちを見るのでニヤリと笑ってやると慌てて顔を逸らせていた。(しばら)くこれでからかえるな。


 その後は特に変わった事もなく夜が過ぎ、日の出と共にキャンプを畳んでミカ王国の入り口とも言える街に向かったんだ。山下りはそこまで体力は使わないけど足にくる。そのことを忘れていた、というか気付かなかった面々は2時間ほど下った所で動けなくなっていた。


 「く、下りがこれほど大変だとは……」


 「膝が笑って力が入らない」


 ナハトアにカリナくん、下りを舐めてたね。


 「ルイ様ずるい……」


 クリス姫がジト眼で(つぶや)いてる。何気に刺さるね、その一言。


 「ずるいと言われても生霊(レイス)ですから仕方ないかと。【疲労回復(リカバリー)】」


 「ご主人様、早く【実体化】してください」


 「え? 何のために? 【疲労回復(リカバリー)】」


 ドーラ何を言ってるんだい?


 「わたしたちと同じ苦しみを味わって欲しいからです」


 「いや、謹んでご辞退します。【疲労回復(リカバリー)】」


 それは御免こうむる。ドーラも言うようになったね。


 「ええ〜」


 「ええ〜じゃない。この先何があるかわからないのに軽々に【実体化】できません。【疲労回復(リカバリー)】」


 フェナも何を期待してたんだ。


 「ルイ様のケチ……」


 「クリス姫、元気になった途端に僕の存在を(おとし)めないでください。【疲労回復(リカバリー)】」


 へたり込んでいる面々に【疲労回復(リカバリー)】を掛けるも、皆からの評価がどんどん下がる事に危機感を覚えていた。とは言うものの半分以上(・・・・・・・・)は冗談であることは承知だ。そう、半分以上はね。最近生霊(レイス)というか僕という存在に慣れてしまったらしく、容赦がないんだ。まぁ特別扱いされないのは嬉しんだけどね。


 一刻半(3時間)後、下山を再開した僕たちはエレボス山脈の南側に位置する国境(くにざかい)の街を眼下に見下ろしていた。中天にどかりと腰を下ろし燦然と大地を焦がしている太陽を手を(かざ)して隠しながら、ずうっと奥に広がる砂丘に浮かぶ揺らぎに気付いて誰となく呻く。


 「蜃気楼(しんきろう)が見えるーー」




             ◇




 同時刻。砂塵の舞うミカ王国王都アレーナ、照りつける灼熱の陽光を避けて自らに充てがわれた王宮の一室でソファーにずしりと体を預ける男が居た。目鼻立ちがすっとしており優しげな相貌(そうぼう)は貴婦人たちが好みそうな甘さを持っている。一重の眼は細いが笑みを(たた)えたような緩やかな曲線を描いており、碧い瞳には意志の強さを伺わせる強い光が宿っていた。白茶色の肌はミカ王国に住む民の特徴だ。この男が漏れずにそうであるということを無言に示している。先程から右手の人差し指と中指に挟んだ小さな巻き紙を指先で遊んでいた。


 「ふむ。上手く言ったと思っていたんだがな……。計画を少し調整する必要があるか」


 男の視線が室内の止り木で羽根を繕っている隼に向けられるた。


 「いずれにしても、その可能性があると言うことも踏まえて準備はしてある。くくくっ。無事にここに辿り着ければその時考えればいい。先ずはお手並み拝見と行こうではないか。クリスティアーネ殿下」


 男は立ち上がると徐ろに自室の両袖型の机の上にある羽根ペンを取り、別の小さな紙に何事か走り書きをして隼の左足に結びつけたのだった。テーブルの上に置かれたフタ付きの陶器から肉片を取り出して隼に食べさせる。


 「良い子だ。これから国境の街フィーニスまで一仕事頼みたい。この手紙を至急届けてくれ。誰に届けるかは分かるな?」


 くるるる


 隼は了解したと言わんばかりに頭を上下に動かしている。随分と賢い隼だ。差し出された男の左腕に乗り移ると男と共に窓際まで移動するのだった。その時ーー。


 こんこんと部屋の扉をを叩く音が聞こえてきた。


 「オーケシュトレーム様、陛下がお呼びで御座います」


 「こんな時に呼び出しとは……。分かりました直ぐ支度をします。では頼むぞ」


 扉の向こうの女声に応えながら男は両開きの片窓を開けて左腕をのばす。その動きに合わせて隼は空に向けて飛び立つのだった。その姿を一瞥(いちべつ)して窓を閉めてゆっくりと扉に向かう。


 「あの者はまだ気付いていなかった、陛下はどうかな? くくく。楽しくなってきたな」


 扉を開けると侍女が1人頭を垂れて控えていた。その侍女に案内されて石造りの廊下を歩いて行くオーケシュトレーム。舐め回すような視線を侍女に向け薄笑いを浮かべている。相対している時には見せない顔だ。コツコツという(かかと)が石畳を踏みしめる音を規則正しく先触れのように響かせながら、2人は王宮の通路を曲がり姿を隠すのであったーー。




             ◇




 「街へ入る前に確認しておきたいことがあるんですけど、いいでしょうか?」


 今僕たちは国境の街に直ぐ入らず、約1km手前の木陰に居る。国境の審査のようなものはないらしい。江戸時代に国境にあった関所のようなものはここにはないということだ。それはさて置き、これからの事を決めておく必要がある。


 「何でございましょう、ルイ様」


 僕の改まった態度にロミルダやジルケの表情が曇る。何かを察してくれたということかな。5人の護衛騎士の男たちも何事かと顔を見合わている。その気持ちを代弁するかのようにロミルダが尋ねてくれた。


 「うん、僕たちの護衛はクリス姫をミカ王国までのはずだよね? ということはこの街に駐屯しているであろう国の兵士たちに引き合わせればこの仕事は完了だと考えていいのかな?」


 その時が来たのかと僕の言葉を聞きながらクリス姫が顔を伏せた。落胆した顔を見せないようにしているのだろう。6歳なのに本当に良く出来た()だ。


 「その通りで御座います。この国境の街フィーニスは北側の防衛の要。我が国の精鋭が守護している街でございます。護衛の報酬をお支払いさせていただきたく思いますので、ご同行願えますでしょうか?」


 「うん、分かった。そういう事ならそこまでは一緒だ。防寒服は旅の記念にさし上げます。その分報酬に上乗せしてい頂いても構いませんけどね」


 そう言って笑うとクリス姫以外の顔に笑みが浮かぶのだった。さてと、ここからなんだよな。大変なのは。笑みを浮かべたまま僕の思考はかなりの速度で回り始めていた。


 整理して考えてみるか。“ケルベロス”の海賊船に奴隷として既に船に乗っていた。ということは何処かで捕まって船に乗せられたということだ。港を襲撃した際に乗せたのであれば、ジルケが貞操を差し出さざるを得ない程切迫するはずはなかった。自分たちの利益になる商品を仕入れの際から質を落とす事はしないだろう。じゃあ、何処から乗せた?


 もう1つ。国から捜索願が近隣国に出ている。発想の逆転だ。最悪のケースを考えてクリス姫を手に入れようとしている黒幕が、計画の(ほころ)びをすぐに修正するための防衛ラインだとしたら?


 「クリス姫。そんなにガッカリした顔をしないでください。ちょっとお願いがあるので聞いて頂けますか?」


 「え?」


 思わぬ申し出にクリス姫が顔を上げる。うん、そういう処は年齢相応に可愛らしいね。


 「あ、ここでは恥ずかしので向こうでもいいですか?」


 「「幼女誘拐」」


 「ええっ!? ドーラもカリナもなんて物騒な事を口走ってるの!? 誰が聞いてるのから分からないからそれは止めて」


 「ふふふ。ルイ様行こう!」


 そんな遣り取りに笑みを(こぼ)すとクリス姫はたったったっと小走りに皆からは離れていく。 


 「あ、そんなに遠くに行かなくてもいいんですよ!? ちょ、ちょっと姫!?」


 慌ててその姿を追う前にカリナとドーラの方を向いて微笑んでおく。全くいいタイミングでアシスト入れれるようになってきたね。確信犯たちの笑みを確認して慌ててるようにその後を追うことにした。これだけは事前に言っておかないと。


 皆から50mは離れただろうか。はぁはぁと可愛らしく肩で息をするクリス姫の所にゆっくりと近づく。さっきまでの不安そうな陰は彼女の顔からは見えない。


 「姫様もそんなに離れなくても良かったんですよ?」


 「あたちが走りたかったから走ったのだ。ルイ様は気にしなくてもいいの」


 「そうですか。でも助かりました。ここでなら大切なお話が出来ます」


 「大切な話?」


 「そうです。でも姫は直ぐに思ってることが顔に出るので皆に顔が見えないようにわたしがこっちから話しますね」


 フワフワと浮かんだまま。ロミルダたちにクリス姫の背中が向くように僕が位置をずらす。これで良し。


 「あたちはそんなに顔に出やすいのか?」


 「ええ、それはもう! 見ていて飽きません」


 「む〜」


 「そんな可愛らしいふくれっ面も大好物ですよ」


 「なっ!? (からか)わないで欲しいのだ!」


 耳まで真っ赤にしてぷいっと顔を逸らすクリス姫。可愛いよな〜おっと、ナハトアたちの視線が痛いからさっと済ませよう。


 「冗談はここまでです。あまり時間がないのでしっかり聞いて覚えてください」


 「え……」


 急な態度の変化にクリス姫の表情が曇る。あまり嬉しい話ではないことが分かったんだろう。聡い娘だ。


 「ここだけの話です。皆には内緒ですよ?」


 「う、うん。分かった」


 人差し指で口元を抑えながらウインクすると、彼女もぎこちなく(うなず)く。さてと。


 「クリス姫が誘拐されたので探して欲しいという依頼は、ミカ王国内では出てないと考えてください」


 「えっ!?」


 こちらも最悪を想定して動かないと。姫の方は予想外の話に言葉を失っている。無理もない。


 「なので、これから駐屯所に行った際、誰かが実は姫を助けてもらったという話をし始めたら、自分の我儘(わがまま)でここまで連れて来てもらったのだと胡麻化(ごまか)してください」


 「そうしたらルイ様たちにお礼が出来ない」


 「それはいいんです。こう見えても僕は一国の主なので懐も寂しくないんですよ? ですが、姫様は別です。今回は命がかかってますから」


 「……」


 相手は姫を手駒にしたがっている。であればここで彼女の命を取るまでの行動には出ないはずだ。出るとすれば兵法の常套手段。兵は詭道(きどう)なり、つまりここからは騙し合いだ。


 「僕たちのことは、旅の途中で偶然に野営(キャンプ)をした冒険者たちだと紹介してください。クリス姫の身分のことは伏せていたので知らなかったのだと、口を合わせていただければ嬉しいです」


 「分かった」


 「恐らくですが、駐屯所で一旦僕たちは強制的に別々になると思います。でも、近くに居ますので怖いと思った時には精一杯僕の名前を呼んでくださいね?」


 「う、うん!」


 「じゃあ、帰りましょうか。あんまり長く居ると良くない噂が立ってしまいます」


 「良くない噂?」


 「ええ、幼女誘拐とか幼女(たら)しとか、節操がないとか」


 「ふふふ。それ全部ルイ様のことじゃ?」


 「はははは。困ったものです。さ、帰りましょう」


 「うん!」


 浮かんでいる僕を見上げるのだがら自然に上目遣いになるクリス姫。これがまたダメージ大きいのよ。あと10年もすれば美人の姫様になって周りが放おって置かないだろうな。そんな素材からの微笑みは僕の心をほんわりさせるには十分過ぎる効能を含んでいた。


 きっと肉体(からだ)があったら手を繋いで歩いてるなこれは。隣りを並んで歩く姫は、両手を後ろで組んでにこにことしながら鼻唄を歌っている。そんな微笑まし姿に思わず頬を緩めてしまうのだった。いや、そっちの趣味はないけども可愛いんだもん。


 合流したのはいいものの冷たい視線に(さら)されながら、国境の街に入るための門の前に来ることが出来た。いま順番待ちだ。


 ミカ王国国境の街フィーニス。エレボス山脈の南側に点在する北への要所の一つ。エレボス山脈の麓にはそれぞれの北側の国に対応した要所となる街が設けられており、その間に小さな村や町が点在している。エレボス山脈に接した隣国は全部で3つ。したがって要所も3ということだね。僕たちが到着したフィーニスという町は3つ並んだ真ん中の国にあたるグラナード王国に対応する窓口ともなる、()わば国の玄関口に来たってことだ。


 街の大きさは先日まで滞在していたアルゲオと然程変わった様には見えない。ただ、建造物の趣きがガラリと変わった。なんて言うのかな。中世風の街並みから中東風の街並みに変わったといえば分かってもらえるだろうか。とんがり帽子の屋根じゃなく、四角い屋上付きの建物がならんでるんだ。これはこれで風情がある。駐屯所に至ってはモスクのような建物だ。面白いな。


 勿論、人だけでなく魔物という外敵から街を守るために街壁(がいへき)が存在している。この街はアルゲオと同じように円形のようだ。行き交う人たちの服装も中東っぽい。ターバン、サリーに似た服、アラビアンナイトの世界なのか? と突っ込みたくなる。兵士たちの服装もね。ターバンに額当てを着けたような被り物に、半袖型の鎖帷子(チェインメイル)、腰に下げた細身の片刃曲剣(シャムシール)がよく似合う。スピード重視の装備だな。


 そうこうしている内に順番が来た。ん? 僕? うん、面倒だからさっさと上空に移動して上から眺めてるのさ。街の方からね。本当は足元に沈んで一緒に動こうとしたんだけど、女性陣から総攻撃を受けたんだ。クリス姫からもだよ。凹むわ〜。(のぞ)くだなんてさらさらないのに。


 ロミルダ、ジルケ、クリス姫の順に水晶球に触れている。僕たちがサフィーロ王国の王都へ初めて入る際に触ったものと同じものだと思う。確か【魔法による身元照合アイデンティティ・ヴァリフィケイション】、だったか。


 「こ、これは!?」


 驚くよね、そりゃ。でも水晶球の光り方が僕たちの時とは違ったな。クリス姫は紫色だ。その様子を見ていた兵士たちがわらわらと巣を突かれた蟻のように周辺に現れて騒然となる。ロミルダ、ジルケ、5人の護衛騎士たちも早々に照合を終えて別の建物の中に引き込まれていく。自体が収まるまで10分くらいは停滞したままだったかな。それでも何もなかったように身元照合が終わり、冒険者登録をしている者たちは身分証を(かざ)して問題なく街に入る。第一関門突破だね。


 4人が集まっている所へゆっくりと合流しようと高度を下げていると2人の兵士が駆け足で近づいて来た。手にはそれぞれ短槍を持っている。何事かと身構える4人に兵士は何かを早口に告げている。何だ? それから兵士たちが動き出すとナハトアが僕の方を見上げて兵士たちを指差す。ついて来いって言われたってことか?


 「さてさて、いきなり毒蛇の籠の中に入れられたって感じだぞ?」


 不安そうなナハトアに笑顔で頷いておくと僕も兵士たちの後を追うことにした。今さっきの時点では僕たちはクリス姫と同じ旅仲間とは見られていなかった。それが呼ばれたということは、誰かが僕たちの存在を告げたということだ。不安はあるが、それよりも眼の前の彼女たちの素行が気になった。そんな気持ちがぽろりと漏れたことも気付かず、ナハトアたちの後ろ姿を眼で追っていたーー。


 「皆、出来れば穏便にね……」







最後まで読んで下さりありがとうございました!


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