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あたしは、お星様を持っている。
その昔、夜空からのおすそわけだって言って、魔法使いが小瓶に入れてくれた。
あの小瓶は今も机の上に大事に置いてある。
もらった時からずいぶんと減ってしまったけれど、あたしの大切な宝物。
夜空からお星様を取ってくれたあの人は、今はどうしてるんだろうって時々考えていた。
今もどこかで魔法を使って小さな子を驚かせてるのかななんて考えて一人で笑ったりしてた。
でも、今日もしかしたら会えるかもしれない。
会ってからどうしようってずっと考えてた。
ずっと考えて時々自分の空想に照れて道端で真っ赤になったり、ドキドキして夜眠れなくなったりしていた。
今日のおねえちゃんの結婚式は身内のお祝い事というよりは、昔、星をくれたあの人に再会するための大切なイベント。
おねえちゃんやお母さんがずぅーっと前からいろんなことを用意したり手配していたのは知っているけど、あたしはあの人が来るかもってドキドキするのに大忙しだ。
それなのに。
「沙良砂、サンドイッチ取ってー」
おねえちゃんが大ぶりのキラキラした飾りが付いたお姫様みたいなネックレスを着けてもらいながらあたしに言った。
テーブルの上にあったサンドイッチを皿ごと持っていくと、大きな姿見の中にドレス姿のおねえちゃんと、高校の制服姿のあたしが並んで映った。
お姫様と召使いみたい。
そんなことを思う。
おねえちゃんには二人の女の人が付ききりでメイクをしたり、髪の毛をアップにしたり、アクセサリーをつけたりと大忙しなのに、あたしは部屋の隅のパイプ椅子にぽつんと座って、できることといったらおねえちゃんにサンドイッチを運ぶことくらい。
胸から腰にかけてきゅっと締まっていて、腰から脚元までふんわりと大きく広がるドレスと、二年も着てるテラテラの紺のセーラー服。
「ありがと。今のうちに食べておかないとさー、きっと披露宴の間は食べられないだろうから」
おねえちゃんはそう言って、サンドイッチにカブリ!とかぶりついた。
そういうところはいつものおねえちゃんのまんま。
「おねえちゃん、やっぱりこのドレス綺麗だね……」
ため息がもれるようにあたしの口からそんな言葉が出た。
「そりゃそうでしょう。沙良砂が一番似合うって言ってくれたんだもん」
バクバクとサンドイッチを頬張りながら、おねえちゃんが言った。
真っ白なドレスに屑が落ちないように、あたしは自分のハンカチを広げておねえちゃんの膝に置いた。