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あたしが雑誌のウエディングドレスの写真にとても興奮したから、おねえちゃんは毎回あたしをドレス選びに連れて行ってくれた。
あんまりにもあたしがはしゃぐもんだから、ドレス合わせのおばさんに「どれか一着、着せてあげようか?」と言われる始末。
着たかったけど、部活で焼けた黒い肌に、ぷにょんとした今の体型には似合わないような気がして、遠慮した。
いつか本当に好きな人と結婚式する時までとっておくんだって気持ちもあったし。
「でも、ドレスばっかり褒めないでよ。ちょっとは今日のおねえちゃん綺麗だよって言いなよー」
二個目のサンドイッチに手を伸ばしながら、おねえちゃんがそんなことを言うと、アクセサリーをつけてくれていたお姉さんたちがクスクスと笑った。
「年の離れた妹さんなんですね。口元が少し似てらっしゃるみたい」
お姉さんはイヤリングを調整しながら、鏡の中のあたしたちを見てそう言ってほほ笑んだ。
あたしとおねえちゃんはその言葉を聞いて、二人だけにわかるように目配せをした。
いたずらを隠した小さな子どもたちみたいな、内緒の目配せ。
おねえちゃん。
そんな風に呼べるようになったのも、あの人のお陰だったなぁなんて思い出す。
あと三年経ったら、あたしは出会った時のおねえちゃんと同い年になるなんて信じられない。
きっとあたしが十九歳になっても、あの頃のおねえちゃんみたいに奔放で魅力的な人にはなれないかもしれない。
「沙良砂、最近私、メイクするとお母さんに少し似ると思わない?」
そんなことを言って鏡に移る自分を指差すおねえちゃん。
「そう?」
少し後じさりして目を細めて、花嫁姿を見ると、顔の造りではなくて、顔に浮き出る印象が確かにお母さんに少し似ているかもしれないなんて思った。
三十路直前のおねえちゃんとお母さんは、若くないというところで共通点があるけれど、目を閉じて思い浮かべる二人の顔はそういえば頭の中では似ているかもしれない。
同じ柔らかさを持った顔。そんなことを思ったのは初めてだったけれど、そういえば同じような女の人を思い描いていたのかもしれないと、ハッとする。
「わかんないよ」
鏡の中のおねえちゃんがあんまりにも幸せそうに笑うので、胸がつまってわざとツンとした言い方をした。
「サンドイッチもう食べないならここ置いておくから。あたし、お母さんたちどうしてるか見てくる」
そう言って返事を待たずに控室を出た。
似てるなんてことないのに。
お母さんと似てきただなんて嬉しいこと言わないで。
お星様を取ってきてくれたあの人が魔法使いだと信じた小さなあたしみたいに、また身の上に魔法がかかったのかと思っちゃうじゃない。
まだ結婚式は始まってないのに、泣きそうになってしまった自分が恥ずかしくて、ズンズンと力強く地を蹴った。
もうなんだっていいやって思うことがある。
でも、変えられない事実というものがあるのも知っている。
人はそういうものでまず判断するということも。
あたしとおねえちゃんは血が繋がっていない。
あたしはお母さんの実子。おねえちゃんはお父さんの実子。
あたしが五歳の時にお母さんとお父さんが再婚して、あたしたちは姉妹になった。
みんなで一緒に暮らし始めたころの違和感は今でも覚えている。
お父さんとは何回も会っていたし、おねえちゃんにも会ったことはあった。
二人のことは嫌いじゃなかったけれど、特別大好きでもなかった。
これから一緒に暮すんだって聞いていたから仲よくしなきゃいけないんだって思っていた。
そうしないとお母さんががっかりするから。
あたしとお父さんがたくさん話をした日は、お母さんは言葉にしないけれど浮き浮きとした。