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カルテ【--】:この世界の解呪師について


 窓の外、石畳の通りに並ぶ魔力灯が、ぽつりぽつりと温かな光を灯し始める。

 俺は解呪所の入り口に掛かったプレートを「Closed」に裏返し、静かに鍵を下ろした。


 本日の診療は、これですべて終了だ。


 誰もいなくなった静寂の解呪室に戻り、俺は両手にはめていた「対呪グローブ」をゆっくりと引き抜く。

 限界まで魔力を同調させ、数々の強烈な反発力を抑え込んだ分厚い生地は、わずかに疲労したようにくたびれていた。


 次いで、目元から「術式メガネ」を外し、専用のクロスで丁寧にレンズを磨き上げる。

 数々の瘴気の核を暴き出し、過剰な熱を帯びていたフレームも、今は本来の冷たさを取り戻しつつあった。


 カウンターの上に積まれた、数冊のカルテに目を落とす。

 ページをめくるたび、この部屋で呪いから解放されていった彼女たちの、生々しい熱と吐息が蘇ってくるようだ。


 解呪の瞬間――深部の魔力に干渉され、一時的な魔力酔いに陥る彼女たちの無防備な姿。

 それは決して他人に晒すことのない、痛みと快感の境界線が曖昧になった極限の反応だ。


 俺はただの職人として、冷徹に呪いの「核」を引き抜いているに過ぎないが、その瞬間の密やかな美しさを知っているのは、世界で俺だけなのかもしれない。


 俺は大きく息を吸い込み、解呪室の窓をゆっくりと開け放った。

 夜の冷たい風が入り込み、部屋に淀んでいた魔力の残滓と甘い匂いを、夜空へと優しく連れ去っていく。


 窓辺の回収用トレイの上では、今日引き抜かれた呪いの核の残骸が、主を失ってサラサラと塵になり、夜風に溶けて完全に消え去ろうとしていた。


 この世界に呪いがある限り。日常の装備品が突如として牙を剥き、無垢な女性たちを苦しめる限り、俺の元にはまた新たな「迷える子羊」が訪れるだろう。


 明日はどんな呪いが、この扉を叩くのだろうか。


「……さて、明日も早いな」


 独りごちた俺は、綺麗に磨き上げた術式メガネをケースに収め、静かに診療所の灯りを消した。


 ――完――

ここまで読んでくださりありがとうございます。


オムニバスということもあり、一旦ここで完結とさせていただきます。

(と、いいつつ、実はこっそり話を追加したりしてるのですが…..)


この作品はR15以上、R18未満を意識した、ある意味で挑戦作でした。


そんな訳で、いつ運営から「消せ!」警告がくるか分からないこともあり、しばらく様子を見ようかと思っています。


ご理解いただけると助かります。


もし、とくに警告もなく、さらに再開を希望する声が多いようなら、再度連載再開しようと思いますので、その時はよろしくお願いいたします。


ブクマ、評価、リアクションなどで盛り上げていただけると嬉しいです。



宣伝になりますが、連載中の

「異世界★魔法少女― 転生初日に聖女扱いされましたが、変身が罰ゲームすぎます! ―」

の方でも楽しんでいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
終わっちゃった...。 面白かったです! 迷える子羊!
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