10.ダンスはあなたと
その夜のパーティーは夢のようでした。
蘇芳さんは紫さんをお姫様の様にエスコートし、片時も離れませんでした。蘇芳さんのタキシード姿は、とてもステキでパリ支社の女性もちらちら見ています。紫さんも、隣にいながらドキドキしていました。
パーティーが始まってしばらくは挨拶に回り、ようやく一休みできそうです。蘇芳さんは、紫さんを椅子のある場所へと連れてきました。見ればもう社長夫妻と支社長夫妻も、椅子に座って一休みしています。
「紫ちゃん、蘇芳君、お疲れ様!」
社長夫人がにこにこと迎えます。社長夫妻は、この後ファーストダンスを踊るので、いま休んでいるのだそうです。
やがて、音楽が変わりました。社長がすっと立ち上がり、夫人をエスコートして会場の中心に出て行きます。皆が見守る中、ダンスが始まりました。
紫さんはうっとりと見とれています。支社長夫妻が、蘇芳さんになにやら話していますが、ぜんぜん気付いてません。
曲が終わり、社長夫妻が挨拶すると、次々とカップルが出てきました。紫さんがわくわくして見ていると、目の前にすっと手が出されます。隣にいた蘇芳さんがいつの間にか前に立っていました。
「踊っていただけますか?」
「蘇芳さん…」
頬を染めためらう紫さんの背中を支社長夫人が押します。紫さんは蘇芳さんに手を引かれて、ダンスエリアに出て行きました。皆の視線が二人に集中します。紫さん、いっぱいいっぱいです。
「僕がカバーするから、まかせて」
蘇芳さんが、紫さんを引き寄せながらささやいたので、少し気が楽になりました。
曲がはじまります。
蘇芳さんは、任せてというだけあって、とても上手でした。
「蘇芳さん、どこで習ったんです?」
「留学中にね。友達になった男に、ダンスも踊れなくてはだめだってスクールに放り込まれたんだ」
「あら、まあ」
「紫さんは?学校かな?」
「はい。でも、女子校だったから実は、男の人と踊るのは初めてなんです」
「へぇ、じゃ紫さんのファーストダンスの相手は僕なんだね。光栄でございます」
くすくす笑う紫さんと蘇芳さんは、とても楽しそうに踊っています。ふわふわと雲の上を飛んでるように軽やかです。ふわふわ、ふわふわ。 紫さんの心もふわふわ。蘇芳さんと一緒にふわふわ。
社長夫人と支社長夫人がバシバシ写真を撮っているのにも気付きません。
三曲踊って戻ってきた紫さんと蘇芳さんにダンスの申し込みが殺到しましたが、疲れたのでと丁重にお断りしました。ダンスの申し込みに来た人たちは、そのまま蘇芳さんと紫さんの話に引き込まれ、パーティーのお開きまで大いに盛り上がりました。
帰国後、支社長夫人から送られたダンスシーンの写真を大きく引き伸ばしたものを持った社長夫人がやってきて、大騒ぎになったのは、別の話。




