第103話 選別
※2018/1/2:登場人物名「ダーシャ」を重複使用していましたので、「カビー」に変更します。
タッタラッタァァァッ~♪
懐かしい音が頭の中で響き渡り、その後にアナウンスが流れる。
レベルが上がりました!
は? いやいやいや、可怪しいだろ? そもそも戦闘って何回こなした? 少なくとも3隻の船で3人の経験値は吸ってるぞ? こっちに降りてきてから回復と補助しかしてないけど――。レベル上がるタイミングならもっと前だろ?
「どうした?」
「いや、何でもない」
レベル上がるタイミングってどうなんですか? なんて聞けやしない。ただ可能性として上げるとすれば、ゲームで言うところの“港街の襲撃イベント”の様な一纏めの戦闘行為が終わった時点で一区切りと判断されるということか?
「小難しい顔をしてるな」
「そうかな? 考え事というか自分の体の事が気になったんだけど、棚上げできそうだから大丈夫」
「ふむ? よく分からんな」
「それで良いです」
ランベルトが思考に沈んでいた僕の変化に気づいて声を掛けてきたけど、疑問をぶつけてみる気もなかったので適当にはぐらかしておいた。後ろからくいっくいっと袖を引かれたので振り向くと、不安な感情が湧いて顔を曇らせているナハトアがそこに居た。いつの間にか距離を詰めていたらしい。
「あ……」
その仕草に一瞬見惚れてしまったけど、ナハトアの左腕に腕を絡ませて僕の右側に引っ張って来る。それからランベルトに聞こえないように小声で囁いてみた。
「レベルが上がったみたいなんだけどね、上がるタイミングが遅かったから気になっただけさ。だから大丈夫」
「〜〜〜!」
耳元で囁かれると擽ったいのか首を竦めるナハトア。うん、反応が可愛い。
「2人で何良い雰囲気になってるんですか〜?」「ずるいです〜!」
とドーラとフェナが集って来た。
「良い雰囲気!?」「ずるい!?」
思わずナハトアと同時に突っ込むが、彼女たちは特に気にした様子もなく体を密着させてくる。何だろ。野良犬や野良猫が愛嬌を振りまく姿が被ってしまって、異性というより愛玩動物に見えるぞ?
「お前ら、こんな時に盛るな! 宿に帰ってからやれ!」
おいおい酷い言われようだぞ。
「可愛らしい娘たちでしょ? ナハトアのような大人の魅力にはまだ負けるけどね。これからしっかり磨きなさい」
「なっ!?」「「ひゃん!!」」
ランベルトにそう言いながら僕はドーラとフェナのお尻を勢いよく叩くのだった。急に訪れた痛みに飛び上がる2人。ナハトアは不意に褒められたのが気に入らなかったのか、ぷいっと僕から顔を背けていた。難しい年頃なのか?僕より年上だろうけど。
「「もぉ〜ルイ様ひどいです〜!!」」
「は〜。周りがこんなに殺伐としてるのに、お前ら緊張感というのもは無いのか?」
ぽかぽかと可愛らしく僕を叩くドーラとフェナをランベルトがギロリと睨みつけるのだったが、2人は何処吹く風と言わんばかりに平然としてる。意外と肝が座ってるのかもな。そんな様子を見て癖のある短めの赤髪をボリボリ掻き毟って溜息を吐くと、ランベルトはそのまま歩く速度を上げるのだった。
「ほら、怖いおっさんが怒ってるから静かにね。置いていかれそうだから急がないと」
「「は〜い!」」
「女誑し」
「そこは違うから!」
ポツリと後ろで呟いたナハトアの言葉を透かさず否定する。よく言われて来たけど、それは否定しておかないと身の危険があるんだよ。ハーレムを増員する場合14人全員の許可が無いとダメって言われてるけど、それってまずありえないからもうダメって言われてる事と同じなんだよな。早くから名前のあるナハトアであればとも思うけど、今はまだそんな気配もないから焦る必要もないか。
「え、聞こえてたんですか!?」
「聞こえやすい言葉があるのさ。特に身に覚えのない言いがかりにはね」
「ゔ〜、わたしだってくっつきたいのに」
何やかごにょごにょ言ってるけど周りの喧騒のせいでよく聞き取れなかった。
「え? 何?」
「何でも無いです!」
「あ!?」
聞き返すとぷっと頬を膨らませて先に歩いて行ってしまった。思わず声が出てしまったけどまぁ仕方ない。本当、乙女心は難しな。気が付くとヴィルが左側に並んでいた。がしゃがしゃと鎧が擦れる音がして案外五月蝿い。
「ルイ殿」
「何?」
「女難の相が出ておるな」
「お前が言うな。ダンジョンマスターの“女王陛下”に目をつけられてるのは何処のどいつだ?」
「う……」
切り返してやった。自分でも思う処があるんだろう。ヴィルもそこは触れて欲しくないみたいでそのまま黙ったまま先を歩く8人の背中を追いながら冒険者ギルドへ向かうのだった。
◇
30分後。
広場からどちらかといえば西の街壁へ近づいた場所に冒険者ギルドはあった。
「結構な距離を歩いたぞ」
「ルイ殿の日頃の鍛錬が足らぬのだ」
「む、確かに体を動かしてはいたけど、走る方の鍛錬はしてなかったな」
ギルドの建物を見上げながら独り呟いた処をヴィルに聞かれていたようだ。さっきの仕返しとばかりにきつい指摘をされてしまう。思い当たる節はあるから素直に受け入れるか。でも、このことばかりに気を止めて居られない状況が眼の前に広がっていた。
「傷のひどい者は中へ!」
「うちの子もお願いします!」
「順番守れ!」
「誰か、こっちに来てくれ! 意識が失くなった!」
「痛いよぉ〜!」
「うわぁぁぁぁん」
「Mp切れで倒れたぞ!」
「誰かMp回復ポーション持ってないのか!?」
「お、おい、しっかりしてくれ!」
「「ひどい……」」
先に到着していたドーラとフェナはその様子に言葉を失っていた。ギルド会館とでも呼べば良いのか、冒険者ギルドの前に広がる路地には夥しい数の負傷者が集っていたのだ。冒険者たちが懸命に治療し動いているけども基準がないためか、不必要に順番を守ろうとしているのが見える。治療できる人数も限られているということか。
選別している暇がないのか。手際が悪すぎる。到着順からだと死人が出るぞ!
「おい、おっさん!」
ギルドマスターの名前を忘れてしまったので、取り敢えずそう呼ぶことにした。
「何だ?」
「もたもたしている時間はない。これから僕の言うとうりにしてくれないか?」
「何の意味がある?」
「はぁ? 意味? 眼の前で順番だと言ってひどい傷のまま待たされ治療を受けれずに死んでいくかもしれない命が救えるんだよ。難しい理由付けなら後でする。今は時間が惜しいから手を貸してくれ」
「な! ――分かった。何をすればいい」
僕の語気が強まったのを見て眼を細めるも、おっさんは頷いてくれた。危機管理能力はあるってことだ。
「会館内で治療に当たってる者以外全員ここに集めて欲しい。あと、色粉や色を付ける塗料や布のようなものがあれば一緒に持って来てもらえないか?」
「分かった! おい、聞いたなお前ら、手伝え!」
「「「「はい!」」」」
ギルマスの言葉に4人組が返事をして会館の中に入っていく。その内にやるべきことをしておこう。
「ナハトア、ドーラ、フェナ、ヴィル頼みがある」
「「「はい」」」「うむ」
「この中で出血が多い人、意識を失った人、手足がない人、その他皆が重傷で命が危ないと思える人を優先的にここに集めて欲しい。その間に僕は中に居る怪我人を一先ず直して出てくるから!」
「「「分かりました!」」」「承知」
4人に指示を出して僕も会館の中に飛び込む。阿鼻叫喚。そんな言葉がぴったりだと感じるほどの混乱ぶりだった。こんな場合は大声を出しても聞こえない。注目させるには。
「【治癒の雨】! 【治癒の雨】! 【治癒の雨】!」
「何だ!?」
「治癒の範囲魔法!?」
「傷が治った!?」
「えっ!?」
「何が起きたの!?」
眼の前で抱えている問題を解決することだ。そうすれば心に余裕が出る。時間もない。すぅっと大きく息を吸い込むと何年かぶりに大声で呼び掛けたのだった。
「皆さん、落ち着いて下さい!」
ざわざわとしていた広間が僕の声を受けて鎮まり始める。3分経つかどうかで静かになった。時間かかったな。おっさんの姿も見えやしない。何処行った?
「ありがとうございます! 今見て頂いたように僕は治癒魔法が使えます。なので、これから怪我した人たちの治療にはいろうと思うのですが、今傷が癒えた方は申し訳ありませんが出て頂けますか? 次に運ばれてくる方の場所を空けなくてはなりません」
僕の言葉に運び込まれて傷が消えた人たちがぞろぞろと入り口に向かい始めた。
「次に、ってやりづらいな。ギルマスは?」
「すまん、ここに居るぞ!」
説明をしようにも聞く姿勢になってないのだ。何で俺らがお前の指示を? という視線が刺さってくるのだ。この際どうでもいいだろうに。堪りかねておっさんをさがすと二階からだろうか、階段を降りて来た。
「ギルマスから緊急時の全権を委ねてもらってます。四の五の言わずに人助けだと思って聞いて下さい。ギルマス。今から上げる仕事内容に適した人を専任して下さい。回復魔法が使える人はここに居残りです」
「分かった」
「傷の深い浅いの判断が瞬時に出来る人と、重傷者を運べる人を2人1組でお願いします。なるだけ多く。色粉は?」
「うむ!」
僕の言葉でギルマスが呆然とする冒険者を淀みなく組んでいく。流石だな。その間に。色の種類を確認しないと。慣れてない人に沢山の色は必要ない。
「ここにあるよ!」
マーシャが他の3人と一緒に上から降りて来た。何かを抱えている。色粉だろうか。ギルドにあった色は青、黄、赤、緑、黒の5色。視線を移すと既に10組のペアが成立していた。早いな。
「ギルマス、もうそれくらいで! アレクセイ、クリチュカ、小さな皿でいいので20枚揃えられないか? 食堂でも何処ででもいいから」
「それなら横の食堂にある!持って来ます」
アレクセイとクリチュカが直ぐに走りだしてくれた。ギルマスのおっさんもこちらを見て頷く。
「今組まれなかった人たちで、外に集めてもらってる重傷者をここに連れて来て頂けますか? ペアの方たちにはこれから説明します」
「おい、お前ら!」
「「「「「おう!」」」」」「「「「はい!」」」」
おっさんの一声で冒険者が動き出す。その内に説明だ。
「今小さな皿を取りに行ってもらっています。皿が来たらマーシャが持って来てくれた色粉をその皿に入れて水でときます。ここが大事なのでしっかり憶えて下さい。傷を見分ける人が重傷だと思ったら緑色を頬に指で塗って下さい。軽傷なら黄色を。後回しで問題な場合と亡くなった方には何も付けません。ここまで問題は?」
僕の説明に誰もが頷いて続きを促してくれた。助かる。
「そして運び役の人が、緑色を付けられた重傷者だけを会館内に運び入れます。軽傷者は外で順番に並んでもらい、回復魔法が使える人に【手当】の魔法を掛けてもらいます。人数が多いので【治癒】は禁止です。ここまでで何をすべきかわからない方?」
居ない。良し。
「持って来ました!」
「ありがとう、アレクセイ、クリチュカ! 傷を見る人だけ皿を2枚ずつ受け取って、マーシャとデニスから緑と黄色の色粉を皿に入れて溶かして下さい。それから外へ!」
「よしお前ら、しくじるなよ! 泣き付かれても重傷者優先だ!」
「「「「「分かりました!」」ったぜ!」」」
バラバラと外に駆け出していく選別部隊。そうこうしてると、ナハトアたちが集めてくれていた重傷者が担ぎ込まれてきた。その数ざっと30人。
「そこに集めて下さい! 【治癒の雨】! 治ったら外に出るようにお願いして下さい。次に回復魔法使える方、集まって! クリチュカもこっちへ。もし奥で休んでいる方が居ればその方も連れて来てもらえますか?直ぐに!」
「「「わ、分かりました!」」」
僕のお願いに3人ほどが奥の休憩室であろう部屋に駆け込み、更に4人が肩を借りて出てきた。見渡すと回復魔法が使えるの者が20名程だ。【手当】で回せればなんとかなるかな?
「【魔力回復補助の泉】!」
「「「えっ!? この魔法に範囲魔法なんかあったの!?」」「「嘘っ!?」」「「ええっ!?」」「「まじかよ!」」
出し惜しみしている暇はない。
「先程も言いましたように、皆さんにお願いするのは軽傷者の治療です。決して【治癒】は使わないで下さい。【手当】を使わなくてもいい場合は、Mp回復を待っている人が包帯で対応してもらえますか?」
「今のルイの説明でわからない奴は手を上げろ! 居ないな? 良し、じゃあ頼んだぞ、お前ら!」
「すまない通してくれ!腕を切られてるんだ!」
回復部隊がおっさんの言葉に応えて席を立とうとしたと処へ1人の重傷者が運び込まれてきた。後続は居ないようだ。直ぐに駆け寄って【治癒】を掛ける。これで良し。あとは、対応する方への水分と食糧だ。
「おっさん。街の人の分はどうにもならないけど、冒険者たちの水と簡単に食べれるものを用意してもらえませんか? このままだと、対応してる方が早く倒れてしまう!」
「おうよ。アレクセイ! ちょっと行ってカビーに頼んできてくれ! 片手で食べれるもん造ってくれって!」
「はい!」
そうしている内に次々と重傷者が運び込まれてくる。四肢欠損という状況に陥っている人はその後来なかった。だから一定の人数が集まった時点で【治癒の雨】を掛けては追い出しを繰り返すことになったのだった。時に回復部隊へ【魔力回復補助の泉】を掛け、時に運搬部隊へ【疲労回復】を掛けつつ押し寄せる負傷者の波を捌いていったのだ。
◇
2時間後。
「あ〜もう無理」「マジ動こけねぇ」「疲れた〜」「Mp減りすぎて頭痛い」「クラクラする」「やったぞー!」「ハラ減ったー」
などと口々に達成感を言葉にする冒険者たちの姿が冒険者ギルド会館の内外にあった。疲労困憊、その一言に尽きる状況だ。このタイミングで再び襲撃があった場合敗戦は確実だろう。そこへ、190cmはあろうかという大男がギルド会館の正面玄関の前に出て来たのだった。
「お前らー、よくやってくれた! 助けれられなかった命もあるが、それでもやれることはやった。お前たちのお蔭だ! 感謝する! ダーシャに頼んで今日はうちの貸し切りだ! 支払いはギルドが持つ、動けるやつから飯を食いに行ってくれ!」
「「おお! さすがギルマス!!」」「「「おおぉぉぉっ!!」」」
ランベルトを称える声に男は若々しい白い歯並びを向けるように笑うのだった。齢54の顔立ちには見えない笑顔だった。一通り冒険者たちの様子を眺めてからランベルトは踵を返す。ギルド会館の中に入り、2階にある自室へと歩を進める。
がちゃ
ノックもせずに扉をあけて自室に入るランベルト。そこには先程まで負傷者に回復魔法を掛け続けていた得体の知れぬ男とその一行であろう面々が、既にソファーに座って寛いでいたのだった。
「遠慮の欠片もないな」
「楽にして待ってて下さいと言われたから楽にしてただけなんだけど?」
まったく顔を見るなり皮肉るなんて参るな。それにしてもMpが枯渇しそうになるとは思わなかったな。それだけ回復魔法を連打したんだけど。先程までのことを思い返しながら、自分の席に座るために部屋の奥に歩いて行くおっさんの背中を眼で追うのだった。
「無事に乗り切れた。改めて礼を言う。本当に助かった」
「困った時はお互い様ですよ。たまたま僕に手伝えるスキルがあったというだけですから」
「それにしては、エルフや蛇女族たちから好意を示されていたな」
「それはあれですよ。海賊船で捕まってたのを助けてあげたからですよ」
そうなんだ。ギルマスのおっさんが言うように、Mpが切れそうになった時にエルフや蛇女族たちが来てMpを回復させる魔法を掛けてくれたり、Mpを譲渡してくれたりしたんだ。どの属性でどういう魔法だったのかはっきり聞き取れなかったんだけど、それで乗り切れたって訳。ま、これで僕のなかで貸し借りなしだなって思ってる。
「そこだ」
「は?」
僕の答えにおっさんが喰い付く。喰い付くようなことは言ってないんですけど?
「そもそもお前は何者だ? 治癒魔法の範囲魔法? 俺も長いこと冒険者やってるが見たことも聞いたこともないぞ?」
「う〜ん……なんて答えるべきかな?」
「何でわたしの方を見るんですか?」
おっさんの質問に正直に答えるべきかどうか悩んだので、ナハトアの方に視線を向けてみたら思いっきり焦ってた。おっさんだけならいいんだけど、ドーラやフェナ、4人組にギルマスの秘書らしき女性がこの部屋に居るんだ。だから、話せる内容を絞らないとな。因みにエルフと蛇女族たちはギルド内の別室に案内してるのだとか。
「魔法の種類に関してはレベルの問題とだけお答えしておきます。到達さえ出来れば使えるようになりますから。もっともMpがないと意味はありませんけどね」
「何レベルの話だ?」
「そこまでは言えませんね」
「Mpも多そうだな」
「12万少々かな」
「「「「「「「「12万!?」」」」」」」」
何気に口にした数字にナハトアとヴィル以外が見事にハモった。そんなに驚くような数字なのか?
「こつこつMpを使い切ることを続けてれば誰だって到達できますよ」
「そうは言うが、Mp枯渇からくる失神はその間無防備になるからな。どこでも自由にとはいくまい」
確かにね。でもそこさえクリアできれば自力の底上げになるでしょ?
「それで僕たちはこれからどうなるんでしょう?」
「ナハトアはうちの冒険者だしな。お前さんとそこの黒尽くめの竜人さんはナハトアの関係者だということは分かる。そこを踏まえて助けてもらった謝礼をギルドから払いたい。そこの獣人のお嬢ちゃんたちは冒険者のギルドカードを再発行すれば冒険者扱いで問題ないだろう」
その言葉を聞いてドーラとフェナは息を吐きだしていた。気にはなっていたんだろう。秘書らしき女性と話て一緒に下階へ降りていった。4人組も同時に席を外す。そうおっさんが仕向けたんだろうけどな。
「お気遣いに感謝します」
「何。聞きたいことが聞けないなら、聞ける状況を作るだけさ」
おっさんはそう言って肩を竦めるのだった。とはいっても何処に耳があるかわからないから最小限の情報で良いかな。
「よっと」
掛け声で勢いを付けてソファーから立ち上がると、僕はおっさんの机の前に立つのだった。これならさほど大きな声じゃなくても話せる。【聞き耳】のスキル持ちが居たらそれでも聞こえるだろうけどな。それはそれで諦めも付く。
「……」
おっさんは黙って僕が口を開くのを待ってくれた。
「僕は今【スキル】で肉体がありますが、本当はナハトアの守護霊なんです。で、そこのヴィルはナハトアの従者ですね」
「……」
「本当です。今まで黙っていたわけじゃなくて、4日程前にこうなってしまったんです」
おっさんの「本当か?」という視線にナハトアが代弁してくれた。嘘は言ってない。その時だった。慌ただしく二階に駆け上がってくる足音が部屋の前で止まり、扉が荒々しくノックされる。
「入れ」
「ギルマス、大変です。領主様から使いが来ました!」
領主ということは実質この港街の自治を任されている一番偉い人ということだな。
「何? こんな時に何のようだ?」
おっさんの言うことも尤もだ。未だ街が混乱と悲しみから揺れているというのかででしゃばって来てるように映るのだから。機嫌も悪くなるというものだろう。だけど、次の一言で状況がガラリと変わった。
「それが、ナハトアという冒険者と共に居た男2人を直ちに連れてくるように、との事とです」
「「へ?」」
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