8.出張はパリへ 1
蘇芳さんと紫さんの部署は、社長直属の経営企画部です。どんなことをするかというと、海外支社と共同で、海外の会社と取引したり、国内の支社のとりまとめをしたり…。ようするに、何でも屋です。
そんな何でも屋の経営企画部に社長から出張命令が出ました。フランス支社が数年がかりの大きなプロジェクトを完成させ、いよいよ契約となったので、社長が夫人同伴でいくことになりました。で、蘇芳さんがその補佐として、紫さんが夫人のお世話役として選ばれたのです。
紫さんのご指名は、夫人からです。紫さんは、後輩の綾乃さんともども、夫人のお気に入りなのです。
いよいよ出発の朝、紫さんは「お土産まってるわ〜」という、お母さんに見送られて、蘇芳さんの車に乗り込みました。国内の出張は、何回か経験がありますが、海外は初めてです。
ちょっと緊張気味の紫さんに、蘇芳さんはいつものように話しかけます。パリではなにを食べようか、どこに行こうかなど話しているうちに、紫さんもリラックスしてきました。
いつの間にかうとうとしていて、あっという間に成田です。
「ごめんなさい、蘇芳さん!寝てしまって…」
「いや、朝早かったからね。もう緊張してない?」
「はい!」
紫さんの笑顔に、蘇芳さんも微笑みました。
駐車場を出て、社長夫妻との待ち合わせ場所に、移動します。夫妻は、まだ来ていません。蘇芳さんがチェックインしに行ったので、紫さんはベンチで座って荷物番です。
しばらくすると、ちょっと照れたような蘇芳さんが戻ってきました。紫さんが尋ねると、蘇芳さんの目が泳ぎます。
「あ〜、新婚旅行と間違えられた…」
「あら…」
今度は紫さんが照れる番です。言われてみれば、同じ苗字ですし、いわゆる結婚適齢期に入る男女二人です。間違えられても不思議はありませんでした。
私達ってそういう風に見えるんだ、と思ったら紫さんの頬はますます赤くなります。胸までどきどきしてきました。どうしましょう。
「紫ちゃ〜ん、蘇芳く〜ん!」
そんな時、社長夫人の声が聞こえたのです。
「おば様!」
「おはよう!今回はよろしくね?」
上品美人の社長夫人がにこにこと手をふります。
「おはようございます。奥様。こちらこそよろしくお願いします」
「ああ、もうおば様でいいのよ。あ、うちのは、今チェックインしてるから」
と、蘇芳さんに振り向きました。
「わかりました、おはようございます。奥様」
「蘇芳くんもおば様で!うちの人のお守りよろしくね」
「それは、私のせりふだ。紫ちゃん、すまないね、うちの奥さんのお守りで」
すたすたと、社長が現れました。ナイスミドルです。
「おはようございます、社長。楽しみにしてましたから」
「そう言ってくれると助かるよ」
しばらく話していたら、いよいよ搭乗です。社長夫妻はファーストクラス、紫さんと蘇芳さんはビジネスクラスなので、しばしのお別れです。
「紫ちゃん、蘇芳君、また後でね〜」
社長と腕を組んだ夫人が、ひらひらと手をふって入っていきました。残された二人は、結構注目を浴びています。
やっと席に着けたとき、二人は思わずホッとため息をついたのでした。
会社組織は想像です。こんなのあるわけ無いって突っ込まないでくださいね~。
成田も同様。あまりに昔過ぎて覚えてない。