08 裏切りの代償は高いぜ!
「あの人何て言うんですか?」
「ああ、アイツか。白羽要次。1年にして、高校のトップに立った男だ」
「へー、かっこいいですね!」
フジヨシが中学に入った頃、大きな喧嘩があった。中学・高校がエスカレーター式だったため、高校3年も、6年生という扱いの学校だった。そこでの喧嘩は壮絶を極めた。中学1年でも力のある奴は借り出された。その中に、フジヨシも武藤もいた。年上ばかりのその喧嘩で二人は活躍して、そこそこ名を売った。結局当時、トップに君臨していた6年白羽の力で、その喧嘩は勝利に終わった。フジヨシにとって、白羽は憧れの存在であった。
「白羽さん、俺、藤咲吉です。フジヨシって呼んでください!」
「俺は馬鹿だからよ。使えねーガキの名前、覚える気にはならねーよ」
白羽はフジヨシを見ずに言った。白羽が卒業するまでの1年、フジヨシは白羽の喧嘩には全て参加した。それでも白羽は手の届かない存在だった。
やがて白羽は卒業し、ジッパーズを立ち上げた。フジヨシが高校に入ると、白羽の噂はすっかり誰も言わなくなっていた。たまに聞く噂といえば、
「昔はすごかったが、すっかり牙が折れちまったんじゃねーか」
とか
「今や、ただのサラリーマンだろ」
とかだった。
白羽さん、アンタの牙は折れちゃいねーだろ。誰にでも噛み付いてたアンタが、本当に腑抜けになっちまったのかい?
灰次らは急いでオフィスに戻った。連絡があってから10分。もしかしたら全滅かもしれない。階段を駆け上がり、勢いよく扉を開ける。そこには血だらけで倒れている男達がいる。
その上で煙草をふかしているのは、
「白羽さんっ!」
叫んだのはフジヨシだった。倒れているのはどうやら、狛稜の社員だ。ジッパーズの社員は、怪我はしているが、椅子に座って煙草を吸っている。灰次は思わず、
「14人を倒すか、普通」
と言った。
「おう、こいつらが吐きやがったが、テメーの仕業だったんか」
と白羽がフジヨシに言った。皆驚いた様子でフジヨシを見る。
「いえ、あの」
と狼狽するフジヨシの方に白羽が歩いてきて、
「偉くなったもんだなーフジヨシ」
と低い声で言う。フジヨシは、「名前……」と驚いた表情で呟いた。
「お前、俺を試したかったとかそんなとこか?」
フジヨシは弱々しく頷く。
「お前が思ってるように、俺は少しひよってたかもしれねーなー。こんなしょぼい連中攻めずに放っておいたんだからな。これを機会に狛稜もぶっ潰せたし、まあ、結果は悪くねー」
白羽の言葉にフジヨシの表情が和らぐ。と、突然、白羽がフジヨシの胸倉を掴んだ。
「だがよぉ、お前のせいで、ウチの社員やられてんだ。その責任は重い。これは覚えとけ」
と言った。そして、奥の席に戻ると、
「橋上、谷井、ここに転がってる馬鹿ども片付けといてくれや」
と指示する。
「俺は引退するよ」
と独り言のように呟いた。フジヨシは思わず、
「どうしてですか!? これは俺の責任です。俺がやめます」
と叫んだ。
「バカヤロウ。部下の責任取んのが上司ってもんだろう」
「でも……」
「うるせえ!! 自分のやったことの重大さもわからねーのか、テメーはっ!! 仲間を裏切るってのはこーいうことなんだよ!」
白羽の怒号にオフィスが静まり返る。不意に灰次が口を開いた。
「引退するのは構わねーが最後の仕事が残ってるぜ。あんた、次の頭、決めてねーだろ」
「……そりゃそうだな。そいつは決めなきゃならねーな。次の頭にふさわしいと思うやつは手を挙げろ!」
その言葉に反応した奴は二人いた。一人は巨神兵の一人、討田勝。間違いなくこのオフィスのナンバー2だ。そして、もう一人が、玉井だ。玉井が真っ先に手をあげる。それを見た討田も負けじと手を挙げた。しかし、玉井は言った。
「俺は仮屋灰次を次期頭に推薦するぜ」
オフィスに衝撃が走る。俺はそんなつもりで言ったんじゃないんだけどな、と灰次は困惑した。