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1話

 魔法学園・研究棟の地下実験室。

 夜勤明けのコンビニ袋を片手に召喚された俺を見て、生徒たちは凍りついた。

 だが、次に入ってきたのは――この学園の「大教授」だった。

 白衣の袖を翻し、髭を震わせて怒鳴り散らす。

「馬鹿者どもォ! 異界召喚術式を勝手に……な、召喚成功だと!? なぜ中年風の男が!? いや待て、これは大発見だぞ……!」

 怒鳴ったかと思えば手を叩いて喜び、教授の態度は二転三転。

 結局「とにかく王城に報告だ!」と、俺は半ば強引に連れて行かれることになった。


 王都の王城。

 深夜にもかかわらず、玉座の間には王と重臣たちが揃っていた。

 周囲を護る騎士団は、俺のスニーカーを見て一様に眉をひそめる。

 やがて王は重々しく口を開いた。


「……異界の来訪者よ。そなたを呼んだのは我らではない。だが、今この国には希望が必要なのだ」

 壁一面に広げられる大陸地図。

 赤い駒が埋め尽くし、残っているのは城塞都市を含むわずかな領域だけ。

「魔王軍の侵攻で、大陸の大半は陥落した。残るはこの城塞都市〈ラストリア〉が最後の砦……」

「伝承に曰く、異界の来訪者は必ず運命を変える、と」

 まるで責任を押しつけるように、王と重臣たちの視線が俺に突き刺さる。


 ……いやいやいや、俺ただの夜勤明けフリーターなんですけど!?

 てかなにその絶望的な状況、切実に帰らせてほしい。まじで。

 玉座での謁見が終わると、王は顎を軽く動かした。

「異界の来訪者を、塔へ案内せよ」

 控えていたメイドが一歩前へ進み、柔らかな声で告げる。

「どうぞ、こちらへ――」


 石造りの階段を延々と登り、螺旋の先に開けたのは王城の高塔。

 夜風が吹き抜け、視界いっぱいに壮麗な都市の姿が広がった。

 白亜の街路は幾何学模様を描き、赤と青の瓦屋根が整然と並ぶ。

 風車の回る塔、魔導灯が水面を照らす運河。

 夜空の星々すら、この都市の輝きに掻き消されるほどだった。

 まるで世界そのものが宝石箱となり、最後の煌めきを誇示しているかのように。

「……すげぇ」

 思わず見惚れる俺に、メイドは静かに頷いた。

 だが――視線をさらに遠くへやった瞬間、血の気が引く。


 城壁の外は闇ではなかった。

 無数の焚き火が炎の海を作り、赤黒い光が地平線を覆う。

 槍と旗が林立し、戦鼓の低い響きが大地を震わせていた。

 美しい都市は、まるで巨大な獲物の心臓。

 その鼓動を、包囲の只中で晒していた。


「ここが――〈ラストリア〉」

 メイドは震える声で言う。

「大陸最後の都市にして、我らの最後の希望……そして魔王軍が狙う最後の獲物」


 美と絶望が同じ視界に収まった瞬間、俺の背筋に凍りつく感覚が走った。

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