7(完結)
挙式が始まると、おねえちゃんと話す時間なんてなくなり、友だちに囲まれてニコニコ笑う姿を遠くから見てるのが精いっぱい。
あたしはポケットに忍ばせてきた星―金平糖の入った瓶をカラカラと鳴らしてみる。
今でも稜ちゃんが取ってくれて星は大切に取ってある。
もうずいぶんと数は減ってしまったけれど、あたしの大切な大切なお星様。
披露宴が始まってからずっと空いている席があった。
大学友人と書いてある席の一角だった。
魔法使いはこないのかもしれない。
だって今日はおねえちゃんと黒ちゃんの結婚式だから。
会いたかったな。
ずっと会えるかもしれないって期待していた分、がっかりがとても大きくて、空いてる席をチラチラ見てしまう。
今は大学の時の友だちはおねえちゃんと黒ちゃんのために盛大な手品を披露している。
おねえちゃんも黒ちゃんも奇術サークルというサークルに入っていたのだ。
魔法に種はあったんだ。
そう知ってからも、稜ちゃんが見せてくれた魔法はどうしても手品だなんて思えなかった。
少なくとも小さなあたしにとってあれは魔法だった。
ダダダダダダダダと太鼓音がする。
大きなリボンがかかった箱にはスポットライトが当たって、手品も大詰めだった。
バァーン!
大きなシンバルの音と共に飛び出したのは、「稜ちゃん!」
「涼子、黒ちゃん!結婚おめでとう!」
元気よく飛び出た稜ちゃんは、真っ赤なタキシード姿でたくさんの花束を手の中から取り出しては会場に向かって放り投げた。
立ち尽くしたあたしに向かって稜ちゃんは昔とかわらないウィンクを投げて寄越した。
そして、箱から出て会場内を花束を次々に投げて歩いた。
満面の笑顔で手の中から花束を出す姿は、やっぱりあたしには魔法使いに見えた。
「さぁちゃん、大きくなったね」
あたしの目の前にとびきり大きな花束を出して手渡してくれた。
呆気に取られていると、稜ちゃんはそのまま踵を返し、ニコニコと笑いながら会場を出て行ってしまった。
突然挨拶もなく稜ちゃんは登場して、呆気に取られている間に退場してしまった。
あたしは知らず、駆けていた。
会場の大きな扉をグイっと押しあけると、魔法使いの後ろ姿が見えた。
「稜ちゃん!待って、どこに行くの?まだ式は終わってないよ」
「さあちゃん、追いかけてきてくれたの?ああ、本当に大きくなったね」
稜ちゃんは懐かしい笑顔でそう言った。
「ごめんね、もう行かないとといけないんだ」
「どこに?」
「世界中を師匠について周ってるんだ。今日は特別に一日だけ抜けてきたんだけど、もう戻る時間だ」
「稜ちゃんが最後まで居てくれないのは、おねえちゃんと黒ちゃんのことがショックだったから?
稜ちゃんもおねえちゃんのこと好きだったんでしょう?」
勢い込んでそう言うと、稜ちゃんはハッとした顔をした後、破願した。
「もううんと昔のことだよ。……伝えて、しあわせになってって。
僕は世界中にしあわせを配って歩いてるよって。
ああ、本当に時間がない。
じゃあ、もう行くから!」
稜ちゃんはそう言って駆けだした。
会いたいとあんなに思っていたのに。
会えたらなにを話そうってあんなに考えたのに、稜ちゃんのあまりに稜ちゃんらしい登場にあたしの予行練習はまったく役に立たなかった。
「稜ちゃんはしあわせになったぁっ?」
大きな声でそう叫ぶと、ポーン、と花束が宙に舞った。
再び廊下に目をやった時にはもう魔法使いは姿を消していた。