伝説への下準備
こちら「伝説の序章」の続きとなります。なんとなく続けてしまった。
「あの成り上がりの孤児について、どう指導すべきだと思う?」
そう切り出したのは、とある男爵家の六男、アルバトロス十二歳。
会話をしている相手は王立中央学院での彼の友人達である。
先日彼らは、一代騎士の叙爵を受けた少年ロドを罵倒したのだが、
一部始終、叙爵を国王陛下に推薦した大公令嬢に目撃されてしまい、
陛下の決定に叛意ありなのかと学院より叱責、停学を喰らっていた。
停学期間は半年なので、六年十二期の学院で自動的に落第となる。
現在停学から一か月、この五名は王都のとある店で落ち合っていた。
男爵令嬢ローロ、準男爵令息クエルヴォ、準男爵令息ガヴィオータ、
同じく準男爵令息ペリーコ。ここにいる誰もが嫡子ではない。
仮にも講義内容の水準が高い王立中央学院で八期まで通ったのだ、
元々の頭は悪くはないのだが、誰もが思い込みが激しい性格であり、
自分自身の実力や立ち位置をかなり高いものと信じ切っていた。
その為今回停学となったのは「大公令嬢の不興を買った」せいで、
ロドに対して罵倒したのは問題がなかったと思い込んでいた。
優秀なはずの自分達が誤った行動をするはずがないのであるから。
いや、誤った行動の結果が落第なのだが。
◆
「学院内での叱責は、いささかまずかったな。目撃者も多い」
そう返したのはクエルヴォ。そこではない。既に不敬なのだ。
一代騎士と爵位を持たない貴族とでは、前者の方が上なのである。
彼もアルバトロスと似たり寄ったりの成績と性格の持ち主だ。
「この前は森についていって、結局見失ってしまったけどさ、
またついていってみるか?今度はきちんと武器も持参して」
この発言はガヴィオータである。彼は仲間の中でも体格が大きく、
十二歳ながら学院では大剣を剣術の実技で使用していた。
腕前の方は残念ながら、そう高いものではなかったが。
「そうね。こらしめるにせよこちらも準備が必要よ。
わたしも今度は魔術師の杖を持っていかないとだめね」
彼女ローロは、身の程知らずにも制式騎士団入りを目指していた。
剣術は今一つだったが魔術は好成績だったのである。座学だけだが。
実技では「体内魔素の収束がなってない」と教官に指摘されている。
「決まりだね。今度は武器も装備も整えた上で事に当たろう」
ペリーコが締める。五名の中では小柄だが知恵袋を自称している。
実際には座学が他の四名よりまし、というだけで賢い訳ではない。
剣術や魔術も及第点すれすれで、この四名と大差なかった。
でも誰もつっこんだりはしないのだ。友情ではない。
単に分かっていないだけなのだ。
◆
ロドは学業の傍ら、冒険者活動も休日に行っている。
そこはさすがにこの五名も調べていた。
そこで休日が来る度に冒険者組合を見張り、ロドをひたすら待った。
依頼を受けるも完了報告を行うも、組合に来なければ始まらない。
しかしどうした訳か、前回からロドは訪れてこない。
この五名は冒険者資格の仕組みを詳しくは知らなかった。
見習いは週に一度、下級冒険者は月に一度依頼を受けなければ、
冒険者資格を失効してしまうのだが、ロドは中級冒険者である。
そう頻繁に冒険者組合へ訪れなくてもいいのだ。
かつ、この頃ロドは組合の正面玄関ではなく裏口から入館していた。
別にこの五名を警戒している訳でもない。そもそも覚えてもいない。
基本的に彼は中級冒険者ながら薬草採集を主体としていたが、
これは別に窓口で依頼を受けずとも勝手に納品出来るのである。
また、偶発討伐した害獣や魔獣の搬入も、解体場は裏口が近い。
正面玄関から入る必要がほぼなかったのである。
正面玄関を見張り続けていた五名の空振りは三か月ほど続いた。
◆
待ちぼうけを喰らう事四か月と少し。ついにロドが現れる。が。
一人だけではない。ぞろぞろと十名以上が親しそうに同行している。
ほとんどがロドと同世代に見えるが、これでは手も出しづらい。
一人だけ異なるが、他の者は王立中央学院の実技服を着ている。
他の者達も学院の学生か。情報が漏れるのは好ましくはない。
「どうする、アル。ありゃあ、あの孤児の同期じゃないのか?
あいつらからまた教員に話が行くとまた停学になりかねないぞ」
クエルヴォがアルバトロスに問いかける。ありがちな話だ。
実際には同行者はロドの妹分達と弟分、知り合いの少女なのだが、
何かあれば教員に話が伝わるのは同じであろう。
ロド達が組合の建物に入るのを見届けて、アルバトロスが告げる。
「関係ない者まで巻き込むのは本意じゃない。
だけどこうしていても話が進まないのも確かだ。
あの孤児が出てきたら、尾行して様子は見よう。
何か探れるかもしれないし」
クエルヴォ達は顔を見合わせた後、各々が頷く。
「指導」したいのはロド一人なのだ。変な横槍を入れられても困る。
◆
大人数で森の奥へ入っていくロド達。数えたところ合計十五名。
見たところ男子はロドともう一名、他は全て女子である。
全員小剣を持っているので害獣駆除であろうか。
やや離れてアルバトロス達五名もついて行っている。
こちらも武器は全員持っているが、その足は遅れ気味であった。
明らかに年少者のはずなのに、向こうは妙に足が速い。
歩きづらい森の中だというのに。
「あの下級生達は、やたら足が早くないか?」
息を切らしつつ、ペリーコが残り四名の気持ちを代弁する。
まあ当然ではある。ロドは中級、残りの十四名も見習いではない。
冒険者として積み上げた経験が素人とはまるで違うのだ。
ついでに、アルバトロス達は気づかれていないと思っているが、
ロド達は早くから尾行に気づいていた。そもそも下手過ぎる。
しかし特に迷惑や声もかけられていない為、丁重に無視していた。
邪魔になった時点であらためて警告でもすればいい、と。
「《探索》に引っ掛かった。ロッカ、複数いるので一頭だけ残すね」
唐突にロドがもう一人の少年に声をかける。
少し進んで森の開けた場所へ出ると、毛むくじゃらの集団がいる。
ざっと見て数は二十以上。アルバトロス達は顔色を変えた。
あれは確かバグベアだ。人間と同じかやや大きい体格の敵対種族。
自分達も含めて、普通なら子供が対応出来るような相手じゃない。
それが二十頭以上だ。もし見つかったら助からない。
「みんなは攻撃魔術を。端っこの一頭だけロッカに任せて。
ラーモは全員への範囲防御魔術専念で」
ロドが指示を飛ばすと、直後バグベアに対して魔術を放つ。
《落雷の炸弾》。雷撃の範囲攻撃魔術がバグベアの大半に着弾した。
ロッカと呼ばれた少年は、身体強化魔術を使って残り一頭へ向かう。
慌てて棍棒を振り回したバグベアだったが、対応出来ていない。
棍棒を持つ腕をロッカに一撃で斬り落とされている。
彼も強い。その辺の少年とは腕が違いすぎる。
轟音と共に雷撃を喰らった残りのバグベアは既に倒れ込んでいた。
もしまだ息があるとしてもそう長くはもたないだろう。
そうこうしているうちに、ロッカも戦っていたバグベアを仕留めた。
「まあこんなもんかな。じゃあみんな、とどめだけ刺して運ぼう」
ロドが他の者達に指示を飛ばす。一人を除く全員が小剣を抜き、
倒れているバグベアの首を全て落としていった。
もう、この場にはアルバトロス達はいない。逃げ出していた。
《落雷の炸弾》が着弾した時点で怖気づいたのだ。
この少年に敵対すれば、その後どうなるか分からない。
あれだけ強い仲間が多くいるのでは確実に報復されてしまう。
◆
王都まで戻ったアルバトロス達五名は、ようやく一息ついた。
「だめだ…指導どころじゃない。
こちらが知らない魔術を放つような仲間までいるのじゃあ、
逆上して何をされるか分かったもんじゃないぞ」
ガヴィオータが暗い表情でつぶやく。残りの者も似たり寄ったりだ。
魔術を放つ際、補正用の杖すら使用しなかった。太刀打ち出来ない。
「僕らはあの孤児をかなり甘く見ていたようだ。
気づかれていないのは幸いだった。もっと鍛えなければ。
復学したら剣術も魔術もこれ以上に磨く必要があるな」
もっともらしい事を言うアルバトロス。だが。
多少鍛えた程度で、果たして届くだろうか。あの域に。
そもそも今まで磨かれてもいないのだ。
「わたし達も冒険者として鍛える必要があるんじゃないかしら?
実戦が不足しているのよ。学院の実技だけじゃだめだわ」
ローロの言は、一部は正しくもあるが大半が間違っている。
むしろ基礎から鍛え直さなければ、勝負にもならない。
しかし五名が五名ともその通りだと考えていた。
「学院卒業前に冒険者を体験するのも必要になりそうだ。
そうと決まれば話は早いぞ。皆冒険者登録を行おう」
その足で冒険者組合へ向かい登録を試みる五名。
だが受付でもめて親達を呼ばれ、その日の登録は出来なかった。
五名が登録を完了するのは、王立中央学院を出てからとなる。
◆
一方のロド達。
いつの間にか消えていたアルバトロス達を気にする事もなかった。
帰りがけにラーモが「そう言えばあの人達いなくなってたね」と
思い出したようにつぶやいたきりである。
本日はロッカが「覚えた身体強化で実戦を体験したい!」と言い、
付き添いのロドに妹分のハーフエルフ十二人が同行したのである。
ラーモはたまたまロドの借家に来ていたのでついてきたのだ。
バグベアの後も何度か敵対種族や魔獣を狩り、ロッカは大満足。
「ロド兄ありがとう!みんなもありがとう!
これでまた一歩、騎士に近付いたぞっ!」
笑う一行。ロド達にとってはありふれた一日であった。
ロッカは騎士を目指すだけあって、剣術の素質はあるのです。
ただ座学が危うい。魔術も遅れ気味ながらなんとかなっている現状。




