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⑧
二人きりになったとたん、部屋が静まり返った。私もその沈黙を破る事が出来なかった。
「・・・、俺も、帰った方がいいか?」
沈黙を破り、自分も帰った方がと聞かれて、私はこう答えた。
「・・、居て欲しい。」
これが本心だった。一人になるのは、嫌だった。
特に病院では・・・。
あれは、二十年前。私が八歳の時。
私は一人、名前も自分が誰かも分からないまま、病院に居た。
看護婦さんに
「どうしたの?」
と聞かれても、ただ黙っていることしか出来なかった。それから、施設に連れて行かれ、名前を貰った。
〝梨那子〟と言う名前を貰った。
猛とは、此処で知り合った。
一人で唯唯途方に暮れていた時に、話しかけてくれたんだ。
「梨那子ちゃん、僕とこの本読まない?」
そう言って持って来てくれたのは、シンデレラだった。
「うん。」
「やっと笑った。僕は、今井猛。よろしくね。」
猛だけが、唯一の支えだった。