第98話 襲撃
2016/6/7:誤字修正しました。
「なぁ、やけに街から見える煙が多くないか?」
「「「「「えっ!!?」」」」」
デニスの指差す街から確かに幾筋もの黒煙の柱が立ち上っていた。
「街が襲われてるの!?」
クリチュカがデニスに詰め寄る。
「戦の噂すら出たことのない街よ!?」
マーシャは広げ始めていた荷物を再び纏めながら街の方に目を凝らしていた。
「魔王軍が攻めてきたとか?」
「北方の君は領土拡大をしないことで有名じゃない。あるわけ無いわ」
アレクセイの疑問をマーシャが一蹴する。北方の君、ね。辺境の街の山の向こう側が魔王領だって言ってたから、恐らくそのことだろう。平和主義なのか、外に関心がないのか分からないけど、害をなさない魔王なら一先ず安心だな。
「兎に角行ってみないことには何も分からない。ここから街まで後どれくらいだ?」
北の魔王が気にならないというのは嘘になるけど、今優先させるべきは眼の前の惨事だ。5人の前に廻り込んで現状把握を行う。
「ここからだと、歩いても1時間は掛かるわ」
それじゃ間に合わない。煙が上がってる時点で襲撃が成功してることを示してるんだから。形振り構ってはいられないな。
「そんなに悠長なことを言ってる時間はないぞ。街にどれだけ守備隊や冒険者が居るのか知らないけど、煙が上がってるということは火を放たれた可能性が高い。急がなきゃ丸焼けだ。ナハトア」
「はい」
「ヴィルを呼んでくれ。肉体が腐ちてなければ飛べるはず。街に乗り込む」
「「「「「え!?」」」」」
「躊躇ってる場合じゃないだろ? 街に知り合いは居ないのか? 馴染みの宿屋もないのか? 小さい子どもは?」
「「「「…………」」」」
ナハトアは黙って僕を見詰めてきたので頷いておく。他の4人は思い当たる人が居るのだろう。その一言に腹が決まったようだ。表情が厳しいものに変わる。
「ヴィルヘルム!」
「応!」
【従者召喚】はさほど難しいわけでもないみたいだな。ナハトアの呼び掛けにヴィルヘルムが応じて4日振りに姿を表す。ん?
「ヴィル、“穢”を纏ってないよな。何でだ?」
「え!?」
僕の一言にナハトアがヴィルを二度見した。それはそうだろう“召喚具”に入るまでは周辺に害が及ぶほど“穢”を撒き散らしていたのだから。
「うむ、それなのだ。我がこの“召喚具”に入って一眠りしているうちに消えてしまったのだ。訳が解らぬ」
なんとまぁ、可怪しなこともあったもんだ。消臭効果があるのか? そんな訳無いか。
「よくあることなのか?」
「無いです。と言うか初めて見ました!」
ナハトアに確認してみるものの見事に否定された。そうだよな。ん? そう言えばエトが召喚された輓曳馬を呼び出した時、光耐性が付いていたって言ってた記憶があるぞ。ヴィルとの共通点は僕の眷属が召喚したということ、か。その影響が出てると考えたほうが説明がつくな。
「原因は何となく思い当たる。説明は後だ。“穢”が無いのなら尚更助かった。ヴィル、竜の姿になって僕らをあそこに見えてる街に運んでくれないか?」
本来はナハトアが言うべきことだけど、急いでるから僕が言ってしまった。気にしてる風ではなさそうだったから良かった。あの時から数えて4日ほど【実体化】してないから再詠唱時間の条件はクリしてるはずだ。
「承知」
「皆、少しヴィルから離れて! 【実体化】」
5人がヴィルから離れたのを確認して僕も【実体化】する。これならヴィルの背中に乗っても振り落とされることはないはず。僕が【実体化】するのとほぼ同時に、黒竜の巨大な姿が閃光と共に現れるのだった。見た処腐ちてるような箇所は見えないし、腐臭もしない。
そこは後だ。好奇心が擽られ知識欲を満たそうとする心を制して、黒竜の背中に上り、ナハトアに手を伸ばす。
「ナハトア!」
「ーーはい」
彼女の手を取って引き上げると、一番前に跨がらせるのだった。
「ここはナハトアの特等席だ。僕はその次でいい。皆も早く上がって来て。デニス、アレクセイ、マーシャ、クリチュカの順で僕の後ろに座ってほしい。そんなに痛くないはずだから」
「「「「……!」」」」
促された4人が黒竜の背中におっかなびっくり上がってくる。それはそうだ。竜の背に乗ることなど普通に冒険していたら経験することもないのだから。それだけ竜に遭わないということだ。
「腿の内側でしっかり首を挟むんだよ」
「はい、ルイ様」
エルフ語を使わずに語り掛けたんだけど、素直に頷いてくれた。どういうことかな? 黒竜に跨ったナハトアは緊張した面持ちで両手を竜の首筋に当てていた。操竜なんて経験がある訳もないか。巨大鷲の時も体が勝手に反応してくれたから良かったようなもんだもんな。スキルのお蔭かだ。
皆が僕の後ろに座り、お互いの腰ベルトをしっかりと握ったのを確認して黒竜に号令を出す。
「よし行こう!」
ゴウッ!
短い咆哮に合わせて翼を羽撃かせ始める黒竜。一般的な竜の体は飛竜とは違いずんぐりとしている。翼も巨大鷲や翼を持つ人族の様に全長に比例してあるのだが、体を持ち上げるには筋力が足らないのが特徴だ。故に竜族の多くは己の魔力を推進力や浮力に変えて飛ぶのである。黒竜も漏れずにそうし始めた。
蛇足だが、飛竜の場合は話が別で、彼らは飛行に特化しているために片翼が身長の2倍もある。そのための筋肉も翼の付け根、胸、肩と発達してその他は細くなっているのだ。故に前足も飛竜にはない。後ろ足で器用に二足歩行をし、長い首と足の爪を使って食事を取るのである。飛ぶ竜という名に恥じない姿だといえよう。
砂埃を舞い上げて浮き上がる黒竜の巨躯。歩けば1時間掛かる距離でも、空路を使えばものの10分だった。緩やかな飛行だったけど、余りに速度を出すと背中に乗るものが吹き飛ばされてしまうのだ。
「これは!?」
「ひでぇ」
「なんてこと」
「おばちゃん」
口々に上空から街の様子を見るが、至る所で火の手が上がってる。死傷者も多そうだ。ガラの悪い男たちが湾曲刀を振りかざして略奪や強姦、戦闘を繰り広げている。小規模な襲撃とは言えない程の有り様だ。
「ヴィル、港に行ってくれ。陸路で攻めてきたんじゃないんなら、海からのはずだ。賊の討伐は生け捕りが鉄則なのか?」
僕の声に黒竜がぐんと高度を下げる。街の方からも竜が現れたことで混乱状態に拍車がかかったようだ。港に着く前に確認しておくこともある。
「いや、生死不問だ。というか、ぶち殺す。こいつら許さねぇ!」
「怒りは分かるが熱くなったら敵の思う壺だ。港で一旦降りたら4人1組で行動すると約束して欲しい。正面からじゃなくて不意打ちを仕掛けながら、各個撃破だ」
「「「「分かった!」」」」
風の音で聞こえにくくなるので、声を張り上げた。緊急事態だが、全てをどうにか出来るとも思ってはない。人や財産を持ち逃げようとしてるのならばそこをまず抑える。陽光に燦めく海の波に揺られる巨大な帆船が3隻停泊していた。周りの帆船からは火の手が上がっている。
「【疲労回復】、【魔力回復補助の泉】、【鼓舞】。一先ずこれでいいか。後ろの皆、何とか僕の手を掴んでくれないか?」
補助魔法を全体に掛けておいてから、体を捻って後ろに手を伸ばす。4人の手が僕の手に触れたのを確認して、4人にだけ追加で魔法を掛けておく。
「【再生】! ヴィル、あの3隻は港から出さない。ブレスを使わずに帆柱を折ってくれないか!? ナハトア、ナハトア!!」
「はひぃっ!!」
「帆柱を折ってもらったら港に降りる。僕と一緒に船内に入るよ!? ヴィルも一緒に」
「わ、分かりました!」
バキバキ バキィッ
木が折れる音と共に衝撃が僕たちを襲う。黒竜の尾が帆船の帆柱をへし折ったのだ。初めに折った帆柱が隣の帆船にのしかかりうまい具合に動きを封じてくれた。もう一度同じような衝撃が走り、帆柱が折られていく。考えて折ってくれたようだ。
そのままの流れで港の広場に黒竜が降り立ち、再び人型になる。その頃には例の4人組は混乱の渦巻く雑踏の中に消えていったのだった。無事を祈りつつも当初の目的通り帆柱が折られていない船に向かう。僕、ナハトア、ヴィルの縦列だ。
「ヴィル、飛び道具の対応と、ナハトアの安全を任せた。僕は魔法か魔力を持った武器じゃないとダメージ貰わないから気にしないように!」
「承知!」
「ルイ様わたしは!?」
「周囲の警戒と、奴隷もしくは捕虜が居る部屋があれば教えて欲しい! 魔力は温存で、緊急時には惜しみなく使って!」
「はい!」
生死不問だけど、完全に殺すか完全に意識を失わせるかのどっちかしか安全が担保できそうにないなーー。仕方ない。簡単に人の命と財産を奪う者は奪われる覚悟あるからしてるんだと割りきろう。じゃないと僕の心が持たない。
「なんだてめぇ!」
船に掛かった歩み板を駆け上がると。一瞬に僕たちに視線が集まる。さぁ始めようか。
「【黒珠】! 【黒珠】! 【黒珠】!」
「ルイ様凄い」
「蹂躙だな。我の加勢は要らぬではないか」
砦の時を思い出した。あの時は小石を一緒に投げて目潰ししながら魔法を使っていたっけな。見える範囲の海賊たちをのした所で船内に入る。まずはこの船の頭を抑えることだな。
「何だ! 何があった!?」
奥から頭の悪そうな男がタイミング良く駆け出してきたから、そいつを捕まえる。
「悪いな。上玉を捕まえたんだ。お頭が何処か教えてくれないか?」
「へへへ、おめぇ、えれぇ上玉捕まえやがったな。頭なら奥の部屋でお楽しみ中だ、がっ!?」
ナハトアの顔を舐めるように見ながら男がそう口を滑らせた所で、こっそり出しておいた【黒珠】で精神を削り取る。こういう世の中だから罷り通るんだろうが、気分の良い話じゃない。気絶した男から短刀を奪っておいて、先を急ぐことにした。
【鑑定】をかけ続けて船室の中に海賊が居ることが分かれば通り過ぎながら部屋の中に【黒珠】を打ち込んでおく事を忘れない。そんなことをしつつ奥の一際大きな扉の前に辿り着いた時には船に入って15分は経過していた。部屋の奥からくぐもった声が聞こえる。
「ヴィル、扉を斬ってくれないか?」
「承知」
×の字に剣が振り下ろされ、ヴィルに蹴られた扉がガラガラと音を立てて部屋の中に転がり落ちるのだった。
「何だ!?」「ゔーっ!!」
眼の前にある大きなベッドの上に全裸の男女が居た。女の方は両手を枕元の拘束具に嵌められて、口には猿轡を噛まされていた。ぎりっ。勿論、首には【隷属の首輪】が嵌められている。
「「ちっ!!?」」「【影縛り《シャドーバインド》】」「なあっ!?」
あ〜ダメだな。腹が立ってきた。威圧が漏れだしたようだけど、一先ずこいつをどうにかしてからだ。全裸の男を魔法で拘束しておいて、女性の拘束具を外す。間に合ったのか、そうじゃないのかもわからないけど猿轡を外して、ナハトアに世話を任せて男の前に立つ。
「こんなことしてただ済むとでも思ってるのか?」
「思ってたらしてないはずだろ? したって事はどういうことかくらい分かるんじゃないか?」
全裸で凄まれても何とも思わない。右手で男の喉に手を掛けてゆっくりと締めていく。苦しそうに顔を歪めているうちに、三種のドレインを済ませておいた。エナジー自体は残り2割あるかどうかだ。
「ま、待て。目的は何だ? 金か? 女か? 奴隷もあるぞ?」
「全部貰おう。それとお前らの事を話せ。他の2隻の頭は誰だ? 何処から来た?」
「な!?」
「命あっての物種だろう?」
「わ、分かった。話す。話すから手を緩めてくれ」
「言っておくが、その拘束魔法は通常の何倍も魔力を込めてある。時間稼ぎをしても無駄だよ?」
何処まで本音を引き出せるか……。あるいは出すか、だな。
「俺らは“ケルベロス”って海賊だ。港に寄りながら商品を買い付けてるのさ。どうだい? あんたならお頭に逢わせてやってもいい。良い値で雇ってくれるはずだ」
「それも悪くない話だな」
「おい!?」「ルイ様!?」「えっ!?」
「へへへ、そうだろ?あんた話が分かるじゃねぇか」
「だが、生憎誰かの下に就く性分じゃないんだ。残念だったな。僕の下に“ケルベロス”が就くというのなら考えても良いよ?」
「てめぇ……」
「ま、腐ってもこの船のお頭だ。下手なことを喋れば自分の首が飛ぶことくらい分かってるんだろうから、時間の無駄だな。これを」
拘束具から開放された20代と思しき可愛らしい女性に、先程奪った短刀を手渡す。
「差し上げます。好きに使って下さい。それと【解呪】」
「えっ!?」
女性の首から【隷属の首輪】がぽとりと落ちる。驚きの表情のまま僕と短刀を見返し、ぎゅっと柄を握るのが分かった。手首の筋が微かに動いたのだ。
「おい! 待て、待ってくれ! 話す、話すから!」
「ああ、もう聞きたいことは聞いたので結構です。先を急ぎますので御二人でお楽しみ下さい。さ、急ごう」
2人を急かして部屋を後にする。部屋を後にして下階に降りる階段を見つけた頃、あの男と思われる断末魔が船室内に響き渡るのだった。自業自得だ。僕は裁判官でもヒーローでもない。裁くのはこの街の人間であって、僕じゃないんだ。出来ればその機会を多く残してあげたいとは思うけど、数が多すぎる。
下階は乗組員の船室だけだった。更に下階へ降りる階段を探しつつ、怪しげな船室に【黒珠】を打ち込んでいく。
次の階も倉庫と船室で、この船がいかに大きいかが良く分かる構造だった。沿岸だけではなく外洋も航行できる性能を有してるということだ。食糧臭だけではなく、アンモニア臭がこの階に来てから強くなった。船底が近いということか。
乗組員の多くが船外の略奪に出払っているのか、この階で海賊に遭うことはなかったが階下に繋がる階段の所に着いた時には鼻を摘みたくなる臭いが溢れていた。
「2人はここで待っててくれて良いんだよ?」
「行きます!」
「わ、我もだ」
「臭いで涙目になってるよ?分かった、でも吐かないように耐えてね?」
2人が臭いに参ってるのは分かったけど、それだけは伝えておいて船底の荷物置き場に降りる。幸い、上の階で油灯を2つ手に入れていたのでそれに火を灯し、ゆっくりと降りる。降りるとざわっともがさっとも取れるような音が周囲で聞こえた。
「誰かいるのかい?」
油灯を掲げると窶れた男女の姿が飛び込んできた。皆首に【隷属の首輪】を着けられている。ぎりっ。
「ルイ様、み、皆が怯えます」
「あ、ああ、すまない。皆助けに来たよ。ただ、僕が出来るのはここで君たちを解放するだけだ。その後どうするかは自分たちで決めて欲しい」
「えっ!!?」「助けにくてくれた!?」「自由になれるのか!?」
囚われた者たちの間に動揺が走る。それも仕方ないだろう。どれくらいの時間を掛けて心を蝕まれたのか僕には分からないのだから。出来ることは体を癒やし、隷属から解放することだけだ。
「本当に解放されるのか!?」
「少なくともこの場は、ということだけどね。戦うもよし、逃げるのもよし、そこは自分で決めて欲しい。僕には君たち全員を背負うことは出来ないから。【治癒の雨】」
「「「「おおおーー!?」」」」
「鎖に繋がれてないのなら僕の前に集まってくれないか?(ヴィル、気を緩めないように)」
「(承知)」
ヴィルヘルムに小声で注意を促し、寄ってくる男女を待つ。懸念していた、ナハトアを人質にという輩は居ないようだ。傷が癒えたのが分かったのだろう。多くの者が僕の前に集まってきたのが分かる。
「ふぅ……。じゃあ、皆眼を瞑って。【解呪】」
聖魔法Lv500で現れた魔法だ。今まではスキルに頼っていたけど、違う手段も取れるようになったのは収穫だった。本来は単体指定の魔法らしいが、意識を広げていけば範囲でも使えることが分かったので今回は大盤振る舞いだ。1人ずつは時間が惜しい。
ごとごとと首輪が朽ちて床に落ちる音が【解呪】の成功を僕に知らせてくれた。
「奥に病人が居るのです、助けて頂けませんか?」
「出来ないこともありますが、見るだけ診せて下さい」
そこへ1人の男が縋り付いきたので、彼の案内で奥に移動する。先ほどの【解呪】で動けるものは解放されたようだ。30人くらいはいただろうか。船底に30人以上の人間を置いて食糧をほとんど与えない。それが奴隷の扱いだと頭で分かっていても、胸が悪くなる。
数分で船首の下だろうという所にやってきた。確かに人も居るが殺気立ってる。
「病人が居ると聞いたんだけど?」
「……」
「貴様ら」
「ヴィル、待って。時間はないけど事情があるみたいだ。深入りはしないほうが良い。何も聞かない、それでいいかい?」
左手でヴィルを制する。ナハトアは周囲に視線を送っているが特に怯えている様子もない。この状況に慣れてきたということかな。
「申し訳ありません」
案内してきた男が頭を下げる。ま、何処の誰とも分からない一行を連れ込むんだ、警戒して当たり前だな。その言葉に周囲の殺気が和らぐ。油灯を翳してみると幼い女の子と老婆が横たわっているのが浮かび上がった。酷く窶れている訳でもないようだけど。
「【治癒の雨】、【魔力回復補助の泉】、【疲労回復】」
ざわっ
「大祭祀様でいらっやいましたか!? 御無礼をお許しください!!」
「いや、違うから。そんなこと気にしないように。これで周りの人の体力も回復できたから大丈夫でしょ。患者を診させてもらうね」
老婆も少女もやはり【隷属の首輪】を着けられていた。首筋に人差し指と中指を当てて脈と熱を診る。老婆にも同じようにしてみるが大差はない。発熱してる。
「何時から臥せってますか?」
「3日前からです。今仲間が頭に薬を貰いに行っているのですが、帰ってこず……」
今? ということはさっきの彼女も仲間? まあ、いいか。
「応急処置をしておきます。無事に逃げることが出来たものの、症状が改善しなければこの街の冒険者ギルドでナハトアという名前を出して連絡を試みて下さい。このダークエルフの名前です」
僕の紹介にナハトアが横に立ちお辞儀する。油灯を上に持ち上げたままなので彼女の顔もよく見えたはずだ。
「他の船にも行くので申し訳ありませんがこれで失礼します。【治療】、【治療】。ふぅーー、まだ【隷属の首輪】を着けている方がいたら直ぐに僕の前に来て下さい」
他の船という言葉に居合わせた者たちが口を噤む。これ以上は引き止められないと理解してくれたのだろう。老婆と幼い女の子、それに加えてもう4人の6人が集まったので【解呪】掛けてその場を去る事にした。
時間との勝負だ。僕の持つ油灯をその場に置いて、ヴィルの持つ油灯で前を照らしてもらいながら船底から上がるための階段を目指す。
既に船底には先程の一団しか残っておらず、他の者は皆上階に上がったようだった。僕たちも階段を駆け上がると、正面から血濡れたシーツで体を包んだ先程の女性がこちらに向かって駆け寄ってくる姿が眼に飛び込んでくる。走り方からして訓練を受けた者であることが一目で分かった。
船底へ降りる階段の進路に飛び込めるように僕たちの方が道を譲り、その女性に笑顔で頷いておく。
彼女も僕たちの姿に気が付いたようで、眼の前で立ち止まり一礼して船底の闇の中に姿を消すのだった。
「さて、隣りの船に乗り移るよ?」
「え!?」
「承知!」
「嘘でしょ!?」
「ううん、本気。さあ行くよ!」
その場で次の目標を口にすると、ナハトアだけが驚いた顔を向けて来た。そんな悠長な時間はないよ。そうこうしてる内に逃げる算段を始めるかも知れないんだから。そこへ。
どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!
轟音と衝撃と揺れが船体に襲いかかってきたのだったーーーー。
最後まで読んで下さりありがとうございました!
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