7.チーム高橋、旅行に行く 2
翌朝、紫さんはスッキリとはいえない目覚めを迎えました。身体はだるいし、頭はぼ~っとしています。
体をおこして、周りを見まわすと、寝た形跡のある布団が二つと反対側には林さんが沈没している布団があります。林さんは、紫さん以上につらそうです。起こさないほうがいいでしょう。
夕べの林さんはいつも以上に飲むペースがはやかったな~、釣られて飲んじゃったけど、などとツラツラ考えていると、マーケティングの峰さん(ナイスボディーのお姉さま、あだ名はふじこちゃん)が、タオルを手に入ってきました。朝湯に行っていたようです。
「あら、紫ちゃん、起きたのね! うふふ、夕べは飲んだものね~」
ぐふふと笑う峰さんに、紫さんはいっぺんに目が覚めました。
「ふ、ふじこちゃん、私、なんかした?」
「もう、紫ちゃんったら甘えんぼさんなんだもの~。蘇芳さん真っ赤だったわよぉ」
何したんだ 私!?
布団の上で固まった紫さんの頭の中には、その一言しかありませんでした。
話は昨夜に戻ります。皆で、座敷で夕食になりました。もちろん、お酒ありです。
案の定、ハイピッチで飲んでた近藤君がつぶれたので、蘇芳さんをはじめとする比較的酔ってない3名で、男子部屋まで連れていきました。
やれやれと帰った来た蘇芳さんを峰さんが呼びます。ちょっと、あせった様子です。
「蘇芳さん、紫さんがごめんなさい言い始めちゃった!」
「あちゃ~…」
紫さんは、酔いすぎると「ごめんなさい」を言い始めるのです。本人も自覚しているので、普段はそこまで飲みませんが、今日は泊まりだということで、気が緩んだのでしょう。
思い返せば、過去にそうなった時も旅行中だったなと、蘇芳さんは思いながら紫さんのところに行きました。
「のみすぎちゃいました~。ごめんなさい」
「そうだね、もうこんなに飲んじゃだめだよ?」
「はい、ごめんなさい。ほんとに、ごめんなさい」
紫さんは、ピンク色の顔をこくんとうなずきました。
「部屋に戻ろうか。休んだほうがいいよ。さ、つかまっ…「だっこ」」
部屋中が一瞬にしてし~んとなりました。
「すおーさん、だっこ」
紫さんが、両手を出して蘇芳さんに抱っこをせがみます。蘇芳さんは片手で顔を覆い、視線をそらしました。指の間から見える頬がみるみる赤くなっていきます。
やがて、はぁ~っと蘇芳さんが大きなため息をついて、紫さんに向き直りました。覚悟を決めたのでしょう。
「わかりました。しっかりつかまってくださいよ」
「ふぁい、ごめんなさい」
紫さんをお姫様だっこすると、蘇芳さんはわりと酔ってなさそうな山田君に隣で沈没している林さんを頼みました。とりあえず、解散となり、あとは、男子部屋で飲むようです。
「部屋の鍵は?」
「あたしがもってるわ」
峰さんが先導します。一行は注目の的です。
「紫さん、ちゃんとつかまらないと、落ちるよ」
「ん~ごめんなさい~」
「ゆ、紫さん、きつすぎ…く、くるし…!」
「ごめんなさ~い」
と、コントもどきの珍道中を繰り広げつつ、女子部屋へとたどり着いたのでした。
やっとのことで、二人を布団に寝かせ、さて部屋から出ようとしたとき、紫さんが蘇芳さんの浴衣をつかみます。
「いっちゃ、やだ」
戸口で、峰さんと山田君が、笑いをこらえています。蘇芳さんは二人をじとっとした目で見た後、紫さんの布団の側に座りました。
「眠るまでいるから、お休み」
「うん。おやすみなさい」
紫さんと蘇芳さん(と沈没した林さん)を残して部屋を出た峰さんと山田君は、大爆笑したのでした。
朝食の席で、皆がニヤニヤする中、紫さんは蘇芳さんに謝りました。気にしなくていいと蘇芳さんが答えてくれたので、紫さんはほっとします。蘇芳さんはいつも通りでした。嫌われたらどうしようかと紫さんは不安だったのです。
帰りの車の中では、近藤君と林さんは沈没していたので、行きより甘い二人の空気には気がつきませんでした。
林さん、無自覚ラブラブカップルに当てられてヤケ酒。