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【ホラー都市伝説】冷たい蛍光灯の下で――コンビニの監視カメラに映る無言の子ども  作者: 如月妙美


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冷たい蛍光灯の下で――コンビニの監視カメラに映る無言の子ども

プロローグ:終電後のひとりきり

 終電を逃した深夜の都心――人影まばらな街を歩き続け、ようやく開いているコンビニを見つけた涼介は、ふらりと店内に入った。店内は24時間営業のはずだが、深夜3時を過ぎると客足はぱったり途絶え、棚に並ぶパンやおにぎりにはほこりが薄く積もっている。蛍光灯の光だけが冷たく照らす広い売り場には、レジの女性店員と、防犯モニター越しにたたずむわずか数名の専門スタッフだけがいる。

 涼介はカウンターに財布を置き、深夜のコーヒーと菓子パンを手に取った。会計を済ませ、棚の隅に設置されたテレビモニターをぼんやり見ていると、画面に映る店内の様子が気になった。普段は映るはずのない真夜中に動く影が、棚と棚の間をすーっと横切ったのだ。振り向いても店内には誰もおらず、カメラ映像のモニターを見ると、その影は消えていた。「見間違いか」と涼介は思い、レジに戻った。

 しかし、その直後にレジの店員がひそひそと話しかけてきた。

「夜になるとね、見えない子どもの姿が監視カメラにだけ映るっていう噂、知ってる?」

 涼介が顔を上げると、店員は慌てたように視線をそらした。胸騒ぎと好奇心が入り混じり、涼介は店を出る際、その監視カメラの映像をちらりと見ようとカメラモニターの前まで足を進めた。

 モニターには、真夜中のガランとした店内が映っていた。しばらくじっと見つめていると、画面左奥のアイスケースの前に、ぼんやりと小柄な人影が立ち止まった。子どものように見えたが、顔も目もはっきりわからず、ただ薄汚れた半透明の服を着ているように見えた。子どもは一瞬こちらに振り向き、怯えたように口を動かした—が音声はなく、画面がプツリと暗転した。涼介は思わず息を呑み、モニターを見つめたまま立ちすくんだ。

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第1章:最初の目撃と店員の証言

 涼介がその場を去った後、真夜中の店内で監視映像をチェックしていた店長の美和は、モニターに映った影を見て青ざめた。数日前から従業員の間では、「深夜3時になると背後に子どもの気配がする」「声は聞こえないが、誰かがついてくるような視線を感じる」という噂が立っていたのだ。

 美和によれば、最初に異常を感じたのは2週間前。夜勤スタッフの優が、「アイスケースの前で子どもが立っているのを見た」と報告してきた。優は「薄汚れた小さな洋服の子どもがこっちを見ている気がした」と言い、その場から逃げ出すように退社したと話した。しかし、翌朝確認すると、店内にはもちろん子どもなどおらず、カメラ映像にも何も映っていなかったという。

「あれも幻覚だろう、疲れてたんだよ」と美和は優を説得しようとしたが、優は翌日から深夜勤務を拒否するようになった。ほかのスタッフにも同様の目撃報告が数件あったが、いずれも具体的な証拠として映像が残っていないという。

 そんな折、涼介が偶然見てしまったモニター映像は初めて明確に「子どもの影」を捕らえた瞬間だった。美和は警察に通報しようと考えたが、「店舗のイメージダウンになる」として本社から強引に止められたため、結局、証言を裏付けるために映像記録を保存しておくことだけを決めた。

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第2章:深夜の検証チーム結成

 涼介の話を聞いた地元フリーのジャーナリスト・麻衣は、「これは何か本物の怪異かもしれない」と直感し、独自に調査を開始することを決めた。麻衣は防犯カメラの映像や店員の証言をまとめ、さらに深夜の撮影許可をコンビニ本部から取り付けた。こうして、DV 撮影機材を抱えた麻衣と友人で映像エンジニアの智也、そして霊媒師を自称する雅司という3人が、深夜のコンビニを検証するチームを結成した。

 三者は初夜、深夜3時から店内に入った。麻衣はノートパソコンを持ち込み、監視カメラ映像をリアルタイムで録画し、智也は赤外線カメラと音響マイクを設置、雅司は霊感を頼りに店内を歩き回った。店内は白い蛍光灯で淡々と照らされており、空気はひんやりと緊張感が漂う。客が誰もいない売り場に、冷蔵ケースのブザー音だけが間断なく鳴っている。

 深夜3時ぴったり――モニター画面に、また現れた。薄汚れた白いワンピース風の服を着た小柄な子どもの影が、店内奥の惣菜コーナー前に佇んでいる。その子どもはゆっくりと一歩を踏み出し、店内中央へ向かって歩き始めた。足取りは軽いが、どこかぎこちない。鏡に映ってもその姿は確認できず、カメラだけに映っているのだ。智也は息を呑み、マイクの音声を確認すると、かすかな「すたっ、すたっ」という靴底の乾いた音が拾われていた。

 雅司は振り返らずに小声で呟いた。

「見えないが、この子は確かにいる。壁や棚をすり抜けて歩いている」

 その瞬間、子どもの影は監視カメラから見失われ、店内は再び無音と無人に戻った。録画を停止し、三人は互いに顔を見合わせた。

「一度でいいから、あの子と対面してみたい」

 と麻衣は呟いたが、智也は慎重だった。

「でも、映像に映っているだけで実体がないかもしれない。触ろうとしても触れられないゴーストなのかもしれないよ」

 雅司は目を閉じ、自らの胸に手を当てて声を低くした。

「ここには、何か悲しい思いを抱えた子どもが閉じ込められている。言葉にはできないけれど……でも、確かに動いているのを感じる」

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第3章:消えた子どもの正体を探して

 三人は過去の事故記録や地元の伝承を調査するため、区役所や図書館の古い新聞記事を漁り始めた。そこで浮かび上がったのは、10年前にこのコンビニがオープンする前の同じ敷地で発生した小さな火災事故だった。新聞には、

「夜間に買い物客だった男児が店内で火に包まれ、命を落とした」

 というわずか一行の掲載しかなく、詳細は不明だった。事故の当事者は幼稚園児だったという噂があるが、記者の手も入っておらず、報道から数日後にフェードアウトしていた。

 麻衣はこの男児が、現在カメラに映っている半透明の子どもだと確信し、「あの子はあの火災で亡くなった霊かもしれない」と口にした。そのとき、智也のスマホにメッセージが届いた。差出人は「匿名希望」として、

「あの火災のとき、男児を助けようとしたのがこの場所のオーナーの息子だった。息子は火傷で片足を失い、以後、夜は店内に一人で閉じこもるようになった。亡くなった男児に申し訳なく思いながらも、慰霊の気持ちを込めて店を続けている。真相を知りたければ…」

 とだけ書かれていた。メッセージには送信元すら記録されておらず、加工された痕跡もない。智也は怪訝な表情を浮かべ、三人は顔を見合わせた。

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第4章:消えた息子の行方と祠の建立

 三人はオーナー家族に直接会うため、コンビニ本部を介して連絡を取った。オーナーの息子である啓介は、当時高校生だったが火災の火元を止めようと店内へ駆け込み、燃え盛る炎から男児を救い出そうとした際に足を負い、病院で片足を切断せざるを得なかったという。

 啓介は事件翌年に店を継ぎ、一度も夜間営業を休むことなく弁当や飲み物を提供し続けてきた。だが、事故のトラウマからか深夜帯は店内に独りでいることを何よりも恐れ、真夜中になるとモニターの前から離れず、何度も男児の霊を確認しようとしていた。夜勤スタッフは次々に辞めていき、深夜3時から4時の時間帯は事実上、啓介ひとりが対応していた。

 啓介は三人を店内の小部屋に招き入れ、静かに話し始めた。

「僕には…あの日の記憶が断片しかない。男児を抱きかかえて出口へ向かったところで、炎が上がり、目の前が真っ赤になって、気が付いたら病院のベッドの上だった。目覚めたとき、片足はもうなくて、子どもの姿も消えていたと医師に言われた」

 彼は声を震わせながら続ける。

「以来、深夜になると、あの子の泣き声や足音を探し続けてきた。監視カメラに映るのは、その痕跡を追う僕の意識が生み出した幻影なのかもしれない。でも…それが許されるなら、夜が来るたびに僕は会いに行きたい。もう一度、その子と向き合いたいんだ」

 啓介の懸命な思いに心を打たれた三人は、追善と慰霊の目的で小さなほこらを店内に設置することを提案する。

 翌日の深夜4時、三人と啓介、店員や常連客数名が集まり、簡素ながらも心を込めた法要が執り行われた。香を焚き、子どもの名前を呼びかけ、黙祷を捧げる。隣の古い納戸には、小さな人形や落書きが供えられ、ささやかな温もりを感じさせた。

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第5章:最終検証と静寂

 祠の建立から一週間後、三人は再度深夜の監視を行った。和也と麻衣、智也、そして啓介は、店内で見守りながら心を落ち着かせていた。「あの子が安らかに眠ることを祈ろう」と言葉を交わし、椅子に腰掛けてモニターを見つめた。

 深夜3時、例によってモニター画面に男児の影が映り込むのではないかと緊張が高まった。だがモニターに映るのは、静まり返った売り場だけ。しばらく無音の状態が続き、誰もが息をひそめて待機した。午前3時15分――監視マイクにも映像にも、かつての「すたっ、すたっ」という足音は一切記録されなかった。

「…本当に消えたのか」麻衣は低い声で呟く。

 その瞬間、店内の隅でいくつかの菓子の棚がかすかに軋む音がした。三人は一斉に振り返る。だが、肉眼で見える範囲には誰もいない。扉も窓もすべて閉まったままであり、突風が吹き込むこともなかった。棚が揺れたそのわずかな瞬間に、三人は画面の再生を即座に確認したが、モニターは完全に静止画面のまま。

 啓介は震える声で言った。

「これで、この子は満足してくれたんだろうか…」

 しばらく沈黙が続いた後、三人は小さく頷き合い、深夜のチェックを終えた。氷点下に近い季節の夜気が、店内の窓にうっすらと凍てつく結露を作り出している。

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エピローグ:闇に消えた足音

 祠を設けて以降、深夜の監視カメラに映る「見知らぬ子どもの影」は、完全に姿を消した。店の売り上げには影響がなく、深夜に来店する客も徐々に増えつつある。しかし、啓介は今なお夜更けに店内を巡回するとき、どこからともなく「小さな足音」を耳にするという。

「でも、あれは確かな足音なんだ。扉の横を通り抜けるんだよ、誰かが立っているかのように。だけど視界には何もなくて…俺だけが息を詰めて立っている。もういいんだ、あの子はもうこの店に縛られていないってわかっている。だけど、夜が来ると、ふと会いたくなるんだよ」

 啓介の声には、わずかな哀愁と安堵が混ざっていた。深夜のコンビニは、表向きは至って平穏だが、闇の中には今もわずかに「小さな足音」が響き渡るかもしれない――しかし、それはもはや「祟り」ではなく、「友人を見送る足音」なのだろう。

 完。


※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。

※コメントやレビューは、みなさまに平等にお返しができないため、OFFといたします(ご了承ください)。

【動画】 YouTubeにて公開しています。Noteにも順次公開の予定(時期未定)です。



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