14.アルテミスの夜
蘇芳さんと紫さんの婚約は、あっという間に全社に知れ渡りました。なんと、お父さんの会社にまで伝わってきたそうです。取引先にも「姫」の掟は知られていて、お父さんの会社もその一つだったのでした。
そうとは知らない紫さんは、みんなおしゃべりなんだから〜とちょっと憤慨しています。蘇芳さんとお父さんはこっそり目を合わせました。紫さんにはまだ「姫」の掟のことは知らせていません。今が、話すチャンスです。
「姫」の掟を聞いた紫さんは、びっくりです。社長がそこまで気に掛けてくれていたなんて、今度あったら御礼を言わなくてはと、心に留めます。次いで、蘇芳さんがずっと騎士として守ってくれていたことに気付くと、口元がにやけてしまいました。
「蘇芳さん、ありがとう。ずっと守ってくれてたのね」
「あなたの騎士ですから」
二人はにっこりと微笑みました。
さて、会社の次は、友達に報告です。紫さんはかおるさんにまず連絡しました。かおるさんは結婚が決まっています。結婚式がバッティングしては大変です。
「かおるちゃん、あのね、私も結婚が決まったの」
「ほんと!?おめでとう〜!!で、いつ?」
「まだ決まってないけど、かおるちゃんのスケジュールは?」
「あ〜、11月の第2週から3週はさけてほしいな〜」
「結婚式と新婚旅行?」
「うん、そう。先週ホテルおさえてきたの」
「わかったわ。そこは、はずして考えるから」
「ありがとう!いろいろ情報交換しましょうね」
「うん、よろしくね!」
かおるさんを皮切りに、次々と友達に知らせていきます。みんな蘇芳さんのことを知っているので、ぜんぜん驚きません。おめでとうと祝福してくれます。
絵里香さんがいつものメンバーで集まろうというので、幹事をお願いすると、速攻で日時と場所が決まります。二週間後の金曜日、ホテルに一泊しての女子会です。
当日、ホテルのロビーで待ち合わせてから、チェックイン。5人なので、ツインとトリプルに分かれます。せっかく泊まるのだから、バーに行くことにして、軽い食事をデパ地下で各自購入してきました。
みんなで買ってきたものを交換しつつ、軽くお腹を満たして、いよいよバーに場所を移します。
アルテミスという名のバーは、最上階にあり眺望が自慢です。女性5人で入ると、入口から程近い窓際の席に案内されました。このメンバーで行くと目立つので、いつも客寄せになってしまいます。
注文したカクテルが届くと、乾杯です。
「紫ちゃん、おめでとう!」
おしゃべりの始まりです。紫さんは決まったばかりの結婚式の日を皆に伝えました。しばらく、紫さんへの質問が続いた後、絵里香さんが、かおるさんと紫さんに向かってききました。
「あのね、結婚式ってどのくらい前から準備始めるのかな?」
「う〜ん、半年見ておいたほうがいいと思うけど…」
「うん、そのくらい前じゃないと希望の日が取れないと思うわ。絵里香ちゃんもきまったの?」
「いや、二人の話したら、そういう話が出てきて…」
絵里香さんがちょっと照れくさそうにいいます。隣の席の美里さんがびっくりしています。
「あの〜、実は私もこの前の見合いが決まりそうで…」
黙って聞いていた小百合さんも、手を上げました。美里さんはええっ!?といって固まっています。
こうして紫さんのお祝いだった女子会は、4人による情報交換会へと変貌したのでした。美里さんは、呆然と聞いているしかありませんでした。
後日、美里さんは、「アルテミスの夜」はショックだった、と語ったということです。




