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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第二幕 峰越え
116/220

第114話 白い影

 

 雪煙の向こうから白い塊がすり抜けることなく僕の体にぶつかって(・・・・・)来たのだーー!


 「ぐはっ!? な、何が!?」


 そのまま体に衝撃がぶつかり、踏ん張ることの出来ない体がそのまま衝撃の抜ける方向に引っ張られるように吹き飛ばされることになった。不味(まず)い!


 そう思った時には野営(キャンプ)のあったところから100mは離されていた。ダメージは? 慌てて四肢や体周りを確認したけど目立った外傷はない。衝撃が来るということはダメージも受けるということなのにダメージはない? どういう事だ?


 「あ!」


 白い塊がまだもうもうと雪煙の上がる中で動いているのが分かる。カリナの【発光(ライト)】のお蔭だ。発光体そのものは雪に埋もれているようだけど、雪から漏れ出る光でなんとか視認できる程度というとこか。夜空には三日月があるものの、視界を保てるほど月光は強くない。そんな暗闇でその白い塊が不意に2つに分かれた。


 イィィィィィィィィン


 「くっ!」


 耳の奥が痛くなるような高音が僕の動きを阻む。霊体(アストラルボディー)にも作用する音ってなんだ? 誰かがその問に答えてくれるわけもなく、時間だけが過ぎていくのが分かる。


 「姫様!!」「フェナ!!」


 「何だ!?」


 そんな声が耳に飛び込んできた。気がつくと音は聞こえない。慌てて野営(キャンプ)のあった場所に戻ると、そこは獣が掘り返した跡と無傷のテントが2張り、そして恐怖に彩られた10人の男女が立ち尽くしていた。


 「エレボスの魔豹……」


 ポツリとドーラがぎこちなく首を僕の方に向けながら教えてくれた。つまり、クリス姫とフェナが魔豹に連れ去られたということか。それにしても……。


 「何でヴィルやホノカたちが出てないんだ?」


 ー すまぬ。さっきの音で動きを封じられてしまったのだ ー


 ー わたしたちも同じよ。分かってたように封じてきたわ ー


 ー 厄介よね〜。人以上に知能が高そうじゃない〜? ー


 声は聞こえるけど姿が見えないということは、3人の言い分は本当なんだろう。でもーー。


 「ルイ様それよりも」


 ナハトアが音の正体を詮索し始めた僕の思考を正す。


 「そうだね。僕はこれから魔豹を追うよ。封じられたと言っても一時(いっとき)のことだろうから、動けるようになったらヴィルは出て来てくれるかい?」


 ー 承知 ー


 「ドーラはさっきの獣かフェナたちの臭いを追える?」


 「問題ありません」


 一瞬でも臭いを憶えることは容易(たやす)いだろうと思ってたけど、流石犬系の獣人だ。


 「じゃあ、皆を案内してきて貰える?」


 「はい」


 「ということだから、ジルケさんやロミルダさんたちもテントを片付けてドーラたちと一緒に行動してもらえますか?」


 「「畏まりました」」「だが、我らは冬山の装備が……」「そうだ!」「どうする?」


 「そう思って用意しておきました。こっちは女性用、こっちは男性用。これは輪樏(わかんじき)。ブーツを履いた後に装着して下さい。後の説明はナハトアとカリナに任せたから! それとここにも長いしないように。また崩れたら命取りだから!」


 予想通り、馬車だけ売って呑気に構えてたということだな。


 「はい!」「ルイさん気をつけて!」「よろしくお願いします!」「姫を頼みます!」


 ドサドサっと皆の前に防寒着を投げ出すようにアイテムボックスから取り出して並べる。自然発生じゃなく意図的に起こした雪崩の可能性があるにしても、長居して良い場所じゃない。眼の前に装備品を出すと時間がかかるかもという心配が(よぎ)ぎりはしたけど、2人が気になって注意が逸れていたんだ。情けない。


 白い影が動いた方角は眼で追えていたから大まかな方角は分かる。あとは見つけられるかどうかだ。ただ、ドーラの準備を待っていると救える命も救えなくなる可能性が出てくるから、この体を生かして追跡の開始だ。


 「じゃ、行ってきます。もたもたしないでくださいね!」


 それだけ言い残して僕は峰の方に向かって移動を初める事にした。




             ◇




 「あたちたちをどこへ連れて行くのだ!」


 「姫様、相手は獣です! 言葉が通じるはずはありません! 命があるだけでも奇跡なんですよ!?」


 雪に足を取られることもなく、雪煙を後ろへ置き去りにして2つの白い影が並んで雪原の上を駆けている。そしてその声の主は、豹の太い尾にくるっと胴を囚われている状態だった。小柄の女性とは言えフェナの体重は装備品を合わせると50㎏は優に超えている。それを支える筋肉がその尾にあるということの証拠だ。自分たちの胴に巻き付いているフワフワの尾はフェナの腕ほどの太さがある。長さは自分の背丈よりも長いのではないだろうかとフェナは心の中で呟くのであった。


 イィィィィィィィィン


 「「きゃっ!」」


 「これで聞こえるだろうか? 南の民の子と、山猫の(むすめ)よ」


 先程と同じ耳の痛くなるような高音に顔を(しか)める2人だったが、耳慣れない声に現状を忘れて声の主を探そうと過ぎ去っていく暗闇に目を凝らす。


 「何処にいるの?」「ひ、姫様多分ーー」


 フェナはクリスティアーネより先に気付いて前方を指差すのだった。年齢と経験の差だろう。


 「(われ)だ。南の民の子よ」


 「ふぇっ!? ひ、豹が(しゃべ)った!?」


 「ふはははは。()もあらん。だが汝らがエレボスの魔豹と呼ぶ吾らとて言葉も心も持つぞ」


 「然様。手荒な真似をしたことを許せ、子らよ」


 「え、え、え、え!? ど、どういうことですか!?」


 過ぎ去っていく黒塗りの景色と降り固まった氷雪から立ち上るひんやりとした空気に頬を叩かれながら、フェナが状況を理解できないでいた。クリスティアーネの方は既に思考を停止している。理解が追いつかないのだ。


 「汝らと共に居た生霊(レイス)()ぶために手荒な真似をした」


 「え!? ルイ様を!?」


 「ほう、(かの)ものの名はルイというか」


 「知らないで喚ぼうとしているのですか!? ルイ様なら話せば分かる方なのに、これは逆効果ですよ!?」


 「すまぬ。今は話せぬがそうせねばならなかったのだ」


 「何だか体が大きくて話せる豹なのだな?」


 じ〜っと前方をみながらクリスティアーネがポツリと(つぶや)く。幾ら大人びた口調を使おうにもまだ6歳なのだ。幼い彼女にはそう映った方が自然だろう。殺気も威圧も当てられていないのだから、そう思うのも仕方のないことだった。


 「吾らを恐れぬのか? 南の民の子よ。その胆力あっぱれぞ」


 この姫様は何処かに恐怖心というものを忘れてきたのではないか? と考えるフェナであった。だが、先日(さら)われた時に比べれば何とも無いと思ってるクリスティアーネも居たのだ。(もっと)も彼女にはユニークスキルの“眼”がある。その“眼”で何かしら見えたのもの安心する要因だったのかもしれない。


 2頭のエレボスの魔豹たちが踏みしめる足音と短く吐き出す呼吸音が、三日月の照らす雪原に吸い込まれていた。




             ◇




 既に高度としてはかなり上まで登っているせいで低木すらも見当たらない。あるいはぶ厚い氷雪に覆い隠されているのかもしれないが、それを考えている余裕は今の僕になかった。


 「殺気も威圧も当てられてない状態で攻撃だなんてあまりに可怪し過ぎるだろ!?」


 そうなんだ。霊体(アストラルボディー)に傷を付けれるのは魔法の力か、同じ霊体からの攻撃しかない。だけど、さっきのエレボスの魔豹の攻撃。恐らく体当たりなんだろうけど質量があった。じゃなければあれだけ吹き飛ばされうはずがないんだ。思わず心の声を漏らしながら冷気で覆われた空気の中を飛ぶ。


 声に出すことが僕にとって心の安定剤になることもあるし、思考を深めることになることはこっちに来てから気付いた収穫物だ。ただ、短時間でまともな結論は出ないことの方が多い。


 「意図的にした? 何のために?」


 分からない。


 「クリス姫とフェナは? 襲うだけなら殺せば良かったはず。あの大きさだ、爪の一撫でで簡単に始末できたはずなのにーー」


 しなかった。人質か?


 「人質を取れるということは知能が高いということだぞ? フライングジャイアントバイパーだった時のギゼラみたいに言葉が通じるということか?」


 否定するには証拠がなさ過ぎる。否定が出来ないならそれも含めて、だな。


 「クソ、直ぐ追えなかったのが痛いな。完全に見失ったぞ」


 キョロキョロと周囲に視線を向けるが夜目がないだけにはっきりしたものは見えない。臭いも分からない。試しに雪原ギリギリまで降りて顔を近づけてみると、あったーー。


 「足跡だな、これ。それにしても肉球の大きさが手を一杯に開いた幅と同じだなんてどんだけでっかいんだ!?」


 雪原に残るエレボスの魔豹の足跡は指先から測ると30㎝は超えている。体長3mは超えるっていうのも眉唾では無いらしい、そう思って足跡が続く先に移動することにした。2人が無傷であることを祈りながら。




             ◇




 「フードまで(かぶ)ると誰が誰だか分からなくなるわね」


 防寒コートに身を包んだカリナが風に(なび)いて顔に掛かる金髪を払いながら苦笑いをする。フードは一度冠ってみたが邪魔になるので今は外してるようだ。


 野営(キャンプ)に残った10人が(ようや)く防寒装備を見に着けたところだった。テントなどは既に片付けられている。


 「ルイ殿はなるだけ早くここを離れるように言っていたぞ。早く上がってくるのだ」


 もう1人男の声が少し離れたところから聞こえる。ヴィルヘルムだ。先程は召喚具から出れなかったために活躍のなかったこの男が颯爽(さっそう)と防寒具に身を包み、雪車(そり)の手綱を片手に現れたのは、ほんの5分前の話である。仕切りたいのか、少し嬉しそうな響きが声に乗っていることを付き合いの長い者たちは感じ取るのだった。


 あの莫迦(あいつ)、浮かれてるーーと。


 ミカ王国の面々はそんな事に気付かないようで、ヴィルヘルムに促されて流れの止まった雪崩の上に上がり始める。輪樏(わかんじき)のお蔭で雪に足が取られることもなく。普通に歩けているようだ。


 「わたしたちも行きましょう」「そうね」「はい」


 ナハトアの声にカリナとドーラが(うなず)いて先に上がった7人の後をゆっくりと上がるのだった。輪樏を履いていると足早には動けないのだ。もっとも輪樏を履き慣れた熟練者はそれに当てはまらないが。ナディアのホノカの姿が見えないので彼女たちは今は出るタイミングではないと(わきま)えているのだろう。ふぅと溜息を()いてナハトアは峰を見上がるのだった。


 「こっちです」


 ぼ〜っとしていたナハトアがドーラの声で我に返る。追跡の追跡が始まるのだ。今は疲れを回復できる人が居ない、無理は出来ないと誰もが自分に言い聞かせて足を踏み出すのだった。まずはルイに追いつかねばと思いながらーー。三日月が微笑み、優しい月明かりで10人を包んでいた。




             ◇




 グルルルルル……


 腹の底から震えが来そうな(うな)り声を漏らしながら声の主たちが射殺せるような視線を2人の娘達を向けていた。それも1頭や2頭の話ではない。15頭は居る群れのど真ん中に腰を抜かした2人の姿があったのだ。


 「フェナ、フェナ!」


 「は、はい何でしょう、姫様」


 「あちしらはどうなるのだ? く、食われてしまうのか?」


 「そ、そんな事はないはずです。ルイ様を喚ぶためだといってましたから」


 「だが、喚んでしまえばあちしらは用済みであろう? 餌になるのではないか?」


 (わず)か6歳の思考とは思えないと内心舌を巻きながら、フェナは小声で自分の目の前で怯えている少女の考えを正すのだった。


 「そ、そのつもりであれば、こ、ここに来た時点で命を取られていても可怪しくはありません。この奥に居るとだけ言っておけばう、嘘ではありませんから」


 「むぅ。確かに死体であろうが生きていようが居ることには変わりないということか」


 「は、はい。ですから、大丈夫かと」


 ゴゥ!


 「「きゃあっ!!」」


 時折短くではあるが大小の白と黒斑の毛に覆われた魔豹の吠え声に、2人は戦々恐々としながらお互いの肩を抱き合うのであった。




             ◇




 雪原から雪崖(せつがい)へと周囲の様相が変化していく中、僕は峰を見上げていた。後から聞いた話、ちょうどその頃ナハトアも同じように見上げていたとか。まぁ関係なんだけどね。


 僕の眼の前には切り立った雪崖とその(ふもと)に高さ5m幅3mはあるかという洞窟らしき穴が口を開けて無言で(たたず)んでいる。


 「明らかにこの洞窟が怪しいんだよな」


 馬鹿正直に入り口から入ってやる必要もないか。そう思って洞窟の直ぐ脇の岩肌を通り抜けようと手を伸ばしたがーー。


 「な!? すり抜けられない!?」


 グルルルルル……


 「っ!! こんなタイミングでかよ」


 生霊(レイス)の特性が発揮できないことで焦っている側で洞窟の奥から唸り声が聞こえてきたのだ。言葉に翻訳されてないということは、言語がないということか? だとすると意思疎通(コミュニケーション)が出来ないということだぞ?


 イィィィィィィィィン


 「またこれか!!」


 「ルイ殿、聞こえるか?」


 「声!? 誰だ!?」


 明らかに洞窟から声がする。だが、さっきまでそこに居たのはエレボスの魔豹のはず。どういう事だ?


 「(われ)はルイ殿に敵意はない。何もせぬゆえ、月の下に出ても良いだろうか?」


 つまり相対するということだ。襲いかかられても対処はできる。クリス姫とフェナのことも気になるから無駄な時間は惜しい。選択肢はない……か。


 「ああ、ご自由に」


 「(かたじけ)ない」


 僕の声に反応してのそのそと出て来たのは体長3mを超える雪豹だった。エレボスの魔豹とはこいつのことか。だが2頭居たな。(つがい)ということか。何処かに潜んでいるのか?


 「ルイ殿の背を狙うことは吾らの誇りに掛けてせぬよ」


 僕のそんな思いを察したのか、先に遮られてしまい思わず苦笑する。


 「名前を知ってるということは、あの2人は無事だと考えていいんだね?」


 「無論。今は吾らの群れの中に(かくま)っておる」


 群れ。(2頭)だけじゃなかったってことか。しかし匿うって、どういうことだ?


 「なる程……良い魂だ」


 「は?」


 脈絡のない言葉に思わず聞き返してしまった。魂? 雪豹の怪しい宗教とか勘弁してくれよ?


 「すまぬ。ルイ殿、吾らに力を貸していただきたい。初めから頭を下げていればと思われるかもしれぬだろう。現に山猫の娘からも同じことを言われた」


 「だったら今何故ここで頭を下げるんですか?」


 「吾らの事をエレボスの魔豹と人の子らは呼ぶが、吾らは魔獣ではない。女神の加護を持った霊獣だ」


 霊獣? そんな種類の獣が居るんだ。聞いたこと無い。どの道実際に見なけりゃ分からないし、その覚悟もあるだろうから()ても文句を言わないだろうな。【鑑定(アプリーズ)


 ◆ステータス◆

 【種族】エルダーオンス/ オンス族/白豹王の眷属

 【名前】――

 【性別】♂

 【職業】拳闘士(グラップラー)

 【レベル】1000

 【状態】加護

 【Hp】235,694/235,694

 【Mp】99,701/100,001

 【Str】25,050

 【Vit】24,024

 【Agi】20,050

 【Dex】25,371

 【Mnd】16,175

 【Chr】45,505

 【Luk】22,033

 【ユニークスキル】雪渡りLv845、穏形Lv721、【タユゲテの加護ディヴァイン・プロテクション共鳴(レゾナンス))】

 【アクティブスキル】氷魔法Lv377、武術Lv240、爪術Lv268、追跡Lv308

 【パッシブスキル】氷耐性LvMax、狩猟Lv681、登攀Lv597


 oh……久々に見たね。阿呆みたいなステータス。豹の職業(ジョブ)グラップラーってこれいかに。このレベルで頭を下げられてるんだからどういう事だ? ん? タユゲテの加護? タユゲテ……。


 「これで信じてもらえたであろうか?」


 「ん? ああ、霊獣というけど聖属性じゃないんだね」


 「いや、そこではない」


 「え」


 「ルイ殿に覧てもらったのは加護だ」


 「ああ、タユゲテの加護ね」


 「ルイ殿の事を教えてくださったのはタユゲテ様だ」


 ちょっと待て。待てまて待て。今思い出した。豆電球が頭の上で光ったぞ。エレクトラ、タユゲテってプレイアス7姉妹に出てくる仲良し姉妹の名前だろ? ギリシャ神話そのまんまじゃないか。


 「う、嘘でしょ?」


 一応、確認を取ってみる。


 「何故嘘などつかねばならぬ」


 確定だ。この世界の神ってのは“ギリシャ神話”と同じ名前を持ってる。まるっと全部同じなのかはまだわからないけど、その可能性が高い。酒と宴を愛し、享楽(きょうらく)を求める事を生業とした……。何となく読めてきたぞ。


 「ふぅ。すまない。思い当たることが多すぎて思考が止まっていたんだ。で、なんて言う神託だったの?」


 女神からのお告げならまぁ神託って言えるよな。


 「吾らの王を助けたければ峰越えする生霊(レイス)を手玉に取り呼び寄せよ、と」


 「手玉に取れってどういう神託だよ」


 何だその神託。そもそも神託って言うレベルのものじゃないだろ? ええと、とりあえず楽しめればいいからって具合なのか?


 「すまぬ。吾らはその言葉に(すが)るしかなかったのだ」


 どういう事だ? じっと相対する巨大な雪豹を見詰めるが、その顔から表情を読み取るのは難しい。しかも明かりは眼が慣れてきたとは言え月光だけなのだから。


 「この後、連れがここに来る手を出さないでくれると誇りをかけて使ってくれるなら力になる」


 「おお! 無論だ。群れのものにはしっかりと言い聞かせてある」


 「だったら話が早い。その様子だと僕を連れて行きたいんだろう? 案内してくれるかな」


 グルッ


 短く喉を鳴らした雪豹が身を(ひるがえ)す。洞窟の入り口まで進んだ所でこちらを振り返るのだった。


 「ルイ殿、付いて来られよ。白豹王(はくひょうおう)の下に案内いたす」


 「白豹王(はくひょうおう)ね」


 さっき()たステータスを思い出すと、眷属主の名前だったか。そう言えば眷属主に逢う事自体初めてだよな。化学反応が起きたりすることもないだろうけど、少し楽しみだな。ただウチの女神様(エレクトラ)の関係者らしき女神の名前を聞く限り、何かあると見たほうが良さそうだぞ。フラグは上げたくないけどーー。


 スタスタと小気味よい足取りで奥へ進む1頭の巨大雪豹の後を追う中であることに気付いた。洞窟内が明るいのだ。シンシアと出逢った時の洞窟はヒカリゴケが自生していたんだけど、ここは雪山の中の洞窟だから苔が生きていける環境にはない。さっき岩肌をすり抜けられなかった事と何か関係があるのか?


 「ひょっとしてこの洞窟って結界で守られてる?」


 「うむ。よく気が付かれた。その通りだルイ殿。タユゲテ様の加護がこの洞窟にも働いている。故に吾らが許した者しか入れぬのだが……」


 雪豹はそこで言葉を(にご)した。誰かに入られたということか?


 「それで、僕をここまで連れ込んだ理由をそろそろ教えてもらってもいいんじゃないかな?」


 「ーーもうすぐ分かりますゆえ、しばしのご辛抱を」


 急かしてみたけど、ダメか。ん? 奥が開けてる? 洞窟に入って10分は経っただろうか、眼の前が広い空間になっている場所に案内される。何の疑いもなくそこに踏み込んだ僕は目を疑った。


 「あれが(・・・)吾らが眷属主、白豹王です」


 あれと表現される物体を僕の眼は映し出している。


 体長6mはあろうかという更に巨大な雪豹。その額から大きな一角が突き出ており明らかに他の個体とは一線を画している存在だ。その巨体の腹部から巨大な岩の棘が突き出ており、白豹王自体は氷漬けにされていたーー。


 「う、嘘だろ」








 

 

 

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