06 奇襲に負けるな!
「その情報、マジなのか、武藤」
「阿江さん、俺を信じてくださいよ」
阿江は煙草の煙を口から吐き出し、「ふん、まあいい。今回の奇襲で答えが出るだろうからな」と言った。
「それより、この奇襲、成功したら、俺を狛稜の重役にしてくれるって話、マジなんすよね」
武藤は鼻息荒く聞いた。阿江は、武藤の胸倉を掴み、壁に押し付けた。
「調子に乗んなよ、小僧。お前を重役には上げてやる。だが、お前に発言権は無い。それだけは覚えとけ」
阿江はそう言うと、フロアに戻っていった。武藤は舌打ちをして、その後ろ姿を睨みつける。
「よー、大将。いつまで尾けてくるつもりだい? それとも惚れちまったとかか」
灰次は振り向いて言った。曲がり角から、玉井が姿を見せた。
「出来るだけ、人気の無い所まで行ったら声かけようと思ったんだが、気付いてやがったか」
「ばればれだよ。明日かと思ってたが、まさか今日仕掛けられるとは、アンタもせっかちだな」
「ああ、下のもんがやられて黙ってるわけにはいかないからな」
灰次はため息をついて、
「俺は何もやっちゃいねーぜ」
と答える
「そう聞いてるよ。だが、どうもお前が1年まとめてるようだって聞いてよ。俺はてっきり小田が治めてるもんだとばかり思ってたが、違ったみてーだな」
「俺は別にそのつもりはないがな」
と灰次は空を見上げる。空には灰色の雲と、月が泳いでいる。
「まあ、どっちでもいいさ。お前に興味を持っただけさ」
と玉井は上着を脱ごうとした。
「それは別に構わないが、内輪モメしてる場合じゃなさそーだぜ」
と玉井の後ろを指差した。玉井が振り返ると、後ろから6人の男が現れる。
「何だ、テメーら!」
玉井が叫ぶと、坊主の男が、「よー、玉井、久しぶりだな」と手を上げる。
「平井……テメーら、狛稜のモンか」
平井は拍手して、「正解」と笑った。灰次は、狛稜と聞いて、フジヨシを思い出す。本当にあのヤロー、俺らを裏切ってやがったのか……?
「近くに公園がある。そこで遊んでやるよ」
と平井は、灰次と玉井を囲んで公園へと歩いた。公園に着くと、玉井は4人の男に囲まれた。平井は、玉井を囲んでいる。
「協定では、一人に付き、二人までで襲わなけりゃならないはずだぜ」
と玉井が平井に向かって言う。
「そうなのか、知らなかったぜ。まあ、本当はお前一人を6人でやる予定だったんだから我慢しろよ」
と平井は音を立てて、ガムを噛む。
「それに、2人に4人ってことだろ。俺らは5人だから、ちょっと馬鹿で計算間違えたってことで許せよ」
「テメー、全員で6人じゃねーか!」
ゴツッ。鈍い音がして、一人の男が倒れる。灰次を囲んでいた内の一人だ。
「先輩、確かに5人になったぜ、今」
と灰次が笑う。平井は驚いた顔で、一人を灰次の方へ差し向ける。
「連れの方も中々やるみたいだな」
「灰次、その二人、確か2年と3年の頭だ。さっきのやつのようにはいかねーぞ」
玉井は平井から目を切らずに言った。
「玉井、お前は、4年の頭である俺と、5年の二人相手にすんだ。お前も気を抜くんじゃねーぞ!」
平井は、玉井の頭めがけてパンチを打った。玉井はそれを避けるが、すぐにもう一人から蹴りを食らう。さらに肘打ちされ、よろめく。灰次は2年を裏拳一撃で倒すと、3年のパンチをかわし、蹴りを入れる。さらに踵落としを後頭部に入れた。そして、玉井を囲む男の一人にとび蹴りを食らわせた。相手は吹っ飛んで、木に当たり意識を失った。
「先輩、休んでないで手伝ってくださいよ」
「お前……チッ! そうだな、随分休ませてもらったぜ。おらぁっ!」
と玉井は平井に強烈な右ストレートを放ち、一撃で沈めると、残る一人に蹴りを入れた。
「テメーら……いい気になんなよっ!今頃、他の奴らも襲われてんぜ」
灰次は平井を殴って気絶させた。
「タイマンを邪魔されたな」
玉井は、灰次に向かって言った。
「そんなもんいつでも出来ますよ」
灰次は、そう言ってポケットに手をつっこむ。玉井は、煙草を取り出し、灰次に向けた。
「吸えよ」
「もらいます」
灰次は、煙草を吸い、少し玉井と話した。
翌日、平井が言ったように、2年の高堀・佐野がやられていた。会社からの帰りに4人に襲われたらしい。マコトとの喧嘩でダメージを受けていた高堀は、奇襲の一撃でやられたらしい。
「黙っちゃいられねーな」
白羽が言った。玉井が立ち上がって、
「俺の下のモンがやられたんだ。俺が行きます」
と進言する。白羽は煙草の煙を吐き出し、
「これはお前個人の問題じゃねー。会社の問題だ」
と玉井を睨む。
「1日ください。必ず見つけ出しますから」
と玉井が言う。
「くだらねープライドだな。まあ、いい。今日だけだぞ、いいな」
玉井は頭を下げて、岩倉に声をかけた。そして、灰次・マコト・フジヨシに頭を下げる。灰次は、玉井の肩を叩き、うなづいた。
「おし、いくぞ」
玉井の声とともに、4人はフロアを出る。そこで灰次が、
「俺はやっぱり残るよ」
とフジヨシに言った。フジヨシは不思議そうに、「どうして?」と聞いた。
「今、狛稜の全員14人くらいがこっちに来たら、やばいだろ。こっちは6人しかいないし」
と灰次は言った。フジヨシは、少し考えて、
「大丈夫さ。皆強いだろうから」
と答えた。
灰次は、「そうか」と答えて、外に出た。雲ひとつないいい天気だった。