第111話 不穏な予感
荷馬車の旅は順調の一言だった。
ナハトアの耳に着いている“女王の薫り”が所謂魔物除けの薫りになったようで、魔物と遭遇しなかったんだ。そう、ただの1度も。勿論訝しがられたけど、全部を言うつもりはないからのらりくらり躱して今日に至る、という感じだな。
「クリスティアーネ様、街が見えてきました!」
先頭をゆったり走る荷馬車の幌ばさっと開いて、護衛騎士のゲルルフが顔を覗かせる。30日も同じ旅仲間で移動すればそれなりに親しくなるものだ。ゲルルフ、ウド、ヨーナス、クルト、カスパルというのが彼らの名前だけど、背格好も肌も、髪の色も峰向こうの人種の特徴そのままだから顔を見ないと判断が出来ないのは変わらない。皆、白茶色の肌に金髪、そして緑青色の瞳なんだから。
天を仰ぐとエレボス山脈の峰々が聳え立ち、その頂の方は白く雪化粧をしているのが良く分かる。その麓にオレンジ色を基調とした屋根が特徴の街が見えてきた。
まだ陽は高い。その光りに照らされて華やいだ雰囲気を街が醸し出しているように感じたけど、見た目とは裏腹に何処か不安を感じる棘が刺さってる気がする。
僕たちが港湾都市ラエティティアを出発して、南西に伸びる主要街道をひたすらエレボス山脈に向けて下がってきたのは、漸く見えてきたアルゲオという街に辿り着くためだ。勿論、山脈の麓にある街は点在する。ただ、ミカ王国へ抜けるための山岳ルートの中でこのアルゲオから戻るルートが一番安全なのだと、護衛騎士の面々は口を揃えて教えてくれた。
それを頭から疑うのも失礼な話だから口には出さなかったけど、逆に一番罠を仕掛けられやすいんじゃないのか? という思いが頭を過ったのも事実だな。
「おお! あれがアルゲオか! ルイ様!」
「はいはい、漸く着きましたね〜」
クリス姫は結局懐いてしまい、僕が生霊だろうが何だろうがお構い無く接してくれるようになった。おどおどしてたのは出発した日を含む3日間だけで、あとは持ち前の明るさで僕たちを和ませてくれたんです。いつの間にか皆のアイドル的な存在になってたけどね。男女間の仲は、残念ながら発展しませんでした。
護衛騎士の男性陣も、ドーラやフェナ、カリナにまで声を掛けてはいたけど事務的な対応で終わってた。見てて面白かったけどね。たまに【実体化】すると、ドーラとフェナはクリス姫と僕を取り合うので当然いい顔をされなかったよ。その都度嫉妬の視線を浴びたな。布越しでも分かるもんだよ?
僕は今クリス姫の頭上でフワフワと浮いている。一緒に荷馬車から上半身を乗り出して近づいてくる街を眺めているんだ。勿論、落車しないようにジルケがクリス姫の腰に腕を回しているんだけど。付き人からすれば気が気じゃないわな。
「着いたら宿を確保して、登山の準備をしないといけませんね。あれ? クリス姫?」
ぼんやり遠くに見える街を眺めながら幼いクリス姫に問掛けたんだけど、気が付いたらそこにはおらず、御者席でナハトアと一緒に座っていた。元気が良いことはせめてもの救いだね。
◇
半刻後、橙色の屋根瓦が光を反射して街並みを明るく照らす中、アルゲオの街に入ることが出来た。この周辺ではかなり大きな街と聞く。確かに街道沿いの宿場町と比べるとその大きさは一目瞭然だ。
雪解け水も豊富に街へ引き込んでいるようで、飲水の心配もなさそうだな。とはいっても目立った観光産業があるわけでもなく、お昼時だというのに人々はまばらだ。街の中で大きそうな宿屋を見つけそこに宿泊することにする。
「温もりの雪豹亭……もっとましなネーミングセンスがなかったのか?」
思わず宿屋の看板を声に出して読んでしまった。雪豹といえばテレビで見たことがある。白い毛並みに黒っぽい星のような小さな斑がある肉球の大きな猫科動物だ。実際は毛が汚れて薄い鬱金のような色合いになってることが多いみたいだけどね。宿とは関係ないけど。まあ、大方目の前に聳える山に住む雪豹という存在の愛らしさをイメージしたのだろう。
「いらっしゃっませーっ!!」
良く通る元気の良い娘の声が店内に響き渡る。見る限り客は少なさそうだ。昼時なのに昼食を食べている客が少ない。
「3泊したい。男5人と女7人だ。部屋はあるか?」
「えっと……」
ジルケが宿屋の看板娘に空きを確認するのだったが、娘の視線は僕に釘付けだった。うん、まぁそれが正常な反応だよな。一緒に旅をしてる面子では珍しくも何とも無い光景なので、誰1人として突っ込んでこないんだよ。いい意味で慣れてくれるのはこちらとしてもありがたいんだけどね。
「僕の方はお構い無く。彼女の守護霊なのでどこでも寝れますから大丈夫です」
「ーー守護霊?」
「普通は見えないんですけど、僕は特別で見えちゃうですよ。ちょっかいを出されなければ無害なので、安心してくださいね」
と優しく微笑んでおく。いやさ、「悪い生霊じゃないよ」ネタは完全に打ち砕かれたから、現地で受け入れられるようにアレンジしたんだよ。少しは良くなったと思わない? ま、そんな僕の気持ちは伝わるはずもなく、宿の娘の方は「あははは」と引き攣った顔で乾いた笑い声を漏らしていた。
「こ、こちらへどうぞぉ〜」
声を裏返らせながら娘が案内を始める。さてと、上から街を見てくるかな。ナハトアの頭上に移動して小声で頼みごとをしておく。
「ナハトア、ちょっと上から街を見てくる。姫様が探したら教えてあげて。すぐ返ってくるから」
「はい」
「それと、何処かで新鮮な水を汲める所がないかも確認しておいて欲しんだけど、頼めるかな?」
「大丈夫です」
「じゃ、行ってくる」
ジルケとクリス姫が並んで宿の説明に耳を傾けているのを微笑ましく見送り、ナハトアに手を振ってから天井に突っ込んでいくのだった。下の方で、娘さんの驚きに満ちた悲鳴のような声が聞こえてきたけど、聞かなかったことにした。毎回毎回対応するのもいい加減疲れたから、僕もこれで慣れることにしたのさ。
それで話を戻すと、生霊は物質に遮られることのない特性を備えている。だから、何処へでも自由に出入りできるんだ。魔法で結界を張ったような場所は無理だけどね。現状を把握するために、この旅の間僕がしてたことがこれだ。街の上空に昇って俯瞰する。地理や建造物の特徴、これから向かうルートの大まかな選定や危険を予測できるように準備してるという感じかな。
「港街ほどじゃないけど、大きな街だな。その割に人の姿が少なく見えるのは別の要因があるということか。さてと、一度戻るか。ん、あの部屋ね」
見下げると、宿の2階の窓からナハトアたちが見上げているのが眼に止まる。いつものパターンだな。
ギャァァァァァァァァァァォォォォン!!
「「「何だっ!?」」」「「っ!!」」「「「「きゃっ!!」」」」「「「何の声!?」」」
それは突然の咆哮だった。
峰々の谷間に咆哮が谺する。その反響音が暫く街を覆い尽くしていたのだが、気が付いた事がある。人が居ないと思ったいた街に多くの住民は存在していたということだ。恐らく何かしら獣の吼え声であることに間違いはないだろう。その声が響き渡った瞬間、街の住民が挙って雨戸を閉め始めたのだ。それこそドミノ倒しを彷彿とさせるように、バタバタっと一斉にだ。
「これが人が表に居ない理由か……。厄介事を」
いや、フラグを立てるのは止そう。思わず呟きそうになった一言を飲み込んで、部屋の中に入る。そこには全員が集っていた。
「今のは何だと思いますか、ご主人様?」
僕が部屋へ戻って来たのを逸早く察したドーラが駆け寄るように尋ねてきた。そう言われても僕にだって分からないことはある。ただ、1人だけ浮かない顔をしてる人物が居ることに気付く。動揺している様子ではない。どちらかといえば蒼ざめているんだ。
「フェナ」
「はひぃっ!」
僕の呼び掛けにフェナがびくっと肩を震わせた。いつもであれば、神様から貰った【自動翻訳】の賜物で言葉として聞き取れる。でもさっきの咆哮は言葉として僕の中で変換されなかった。だから獣の声ということしか理解らなかったんだけど、フェナは違うようだ。
「さっきの声の主に心当たりがありそうだね?」
「「「えっ!?」」」「本当なの!?」「真か!? フェナ?」「っ!」
一斉にフェナに視線が集まる。その視線に耐えかねて、フェナはぎゅっと眼を瞑り顔を伏せるのだった。何かを知ってるようだな。
「怒ってるんじゃないんだよ? 皆聞いたことのないくらい大きな吼え声だったから、びっくりしたし不安なんだ。もし何か知ってるなら教えてほしいな」
「……エレボスの魔豹に関わるな」
「「「「えっ!?」」」」
ポツリと呟くように漏らした一言に皆耳を疑った。“エレボスの魔豹”。聞き慣れない名前だが危険な響きがあったことに皆が気付く。
「む、昔から家族に言われ育ってきたんです。エレボスの魔豹に関わるなって。わたしたち山猫の獣人とは愛称が良すぎるといいますか……。下手をすると萎縮して動けなくなるんです」
「なる程、命が惜しければエレボスの魔豹に関わるな、か」
「ーーはい」
猫科の獣人だとは思ってたけど、フェナは山猫の獣人なのか。初めて見たな。
「フェナ殿。エレボスの魔豹というが、どれくらいの魔物なのだ? 我らはこの街からミカ王国に戻るというのに」
護衛騎士の1人、カスパルが5人を代表してかフェナに尋ねてくる。彼でなくても誰もが知りたい内容だろう。余計なことを言えば、彼はフェナに気があるよう何だけど相手にされてないんだ。硬すぎるのが原因かな?
「わ、わたしも見たことがあ、ありません。ただ……」
「ただ?」
「角牛より大きいと聞いたことがあります」
角牛。この辺りでは普通に野で草を食んでいる大型の牛のことだ。向こうの世界で言えばワッシー種という角周りが95㎝もあり、左右の角の端から端まで200㎝以上もある巨大な角を持つ牛に似ている。僕がテレビで見たその牛は特別な個体だったみたいだけど、こっちではそれが普通だ。角だけでも100㎏近くはあるんじゃないかと思うくらいの大きさなんだけど、普通に支えてる。それだけ筋肉があるといいう裏返しだ。ま、そこは大した問題じゃない。兎に角でかいんだ。体高は2mを超え、体長も3m以上あるのものが普通だといえば分かってもらえるだろうか。
「角牛よりも大きい?」「そんな……」
牛ならおっとりした気質で危険性は無いだろうけど、大型の豹ともなれば話は別だ。赤信号が点滅どころか爛々と照り輝いてる。フェナの答えに誰かが落胆の色を隠せないまま呟いた。
「フェナが言うんだから間違いはないと思う。そこを踏まえて仮にエレボスの魔豹の縄張りが広がってミカ王国へのルートに重なってしまったとします。でも、確実に遭遇すると決まってないでしょ?」
フワフワと浮きながら皆に確認を取ってみるが、魔物の姿をイメージしてしまった所為なのか気持ちも口も重くなっているのが見て取れた。仕方ない。どうするかはクリス姫だ。今の内に準備をしておこう。
「峰越えをするにしてもしないにしても補給と準備は必要です。僕たちの方でも準備はしますが、馬車の売却や食糧の調達をお願いしますね? ナハトア、カリナ、ドーラ、フェナ行こう」
「はい」「分かったわ」「「分かりました」」
4人を伴って買い出しに出かける。ああは言ったけど食糧の調達は心許ないから余分に仕入れておく。宿の裏にある井戸からは水を自由に組んで良いと許可が貰えたので、ドーラとフェナに頼んでおいた。空の樽5つと漏斗5つを取り出して預けておく。今は必要ないだろうけど、山越えした後の備えだ。砂漠のオアシスの水事情はここよりも更に厳しいことになってるだろうからね。
僕たち3人は街の道具屋さんに顔を出していた。
「ひえぇぇ〜! ゆ、幽霊に使える道具なんか置いてないよ!?」
案の定普通に驚かれた。というか、それ以前の問題に日中に幽霊が出るわけ無いだろ?
「あったら見てみたいよ」
「それもそうですね」「ぷぷっ」
「迷宮の呪いでこんな姿になっちゃったんだ。取って喰うこともないから安心して」
「そ、そうですか。それは災難でしたね」
そこをするっと受け入れられる感受性が凄いよ。辺境では迷宮の話を聞かなかったから、あの周辺にはないのか、知らないかのどっちかだろうな。ま、いいか。それよりもーー。
「さっき大きな獣の吼え声がしてびっくりしたんだけど、あれは街の風物詩?」
気になっていたことを道具屋の主人にぶつけてみた。170㎝前後の背丈。中肉中背の50台後半と思われる店主は事情を僕たちに説明してくれた。
「ああ、あんたら余所者かい。あれはな、エレボスの魔豹の咆哮さ」
そう言って店主は薄くなった頭を掻きながら語り始めた。簡単に説明するとこうだ。魔豹が咆哮を始めたのは遡ること2ヶ月も前の話らしい。それ以降昼夜を問わず、街を震わせる咆哮が聞こえるようになったのだとか。原因を調べたいところだったが、相手は昔話にも出てくるという伝説の魔獣。泣き寝入るしか選択肢がなかったらしい。近頃は気が触れ始めた者も見かけるようになったと教えてくれた。
「それは災難というか、災害だな。ミカ王国との交易は大丈夫なのかい?」
「それがね、旦那。最近ぱったりなんですよ」
予想通りの展開だな。
「2ヶ月前から全く?」
一応、状況は確認しておかないとな。
「いえ、一月は普通に商隊の皆さんも来てたんですがね、半月前に大怪我を負った商隊が命からがら街に着いてからぱったりですよ」
半月前から人に危害を加えるようになったと言うことか。魔豹と言われるくらいだ、知能も高いに決まってる。そんな存在が人に危害を加えるということは、恨みを抱く何かが起きた、或いは操られていると考えたほうが良さそうだな。魔物同士であれば人に危害を加える必要もない。魔物同士で雌雄を決すればいいだけだから。
「そうですか。貴重な情報をありがとうございます。処で雪車や新雪の上を歩く為の足に付ける板みたいな物あるかな?」
「樏の事かい? 旦那は余所者だろう? よく樏のこと知ってたな」
「樏が有るんですか!?」
「あるにきまってるだろ。こちとら雪山にも入っていく者相手に商売してるんだからな」
樏があったのは嬉しい誤算だ。踏み固められてない雪には足を取られる。そして踏み分けていくためには余分の体力が必要だ。なおかついざという時に体力がなければ命を危険に晒すことにもなる。そうならないための雪対策装備だといえば分かってもらえるだろう。
店主に案内されて樏の置いてある棚に案内された。確かに樏だ。輪樏と言って円形の板の真ん中を繰り抜きロープで蜘蛛の巣のように編んでいる。
「良かった。じゃあ、大人用の輪樏を12足。子ども用を1足お願いします。そして大人が1人乗れるくらいの大きさの雪車を2台。雪車を引けるくらいのロープを2本。あとは……防寒具以外に何か要るものがありますか?」
「そうだな〜。スコップとピッケル、樏はいいとして、アイゼンと緊急用のシェルターだな」
ピッケルもアイゼンも通用するとはね。僕の想像で通りであれば、向こうの世界と同じ登山用の装備だ。でもーー。
「緊急用のシェルターって?」
思わず問い返していた。耳慣れない言葉だったから。
「ああ、あんたは知らないかも知れんな。これのことさ」
そう言って店主は掌に収まる大きさの黒く四角いものを見せてくれた。
「これは?」
「雪山ってのは雪崩がつきものだ。いくら力が有る冒険者や商隊だとしても自然の力には一溜りもねぇ。でだ、この四角いのには無属性の結界魔法が収められてる。緊急の時に力一杯こいつを握りしめれば魔法が発動するという仕組みさ」
流石は異世界。やることが半端ないな。問題はーー。
「結界が保つ時間は?」
「そうだな〜だいたいゆっくり100数えれるくらいかな。だから、遠くに雪崩が見えてる時に使っても意味ないから気をつけな。魔法が切れた時に雪崩に飲み込まれて終わりだ」
そうなるよな。使うタイミングが命取りにもなる。それにしても無属性があるのか……。エレンが使ってた付与魔術もそこに含まれるとすれば、何となく分かる気がする。
「じゃあ、スコップを6本、ピッケルを13本、アイゼンを12枚もらえますか? アイゼンは男女の大きさの違いが有るなら、男用を6、女用を6でお願いします」
「分かった。シェルターはどうする?」
「在庫数があるのなら4個欲しいんですが」
「それくらいなら問題ない」
「お願いします」
普通に生霊と話ができてることに違和感がないのか、店主のおっさんは注文した品を出すために店の奥に姿を消すのだった。
結果|古代ファティマ金貨1枚《白金貨1枚分》が消えた。シェルターの値が法外だったのもある。ただ万全は期しておきたいから、仕方ないとも言えるよな。僕が2つと、ナハトアとカリナに1つずつシェルターを持たせてあとは僕のアイテムバックに収めた。今使えなくても後で役立つことも有るだろうしね。それから道具屋を出て食料品を買い漁り、宿に戻る。ドーラとフェナが水を空の樽に満たしてくれたのをアイテムボックスに収め部屋に戻るのだった。
まだクリス姫たちは戻ってきてない。宿の表に馬車がなかった処を見ると、当初の予定通り換金しに行ったのだろう。つまり別のルートを選ぶのではなく、この街からミカ王国に戻る決心をしたということだ。それにしても、買い物するために別れてから一刻半は経過してるぞ。少しだけ胸の奥がざわついた。
「ここからだな」
「え?」
「あ、いや何でも無いよ。独り言さ。それより姫たちがまだ帰って来てないみたいだから、こっちに向かっているかどうか屋根に上がって見てくるよ」
ポツリと漏れた言葉にナハトアが反応したんだけど、そのままはぐらかして宿の屋根の上に出る。周りを見渡すが姫たちの姿は見えない。とは言ってもここに来たのはそれだけが目的じゃないんだ。少しずつだけど、思考の欠片が嵌り始めてる。それも悪い方に。
道具屋のおっさんは商隊が大怪我を負って街に辿り着いたと言った。魔豹に襲われたんだったら、その時点で噂なり証言の裏付けからの話が広がるはず。そもそも魔豹に襲われたと普通に言うに決まってる。言わなかったのは何故だ? 魔豹の仕業じゃない!?
エレボス山脈の方を見上げると聳え立つ峰々を越えて、黒い雲の絨毯が項垂れるように街に近づいてきているのが見える。不安が確信に変わるまでさほど時間は掛からなかった。
『ラク、デン来れるかい?』
気が付くと眷属精霊の名を口走っていたーー。
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