2 紫さんと蘇芳さんとチーム・高橋
紫さんと蘇芳さんの同期の仲間はとても仲がよいです。最低1ヵ月に1回は同期会をしています。
きっかけは、新入社員研修でした。大企業なので、支社をいれると新入社員だけでも200人以上です。なので、研修のときもグループに分かれました。紫さんと蘇芳さんは一緒のグループでした。本社配属が10人、残りが支社配属の20人です。1ヵ月の研修期間でとても仲良くなりました。
いつの間にか蘇芳さんがまとめ役、紫さんがその補佐になっていました。高橋が二人いたので、チーム高橋と呼ばれるようになり、現在に至ってます。
今日は、大阪支社から同期の鈴木君が出張に来たので、飲み会です。
「蘇芳さん、お久しぶりです!」
鈴木君は、蘇芳さんになついてます。同期だけど、2歳年上でしっかりしていて、留学中にMBAまでとった蘇芳さんにあこがれているのです。
「お〜。あいかわらず鈴木は蘇芳さん大好きだな〜」
誰かのそんな声にどっと沸いたところで、飲み会がはじまります。
紫さんは、飲もうと思えば結構飲めますが、いつもそんなに飲みません。お酒そのものよりその場の雰囲気のほうが好きなのです。なので、ある程度飲んだ後は、飲みから食べにシフトします。よくしたもので、その頃になると、同じようにあんまり飲まない人が一箇所に集まるのです。
「あ、この揚げ物おいしい〜」
「そっちのサラダまわして〜」
お酒ばっかり飲んでるテーブルのお料理も持ってきて、堪能しています。もちろん、おしゃべりもしています。使えない上司やら意地悪なお局様やらわがままな新人やら、話のねたはつきません。
同期会は、情報交換の場でもあるのです。
「紫さんの部署は、いいわよね〜」
「そうそう、部長は仕事が出来るし、直の上司は蘇芳さんだもん。いいな〜。代わってよ〜」
皆さん、結構ストレスたまってたようですね、と、紫さんは心の中で苦笑しました。
「いいですよ、代われたら代わりましょうね。さて、そろそろデザート頼みませんか?」
「頼む頼む!」
「わたしも〜」
紫さんの誘導で、皆さんすっかりデザートに夢中です。
蘇芳さんは、飲むほうのグループです。とはいっても、そんなに無茶な飲み方はしませんし、そもそもお酒に強いので酔っ払いません。多少気分が良くなる程度です。なので、自然と介抱役になります。
5杯目のグラスを空けながら皆をみまわして、今日は、鈴木君の面倒を見ることになりそうだなぁと思いました。
久しぶりに蘇芳さんに会えたことでテンションの上がった鈴木君は、かなりのハイペースで飲んでいました。ちょっと顔色が悪くなってきています。隣のテーブルの紫さんも気にしているようです。蘇芳さんは、紫さんにアイコンタクトをとると、立ち上がりました。
「鈴木君、ちょっと休もうか」
そう言って、隣の佐藤君と二人で両脇を抱えて、トイレに一直線です。鈴木君は、蘇芳さんの介抱がうれしいんだかなんだか青い顔でVサインしていました。
「鈴木、どんだけ蘇芳さんが好きなんだよ!」
皆、大爆笑です。
そんなこんなで、お開きの時間になりました。鈴木君も大分落ち着き、どうやらホテルに帰れそうです。名残惜しそうでしたが、挨拶をして同じ方向の人たちと帰っていきました。
「鈴木君、大丈夫かしら?」
「ああ、佐藤君がホテルまでつれてくって」
頚を傾げる紫さんに、蘇芳さんが答えると、残っていた人たちも安心しました。蘇芳さんが佐藤君に頼んだであろうことは言わなくても皆わかっていました。
「じゃあ、僕達はここで」
そう言って、蘇芳さんと紫さんは、皆と分かれました。二人は、同じ線の隣の駅を利用しているのです。隣の駅といっても、駅と駅の間にお互いの家があるので、家同士は歩いて10分もありません。
なので、帰りが遅くなったときは、紫さんを家に送ってから、蘇芳さんは家に帰ります。遅くなくても、一緒に帰ることが多いので、一時期同棲説が流れたほどです。紫さんは、びっくりしましたが、総務と同期が噂をけしてくれて、事なきを得ました。
持つべきものは、友だと、紫さんは同期の皆に感謝したものです。
蘇芳さんとゆったりしゃべっていると、すぐに降りる駅です。駅から紫さんの家まで5分ほど。紫さんの家の前まで来ると、蘇芳さんは門のところで紫さんが玄関に入るまで見ています。
「おやすみなさい」
「おやすみ、また明日」
蘇芳さんに手をふると、紫さんは家に入りました。
「ただいま〜」
今日も楽しい同期会でした。
鈴木君のVサインは、作者同期の実話です(笑)




