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序章 祝いの日の厄物

どうも、こんにちは。衣良 弛雨です。このページを開いて下さりまことにありがとうございます。


作者が 衣良 弛雨 となっていることについて、少し注釈を申し上げます。

この作品は 衣良 弛雨 (ユーザー)、紅色狂花 (ユーザー)、誘月宵 (ユーザー)、硝子馬(notユーザー)、通りすがりのスルメげそ(notユーザー)が参加するサークルMASSI のものです。 ※二次創作ではありませんよー


原案:MASSI 文章化:衣良 弛雨 キャラ原案:MASSI、通りすがりのスルメげそ


以上のことをご了承の上で、本文の方をどうぞ!! ありがとうございました。

 その日は嫌みな程の快晴だった。

 雲一つなく広がる空はどこまでも蒼く、のどかな陽光が街に降り注いでいる。

 上から降ってくる花びらを浴びながら、馬上のオドラータは歓声を上げる市民達を見回した。

「……皆心から喜んでくれているようで何よりだ」

 ぽつりとそう漏らすと、隣の副官がそうですねと、同意の相槌を打った。

「彼ら達を見ていると満足感がしますし、士気も上がるでしょう。何より自分が嬉しい」

 その言葉にオドラータは微笑んだ。

 首を後方に巡らせば、確かに長々と続く行列の中でどの兵士も誇らしげに胸を張っている。

「あぁ、そうだな」

 やや苦笑気味に頷いてまえに向き直る。そして次々と賞讃の言葉を浴びさせてくる市民達へ穏やかな視線を投げかけた。

 彼ら——王都ロエンの大通り(メインストリート)を歩く大列はここリベルタ王国の女王直属の軍である。

 この大がかりなパレードは某隣国との戦で勝利をおさめた彼らリベルタ軍の帰城を兼ねた凱旋なのだ。

 軍馬が石畳を叩くリズミカルな音や歓声にも負けない大きさで、どこからか音楽も聞こえてきた。

「これ、きっと明日になっても大騒ぎですよ。しばらくは外出られませんねー」

 副官が残念そうに言うが、これは市民の喜び故のこと。つまり彼らが自分達を祝ってくれるということであり、ひいては君主である女王を讃えることでもある。

「……そう言えば、陛下いらっしゃいませんでしたね」

 意外とお喋りな副官はまたも口を開いた。

「ん? あぁ」

 残念なことに今回の戦に女王は参加しなかった。彼女に戦場での兵士の活躍を見てもらえなかったのは本当に残念だ。

「だが城に残るということは危険を回避することだから国民の身としてはありがたいことだよ。そんな過ぎたことをこんな時まで気に

病んでもしょうがない。陛下がお喜びになる姿を見るのが臣下としての務めじゃないか。今は楽しむべきだよ」

 金色の長髪に整った顔立ちの麗人——、女性と見間違える人が少なくないくらいの中性的な眉目秀麗のオドラータが柔らかく言うと、副官はつられたように頷いた。さらりと言うことを聞かせられるのは、その物言いと端正な容姿のせいだけではなくて、何よりも印象的なその目のおかげでもあるかもしれない。オドラータの目の色は、左右非対称だ。右が青、左が目の色の組み合わせとしてはいかがかと思われる黒色なのだ。どこか神秘さと威圧感を与えるその瞳は、過去様々な問題を持ち主にもたらしたものだが、今は案外役に立つ。

 自分の外見などどうでもいいのだが処世術の一環として使えるのは便利だ。

「そうですね、将軍」

 これもまたそれなりの美青年の副官はそう言って笑った。

 オドラータが行列の先頭ではない。先にはオドラータよりも一つ上の位である上将軍が行っている。それより前には総帥などもいるのだ。

 だからオドラータが帰城する頃にはもう女王に知らせがいっていることだろう。

 それに戦場で唯一手に入る形のない土産もある。

 後ろをチラリと見て、市民から罵声を浴びる、鎖につながれた捕虜の姿を確認する。

 国にとっては多大な利益をもたらしてくれるものになることもあるが、これから拷問係へと引き渡される彼らの運命に同情しそうになってしまう。はっきりと言うが前日の戦いで殺されていた方が比べものにならないぐらいマシだ。

 リベルタ城の拷問係には他者曰く“仮面の人”という者がいて、その人が直々に手を下した人間は洗いざらい国家や軍事の機密事項を喋ったあげく、精神に異常をきたすらしい。

 所属が特にないためか、“仮面の人”は手が紅に汚れる仕事をあちこちでしている。きっと後ろの捕虜も“仮面の人”に相手にされるのだろう。同情しないという方が無理なくらいだ。

 そんなことはどうでもいいとして、女王は必ず喜んでくれるだろう。

 勝った、と聞いた彼女や“仮面の人”などの反応が楽しみだな……。

 そう考えていると、オドラータの馬の前を急に何かが横切った。

 何が、と考えることなく反射的にたずなを引く。馬は数歩で止まった。

 副官もそれにならって馬を止める。

 そして、

「おい貴様! 止まれ!」

 と叫んだ。

 その声に騒いでいた市民達も静かになった。

 オドラータの前には一人の男がいた。あろうことかこの凱旋行軍を横切ろうとしているらしい。

 副官の一喝も虚しく、その男には聞こえていないようでそのまま向こうへ渡ろうとする。

「そこの汚らしい愚民! 止まれと言っているっ、聞こえないのか! 止まれっ」

 さらに三回叫ぶと、ようやく男は止まった。

 鼻歌まじりのどこかスキップじみた浮かれた足取りに、繕われた跡や裂け目、汚れが目立つみすぼらしい格好。撫でつけられたことのなさそうなボサボサな髪——。

 副官が怒るのも無理はない。

「おいお前! 自分が今何しているのか分かってるのかっ」

 まだ少年と言えるようなその男はきょとんとしている。

「へ? えっ?」

 それがさらに副官の怒りをあおってしまったようだ。

「何をしているのかと聞いている!答えろ愚民!」

「ちょっ、何だぇ。オラはただあっちの道に行こうとしただけ……です」

 少年の言葉は耳障りな程訛っていた。かなりの辺境の地から来たらしい。

 副官は馬から飛び下りて抜剣する。そしてその鋭い凶器を少年に向けた。

「……何だと? 向こう側へ行こうとしただけ……? 貴様、行軍を横切るとは…いい度胸だな」

 言葉一つ一つに怒気がにじみ出ている。

 この国では法により、凱旋・行軍を横切るなどという愚行はあってはならないもので、厳しい罰に処されるのだ。

 この少年の髪と目は黒い。それは平民の中の平民、しかも下流階級以下の市民の象徴だ。彼の言葉遣いや装いから見ても間違いないだろう。きっとまともな学も持ち合わせていない。

 だがそんな人でも世間の常識の一つや二つぐらいなら分かるはずだ

。ましてやオドラータ達は鎧を身につけている。普通に考えたら分かる。

 自分ののど元へ突きつけられた剣を避けようと少年は後ずさって尻餅をついた。

 そんな彼に副官は容赦ない。

「おい、知っているか……? 凱旋・行軍を横切った者、妨害しようとした者は死刑に処されるのだが?」

「えっ? 死、刑……って。待って下せぇ。だからオラは別に悪気があってやった訳ではないんでェ……すよ! それなのに」

 この世界の裁きに私情が反映されることはまずない。故にオドラータの信頼すべき副官は剣をどけようとしない。

 だが……。

「まぁまぁ、落ち着け」

「……将軍」

 オドラータは気張る副官の肩にふわっと手をのせた。

「こんな人の多い、ましてや子供までもがいる一般市民の衆の中で首をとばしても利は無い。我らリベルタ軍の評判が下がるだけだろう?」

「……どうするのですか?」

「ひとまず女王陛下のもとへ連行しましょうか」

 微笑——だが目は据わっており有無は言わせないという気迫を醸し出しつつ命を下した。

 副官は冷や汗をうっすらとかいて、しばらく躊躇した後剣をおさめた。

 そして彼は呆然と二人を見上げる少年に向かって言い放つ。

「フン、良かったな汚らしい愚民よ。将軍の寛大な処置に感謝しろ。……まぁもっとも、その下らない人生の終幕が数時間延びただけだろうがな……」

 嘲笑をまじえつつ、副官は少年の手に鎖付きの手錠をはめた。

「お前はこれから女王陛下によって裁かれる。覚悟しておけよ」

 すると、少年はきょとんとした表情を浮かべた。

「……女、王…陛下……?」

 オドラータは思わず溜息を吐いて空を仰いだ。

 世間知らずとは思っていたが……まさか女王陛下の存在すら知らないだなんて……。

 脳裏にリベルタ王国に君臨する女王の顔が浮かぶ。激怒している顔だ。

 祝いの日にこんな厄介なものが来るとは……。

 どこまでも続く蒼い空は、今のこの状況を嘲笑うかのように晴れていた。



 お読みくださりありがとうございます。誤字・脱字などありましたらお申し付けください。

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