プロローグ
無双モノです。
無双できるのにそうできない精神状態の主人公が、自分の正体を隠しながら徐々に置かれた状況と能力に馴染んでいく、そんな流れです。
本当は無双してるのに、その自覚がない情けない主人公の成長をお楽しみ下さい。
言い換えるなら、まったりのんびりな流れのお話です。
※肉体的な男女のNTRはありません。ですが、分類的にはNTRと指摘された事案は発生します。
それではレイス・クロニクルをどうぞお楽しみ下さい。
※2016/10/31:本文加筆しました。
2017/10/23:本文誤字段落修正し、加筆しました。
2018/1/11:前書きに『魔法事典』のURLを記載しました。
☆下記のURLからレイス・クロニクル魔法事典Ⅰ-Ⅳを順次見ることが出来ます。
ストーリー進行上で使われる魔法の概要を纏めています。
部類としては“ネタバレ”ですが、魔法だけですから差し障りはないと考えました。
※ https://ncode.syosetu.com/n8316da/211/
参考までに、お楽しみ頂ければ幸いです。
僕は瑠一、九瑠一。
珍しい名前でしょ?
皆、果物の方の「無花果?」って聞き返さえれるんだけどね。
九という一つの文字で苗字だからという理由らしいけど、正直どうでもいい。一字狂いって……ねぇ?
どうやら僕はさっき大型トラックに撥ねられて死んだらしい……。「らしい」というのも僕の眼の前に現れたトラックは全く減速してなかったんだ。その速度と衝撃を概算すると、生身の人間が生き残れるような優しいダメージではないものを全身に受けたことになる。十中八九、ショック死だ。あとの1、2割はふっとんだ先の何かに突っ込んでの外部障害による出血死だろう。
撥ねられる瞬間運転手が見えたんだけどね、寝てたよ――。疲れてたんだな。いや、病的な何かで意識を失っていたのかも? どの道僕の死亡の結果が変わるはずも居ないから正直どうでもいい話だ。今更憤慨しても何も変わらない。
しかし……と、あの瞬間の情景を思い出してみた。同じタイミングで横断歩道を渡ってた人が何人かいたよな。そりゃあ横断歩道の信号青だもん、確認して車が来てなかったら普通渡るよな? たぶん僕だけじゃなくいっぱい人が亡くなってると思う。
はぁ……。思わず溜息を吐いてしまう。状況からして泣き叫んでも可怪しくない精神状態なんだろうけど、不思議とそういう感情が湧いてこないんだよ。何でだ? 何処かで冷静に自分を分析する自分も居るが答えが出るはずもない。
少し時系列を整理してみるか……。まず、30歳独身――。東大医学部卒、人間関係が嫌になり研修医をやめて新潟逃げる。そこで社長に出会いテーブルナイフや包丁を作ってるというね……。
親が聞いたら泣くだろうけど、大学入ってすぐ事故で2人共他界。妹もいたんだけど、同じ車に乗ってたんだよね、運が悪いことに。即死でなかったものの、結局命を取り留めることはできなかったんだ。だから天涯孤独。といえば同情を誘えそうだけど気ままな生活を送ってた矢先にこれさ。
まず、研修医時代は精神的に病んでたね。
明けても暮れても実技経験という名のもとに外科で働きまくってた。勿論、やりがいはある職場だったよ?
研修医というのは内科を6か月、救急医療を3か月、地域医療を1か月を必修診療科目として経験しなくちゃいけない。2年という縛りがある中なので場所によって順番が異なるが必ずカリキュラムの中には組み込まれてる。その後外科、麻酔科、小児科、産婦人科、精神科の5科の内2科を任意で選んで学べばいいんだ。本当はそれぞれの科でも専門で細かく分けられてるんだけど……。そこは説明が面倒だからいいでしょ?
僕は2年目に産婦人科と外科を専攻して臨床研修時代を過ごし、その後の後期研修医期間へと移る。この時選んだのが外科だ。家族が失くなったのも外科的な処置がもっと早くできていれば、という話を葬式の時に耳にしていたのもある。
高い理想を持って大学病院に入ったのは良いとして、まさに白い巨塔だった。
他の人はどう捉えたかは知らないよ?
僕にとってはという話さ。
教授の人間性も嫌いな種類だったというのもある。そりゃ教授の決めた事に対して「どうしてですか?」とその都度口を挟んでいればどういう結果になるか、想像に難くないだろう。嘴の青い雛鳥が甘っちょろい理想を振りかざして老獪な親鳥に噛みつくんだ。そんな事を冷静に考える精神態度にはあの頃なかった。
同僚、上司、医局、何処からも責められるような避けられるような視線を浴び続けた僕はある時壊れてしまったんだ。
「辞めてやる!」その威勢の良い一言と拳骨を教授の鼻にぶち込んで後期研修の3年目に辞めて、新潟の金物工場に転がり込んだのが1年前の話だな。憂さ晴らしも兼ねて研修の合間を縫って体を鍛えていたお蔭で会心の一撃を叩きこむことが出来たと思う。
習っていたのは合氣道。本来合氣道は力をいなしそれを利用する技が主流なのに、殴るという暴挙に出たのは精神の鍛錬が出来ていなかったという証拠だろう。勿論、新潟に向かう前に師匠には別れを告げたよ。ついでだからと稽古してもらえたのは嬉しかったけどね。ただ、師匠の眼は笑ってなかった……。
仙人みたいに白鬚を顎に蓄えた、小柄で痩せた爺様の何処にそんな力がというくらい扱かれたのを思い出す。僕の眼は死んでたね……。
ははは……。すみません、師匠。
それから新潟で仕事に就いた。
そこは町工場で従業員もおっさんというよりもじいちゃんばっかりの会社だったよ。担い手が居ないというのはよく聞く話だろ?
でも、正直ほっとした。人間性というか人間付き合い自体に恐怖を覚えていた僕はここで救われたと言えるかもしれないな。人が温かいんだ。あれあれよと時間が過ぎて1年経ったある日、社員旅行の話が急に持ち上がったんだ。聞けば10年以上そんな事はなかったらしい。
社長もいい歳なのに、「九くん、君、東京の街に詳しいよね? 観光案内よろしく!」ときたもんだ。それから皆で上京し、浅草観光を楽しんでさあスカイツリーにーーなんて息巻いてた矢先にこれだ……。
社長たち、無事だったかな? 僕の眼の前を社長と奥さんが仲良く歩いてたのを突き飛ばして、入れ替わる形になったんだけど。ま、いまさら言っても仕方ないか。
ん?
死んだのになんで話してるかって?
それはこっちも聞きたいよ。なんたって半透明の姿で空中にフワフワ浮いてるんだよ?
ユーレイというやつなの?
――これ。
僕その類のもの信じてないんだけどな。
ん?
いや、足はあるよ。普通に。服も撥ねられる直前まで着てた普段着。黒のタートルネックセーターに黒のカシミアのロングコート。黒のジーンズ。黒のエンジニアブーツ。黒縁のメガネ――。うん、僕黒好きの痛い人なのさ。下着は流石に黒じゃないけどね……。
ていうか、ここどこ?
誰か説明してくれないの?
薄暗い森の中。遠くに日が差し込んでる所があるから、多分昼間だね。
だったらユーレイ説はないよね?
ぴんぽん♪
なに? 急にチャイムみたいなの鳴ったよ? 森のど真ん中にいるんだから、家の中な訳が無い。
どなたですかぁ~? って誰かいるわけでもなし……。
ん? なんだこれ?
顔から50cmくらい離れた空中に赤丸の中に白文字の1と書いてあるものが現れていた。眼を凝らして見ると「メニュー」と書いてあるような気がする。
疲れてるのかな、僕。だいぶ気が参ってるのかな。なんだよ、これ――。ゲームの世界みたいだよ?
あれか? 異世界へようこそ! 的な流れなのか?
妹がよく読んでたラノベにあったな……。こんな展開。
取り敢えず、現状からどうにかするためにメニューらしきものに触れてみる。
すると、見事にメニュー欄が現れたんだ。正直僕はうんざりした。ラノベで読む限り、この手のパターンは世界のために――と言う流れになるはず。無理むり。
基本僕は人見知りで、人間不信気味。今の職場でちょっと回復したから、完全な人間不信じゃないよ?
で、一匹狼タイプ――。
居るよね、こんな痛い人。それが僕です。
◆メニュー◆
【ステータス】
【アイテムボックス】
【メッセージボックス】➊
ステータスやアイテムボックスも気になるけど、まぁ、メッセージだろうね。
なんて言うんだっけ?
こう言うお決まりの展開……。テンプラ? テンプレ? まぁ、読んでみるか。
拝啓
九瑠一様。
…………。
初めまして。私はこの異世界を司る女神です。
…………。
貴方が大型トラックに撥ねられて即死したとき、良い魂が手に入ったと喜びました。
…………。
これでこの世界を救えると思ったのです。でも、ごめんなさい。
…………。
本当は転生する肉体があったのですが、私がヘマをしたために転生を失敗してしまいました。
…………おい。
最後まで読んで下さりありがとうございました。
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