07 コンビニでは行儀よく!
「くそう、出てきたはいいが、全然見つからねー」
玉井はそういいながら、苛立った様子で街を歩く。
「フジヨシ、お前ここ出るとき、誰に電話してたんだ?」
灰次の問いに、フジヨシは、
「別に、友達だよ」
と答えた。灰次は、「そうか」とだけ答えた。
「先輩、そこのコンビニで煙草買ってきていいですか?」
と灰次が大声を出す。岩倉は、不機嫌な表情で、
「今買わなくてもいいだろう」
と言ったが、玉井が、
「焦っても仕方ねえ。誰か一応、付いて行ってやれ。そうだな、小田……」
「俺が行きます」
とフジヨシが言った。
「ああ、別に構わないが」
と玉井は言って煙草を吸う。岩倉は、「あいつがちゃんと喋ってんの初めて見たよ……」と面食らっていた。
オフィスの扉を叩く音が聞こえる。白羽は、「早い帰りだったな、開けてやれ」と未来に告げる。未来が扉を開けると、見知らぬ男が14人立っている。白羽は立ち上がって、
「狛稜か……」
と呟いた。向田が「チィッ!14対5か。ちょっと厳しいな……」と呟いた。
コンビニに入ると、灰次はレジでフジヨシに、
「どうして裏切った?」
と聞いた。店員が、「お客様、お煙草でしょうか?」と訪ねたが、灰次は、一度睨み、「黙っててくれないか」と言った。
「裏切るって何のこと?」
「お前、狛稜の奴と知り合いだろ? どうして隠してた?」
フジヨシは少し笑って、
「この抗争の中、そんなこと言ったら、僕の立場も危うくなるじゃないか」
と答える。
「そうか、そりゃそうだな。今頃は、俺らのオフィスに狛稜の集団が押し寄せてるだろうしな」
灰次はそう言ってフジヨシを睨んだ。フジヨシは、焦る様子も無く、
「どういうこと?」
と聞くと、
「お前が狛稜の連中と絡んでるのは知ってたよ。だが、裏切ってるとは思えなくて、試したんだ。会社を出る時、お前に、『狛稜の連中がここに乗り込んでくるかも知れない』って言った時、お前は、『大丈夫だ』って言ったが、狛稜の連中は俺らが派閥に分かれてることを知らないはずだ。だったら、奴らが乗り込んでくるのはほとんどの社員が残るオフィスか、全員が出て行っちまってる無人のオフィスだけだ。そんなことする奴はいねーよ。それなのに、お前はそうする可能性が当たり前のようにあるって返答をした。つまり、誰かが狛稜に俺らが二分してるって情報を教えたことを知ってるってことだ。お前は注意深い男だ。お前に不信感を持っている様子の俺を一人にさせまいとコンビニについてきたろ。それで確信したよ、お前は裏切り者だ」
と灰次は言った。フジヨシは、
「どれも憶測でしかないよ」
と言った。その瞬間、コンビニに玉井らが押しかけ、
「おい、今連絡があったぜ。オフィスに狛稜の奴らが押し寄せてきてるらしい! すぐに戻るぞ!」
と叫んだ。
灰次は、すぐにコンビ二を飛び出す。フジヨシはカウンターに立ち尽くしたまま、
「大丈夫さ、先輩の牙は折れちゃいない」
と呟いた。それを見たマコトが、
「おい、フジヨシ! お前も行くぞ!」
と叫ぶ。息が切れるほど走ったのなんて、何年ぶりだろうな、と灰次は思った。