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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第二部 アーブルフェリックの泪 第一幕 港街
107/220

第105話 幼い依頼人

2016/10/30:本文誤字修正しました。

 

 次の瞬間2人は見事な土下座を僕の前に披露していた。


 「「申し訳ございませんでした――っ!!」」


 「えぇぇぇっ!? ちょ、ちょっと何頭下げてるんですか!?」


 クリス姫を抱えたまま思わず突っ込んでしまった。土下座される理由が分からないんだよ。


 「何故この者らは平伏しているのだ?」


 それはこっちが聞きたい。クリス姫の問い掛けに心の内で愚痴(ぐち)りながらおっさん2人の動向を見守ることにした。姫を抱えたまま膝をつくのは不味そうな気がしたというのもある。


 「さぁ、何故なんでしょうね?」


 姫の問い掛けを無視するのも可哀想なので、差し障りない答えを(つむ)いでおく。僕のリアクションを求めているのか、チラチラと見上げる視線が煩わしくなってきた。


 「()かく立って下さい。謝られることをされた記憶はこちらに無いんですから。というか現状だと何も分からないし、何も始まらない。そっちの方が困るんですが」


 「こ、これは失礼を!」


 「お、怒ってないのですか?」


 こっちの痩せた赤茶色の髪を耳の辺りでおかっぱボブカットにしたおっさんは良いとして、ギルマスのランベルトが敬語を使うのはこうなんと言うかむず痒い。「怒ってないのですか?」だって? やめてくれぇ〜!


 「ギルマスはまずその話し方を止めて頂けませんか? 気持ち悪い」


 「ぷっ」


 「なっ!? こちとら気を遣って慣れない敬語を使ってるのに、気持ち悪いって……!?」


 僕の一言にナハトアが吹き出す。その仕草に見惚(みとれ)れているのを他所にランベルトが顔色を赤くしながら食って掛かろうとするのだったが、なんとか思い留まることに成功したようだ。そっちの方が僕は気兼ねしなくて助かるんだけどな。


 「またあの女を見てる! あちしを見なさい!」


 「え? あたたたたた!」


 「く、クリス様! どうかお止め下さい!」「ルイ様、申し訳ありません」「幼女誑(ようじょたら)し」


 クリス姫の左手が僕の頬を抓ったのだ。慌ててロミルダとジルケが駆け寄り頭を下げ、姫にあれこれと注意してるんだけど何処吹く風という感じで聞き流してる。でも、僕の耳には聞き流せないナハトアの言葉が届いていた。


 「それは違うから! 小さい声でボソって言わないで」


 全力で否定すると、びっくりした顔で更に聞き捨てならないことを言い始める。


 「地獄耳?」


 「それも違うから」


 「おほん!」


 「「「「あ……」」」」


 おかっぱボブカットのおっさんが蚊帳の外であることに耐え切れず咳払いをする。お蔭でここが何処だったかを思い出すことが出来た。身形(みなり)からすると位の高そうな人だけど……そう言えばここ領主邸だったよな? だったらーー。


 「お騒がせをして申し訳ありません。ご挨拶が遅くなりました。この港湾都市ラエティティアの枢軸領主(すうじくりょうしゅ)クンラート・フェン・ベーレンドルフと申します。以後お見知りおきを」


 すうじく領主? 普通の領主とどう違うんだ?


 「すうじく領主?」


 僕が疑問を口にするより姫の方が早かった。


 「はい、その通りで御座います。クリスティアーネ姫。枢軸領主とは、このグラナード王国において王を選任する際投票資格を持つ領主のことです。国の根幹、行く末を動かしうる権力を付与された地位(ポスト)ですがーー。今は名ばかりですね」


 そう自嘲気味に姫の疑問に答えるクンラートの姿は、何かしら抱える問題があるのだろうと推察するには十分な仕草だった。何処に居ても権力に関わると(ろく)な事がないということか。クンラートの憂いの元を詮索するつもりはないし、煩い事に首を突っ込んでこの国に関わるつもりも更々無い僕は、勝手に結論を出すことで好奇心に蓋をすることにした。


 すうじくは枢軸と言うことか。国によって政の形が違うのも良くあることだな。


 「身分証をありがとうございました。国主(モナーク)であられるルイ様を呼び出し、貧相な馬車に押し込んでしまったこと謝罪させて下さいませ」


 「え? モナーク様ーー?」


 姫は口を半開きにしてしばらくそのまま僕の顔を凝視していた。びっくりしたんだろう。身分証を受け取ってアイテムボックスに戻しておく。あ〜なんて答えたら良いかな……。


 「そこは気にしてない。身分を隠していたのはこちらだし、姫たちの経過も気になったたのでここで元気そうな様子を見れたのは良かった。……とまあ堅苦しい話し方は性に合わないんですよね。僕に限っては今まで通りというか、砕けた口調で大丈夫ですよ?」


 誰かに命令を出さなきゃいけない時はそれなりの口調をするけど、普段からそれに慣れていないんだから仕方ない。チラッとナハトア方を見るといやに感心した顔つきでこちらを見ていた。その表情が見れただけでも僕としては役得だったと思えた瞬間だ。気が付かれる前に視線を戻して姫様の頭を撫でてあげることにした。


 「姫様は王族、僕はモナーク。そんなに立場的には変わらないでしょうから、気にしなくても大丈夫ですよ。ただ、この姿で居られるのも後数時間でしょうから、何時までも抱いてあげるわけにはいかないんですけどね」


 「「「「え?」」」」


 どうせ時間が来れば隠し切れない状態になるのなら、そこを逆手に取ればいい。それが僕の下した結論だ。事前にこのことを打ち明けていたランベルトは驚いた様子も見せずに黙ったまま腕組みをしている。酷く神妙な顔つきになってることに気が付いたけど、何か話しだすこともないので放って置くことにした。


 「実はこの体“(のろ)い”を受けてまして。3日に1度しかこの体になれないんです。あとはそこに居るナハトアの守護霊として彼女に()いてるのが現状です」


 そう(てい)よく“呪い”という言葉遊びで周知することにしたんだ。現に神様(じいさん)から受けた【制約(ギアス)】は僕の足枷(あしかせ)みたいにしなってるんだから、呪いといっても言いすぎじゃないと思ってる。


 「姫様!」「姫、こちらへ!」


 ロミルダとジルケが血相を変えて僕の腕からクリスティアーネ姫を引き剥がそうとするのだったが、失敗に終わる。ま、そうなるのが普通の反応だよな。呪われた者と一緒に居れば呪いが伝染(うつ)るかもしれないと不安になる。伝染らない(たぐい)なんだけどね。失敗した原因はーー。


 「「クリス姫様!?」」


 そう、何を隠そう姫様本人だった。


 「ロミルダもジルケも離れよ! あたちの“眼”も問題無いと示しておる!」


 “眼”? 姫様も【魔眼】持ちということか? 覧られた(・・・・)感覚はなかったけど……どっちにしろ姫様の方で僕の身元を保証してくれるならそれに越したこと無いな。


 「クリスティアーネ様のお墨付きがあるのならば疑う余地もございませんな」


 「全くだ」


 クンラートの言葉にランベルトが(うなず)く。さっきの土下座といい、仲が良さそうだよな。それに、【魔眼】持ちなら捕まる理由としては申し分ないな。姫様の“眼”は恐らくユニークスキルだろうから、支配下に置いておけば自分を害する(やから)からは身を護る(すべ)を持つことになる……か。


 「ルイ……様?」


 姫様の声にはっと我に返る。いけないな。考え始めるといつもこうだから……。苦笑いを浮かべつつ何だか困ったような表情になっていた姫様の頭を再び撫でる。


 「ごめん。少し考え事をしてたんだ。怒ってたんじゃないからね?」


 「うん」


 眼を細めて嬉しそうに微笑むその愛らしい表情を見るとついこちらも頬が緩んでいくのが分かる。その反面ナハトアの視線が痛々しくなってきているのは気のせいだと思いたいーー。後でケアしなきゃ。


 「それにしても、僕に謝るためにここに呼び寄せた訳じゃないんでしょ? 当初の目的を聞いてないと思うんだけど?」


 「そうでしたな。ルイ様にはお許しをいただきましたので、いつも通りにさせていただきます」


 僕の問いにクンラートがぽんと(てのひら)を拳で打ってこちらに一礼するのだった。特に言うこともないので黙ったまま頷き、先を促すことにした。姫様は未だ僕の腕の中だ。お付の2人がオロオロして困っているのは申し訳ないと思うんだけど、姫様が降りないというのだから仕方ない。


 「この度、奇跡的にもルイ様たちの活躍で隣国、ミカ王国第五王女であられるクリスティアーネ殿下をお救いすることが叶いました。ミカ王国の早馬でこちらにも王女殿下の失踪と捜索の協力を願う親書が届いておりましたので、わたくしどもも気にかけていたのです。それが海賊に奴隷として捕らえられていたと聞き驚きました。これでは何処を探そうにも見つかるはずがありません」


 確かにな。他国に親書を出すということは自国の弱点を(さら)すということだ。そうまでして探したい存在だった、ということになる。こんな幼い子が? 改めて白茶色の肌をした愛くるしい少女を見るが、特に変わった風には見えない。瞳も瑠璃色で珍しい色合いだけどそこに魔法の術式的なものも見ることが出来なかった。そんな僕をきょとんとした顔で見詰めてくる姫に微笑んでおく。


 「その後はルイ様のご想像の通りです。ルイ様たちによって解放された殿下たちがわたくしどもの下に庇護を求めて来てくださったという訳です」


 なる程。ここまでは事の経緯だよな。


 「殿下やお付の方に話を聞けば、奴隷にされていた者たちを解放し、殿下の病を癒やされ、海賊船を制圧し、民を助けた方が居るというではありませんか」


 聞いてると何かやらかした感が半端ない……。自分の笑顔が少しずつ引き()り始めたような気がするぞ。


 「それも自分の名は告げずにそこのダークエルフの名を告げて去ったと聞きました。手掛かりがそこしか無いのですから、奔走する冒険者を捕まえて確認を取ったところ冒険者ギルドに属している人物だというではありませんか。それならばと思い迎えに行かせたのですが、確認を取らずに軽はずみなことをしてしまったと悔やんでおります」


 何となく話が見えてきたな……。


 「これ程迄に活躍された英雄の(ごと)御仁(ごじん)であれば」


 「護衛にうってつけ、と思った訳だ」


 「ーーっ!?」


 クンラートの言いたいことを先に言ってみた。彼の芥子色(からしいろ)の瞳が動揺を抑えきれずに小刻みに左右に動く。表情は冷静を装ってはいるが、内心はそうではないということだ。現に続く言葉を出せずに居るのがいい証拠だな。


 「仮に護衛を引き受けたとして、僕たちにどれほどのメリットがあるんですか? 姫の前でこう言ってはなんですが、姫様を奴隷にまで落として海賊経由で購入しよう(・・・・・・・・)とする(やから)が背後で動いているのは僕たちにとってデメリットしか無いんですよ?」


 「……」「「えっ!?」」「「「なっ!!?」」」「おいおい、本当かよ」


 クンラートの双眸(そうぼう)がすぅと細くなる。どうやら核心を突くことには成功したみたいだな。


 「誰から聞いた、と疑っているんですか? 少し考えれば分かりそうなものですよ」


 「な……」


 「クリス姫には特別な“眼”がある。その姫が既に囚われて奴隷に落とされていた。奴隷商人ではなく海賊が姫様たちを連れていた。海賊は奴隷を教育し商品として売っている。思考を(まと)める材料が沢山揃ってるからね。それとも、クンラートさんはそこを突かれるとまずいのかな?」


 僕の説明に誰もが押し黙ったまま耳を傾けていた。その間ずっと枢軸領主であるクンラートの挙動を観察してたけど、特におかしなことをすることもなかった。


 「……恐ろしい御方だ」


 少しの沈黙を破ってクンラートが息を大きく吐き出すように言葉を(つむ)ぎだした。


 「良かった。そのまま黙っていたら真っ先に街に海賊を呼び込んだ主犯格として疑わなくてはならなく処でしたよ」


 恐らく、この遣り取りを姫様も“眼”で見てるだろうから何か在れば挙動に現れるはず。そう思ってたんだけど、姫様はじっとクンラートを見詰めるだけだった。白、ということかな。


 「ルイ様には敵いませぬな。そこまで推察されて居られるならばこちらかもそう多く言うことはありません。ただ、メリットというお話でしたが護衛の件はわたしからはお願いです(・・・・・・)


 そう来たか。


 「正確には、ミカ王国からの依頼という訳だ」


 「然様(さよう)でございます」


 僕の言葉を短く肯定するクンラート。頭は回る人物らしい。でなければ枢軸領主などという地位(ポスト)に長く居座ることもないか。「ですが……」とクンラートが続ける。


 「この依頼を受けてくださるのでしたら、皆様の身分証にこの港湾都市への通行許可(パス)を付与いたしましょう。この街はこれから復興のためにお金が必要です。わたくしどもといたしましてもこれが最大限の感謝の表し方かと……」


 通行許可(パス)……ねぇ。正直そんなに魅力的な申し出でもない気がするんだよな。そりゃあ姫様たちとは関わってしまった手前、無碍(むげ)には出来ないんだけど。旅の先がね。


 「ルイ様はクリスを助けてくれないの?」


 うっ。その潤んだ上目遣いはダメージがでか過ぎる。依頼としては心許(こころもと)ない、そんな幼い願いに心が揺れるけど優先順位があるぞ。このままではまずい。


 「助けてあげたいとは思ってるよ。でもね、最初の約束で僕はナハトアを助けるって約束してるんだ。だから、その約束を守る事が一番なの。クリス姫のお願いはその次。だからナハトアのお姉さんとお話をしなくちゃいけない。その間、ロミルダの所で待っててくれるかな?」


 姫を抱えたままナハトアの方に振り返り、その質問にゆっくり答えることにした。難しいことは理解(わか)ってもらえないだろうからね。下唇を口の中に巻き込むように噛みながら、じっと僕の話に耳を傾けてくれるクリス姫。お願いまで言い終えたらしっかりとした返事を聞かせてくれたのだった。


 「うん、分かった」


 その言葉を聞いて姫を床に下ろすと、背中まで伸びた金髪を揺蕩(たゆた)せながら老婦人(ロミルダ)女騎士(ジルケ)の方に駆け寄って行く。(さと)い娘だな。その姿を見送って再びナハトアに向き直るとヴィルの姿も視界に入ってきた。ヴィルは先程から腕を組んだままひたすら黙っている。眼も(つむ)っているんだけどーー。はっ!? もしかして寝てるのか? 立ったまま堂々と!? 後でお灸をすえてやる!


 「ナハトア」


 「あ……」


 僕はナハトアの手を取って部屋の片隅に移動した。密着することで、今まで動いてた所為で強く感じられるようになっていたお互いの体臭が鼻腔を(くすぐ)る。


 「ここならいいか。流れ的には聞いていた通りだけど、僕はナハトアの気持ちを優先させたい(・・・・・・・・)。ナハトアはどうしたい?」


 その問掛けにナハトアは眉間に(しわ)を作って少し困ったような表情を浮かべるのだった。


 「え? わたしですか? てっきり護衛を受けられるものと……」


 そうは言っても今まで自分で決定してきた部分もあるだろうと思い、更に突っ込んでみることにする。


 「あぁ〜……。そうだね。助けてあげたいという気持ちが無い訳じゃないよ。でも、それよりもナハトアの方が僕には大事かな」


 「え……」


 「迷宮で例の4人組が、本来ならダークエルフの(さと)に帰る旅のはずだったのを無理に誘ったって言ってたからね。その郷と真反対の方向にミカ王国があれば当然護衛は出来ないでしょ?」


 僕の最終目的地はエレクタニアの自宅だけど、ここに送り込まれたのはナハトアを助けるためなんだよな。これは推測だけど、僕がナハトアを適当にサポートしただけで帰ると神様(じいさん)に他の所へ飛ばされそうな気がする。「面白うない」とか言って……。ぶるっ! 想像しただけで寒気が走ったよ。それにナハトアの故郷を見るのも悪くない。


 「あのおしゃべりども……」


 「ん?」


 ボソボソとなにか言った気がしたけど聞き取れなかった。


 「いえ、なんでもありません。郷ですが、この東テイルヘナ大陸と南のクサンテ大陸の間に位置するシムレムという大きな島にあるんです。100年に1度大きな祭りがあるのでそれに出るために帰っているんです」


 なる程ね。今の時点で急いでないということはまだ時間的な猶予があるということか。


 「じゃあ、ミカ王国の位置はどの辺りなの?」


 「この東テイルヘナ大陸の南にあるエレボス山脈を超えた所にあります」


 ナハトアの話を聞きながら僕は頭の中でこの大陸の地図を思い描いていた。エレボス山脈というのは、東西のテイルヘナ大陸を分かつ山脈でもあり、その長い峰を蛇行させながら東大陸に流れ南下してる山脈のことだ。西テイルヘナ大陸には山脈を背にしたエレクタニア(我が家)を含むサフィーロ王国、その他に5の国があり間に砂漠が存在し、南端に国が2あるという。


 東テイルヘナはサフィーロ王国と山脈を挟んで広大な魔王領が存在する。その魔王領を避けて南下する山脈に寄り添う形で3つの国が存在するのも無理からぬ話だろう。今僕たちが居る国は3つ並びの真ん中の国グラナード王国だ。そのグラナード王国と大陸を南北を隔てるように(そび)え立つエレボス山脈を挟んだ所にミカ王国があるとナハトアは説明しているということになる。


 「ダークエルフの郷にはどうやって帰るつもりだったの?」


 大きな意味で言えばナハトアの目的地に向かっている方向だが、どのルートを選ぶつもりだったのか聞いてない。陸路か海路かーー。だから確認しておかないとね。


 「一つ訂正が……」


 少し決まりの悪そうな顔でポツリとナハトアが告げる。何気に上目遣いになってるのは僕として嬉しい角度だ。


 「何?」


 「ダークエルフの郷というのは存在しません」


 「え? どういう事?」


 「エルフの郷は1つです。1つというか、わたしたちエルフには(みやこ)があるんです」


 「都があるのか」


 小さなコミュニティーの集まりが点在してるのかと思ったけど、どうやらそうじゃないらしい。リューディアもそこまでは教えてくれなかったし……。いや、その知識を教えるまでに僕が至ってなかったということかーー。


 「わたしたちは“妖精郷(エルフェイム)”と呼んでいます。そこでは色々なエルフが生活していて、ダークエルフもその中で暮らす部族の1つなので、厳密にはダークエルフの郷と言うのは……」


 「なる程、無いっていうのはそういうことなんだね」


 「はい」


 「じゃあミカ王国への寄り道をした場合、ナハトアが望む“妖精郷(エルフェイム)”で行われる祭りへの参加に支障が来るような日程になりそうかな?」


 「いえ、どの道エレボス山脈を越えて南の魔王領を抜けるのが一番安全なルートなのでそのつもりでーーきゃっ」


 思わずナハトアの左肩を掴んでいた。ナハトアの唖然とした様子で僕を見つめ返しているのが分かる。今なんて言った? は? 魔王領?


 「ちょっと待った。西テイルヘナ大陸には魔王は居なかったけど、東には2人も魔王が居るの!?」


 「はい。有名な話ですよ? 北の君と南の剣王」


 「けん王って? (こぶし)? 賢い? それとも(つるぎ)?」


 「剣です」


 剣の王か。凄い二つ名だな。王が冠されると言うことと魔王であるということから相当な力の持ち主だろうと推察できる。まだ魔王という名詞だけが独り歩きしてるだけで、誰とも出逢ったこと無いんだよな。出来れば関わりたくないと思ってるけど……今回に限っては火の粉を払わないといけないかも。


 「そっか」


 「そんなに心配されなくてもいいと思いますよ。ルイ様が魔王と言っても皆納得でしょうから」


 「そんなに? そんなにひどい?」


 待てまて待て。別に僕は目立ちたい訳じゃないんだ。そこら辺のヘタレ具合はまだ改善されてないな。日本人特有の事勿(ことなか)れ主義が未だに息づいてるのは否めない。かっこいいとこを見せたいと思う自分も居るけど、面倒は嫌という我儘な自分も居るんだ。ほんと、面倒臭い男だと(つくづく)思うね。


 「ひどいというか、出鱈目(でたらめ)ですね」


 ねぇ、ナハトア、それは同じ意味で使ってるんじゃない?


 「それならまだ規格外と言われたほうが嬉しいよ……。いや、そうじゃなくて、話を戻すと」


 「話の腰を折ったのはルイ様です」


 「ゔ、それはごめん。魔王アレルギーがあるんだ」


 「あれるぎー?」


 「いや、何でも無い。そこは又の機会でいいや。()かく彼女たちをミカ王国に届けてなんだっけ? え、えーー」


 「エルフェイム」


 「そう、そこに行くのは時間的に問題ない?」


 「はぁ。問題ありません」


 溜息混じりに答えないでよ……。ナハトアの顔を見ると笑いたいような情けないような、どう感情を出せばいいのか分からない面持ちで僕を見ていた。絵になるからずるいよな。ま、どの道通るルートであるなら問題ないか。魔王の事は気になるけど、まだトラブルが起きると決まったわけじゃない。そうなったらなった時に考えるさ。それに【実体化】が切れるまでにやっておきたいことがあるからーー。


 「よし、じゃあ旅の道連れで通行許可(パス)が貰えるんだし、安請負しちゃおう」


 「安請負って。それに通行許可(パス)のこと分かってるんですか?」


 ううん、さっぱり理解(わか)らない。と言いたかったんだけど、怒られるか大きく溜息を()かれそうだったから歯を見せるようににっと笑っておいたよ。案の定、盛大な溜息がその後からやって来たけど、知らないものは仕方ないよな。


 ん?


 どたどたと賑やかに走る足音が部屋に近づいてくる。複数……2人かな?


 慌ただしいノックが行われ「入れ」と許可が出る前に扉が開かれていた。そこに立っていたのは使用人らしき青年とデニスだった。


 「「「デニス!?」」」





 


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