9.出張はパリへ 2
飛行機は、平日なので、わりと空席がありました。水曜日に出発で、水曜日帰国の1週間です。もちろん、土日はお仕事無しのフリーです。
紫さんは、フリーの日にルーブルとオルセー美術館に行きたいと蘇芳さんにお願いました。
「うん、一日づつ行こうか。買い物はいいの?」
「はい、おば様とご一緒しますから。ほら」
と、紫さんは、蘇芳さんに社長夫人リクエストのお店リストを見せました。びっちり書かれたリストに蘇芳さんも苦笑します。
「パリに到着したら、もう夕方だからそのままホテルに直行だね。次の日は一日契約とパリ支社の視察だから、おば様の買い物は3日目からかな」
「はい。3日目の夜には、取引先も呼んで今回のプロジェクトを祝うパーティーもあるんですよね?」
紫さん、ちょっと不安そうです。蘇芳さんが、紫さんに手を重ねました。
「大丈夫、ちゃんとエスコートするから」
「はい」
紫さんは、ほっとしたように微笑みました。
シャルル・ドゴール空港には、パリ支社長夫妻がお迎えに来ていました。宿泊先の三ツ星ホテルまで案内してもらい、荷物を置いて着替えたら、デイナーです。
4人は、同じフロアでした。社長夫妻がジュニアスイート、蘇芳さんと紫さんはデラックスシングルです。社長と一緒だとホテルもランクアップね、と紫さんは心の中でつぶやきました。
紫さんは機内用の楽な服から、スーツに着替えて、鏡の中の自分をチェックします。
うん、このスーツ持ってきて正解!
紫さんはうなずきました。スーツはオフィス用ではなく、フェミニンなものです。彼のご両親に会うときに着るお洋服的なものと言えばよいでしょうか。
そんなことを考えてる自分に気付き、紫さんはうろたえます。
彼のご両親って何考えてるの、私!?
今日の紫さんは、ちょっと変です。新婚夫婦に間違えられたあたりからです。一人であわあわしていたら、社長夫人が呼びに来たので、気分を入れ替えて、何もなかったかのようにディナーに向かいました。
翌日は、一日中、パリ支社につめて契約と視察でした。社長夫人は、支社長夫人と観光です。
契約は、滞りなく結ばれ、皆ほっとしています。
紫さんは、電話でしか話したことの無い、スタッフと会えて、交友を深めています。蘇芳さんも、大學の同期が赴任していて、昔話に花が咲いていました。
充実した一日でした。
3日目は、いよいよ社長夫人とのお買い物です。社長と蘇芳さんは、別のお仕事に行ってしまいました。パーティーに行くまで帰ってきません。
「おば様、最初はどこからにしますか?」
「そうね~、まずは、お洋服からにしましょう!」
夫人の号令の下、お買い物ツアーの出発です。
タクシーに乗り込み、高級ブティックに乗り付けます。店員が、夫人の顔を見るなり「マダム・カガミ!」と飛んできました。夫人と英語で親しそうに話します。
『今日は、今夜のパーティーのドレスをお願いね。二人分』
『かしこまりました、マダム』
「お、おば様?!」
私はいいんです~!という訴えもむなしく、紫さんは試着室に放り込まれ、次から次へと着替えさせられました。ミニとベアトップは全力で拒否し、2時間ほどかけて店員と夫人、紫さんとの妥協点に着地しました。
シンプルなラインのすみれ色の膝丈ドレスで袖とスカート部分はシフォンになっていて、ふわっとした印象の紫さんによく合います。実は、胸がとてもきれいなデザインなのですが、紫さんは気付いていません。店員さんの勝利です。
ちなみに夫人は、紫さんが着せ替え人形になっていた間に、今晩のドレスと他3着の購入を決めていました。
昼食をはさんで、靴、バッグ、アクセサリーとお店をめぐります。夫人のバイタリティーに紫さんはついていくのがやっとです。
「こうやって娘と買い物するのが夢だったのよ~!」と言われれば、抵抗もできません。お支払いは、後で精算してもらおうと心の中でつぶやきました。
夫人に上から下までコーディネートされた買い物も、夕方になってやっと終わりました。げんなりしながらホテルに戻ると、買った品物が部屋に届いています。
紫さんはそれを横目で見て、さて、一休みと思ったら、またまた夫人が呼びにきて、美容室に連れて行かれたのでした。もちろんヘアメイクフルコースです。
その晩、パーティーに行こうと迎えに来た蘇芳さんの目の前に現れたのは、ぴかぴかに磨き上げられたのに、どこかぐったりしている紫さんでした。
紫さんはお胸がきれい。




