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レイス・クロニクル  作者: たゆんたゆん
第二部 アーブルフェリックの泪 第一幕 港街
102/220

第100話 邂逅

ついに100話まで投稿できました。

継続は力なりといいますが、これからも緩く頑張ります♪

 

 「人喰い鬼(オーガ)――」


 「けっ、人喰い鬼とは酷いいわれようだぜ。こんな(なり)だが、今まで人は喰ったことねぇよ。ま、信じるか信じないかは任せるけどな」


 確かにいかつい感じではあるけど、どことなく優しさも感じ取れなくはない。口は悪いけど。(ただ)し、100%信じれるわけじゃないよな。初対面なんだから。なので、直に触れることにした。


 「何だ? (寒いぼが止まらねぇ、こいつやばすぎるぞ)」


 「いや、足だけでも先に自由にしておいたほうが良いだろ?」


 そう言って足を封じている鎖を鋳塊(インゴット)に変えていく。


 「そのスキルすげえな。俺にも覚えられるものか? (下手したら俺これで終わりだな)」


 「どうだろうね。可能性は0ではないだろうけど結構特殊っぽいスキルだったから難しんじゃない? にしても蹴りでも来るかなって思ったんだけどな」


 「へへへ。さっきも言ったように、ここで兄ちゃんに敵対することはしねぇよ。リスクが大き過ぎてヘタしたら俺が死ぬ。それに助けてもらえるんだ、恩を仇では返さない。この筋は通す(どうだ? 初対面でここまで言えりゃ上出来だろ? 頼むから信じてくれ!)」


 「……」


 「……(ふぅーっ! なんちゅう眼で見るんだ。あの女よりおっかねえぞ?)」


 「そうか。僕も甘ちゃんだけど、君も大概だな。【解呪(ディスペル)】」


 (しばら)く真意を読み取ろうとお互いの眼を見詰め合うのだったが、僕の方が先に外してしまった。病んでいるような(よど)みや強い憎しみの篭った光が見えなかったからだ。人喰い鬼(オーガ)の真っ直ぐな言葉を信じてみたくなったというのもある。だから、最低限のリスク回避で足枷だけ解いた状態で【解呪】したんだ。


 「ありがたい。こうやって【隷属の首輪】を着けられてみるとつくづく自由のありがたみが分かるぜ。兄ちゃん恩に着る。お礼はまた別の機会にさせてもらうとして、差し当たりこの海賊の女頭領(・・・・・・・・)には気をつけな。鼻の下を伸ばした俺もわりぃんだが、あいつ()“転生者”だ。邪眼に気をつけるんだな。よっ! (長いは無用だ。巻き込まれたら死ねる)」


 バキン! バキン!


 今何と言った? 転生者? いや、その前だ「あいつ()」だと? オーガの語った言葉を反芻(はんすう)している間に、彼は悠然と手枷を留具ごと床から引き千切りて歩き出していた。


 「お前っ!?」


 その言葉を理解して顔を上げた先に、唇を横に開いて犬歯を見せながら笑うオーガの姿がった。


 「ルイの兄ちゃん、俺は(ごう)だ。(すめらぎ)剛。同郷の(よしみ)でこの先も仲良くしてもらいたいけど、命あっての物種だ。兄ちゃん元気でな! (出来れば敵に回したくないよな)」


 ジャランと腕に付いた鎖を鳴らしながら手を上げると、ゴウと名乗ったオーガに転生している日本人が去っていくのだった。転生者が居るとは【眷属化】の儀式の時に聞いてたけど、まさかこのタイミングで出逢うとも思っていなかったのだ。心の準備が出来なかったというか、油断してたね。それにしても――。


 「すめらぎ ごう、か。まさかこんな所で転生者に出逢うとは。おまけにもう1人居るだと? 敵味方になることも想定しなきゃいけないってことか。全員元日本人という訳でもないだろうけど……最悪のケースを考えて腹を(くく)る必要があるな」


 既に船底の闇の中に溶け込んでいった背中を眼で追いつつ、周りに聞こえない声で呟くのだった。恐らくだが、こうまで海賊を組織して街の中で悪虐の限りを許しているということは、心の在り方も向こうの世界の時とは歪んでいると考えたほうが良い。けど……女の武器を最大限利用して逃れようとする場合、嘘でも流す涙に耐えれるのか?


 「ルイ様?」


 心というかその人間性はそうは簡単には変わらない。僕は大甘(おおあま)だが、それは今に始まったことではないし、そのせいで色んな問題を呼び込んでしまった前科がある。もし、見逃して家族に危害が及ぶことが予測できているなら、心を鬼に出来るのか?


 「ルイ様?」


 いや、1年前の砦の時に覚悟(・・・)は決めたはずだ。それに王都での一件で、眷属たちが主を思うあまり身を投げ出すことがあり得ると。それが分かったんじゃなかったのか?


 「ルイ様!」


 「あ……ナハトア?」


 眼の前で心配そうに僕の顔を(のぞ)き込むナハトアの視線に気づき思わず仰け反る。あれ?


 「良かった、何回呼んでも気づいてもらえないんですから。さっきの人喰い鬼(オーガ)とお知り合いだったんですか?」


 「知り合いじゃないといえば知り合いじゃないけど、同郷とは言えるかもね」


 「そう……ですか」 


 ナハトアが心配してくれているようなので曖昧(あいまい)に答えておいた。今は説明してる時間が惜しい。それにここからは別行動が良いだろうな。


 「ナハトア、ヴィルここから別行動だ」


 「承知」


 「え、どういうことですか?」


 ナハトアの後ろに居る蛇女族(ラミラ)たちやエルフたちにチラッと視線を送って、ナハトアの問いに答えることにする。


 「最後の船に載ってる奴が一番厄介だ。邪眼(イビルアイ)持ちという情報を信じるなら、それを使われたら皆を守る事は出来ない。だから、この船で武器を持って街の冒険者ギルドへ向かってくれないか?」


 邪眼(イビルアイ)か。恐らくだけどヴァンパイアの持つ魔眼の上位スキルだ。スキル効果が1:1じゃなく1:多だった場合、僕ら3人以外は影響下に置かれるはず。ヴィルも下手すると影響下に置かれる可能性がある。だったら、危険因子は少ないほうが良い。


 「わたしたちで?」


 「いや、この場に居る皆でだ。別々に移動してる時に襲われても目覚めが悪いし、身の潔白を示すには証人が居たほうが良いだろう? ナハトア頼む」


 願わくば、既に(・・・)影響下にあるというオチは――。あ、これ僕がフラグ立てちゃったか?


 「ルイ様は?」


 「最後の船の奴隷を開放して、海賊の頭領と話をつけてくる」


 【解呪】で邪眼(イビルアイ)の効果を打ち消せていればよし、そうでなければ別の手段に出るしか無いよな。邪眼(イビルアイ)持ちの頭領と敵対行動は取らないというニュアンスを伝えつつ、行動を計画を伝えてみた。皆の雰囲気が変わることもない。今の時点では問題ないか?


 「ヴィル、ナハトアを(・・・・・)頼む」


 「うむ」


 ヴィルは伊達に歳を取ってないはず。竜として旅をしてきたのであれば邪眼(イビルアイ)の怖さは理解しているはずだ。妹のラノベが情報源の僕に比べれば遥かに真実味があるだろう。


 「でも……」


 ナハトアはそのやり取りに怪訝(けげん)な顔をしたけども、にこりと笑って軽く腰の辺りを叩くと、先頭に立って部屋を出ることにした。先にでた亜人やゴウたちの動向も気になるし。ここで変な動きをしたくない。


 途中弓矢や剣などを手に入れて甲板に上がると、街の方のから聞こえる喧騒が少し穏やかになってきている気がした。反撃が始まったのか、デニスたちが上手く立ち回って遊撃してくれたのが功を奏したのか分からないけど。隣りの甲板から海賊たちが港に降りて仲間を助けようとしている様子も見える。


 「じゃあ、決めた通りに冒険者ギルドで落ち合うということでいいね?」


 皆が(うなず)き返してくれた。黒一点の部隊だけど攻撃力は折り紙つきだ。彼女たちが歩み板を降りてゆき、殿(しんがり)にヴィルが付いたのを確認して僕も倒れた帆柱(マスト)の上に飛び上がるのだった。さて、鬼は出た、蛇がさっきの蛇女族(ラミア)じゃないとすれば、これからだよな。


 ぱん!


 両手で両頬を叩いて気合を入れ直した僕は、帆柱(マスト)の上を掛けて最後の船の甲板に飛び降りた。甲板の見える所には海賊の姿はない。でも明らかに先程までの2隻と(まと)わり付く雰囲気が違う。息苦しさを感じると表現したほうが良いのか。チラッと港の方を見ると、亜人の一団が通りに消えていこうとしているところだった。


 「ふぅ……。気が重いな。」


 誘われてる? そう思えるような状況だった。これまでの2隻と同じで甲板から入った通路の突き当りに船長室であろう部屋がある。コソコソするより堂々と、の方が良いよな。


 こんこん


 ノックしてみる。


 「開いてるわぁ〜。入ってぇ〜」


 間延びさせる、それでいて艶のある女声が扉をすり抜けてきた。


 ガチャリ


 ドアノブを無造作に回し、ゆっくりと開く。視界がゆっくりと広がった先に居たのは背凭(せもた)れの高い王が座るような立派な椅子に体を預けた、黒髪の美女だった。


 艶のあるセミロングの黒髪を掻き上げながら、日本人を思わせる黒い瞳で舐めるように僕を値踏みしてしていく美女。たわわに実ったこぼれんばかりの果実はゴウでなくても、鼻の下を伸ばしたくなるスタイルだった。そのスタイルと肌を強調するるような服を着ているのだから尚更だ。僕はそんなに気にはなれなかったけどな。


 何故なら、彼女の周りには鎖を首輪から垂れさせた人間や亜人の美女たちが、裸を強調するような布切れで身を隠して立たされていたのだから。その数8人。エルフ4人。猫系の獣人1人。犬系の獣人1人。人間2人。彼女たちの眼には生気がない。現状を諦めて受け入れているということだ。腹立たしくなるが出来るだけ無表情(ポーカーフェイス)を貫こうと決めた。


 「あらぁ〜。どんな男かと思ったら、大したこと無いわねぇ〜。ゴウくんの方が見た目にインパクトあったわぁ〜」


 「それはどうも。ご期待に添えず残念です」


 その評価は正しいな。僕はイケメンじゃない。日本人離れしてる顔立ちではあるけど。


 「それで〜? 要件はなにかしらぁ〜?」


 女は血色の良い赤い唇を舌舐めずりをしながら(うる)んだ眼で僕を見詰めていた。


 「奴隷とお金と身柄を貰いに来ました」


 「ぷっ。あはははははははは! 本気で言ってるのかしらぁ〜? くくくっ。面白いわぁ〜。久し振りに笑った気がするぅ〜。でもダメよ〜」


 「何故ですか?」


 「この子たちは大事な取引先の商品だからよ〜。商売っていうのは信頼が第一だって思わないぃ〜?」


 「そこは否定しません。ただ、貴女はやり過ぎた」


 「それで〜?」


 「奴隷とお金と身柄を貰いに来ました」


 同じセリフをぶつけてみた。どう反応が変わるか見てみたかったからだ。案の定イラッとした感じが伝わってき始めた。


 「少しは出来るみたいだけど〜。お(いた)はダメよぉ〜?」


 「正直、関わりたくはなかったんですけどね。貴女たちが静かに寄港して秘密裏に商品を仕入れて(・・・・)、気付かれることなくこの街を出て行くんだったら何も言うつもりはありませんでしたよ」


 「……」


 椅子の肘置きに左肘を着いて左頬を支える美女。不機嫌な表情が出たり入ったりしている。


 「でも、眼の前でこれをされちゃあ、黙って見過ごす訳にはいかなくなったということです」


 「つまんない男ねぇ〜。ゴウくんみたいにペットにしてあげようと思ったけど興ざめだわぁ〜」


 「あ、ゴウという人喰い鬼(オーガ)ですが、先程命あっての物種だと言い残して逃げましたよ?」


 「「「「ひぃっ!!!」」」」


 その一言で後ろに(はべ)らせられていた女性たちが悲鳴を上げるのだった。その気持ちも分かる。あの一瞬で威圧が撒き散らされたのだから。おっとりした表情と言葉遣いとは真逆の、鋭い眼光を湛え周囲を威圧する黒髪の美女がそこに居た。


 「この威圧に耐えれるって何者? 怖くて口が動かないってタマじゃないでしょ〜?」


 「怖いですよ。美人でグラマラスな人から殺気と威圧をぶつけられてるんですから、見惚れてる暇がない」


 威圧に耐えながら間延びした声を聞くのは(いささ)か疲れるな。


 「――誰の差金なのかしらぁ〜?」


 「誰でもありませんよ。ただのお節介焼きです」


 「――まさかとは思うけど、横の2隻どうしたのかしらぁ〜?」


 「制圧済みです」


 その一言に二重の双眸(そうぼう)がすぅっと細められる。言葉と顔の造りがおっとりしたものだけに、その変化は逆に凄みをもたせた。


 「“ケルベロス”に喧嘩売るつもりぃ〜?」


 「まさか! 僕は制圧の手助けはしたけど、制圧はしてませんよ。2人のお頭たちと話をしただけです」


 「でも結局殺しちゃったんでしょ〜?」


 「僕は手を下してませんが、結果お亡くなりになられましたね」


 慇懃無礼(いんぎんぶれい)。敢えて丁寧な言葉を使うことで誠意を感じさせなくして神経を逆撫でする。頬杖を付いていない右手の指が静かにピアノの鍵盤を弾くようにゆっくりとリズムを刻み始めていた。その時だ。ゴウの時の同じように、全身に嫌な感覚が広がったのは……。もしかしてこれが【鑑定】された時の感覚か?平時にこの感覚を感じれば確かに何をされたのか簡単に分かる。


 ふと2年前の出来事脳裏にが蘇ってきた。コレットに初めて屋敷で逢ったあの出来事を。




             ◆




 【鑑定】に失敗しました。


 はい?あ、失敗することあるのね。と思ってたらメイドさんがくるりと振り向く。ん?


 「わたしくしたちに【鑑定】は効きませぬ。どうぞ家の者には【鑑定】を使わぬようにお願い致します」


 「あら、【鑑定】したかどうかも分かるのですね。それは失礼しました。誰からも注意されず好きな時にて使っていたので不躾(ぶしつけ)なことをしてしまいました。気をつけます」




             ◆




 あの時、コレットが今の僕と同じ不快感を感じていたのだとしたら。そりゃばれるよな。つまり、グラマラスな美女に()られたということだ。


 「へぇ〜。騎士様とは違ったゆるい正義を振りかざすと思ったら、貴方()“転生者”なのねぇ〜」


 「どうやらそのようですね」


 確定だな。あの感覚が【鑑定】された時の感覚だ。忘れないようにしないと。


 「それにしてもモナークとは大層な御身分ねぇ〜。(さぞ)かし甘い汁を吸ってるのでしょ〜?」


 「いえいえ、身分は国主(モナーク)ですが領民の居ない自治領ですからほそぼそとしたものですよ」


 「そうかしらぁ〜? 搾取できるって素敵なことよ〜?」


 「そこは同意できませんね。搾取しなくとも真っ当に生活できる場合もありますよ?」


 この辺りが考えが歪んでいるところか?


 「あら〜、本当に恵まれてるのねぇ〜。羨ましいわぁ〜。わたしは向こうの世界でも、こちらでも搾取される側だったというのに」


 突然語尾がはっきり言い切られた。激しい憎悪が表情に現れている。環境か。その点僕は生霊(レイス)に転生したとは言え恵まれていたな。そう思いを巡らしながらも、僕は沈黙で応えることにした。思いの丈を吐き出させてみようと思ったんだ。


 彼女の語ったことは(まと)めるとこういうことだ。幼くして離婚した父子家庭で育てられた自分はやがて、アルコールに溺れた父の暴力に(さら)されることになる。生活保護のお金、自分がバイトで稼いだお金も父のお酒に消えていく毎日。それが十数年続き耐えられなくなったある日、父を残して命を断ったのだという。


 期せずして、この世界に転生した彼女は神様からスキルを貰い新しい生命で産み落とされ、幸福な家庭で成長していくはずだった。だが何の因果か、彼女が5歳の時に野盗に村が襲われ搾取される側に回ることになる。憎しみを育てながらも、成長すると母ゆずりの容姿が災いして夜伽を強いられることになるのだが、破瓜の痛みを無理やり味わされた時に見た男の眼が、自分を苦しめた父の目だったのだという。それを引き金にスキルが顕現し、搾取する側に、支配する側に回ったと悦に入った表情で教えてくれた。そして最後に――。


 「貴方となら上手くやれそうな気がするわぁ〜。この世界で好きなことをして一緒に国を興しましょ〜?」


 と誘われてしまった。無論、御免こうむる。冗談じゃない。


 「悪いけど、僕にはその気はないよ。貴女の背景を同情するつもりはないし、これまでしてきたことを肯定も否定もしない。ただ、その選択肢以外はなかったのかな? とは思うけどね」


 「どうしてもぉ〜?」


 「他を当たって欲しい。というか、今直ぐ海賊を引き上げさせて奴隷を開放してくれないか?」


 「嫌よ」


 その一言は間延びしなかった。即答だった事も踏まえると、本心で間違いないだろう。


 「手荒なことはしたくない」


 「そうやって貴方もわたしを見下すのね〜? レベル1だけど、同じ転生者だと思って下手に出てたけど気が変わったわぁ〜。わたしのペットにしてあげるぅ〜。ゴウくんの代わりにねぇ〜」


 パチン


 そう言ってグラマラスな女性が指を鳴らすと、背後の女性たちの眼に生気が戻る。明らかに敵意を持って見られている視線だ。彼女たちの手には武器はない。と言うことは、体術もしくは魔法での攻撃ということになる。こういう場合、先手必勝。


 「【黒霧(ダークミスト)】」


 「闇属性の魔法使い!?」


 暗闇とは違い、薄暗い程度の明るさまでしか視界を遮ることが出来ない魔法だけど、睡眠付与効果がある魔法だ。魔法抵抗(レジスト)判定で失敗すれば血を見なくとも戦力は削れる。


 「【黒珠(ダークボール)】」


 その霧が立ち込めている内に【黒珠(ダークボール)】を後ろの女性たちに向けて打ち込む。邪眼(イビルアイ)持ちであれば闇属性は効果ないと考えたほうがいい。考えさせるというか次の手を打つ暇も与えたくないので、直ぐに左側の壁に向かって走る。


 「なっ!?」


 正面から正直に行くのはデニスくん位のものだろう。明らかに床が抜けますと書いてあるようなもんだ。一味のトップとの顔合わせで、直線ががら空きだなんて怪しすぎる。霧が晴れるまで(およ)そ30秒。壁に回りながら戦力を削ぐには十分な時間だ。


 「【黒珠(ダークボール)】。【黒珠(ダークボール)】。【黒珠(ダークボール)】」


 「あぁ〜優秀だわぁ〜♪ 食べちゃいたいくらいに」


 血色の良い唇を湿らせる仕草がなんとも艶っぽいが、やはり闇魔法は効いてない気がする。


 「それはどう、も!」


 壁際の棚に飾ってある花瓶を手にとって、女頭領に投げつける。物理的なダメージは避けるだろ? ドサドサと人が崩折れる音がしているが視線をはずさない。ダメ元で攻撃魔法を打ってみることにした。


 「【槍影(スティングシェイド)】!」


 「お(いた)はダメよぉ〜」


 ガシャンと花瓶が叩かれ落とされて割れる。その(しばた)く程の時間で影から突き出た10本のやりのような黒い棘が、女頭領の体を貫き通すのだった。


 「あぁ〜ん。攻撃にも隙がないわねぇ〜。合格よぉ〜」


 全く効いて無いらしい。彼女の体だから突き出ていた2m近い黒い棘も10秒も経たずに消えていく。


 「忌々しいことに、闇属性の攻撃は効いてなさそうですね」


 「そんなことないわよ〜。Mp結構削られちゃったしぃ〜。レベルが1なのは偽装工作かしらぁ〜?」


 「本当はそうしたいんですけどね。そこだけは本当です」


 僕の言葉にまた眼を細める。癖なのか?そしてゆっくりと立派な椅子から腰を上げるのだった。大きく形の良い果実が緩やかに弾む。彼女が身に着けているのは、チャイナドレスを思わせる深いスリットが入った黒い衣装だ。素足もタイツらしきものを履いてるせいか見えない。ペロリと唇を湿らせた彼女は、ゆっくりと身構えるのだった。


 体術だけじゃないな――。


 「いくわよわぉ〜」


 「!!」


 女頭領の足元に砕けていた花瓶の欠片が蹴り上げられ、僕の頬を掠める。その瞬間を見逃すはずもなくあっという間に間合いを詰めて来た。戦い慣れてる!? 背中に隠していた武器で斬りかかって来るが、軌道が可怪しい!? つぅっ!


 「あらぁ〜。初見で(かわ)されたのは初めてよぉ〜」


 女頭領の左手には見たことのない形をした湾曲型の片手剣が握らていた。その剣先に着いた僕の血をぺろりと舐める。完全には躱せわせなかったのだ。右肩から胸にかけて浅い切り傷がある。


 「奇妙な形の剣ですね。初めて見ます」


 「うふふふ。ありがとぉ〜。クノペシュって言ってね〜、わたしのお気に入りなのぉ〜」


 くのぺしゅ? ククリ刀とかは聞いたことあるけど、どこの国の武器だ? 軌道が曲がってるから真っ直ぐだけを意識してるとあっという間に首を刈られそうだ。しかもまだ邪眼(イビルアイ)を使ってないというね。


 「(さぞ)かし血を吸ってきたんでしょうね?」


 「うふふふ。そうなのぉ〜。柔らかい子どものお肉なんて最高だわぁ〜」


 聞くべきじゃなかった。完全に殺しを楽しんでる眼だ。武器を持っていない手で頬を抑えながらうっとりする姿は僕に不快感しか与えなかった。この瞬間、彼女は僕の中で抹殺すべき対象者に変わる。同郷の(よしみ)で、という感傷に浸ることはない。こういうケースも想定していたはずだ。


 「【影縛り(シャドーバインド)】。【黒珠(ダークボール)】」


 「Hpは削られないけど〜、地味にMpが減るのって〜いやらしいわぁ〜」


 「ちぃっ」


 一瞬だけ動きを止め【黒珠(ダークボール)】を叩き込んでみたものの、ジリ貧であることには変わりない。現に三角飛びで間合いを詰められて危うく腕を持って行かれそうになったくらいだ。


 「本当に魔法使いなのかしらぁ〜? こんなに(かわ)されたの初めてよぉ〜」


 腕の1本は覚悟しなきゃダメか。肉を切らせて骨を断つ作戦で行くか。大技をぶっ放したとしても、逃げられたら終わりだ。逃さずに仕留めるには捕まえることが大前提だよな。部屋の壁に飾ってあった湾曲剣(シャムシール)で対抗するが、刃を止めるだけで精一杯だ。


 「少し後悔してますよ。こんなに手練だったとは甘く見てました」


 「うふふふ。ありがとぉ〜。もう謝ってもダメだからぁ〜。貴男の血が、内臓が見たいって思っちゃったのぉ〜。だから死んで頂戴」


 この変化がうざいんだよ。こんなに高速な敵と今まで相対さなかったからな。合気の技でとは思うが、手を取る隙を与えてくれないのだ。掴めなければ何の役にも立たない。くそっ。


 「ちょこまかと! しまっ」


 考え事をしていたせいで、重心のバランスを崩してしまい後ろにぐらつく。


 「〜〜〜♪」


 そんな絶好の機会(チャンス)をこの女が逃すはずもなく、妖しげな笑みを張り付かせて襲い掛かって来た。戦ってみたが、クノペシュという武器は刃が殆ど無いのだ。先の部分だけ。つまり突きに特化しやすくなるはず。シャムシールを投げつけるがそれも弾かれ気が付くと眼の前に女頭領が来ていた。


 「ちぃっ!!」


 「はい、チェックメイトぉ〜♪」







最後まで読んで下さりありがとうございました!

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ご意見ご感想を頂けると嬉しいです!


これからもよろしくお願いします♪

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