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転生輪廻譚 ― 終焉より来たる光(The Cycle Beyond the End)  作者: Futahiro Tada


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世界の門の向こうへ

5 世界の門の向こうへ


 光の門を抜けた瞬間、リオの身体は深い水の中へと沈んでいった。

 だが、不思議なことに息苦しさはなかった。

 胸の奥で、アルマの残した光の欠片が淡く輝いている。

 それが彼を包み、まるで呼吸をするように鼓動していた。

 (ここが……次の世界か)

 目を開けると、世界は青に支配されていた。

 空も地も、存在すべてが水に溶け、境界を失っている。

 音がない――

 ただ、遠くで記憶の波が静かにさざめくのが聞こえた。

 沈黙の水界アトラシア

 この世界は、声を持たぬ神々が最後に作り出した記録の海だった。

 リオはゆっくりと立ち上がる。

 足元の水面が鏡のように彼の姿を映し出した。

 だが、そこに映るのは――自分の影ではなかった。

 「……アルマ?」

 水面に浮かぶ少女の姿。

 彼女は微笑んでいた。

 「私は、もう私じゃない。あなたの中に残った残響よ。」

 リオは静かに頷く。

 「導いてくれるのか。」

 「いいえ、見るだけ。

  この世界は、私たちが生まれる前の記録だから。」

 生まれる前――その言葉が、空気よりも重く響いた。

 水面の彼方に、巨大な影が浮かんでいた。

 都市のような形をしている。

 塔や神殿の残骸が水に沈み、光に揺らめいている。

 その中心には、黒い結晶のような球体があった。

 「……あれが、神の断片か。」

 アルマの声が響く。

 「ええ。でも気をつけて。

  それは、記録の始まりであり、終わりでもある。」

 リオは歩みを進めた。

 水の上を、まるで重力が失われたように滑る。

 周囲には、かすかに人の声のような囁きが漂っていた。

 > 『我らは見た。光が世界を覆い、やがて名を得た。』

 > 『記録せよ。名こそが存在を縛る。』

 > 『名のないものは、虚無に還る。』

 ――それは、最初の神々の言葉だった。

 アルマが息を呑む。

 「これは……創造の記録……」

 声が次第に大きくなる。

 リオの頭の中に、映像が流れ込んだ。

 ――果てなき闇。

 そこに一滴の光が生まれた。

 それがアルマと呼ばれるようになる前の、原初の存在。

 光は孤独だった。

 だから、もうひとつの光を創った。

 それがリオス――すなわち、世界を観測するためのもう一つの意志。

 そして二つの光が交わり、最初の世界が生まれた。

 それが《黎明界》。

 人も神も、まだ区別がなかった頃の世界。

 しかし、創造は終わらなかった。

 光は次第に自我を持ち、互いを恐れ始めた。

 やがて、ひとつが他を封じた。

 > 『観測する者は、創造を汚す。』

 > 『記録を喰う者は、神を堕とす。』

 リオの胸が締めつけられた。

 (俺は……その時から存在していたのか?)

 アルマの声が答える。

 「あなたは最初の光リオスの欠片。

  私はもう一方――アルマの分身。

  私たちは、最初から一つだった。」

 リオの心がざわめく。

 「じゃあ、俺たちは……神そのものだったのか?」

 「そう。でも、神であり続けることを望まなかった。

  だから人間を創った。

  感情という、私たちに欠けていたものを宿す器を。」

 水面に映る光景が変わる。

 人類が誕生し、文明が栄え、そしてまた滅んでいく。

 その繰り返しの中で、神々は観測者として記録を残し続けた。

 「だが――」

 アルマが呟く。

 「ある時、あなた(リオス)が言ったの。

  もうやめよう。これは救いではなく、輪廻という牢獄だと。」

 リオは目を閉じた。

 自分の中で何かが共鳴している。

 過去の記憶、幾千の死、そして願い。

 (俺は……自由を求めて、神々に反旗を翻したのか。)

 水界の空が暗くなった。

 黒い結晶が脈動し、リオを見つめる。

 その内部から、声が響いた。

 > 「観測者よ、なぜ戻った。」

 > 「再び、記録を破壊するためか。」

 リオは拳を握った。

 「俺は、もう壊さない。

  ただ――この輪廻を、終わらせたい。」

 > 「終わりは存在しない。

  終焉もまた、記録される。」

 黒い結晶の光が強くなる。

 リオの足元の水が渦を巻き、身体が引きずられる。

 アルマの残響が叫ぶ。

 「リオ! それに触れないで!」

 「でも、ここにしか答えはない!」

 彼は一歩踏み出し、結晶の中心に手を伸ばした。

 瞬間、世界が砕けた。

 ――光。

 ――闇。

 ――無数の声。

 > 『記録は罪であり、同時に赦し。』

 > 『お前は輪廻の終端として生まれた。』

 > 『神々を記録する者――リオ。』

 胸が焼ける。

 血の代わりに、光が流れる。

 アルマの声が彼の内側から響く。

 > 「思い出して。あなたは滅びではなく、再生そのものなの。」

 リオは叫んだ。

 「俺はもう神じゃない! 人として、生きて、選ぶ!」

 その瞬間、結晶が砕け散った。

 無数の光の粒が空へと舞い上がる。

 それは、世界の記録そのもの――神々が残した最後の言葉たち。

 リオは膝をつき、静かに目を閉じた。

 彼の手の中には、小さな光の種が残っていた。

 アルマの欠片が、形を変えたもの。

 「これが……始まりの種か。」

 アルマの声が優しく響く。

 「それを持って行って。次の世界で、人間の記録を紡ぐの。」

 リオは微笑んだ。

 「今度こそ、創るために旅をする。」

 水面に映る空が明るくなる。

 青が白へ、白が金へと変わり、

 やがて光の門が再び開いた。

 リオは立ち上がり、ゆっくりと門へ歩み出す。

 背後では、アトラシアの海が静かに崩壊を始めていた。

 ――だが、それは滅びではなかった。

 海は光となり、天空へと昇っていく。

 新たな世界のための記録の光として。

 最後に、アルマの声が優しく響く。

 > 「リオ。あなたが生きる限り、私はここにいる。」

 リオは振り返らなかった。

 その声を胸に抱きながら、光の中を歩き続けた。

 ――世界の門の向こうには、

 まだ誰も見たことのない空の大陸が広がっていた。

 そして、第一章は終わる。

 しかし、輪廻の旅は、今ようやく始まったばかりだった。

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